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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第21局 2014年度 四市対抗オールスター戦(2015年1月11日日曜)
214/682

202手目 2回戦 前空〔獄門〕vs裏見〔駒桜市立〕(1)

※ここからは松平まつだいらくん視点です。

「というわけで、チームは5−2で勝ちました。お疲れさまでした」

 ファミレスの団体席で、辰吉たつきちの結果発表。

 俺はハンバーグステーキを食べながら、それを聞いていた。

 店内はお昼時とあって、結構込んでいる。店員が過労死しそうなくらいだ。

「では、次のオーダーを発表します」

 去年は駒込こまごめのわがままで揉めたけど、今年はスムーズだな。

 辰吉は、オーダー表をみんなに回した。


 vs鎌鼬市

 

 1番席 ポーン

 2番席 裏見

 3番席 辻

 4番席 捨神

 5番席 大場

 6番席 佐伯

 7番席 葛城

 

 1年生主体か――リストを眺めていると、裏見うらみに話しかけられた。

松平まつだいら、抜け番になってるわね」

「ま、こんなもんだろ。3回戦は本榧ほんがやだし、そっちのほうがやり甲斐がある」

 個人的な希望になるが、丸目まるめと当たって欲しい。

 中学のとき、勝ち逃げされたからなあ。

「裏見こそ、2連戦で大丈夫なのか?」

「任せてちょうだい。体力には自信あるから」

 お、おう。

鎌鼬かまいたち市の主戦力は獄門ごくもん高校です。下のひとは、気を抜かないようにしてください」

 辰吉は遠回しに、下で勝つ作戦だと明かした。

 捨神すてがみ大場おおば佐伯さえき葛城かつらぎで4勝もありそうだ。

 こういうのを、オーダー勝ちって言うんだよな。

「1時10分になったら、会場へ向かいます。それまでは、各自休憩してください」

 俺はドリンクバーでコーラをおかわりして、席にもどった。

 左隣の裏見は、たらこスパゲティ。右にいる自称宇宙人は、ラザニアを食べていた。

「あちちち……地球食は温度の管理が適当……」

「アハッ、気をつけて食べてね」

 捨神はへらへら笑いつつ、ピザをかじった。

「今年の1年は、仲がよくていいわね」

 と裏見。俺はうなずきながら、

「来年は、トラブルもなさそうだな」

 と答えた。裏見は、「どうかしら」とつぶやく。俺はテーブルを一瞥した。この面子でトラブルになることって、あるんだろうか。そりゃ変なやつは多い。だけど、人間関係で揉めるのは、案外、小市民的なタイプな気がしていた。なんとなく、だ。

「新会長と新副会長の手腕次第、か」

 そうつぶやきながら、俺はポテトにフォークを刺した。

 

けんちゃんは、荷物番がいい? それとも、観戦?」

 会場にもどった俺は、椅子にもたれてうんと背伸びをした。

 質問を投げかけてきたのは、目の前に立っているくららんだ。

「俺は、どっちでもいいぞ」

「うーん、僕は偵察があるし、だったら剣ちゃんに荷物番を……」

 そのときだった。ホールの入り口に、田中たなかが現れた。田中はすぐに俺たちのブースを見つけて、小走りに駆け寄って来た。

「ごめんごめん、遅くなっちゃった。午前中は家の用事があってさ」

「昼食のレシートは、全部集めといたから、会計をお願い。荷物番も頼める?」

 くららんは田中に荷物番を任せて、その場を去った。ふたたび暇になる。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 裏見の対局でも、観に行くか。俺は席を立って、駒桜こまざくらのブースに移動した。

 相手は……ん、誰だ? 一瞬少年と見間違ったが、よく見ると、中性的な少女だった。髪がウェーブしていて、なんだか不気味なところがある。

 どっかで見たような気もするな。どこだったか思い出せない。俺も年だ。

「振り駒をお願いします」

 1番席のポーンが振って、表が5枚出た。めずらしい。

「鎌鼬市、偶数先」

「駒桜市、奇数先ですわ」

 1番席の相手は、全然知らない男子だった。制服が獄門じゃない。

 裏見の相手はコテコテのセーラー服で、明らかに獄門の生徒だった。

 スケ番みたいなかっこうなんだよなあ。

「対局準備のできていないところはありますか? ……では、始めてください」

「よろしくお願いします」

「……」

 裏見の相手は、黙って一礼した。おいおい、マナー違反だぞ。

 裏見がチェスクロを押して、対局開始。

 7六歩、3四歩、2六歩、8四歩。

 ん? 裏見は横歩しないはずだろ?

 2五歩、3二金、6六歩。


挿絵(By みてみん)


 ひやっとしたが、相手のほうからムリヤリ矢倉に変えてくれた。

 変えられなかったら8八角成だったのかもな。あとで訊いてみるか。

 8五歩、7七角、3三角、5八金右、2二銀、6七金、5四歩。

 このあたりは、裏見も手慣れたもんだ。

 振り飛車党から居飛車党に、よくチェンジできたよな。そこに惚れる。

「松平、やっぱそこにいたか」

 ふりかえると、みっちー先輩が立っていた。

「やっぱって、なんですか?」

「将棋観戦のフリして、裏見のうなじ見てるんだろ?」

 俺は赤くなって、

「違いますよ。変なこと言わないでください」

 と反論した。実際に見てないぞ。ほんとだぞ。

 みっちー先輩は俺のとなりに立って、周囲の対局を交互に見比べた。

「捨神の対局は、観に行かなくていいんですか?」

「あいつのところは楽勝だ……裏見の相手、名前はなんて言うんだ?」

 俺は、知らない選手だと答えた。

 8八銀、6二銀、6八角、4一玉、7八金。

 

挿絵(By みてみん)


 駒組みを見ながら先輩は、

「しろうとってわけじゃ、なさそうだな……」

 と言い、本格的に観戦し始めた。

 4二角、7七銀、3三銀、6九玉、5三銀、5六歩、6四銀、4八銀。

「おい、松平。俺は中飛車党だから、おまえが解説しろ」

「解説しろって言われても……ウソ矢倉の力戦形ですよ」

 振り飛車の対局を観たほうがいいんじゃないか、と思った。大場とか。

 5二金、7九玉、4四歩、8八玉、4三金右、3六歩。

 どっちも王道のかたちになったな。7四歩の突きが遅いのは気になる。

「……3一玉」

 裏見も入城を急ぐ。対局相手の少女は黙って、3五歩と開戦した。


挿絵(By みてみん)


「これは、取っていいんだよな?」

 とみっちー先輩。

「ええ、同角に3四歩と打たないで、ほかの手が定跡です」

「5二飛とかか?」

 いや、なんでも中飛車ってわけには……ん、待てよ。

「それ、ありますね。3五同歩、同角、5五歩、同歩、5二飛とか」

 6四銀を活かすには、それしかない気がした。


 パシリ

 

 裏見は同歩。少女は同角と取って、5五歩、同歩、5二飛と進んだ。


挿絵(By みてみん)


 マジで矢倉中飛車か……あんまり勝率のいいイメージはないんだが……。

 5七銀、5五銀、5六歩、6四銀。

 これで止まるんだよなあ。

 先手は2六角として、いいかたちに構えた。

 ここで裏見が小考。

「みっちー先輩なら、どう指します?」

「矢倉は全然分かんねぇが……7四歩〜7三桂かね」

 それは指し過ぎかな、と思った。ゴキゲン中飛車感覚の手だ。

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 なるほど、そう来たか。

「5三銀〜5四銀の組み替えか?」

「だと思います」

「簡単に止まりそうに見えるけどな」

 俺も、そこは同意だった。もうちょっと絡めないといけない。

 対戦相手の少女も、大した脅威ではないと考えたのか、すぐに3六歩と置いた。

 9四歩、4六歩、5四銀、3七桂、7四歩、4八飛。


挿絵(By みてみん)


 先手も攻めの体勢。受け切り勝ち狙いじゃないってことか。

 本榧のちびまるこちゃんなら、もっと違う展開になりそうだ。

「後手は、どうするんだ? 4五歩、同歩、7一角成が防げないだろ?」

「後手も6四角と覗いておいて、角成は許容だと思います。これなら、4五歩の瞬間に後手の角筋が通りますから、7一角成には3七角成です」

 みっちー先輩も納得した。

「だったら、6四角、4五歩、同歩、同桂が本線か」

「6四角には、いったん4九飛だと思います」

 飛車を引いておかないと、1九角成がある。

「そうか? 6四角、4五歩、同歩、同桂、同銀、同飛にも1九角成だろ?」


【参考図】

挿絵(By みてみん)


「それは4四歩で、後手がいっぺんに潰れます。同銀、同角、同金、同飛、4三歩に3四銀と打って、4四歩、4三銀の打ち込みは、後手寄り筋ですから」

「そんな手があるのか。矢倉はこえぇな」

 大駒がなくても寄せられる。これが、相矢倉の特徴だとも言える。

 

 パシリ

 

 裏見は6四角。少女は黙って、4九飛と引く。

 以下、7三桂、4五歩、同歩、同桂、同銀、同飛、4四歩、4九飛と進んだ。

「2八角成」


挿絵(By みてみん)


 お、これはいい手だ。次に2七馬が、飛車角両取りになっている。

 さすがの相手も、今度は長考に沈んだ。がんばれ、裏見。

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