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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第21局 2014年度 四市対抗オールスター戦(2015年1月11日日曜)
213/682

201手目 1回戦 菅原〔天堂〕vs桐野〔椿油〕

※ここからは菅原すがわらくん視点です。

 参ったな。大将で桐野きりのと当たるとは思わなかった。

 俺は駒をならべつつ、ニット帽をかぶりなおした。

「1番席は、振り駒をお願いします」

 俺は桐野にゆずった。桐野は譲り返さずに、歩を5枚集める。

「カシャカシャカシャ、ぽい」

 表が1枚。

艶田つやだ市、偶数先ですぅ」

駒桜こまざくら市、奇数先ッ!」

 俺が先手か……正直、桐野とは棋力差がある。

 普通ならブルっちまうところだが、俺はかえって楽しみになってきた。

 県代表のお手並み拝見、ってやつだ。

「対局準備のできていないところは、ありますか?」

 沈黙。

「それでは、対局を始めてください」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いしまぁす」

 桐野がチェスクロを押して、対局開始。

「さぁて、どう料理するか」

 俺は両手の指を鳴らしてから、5六歩と突いた。

「ふえぇ、暴力はダメなのですぅ。3四歩ぅ」

 俺は左手を飛車にそえて、そのままスライドさせる。

「うにゅ、中飛車……相振りのお誘いなのですぅ。お花も乗るのですぅ」


挿絵(By みてみん)


 中飛車vs三間か。セオリーなら中飛車不利だが、そんなの関係ねぇ。

 7六歩、3五歩、5五歩、6二玉、5六飛。

 これが狙いの構想。後手に先攻されやすいのを防ぐ。

「お花も浮きまぁす。3四飛ぃ」

「4八玉」


挿絵(By みてみん)


 これを見た桐野は、すこしだけ動きをとめた。

「左の熊さんかと思ったら、そうでもなかったのですぅ」

 左穴熊は、やらないぜ。不破ふわのことが頭にあったんだろうな。

 桐野は7二銀と立って、片美濃に組む。

 3八玉、7一玉、2八玉、4二銀、7五歩、5二金左、7七角。

 後手は美濃を完成させた。俺は態度を保留する。

「これは、なにか匂うのですぅ……6四歩ぅ」

 3八金、6三金、6八銀、3三銀。

「1八香だッ!」


挿絵(By みてみん)


 穴熊に組むぜ。

「やっぱり熊さんなのですぅ。冬眠するつもりですかぁ?」

 冬眠上等。だいたい冬だろ、今。

 1四歩、1九玉、2四歩、5七銀、2五歩。

 どうしても、うえからのプレッシャーが強くなるな。

 とはいえ、入玉も視野に入れている。

 相振り飛車は駒が偏っているから、うえに抜けられたとき、押さえ込みにくい。

 チーム戦だ。勝ちにこだわるぜ。

 5九金、1三角、4八金左、8二玉、9六歩。


挿絵(By みてみん)


「端は受けませぇん。4四銀ですぅ」

「だったら、詰めさせてもらうぜ。9五歩」

 桐野は3三桂と跳ねて、攻めの体勢を築いた。

 次は、なにがなんでも3六歩だな。俺はそれに備えて、6八角と引く。

 ここまでは、俺の消費時間が8分、桐野が10分。

 まあまあなんじゃないか。

「えへへぇ、熊さんと遊ぶ準備は、できたのですぅ。3六歩ぅ」

 同歩、4五銀、7六飛、3六銀、3七歩。

「まずはぁ、ほら穴に爆竹を投げ込みまぁす」

 桐野は、3七銀成とした。

 

挿絵(By みてみん)


 ぐッ……強い。同桂は3六歩で、攻めが続く。

 かと言って、同金は4五桂か……めちゃくちゃなハンティングじゃねぇか。

 俺は小考した。

 同桂、3六歩に対しては、受けがない。3七歩成〜4五桂で崩壊だ。

 同金左か同金直……同金左は、5七角成があるか。同角、4五桂で角金両取り。

 だったら、同金直で決まりだな。これには4五桂のはずだ。

「4五同金直」

「さすがに、間違えてくれないのですぅ。4五桂ですぅ」


挿絵(By みてみん)


 生半可な受け、例えば4六銀は同角と取られて潰れる。

「4六銀……打だ」

 がっちり受ける。

「3七桂成ぅ」

 俺は同銀として、局面を収めた。後手の攻めが切れたんじゃないか。

 継続手があるように見えない。どうも拍子抜けする展開だ。

「狩人は、風下かざしもからやってくるのですぅ」

 桐野はそう言って、持ち駒の金をつまんだ。

 金? 打つ場所がないだろ?

 

 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「なんだ、それ?」

 俺は思わず、尋ねてしまった。

「風下ですぅ」

 それはさっき聞いたぜ。

 盤上に風は吹いていない。が、普通なら絶対気にしない方角なのは分かる。

「ここから桂香拾っても、金がそっぽだからマイナスだろ」

「そう思うなら、冬眠しといてくださぁい」

 くっそ、相手が桐野じゃなかったら、筋悪で放置なんだがな。

 俺は1分ほど考えた。狙いが見えてこない。

 しょうがねぇ。一番ありえそうな狙い筋だけ消しておくか。

「9七桂だ」


挿絵(By みてみん)


 8九金〜4五桂だろ、あるとしたら。

 9七桂と逃げちまえば、9九金〜9八金〜9七金で3手稼げる。

 そのあいだに攻めたらいい。

「えへへぇ、なかなか鋭いのですぅ。9九きぃん」

 ほんとに3手かけて桂馬を取る気か?

 俺は不審に思いつつ、5四歩と突いた。美濃崩しの急所だ。

 同歩、4六銀左。これで4五桂の筋もなくなった。

「3六歩ぅ」

「3七香とでも打つのか? 2八銀引だぜ」

「熊さんを穴に閉じ込めるのですぅ。2六歩ぅ」

 同歩、2五歩。これを同歩は、2六歩でさすがにマズい。

 俺は代わりに3五歩と打って、3一飛と下がらせた。

「2七銀だ」

「4四香ぉ」


挿絵(By みてみん)


 ……1秒も読んでない手だ。

「すげぇ直接手だな」

「そうでもないのですぅ」

 これなら、2五歩でもいい……いや、よくない。4六香、同飛、3五角だ。6八角が浮いていて、飛車を逃げられない。かと言って、4六香に同歩も3五角か。

「5七銀」

 とりあえず逃げて、3六歩を取る脅しをかけた。

 桐野はすぐに3五角と出る。

 2六歩の突き出しは困るから、当然の3六銀。

「1三角ぅ」


挿絵(By みてみん)


 ここで3五歩だと、なにが問題なんだ?

 2六歩……あッ、歩切れかッ! 2五歩と押さえられねぇッ!

「このままだと、2一飛で終わりか……」

「ハンターさんの4四香が、熊さんの眉間にクリーンヒットしてるのですぅ」

 香車がここまで役に立つとは思ってなかった。

 残り時間を確認する。俺が11分で、桐野が12分か。逆転してる。

「……2八玉だ」


挿絵(By みてみん)


 当初の腹案通り、入玉で行く。

 さいわい、2〜3筋には飛車角しかいない。網の目は広そうだ。

「やっと出て来たのですぅ。いい子いい子、してあげまぁす」

 5五歩、3七金、2六歩、4六歩、5六歩、同銀。

 サーカスに売り飛ばされそうな手順だな。

「3六飛ですぅ」


挿絵(By みてみん)


 飛車切りだと? ……げッ! 2七銀かッ!

「凌げばなんとかなる。同金だ」

 2七銀、3七玉、3六銀成、同玉に、3五金で蓋をされた。

 俺は4七玉と下がって、いったん入玉をあきらめる。

 4六金、同角、同角に、俺は歩をつまんだ。

「手筋だッ! 4五歩ッ!」


挿絵(By みてみん)


 桐野はここで1分使って、6八角成と成り込んだ。

 チャンスが出てきたんじゃないか?

 俺の候補手は、4四歩か3六玉か5七銀。

 それぞれ、香車の除去、入玉の優先、馬の叱りつけになっている。

「なんでもありそうな局面が、一番危ないのですぅ」

「うるせぇ」

 第一感、3六玉だ。香車はあとでも取れる。

「3六……」

 俺は王様をあがりかけて、手を引っ込めた。

 ……3六玉に5七角があるじゃねぇか。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は菅原すがわらくんの脳内イメージです。)

 

 3五角成と3九角成を同時に受ける手がない。

 そもそも2筋から4筋ラインの角成をとめる手がない。

 却下だ。4四歩にも5七角がある。

「チッ、馬を叱るしかないのか……5七銀」

 6九馬と王手される。これには4六玉と逃げておいた。

 5五歩、同銀、5八角。

 めんどくせぇ手がきた。詰めろじゃないが、3六角成〜4五馬狙いだ。

「4八金は、受けになってねぇな……こっちだ」


挿絵(By みてみん)


 飛車で受ける。これなら4五馬に同飛と切れる。

「反対側に成るのですぅ。6七角成ですぅ」

「3五玉ッ!」

 デカい一手が入った。入玉あるぜ、これ。

 7六馬(点数が心配だな)、2四玉、6七馬、4六銀上、4五香、同銀。

「2五飛ぃ」

「成れなきゃ大したことないだろッ! 3三玉だッ!」

 4五馬、同飛、同飛。これが龍なら俺の負けだが、生飛車だ。

 俺は3二玉と入って、囲いの準備をする。

「5五飛ぃ」

 俺は、桂馬を3三にパシリと打ち付けた。

「7八馬ぁ」


挿絵(By みてみん)


「ん?」

 なんだ、そりゃ。後手も入玉に切り替えたのか。

 そう思った瞬間、ピッとチェスクロが鳴った。1分将棋だ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「2四香ッ!」

 俺は、あわてて香車を打った。

 桐野は、アァと声をあげた。

「それは詰みなのですぅ」

「なに?」

「3一歩ぅ」


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 か、簡単じゃねぇか。見落としちまった。

 同玉、4二銀、同玉、5二飛、3一玉、3二飛打、2一玉、1二馬までだ。

 しかたなく同玉と取ったあと、59秒使って時間稼ぎをする。

 3二飛打の局面まで進んだ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「……投了だ」

「ありがとうございましたぁ」

 俺はうつむいて、クールダウンの時間をとった。

 どこが悪かった? 最後、2四香が悪手だったか?

「2四香以外なら、入玉できてたか?」

「入玉は、めちゃんこむずかしいのですぅ。2三に打つと、3一歩から2三馬ですぅ。例えば、2三香なら3一歩、2一玉、3二銀、1二玉、2三馬で詰みですぅ。3二銀に3一玉と寄るのは、5一飛、4一合駒、2三馬で寄りになりまぁす。3一歩に同玉は、本譜と同じ4二銀から、同玉、5二飛、3一玉、3二飛打、2一玉、2三馬が必至ですぅ」

「2二金だと?」

「いきなり4二飛と捨てまぁす」


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「同玉、5二飛、3一玉、2二飛、同玉に1二馬で先手の勝ちですぅ」

 俺はニット帽に手をかけて、フッと笑った。

「全部読み切りか……あんた、やっぱつえぇな」

「えへへぇ、お花はライオンさんなのですぅ」

「だが、こいつは団体戦だ……となりは勝ったみたいだぜ?」

場所:2014年度 四市対抗オールスター戦 1回戦

先手:菅原 道真

後手:桐野 花

戦型:相振り飛車


▲5六歩 △3四歩 ▲5八飛 △3二飛 ▲7六歩 △3五歩

▲5五歩 △6二玉 ▲5六飛 △3四飛 ▲4八玉 △7二銀

▲3八玉 △7一玉 ▲2八玉 △4二銀 ▲7五歩 △5二金左

▲7七角 △6四歩 ▲3八金 △6三金 ▲6八銀 △3三銀

▲1八香 △1四歩 ▲1九玉 △2四歩 ▲5七銀 △2五歩

▲5九金 △1三角 ▲4八金上 △8二玉 ▲9六歩 △4四銀

▲9五歩 △3三桂 ▲6八角 △3六歩 ▲同 歩 △4五銀

▲7六飛 △3六銀 ▲3七歩 △同銀成 ▲同金直 △4五桂

▲4六銀打 △3七桂成 ▲同 銀 △8八金 ▲9七桂 △9九金

▲5四歩 △同 歩 ▲4六銀左 △3六歩 ▲2八銀引 △2六歩

▲同 歩 △2五歩 ▲3五歩 △3一飛 ▲2七銀 △4四香

▲5七銀 △3五角 ▲3六銀 △1三角 ▲2八玉 △5五歩

▲3七金 △2六歩 ▲4六歩 △5六歩 ▲同 銀 △3六飛

▲同 金 △2七銀 ▲3七玉 △3六銀成 ▲同 玉 △3五金

▲4七玉 △4六金 ▲同 角 △同 角 ▲4五歩 △6八角成

▲5七銀 △6九馬 ▲4六玉 △5五歩 ▲同 銀 △5八角

▲4八飛 △6七角成 ▲3五玉 △7六馬 ▲2四玉 △6七馬

▲4六銀上 △4五香 ▲同 銀 △2五飛 ▲3三玉 △4五馬

▲同 飛 △同 飛 ▲3二玉 △5五飛 ▲3三桂 △7八馬

▲2四香 △3一歩 ▲同 玉 △4二銀 ▲同 玉 △5二飛

▲3一玉 △3二飛打


まで122手で桐野の勝ち

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