205手目 2回戦 大場〔駒桜北〕vs雨宮〔獄門〕(2)
参ったっスね。読んでない展開になっちゃったっス。
一手余裕ができたのは事実だから、できるだけ仕込んでおくっスか。
「4四歩っス」
まずは、ここを突き捨てておくっス。
「同角」
「4六角っスよぉ」
これ、いい位置だと思うんっスよねぇ。
6六角に受ける駒がないっスけど、9一角成で馬付きの美濃にできるっス。
8八角成は同飛、同飛成、7七角があるから、しばらくは安泰っス。
「うげッ……2二角が消極的過ぎたかな」
潤ちゃんは両手を組んで、ひじをテーブルに乗せたっス。
角ちゃんも椅子に手をそえて、踏ん張って読むっス。
……………………
……………………
…………………
………………パシリ
2連続で消極策っスか。
角ちゃん、6五歩と指しかけて、手が止まったっス。
6五歩、同歩、9一角成に、してくれるっスかね? 単純過ぎるっス。
むしろ、6五歩、5六飛、同金、6七銀、7五飛、5六成銀な気がするっス。
(※図は大場さんの脳内イメージです。)
これが角当たりなうえに、8八角成まで残ってるっス……微妙っス。
ただ、ここから6四角、同銀、同歩、8八角成でも、戦えないことはないっス。
角ちゃん、シンキングタイム。
……………………
……………………
…………………
………………
あ、もっといい手を思いついたっス。
「5五歩っス」
潤ちゃん、ちょっと首をかしげたっス。読んでなかったっスね。
「ん……もしかして……」
そうっス。5五同歩、同銀、2二角なら5四歩っス。
4四銀、同歩の銀交換から5三銀っスよ〜。
潤ちゃん、あちゃー、という感じで、頭に手をやったっス。
「マズったなあ」
「好きなほうを選ぶっス」
「んじゃ、角銀交換で」
5五同歩、同銀、5四歩、4四銀、同歩。
駒得したっス。問題は歩損ってことっスね。
とりあえず5五歩、同歩としてから、7五飛と歩を補充したっス。
5五歩、同歩は、いざというときに5五飛の逃げ場所を作ってるんっスよ。
「ん、成らせてくれるのか。成るぜ。8八飛成」
「7七桂っス」
弁当忘れても桂跳ね忘れるな。角ちゃんの名言っス。
「8四歩」
8五桂〜7三桂成の防止っスか。それなら、こっちは角を打ち込むっス。
「7二角っス」
8六龍、5五飛。やっぱ逃げ道は大事っスね。5四歩、5七飛。
「3三桂だッ!」
4五歩狙いっスか。4五歩、同桂、同桂が飛車当たりっスね。でも、4五同桂には6七飛と寄って、7六歩、6五桂、同歩、9一角成、7七歩成、6九飛、7八と、5九飛で逃れてるっス。この順で行くっス。8一角成でいいっスね。
「8一角成っス」
「受けないのか……残り時間も少ないし、行くしかねぇな。6六龍」
ぎゃふん! こっちを先に入れる手があったっスか!
次に4五歩とされたら終わりっス。攻めるしかないっス。
残り時間は、角ちゃん5分、潤ちゃん3分。
「7三歩成っス!」
「同銀」
「5四飛っス!」
「!?」
飛車銀交換っスけど、成算はあるっス。
同銀、同馬が王手っスから、4三銀、5五馬で先手を取れるっス。
「と、取るしかないか……同銀」
同馬、4三銀、5五馬、6九龍。
「ここからが、角ちゃんマジックっス。5八銀っス」
7八龍と逃げるしかないっスよ。
潤ちゃんも、すぐにそう指したっス。
「7九歩っス」
「ぐッ……8八龍と逃げられないのか……」
その通りっス。香車を拾いに8八龍は、6五桂が龍銀両取りっス。
「くそぉ、うめぇな。8七龍だ」
角ちゃん、おしとやかに5四歩。
これで後手は、ぜーんぜん手がないっス。
先手は次に6五桂、同歩、7三馬があるっス。
潤ちゃん、最後の長考。
ピッ
「ここで秒読みかよ……」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!
端攻めっスか。軽くいなしていくっス。
同歩、1八歩、同香、6三金。
さすがに受けてきたっスね。でも、この段階なら関係ないっス。
「6五桂っス」
同歩、7三馬、同金、5三歩成、同金、7三角成で、2枚換えっス。
「さすがにそいつは舐め過ぎだろッ! 1七歩だッ!」
端攻め継続っスか。スケ番はしつこいっスね。
同香、1六歩、同香。
「2四桂ッ!」
あ……意外と急所に置かれちゃったっス。
2五歩っスか? でも、1六桂、3九玉、2六香でやぶ蛇っスね。
ピッ
角ちゃんも1分将棋。ここからがネット将棋指しの本領発揮っスよ。
「2五桂打っス」
同桂、同桂なら、今度は2六香のスペースがないっス。
とはいえ、取らないのもないっス。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「1六桂ッ!」
3九玉、2五桂、同桂。
詰めろ、じゃないんっスよねぇ。3三銀に3一玉と引いて耐えてるっス。
いずれにせよ、先手勝勢っス。
潤ちゃんは、最後の猛攻に出たっス。
1七角、4八玉、2六角成、3七桂(桂馬があって良かったっス)、5七歩。
「3三銀っス」
3一玉、4二金、2一玉。
「角ちゃんの王様は、絶対詰まないっス! 4三金っス!」
後手は詰めろっス。2二銀打、1二玉、1三桂成までっス。
潤ちゃん、腹をくくるっス。
5八歩成、同金、4七龍、同銀、1八飛、3八銀打、同飛成、同玉。
最後の王手ラッシュっスね。間違えないように気をつけるっス。
「2七銀」
「4九玉っス」
この位置が一番安全っス。
「ダメだ、さすがに詰まない……負けました」
「ありがとうございましたっス」
1回戦に続いて快勝っス。角ちゃん、鼻高々。
「いやあ、参った。あんた、強いな」
「そうでもあるっスよ」
「6六龍のところで、素直に4五歩のほうが良かった?」
局面をもどすっス。
【検討図】
「これは同桂っスよね?」
「5四飛、同銀、同馬、4三銀は続かないから、そうだろうな」
「角ちゃんの読みは、同桂、同桂、6七飛、7六歩っス」
「それは6五桂、同歩、9一角成でダメじゃないか?」
「6五同歩とせずに7七歩成じゃないっスかねぇ」
「7七歩成、5三桂成、同銀、6九飛、7八と、5九飛?」
【検討図】
「そんな感じっス」
「なるへそ……こっちほうが良かったか」
この変化、おたがいに読み筋が噛み合ってないっスね。
飛び込まれなくて良かったっス。
「たださ、最初の4五歩に同桂としないで、6四角、同銀、5四馬がない?」
6四角、同銀、5四馬……。
「あれ、ほんとっスね。4三銀、6四馬が龍当たりだから、角ちゃん優勢っス」
「だよね。8八龍、6五桂で後手潰れてる」
「だったら、4五歩自体が成立してないっス。潤ちゃんの本譜が最善っス」
対局中は、変なこと考えちゃったっス。反省。
「終盤、なにか粘る順なかったっスか?」
「1七歩とムリしないで、6八角とか?」
【検討図】
「次に2四角成っスか?」
「とにかく2五桂打を防がないと、後手もたないから」
角ちゃんはしばらく考えて、5七歩と蓋をしたっス。
1七歩、同香、1六歩、同香、2四桂、2五桂打、1六桂、3九玉。
「……タンマ。1七歩と打たないで7七角成」
「なんっスか、その手?」
「2五桂打、同桂、同桂、4五歩」
【検討図】
「それは受けになってないっス。3三銀、同馬、同桂成、同玉のとき、桂馬がもう一枚あるから、2五桂、3二玉、3三金、2一玉、4二角が2手スキっス。先手は1七歩、同香以下が詰めろになってないから、後手の負けっス」
っていうか、7八銀で馬を消せるっスね。同馬、同歩、同龍が馬当たりだけど、さっきの順で馬を5一に逃がせば勝勢っス。
潤ちゃんは、頭を抱えたっス。
「速度で逆転できないのか……うちの負けだ」
ほかの対局も、どんどん終わり始めたっスね。
そろそろおひらきっス。
片付けを始めたら、潤ちゃん、いきなり顔を上げたっス。
「ところで、ひとつ質問があるんだけど」
「なんっスか?」
「駒桜市にさ、七不思議とか、そういうの、ない?」
いきなりオカルトな話になったっス。
「角ちゃん、オカルトは信じてないっス」
「あんたが信じてるかどうかじゃなくて、そういう話、聞いたことない?」
「オカルト好きなんっスか? それとも、学級新聞でも作るんっスか?」
「うち、そういう情報を集めるのが仕事……趣味なんだよね」
なんっスか、それ。変わった趣味っスねぇ。
七不思議……七不思議……自称宇宙人も七不思議っスけど、カンナちゃんが宇宙人だなんていうのは、ただの冗談っス。それに、友だちのことを教えるのは良くないっス。
「知らないっス」
「そっか……」
潤ちゃんは、ガッカリしたような雰囲気っス。
「ところで、その制服、どうやって改造してるの?」
あ、角ちゃんの好きな話題になったっス。
「これはっスね。まず型紙を用意して……」
場所:2014年度 四市対抗オールスター戦 2回戦
先手:大場 角代
後手:雨宮 潤
戦型:先手三間飛車
▲7六歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩 ▲7七角 △3四歩
▲6六歩 △6二銀 ▲6八銀 △7四歩 ▲4八玉 △4二玉
▲3八玉 △3二玉 ▲5六歩 △5四歩 ▲5八金左 △5二金右
▲2八玉 △4二銀 ▲3八銀 △1四歩 ▲1六歩 △5三銀左
▲4六歩 △4二金上 ▲3六歩 △6四歩 ▲4七金 △9四歩
▲3七桂 △9五歩 ▲2六歩 △7五歩 ▲6七銀 △6五歩
▲7五歩 △6六歩 ▲7六銀 △8六歩 ▲同 歩 △6七歩成
▲2二角成 △同 玉 ▲6七銀 △4四角 ▲6六歩 △8六飛
▲4五歩 △3三角 ▲8八歩 △3二玉 ▲5五歩 △同 角
▲7四歩 △7五歩 ▲5六銀 △2二角 ▲4四歩 △同 角
▲4六角 △6四歩 ▲5五歩 △同 歩 ▲同 銀 △5四歩
▲4四銀 △同 歩 ▲5五歩 △同 歩 ▲7五飛 △8八飛成
▲7七桂 △8四歩 ▲7二角 △8六龍 ▲5五飛 △5四歩
▲5七飛 △3三桂 ▲8一角成 △6六龍 ▲7三歩成 △同 銀
▲5四飛 △同 銀 ▲同 馬 △4三銀 ▲5五馬 △6九龍
▲5八銀 △7八龍 ▲7九歩 △8七龍 ▲5四歩 △1五歩
▲同 歩 △1八歩 ▲同 香 △6三金 ▲6五桂 △同 歩
▲7三馬 △同 金 ▲5三歩成 △同 金 ▲7三角成 △1七歩
▲同 香 △1六歩 ▲同 香 △2四桂 ▲2五桂打 △1六桂
▲3九玉 △2五桂 ▲同 桂 △1七角 ▲4八玉 △2六角成
▲3七桂 △5七歩 ▲3三銀 △3一玉 ▲4二金 △2一玉
▲4三金 △5八歩成 ▲同 金 △4七龍 ▲同 銀 △1八飛
▲3八銀打 △同飛成 ▲同 玉 △2七銀 ▲4九玉
まで137手で大場の勝ち




