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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第21局 2014年度 四市対抗オールスター戦(2015年1月11日日曜)
211/681

199手目 1回戦 立花〔椿油〕vs裏見〔駒桜市立〕(1)

※ここからは香子きょうこちゃん視点です。

 広々とした、真新しいホール――私たちは、本榧ほんがやの市民会館に集まっていた。

 箕辺みのべくんと葛城かつらぎくんを中心に、輪を作る。周囲は、ちょっと騒がしかった。

「新しく連盟の会長になりました、箕辺みのべ辰吉たつきちです。よろしくお願いします」

 箕辺くんは頭をさげて、となりの男の娘にバトンタッチ。

「副会長になりました、葛城かつらぎふたばでぇす。よろしくお願いしまぁす」

 ふたりの挨拶が終わって、蔵持くんとサーヤが前に出た。

「前会長の、蔵持くらもちです。本日は、四市対抗オールスター戦に集まっていただき、ありがとうございました。非公式の交流戦ですが、張り切っていきましょう。開会式の時刻になるまでは、各人、ゆっくりしていてください」

 無難な挨拶ね。そんなことを思っていると、となりに立っていた松平まつだいらが、

「いやあ、団体戦が0ポイントだからムリかと思ったが、なんとかなったな」

 と、感慨深げにうなずいた。

 ちなみに、2014年度の駒桜十傑は、


   1位 捨神九十九 72P(標準61P)

   2位 裏見香子  50P

   3位 佐伯宗三  41P(標準25P)

   4位 菅原道真  34P

   5位 大場角代  31P(標準31P)

      松平剣之介 31P

   7位 千駄光成  30P

   8位 姫野咲耶  29P

      駒込歩美  29P

  10位 葛城ふたば 26P(標準24P)


 だった。どやぁ。捨神くんの化け物みたいな数字に続いて、2位を確保。ちなみに、千駄先輩、姫野先輩、駒込先輩(!)が辞退して、繰り上げが3名も出た。当確したのは、つじーん(24P)、くららん(22P)、ポーンさん(22P)。

「あ、裏見うらみさん、おはようございます」

 つじーんが、こちらへ挨拶に来た。

「50ポイントとは、さすがですね」

 オホホ、そうでもあってよ。

「今年度も、なかなかのメンバーですし、ぜひ優勝したいです」

 そのあたりについては、チーム内でも結構温度差がある。

 くららんとサーヤは、優勝を目指しているようだ。箕辺くんも、かな。

 一方、ピクニック気分なのもちらほら。

すみちゃん、十傑に選ばれてハッピーっスねぇ」

「私は選ばれなかった……」

「アハハ、来年、また頑張ればいいよ」

 テーブルの隅っこで、大場おおばさん、飛瀬とびせさん、捨神すてがみくんが話している。

 飛瀬さんは「地球人の文化観察」とか言ってたけど、絶対捨神くん目当てでしょ。

 まったく、公私混同も甚だしい。

 私は、松平のほうへ向き直る。

「オーダーは、まだなのかしら?」

「今、くららんを中心に決めてるっぽいぞ。まあ、適当だろ」

 去年は2回出してもらった。1年生を底上げするという側面が強いようだ。捨神くんがこれ以上強くなる必要あるのかしら。

「ああ、香子きょうこちゃんを発見したのですぅ」

 うしろから抱きつかれて、私は悲鳴をあげた。

 ふりかえると、桐野きりのさんがニコニコ顔で立っていた。

「もう、おどかさないでよ」

「えへへぇ、駒桜こまざくらの会長さんはいますかぁ?」

「箕辺くんなら、オーダー会議中よ」

艶田つやだの新しい会長が決まったのでぇ、こんにちはしたいのですぅ」

 桐野さんは、うしろに立っている少年を紹介した。

 後ろ髪がピンと跳ねていて、そこそこのイケメン少年。

 全体的に線が細いけど、ちょっとしたオーラがある。

「はじめまして、立花たちばな寒九郎かんくろうです」

「お花が会長のとき、副会長をしてくれていたのですぅ」

 苦労人なのね。

 将棋の強さと事務は、分離したほうがいいわよ。うちみたいに。

 自分の名前が出たことに気づいたらしく、箕辺くんは会議を中断した。

「呼びましたか?」

「ごめんなさい。艶田の会長が、挨拶したいそうよ」

 箕辺くんと立花くんは、それぞれ挨拶した。

「イケメンがふたり、これをボーイズラブと言うのですぅ」

 言わないです。八千代やちよ先輩が飛んで来そう。

 あきれていると、会場のほうから指示が飛んだ。

「そろそろオーダー表を提出してください」

 箕辺くんは慌ててミーティングにもどり、オーダー表を埋め始めた。

 去年のほうがテキパキしてたわね。千駄せんだ先輩と姫野ひめの先輩は偉大。

 提出が終わって、駒桜陣営はふたたび集合。

「お待たせしました。駒桜チームのオーダーを発表します」


 大将 菅原

 副将 ポーン

 三将 裏見

 四将 辻

 五将 捨神

 六将 大場

 七将 蔵持

 八将 佐伯

 九将 松平

 十将 葛城

 

 ほぉほぉ、比較的、真ん中に寄せて来たわね、これは。

「おーい、俺が大将かよ」

 菅原すがわら先輩は、やや不満気だった。

 くららんは、

「すみません。3年生は例年通り、1回出場を目安にお願いします」

 と答えた。

「しょうがねぇな。絶対に勝てよ」

 大将と言えば聞こえはいいけど、実質ずらし要員だからね。

 菅原先輩は進学じゃなくて就職組。3年生なのに来ているのも、そのため。

 でも、特別扱いはしてもらえないようだ。

「これより開会式を始めますので、選手のみなさんは集まってください」

 運営の声。ホールの中央に整列。

 見知っている顔もちらほら、見知らぬ顔もちらほら。

 神崎かんざきさんと吉備きびさんは、すぐに分かった。

 それから、クリスマスパーティーで知り合った無口な女の子とも目が合う。

 にっこりして、こちらに手を振ってきた。私は目礼する。

 えーと……前空まえぞらさんだったかしら。あっちのぽっちゃり系が土居どいさんね。

「選手代表、挨拶。天堂てんどう高校、捨神すてがみ九十九くつもくん」

 あらら、捨神くんが代表なんだ。

 去年は桐野さんだったし、強い1年生が選ばれてるのかしら。

 よれよれのレインコートを着た捨神くんが前に出て、挨拶。

「1年間のベストメンバーがこうしてつどえたことを、うれしく思います。県大会ではお互いにライバルですが、今日はオールスター戦ということで、楽しくやりましょう」

 以上。手短かでよろしい。

「それでは、対戦校を発表します」

 ホワイトボードに、大きな紙が張り出された。人だかりができる。

 こういうときは、ほかのひとに頑張ってもらいましょう。離脱。

 私がブースで待っていると、松平が戻ってきた。

「どうだった?」

艶田つやだからだ」

 桐野さんのところか――いきなり当たるんじゃないでしょうね。

「で、私たちのほうは?」

「これから話し合って決めるらしい……が、さすがにフルじゃないか?」

 初戦は、相手のオーダーが分からない。フルメンバーはありうる。

 私が納得していると、箕辺くんがやって来た。

「裏見先輩、2番席でお願いします」

「了解」

 こうして、個別的に出欠が告げられていった。

 他がどうなっているのか気になる。

「選手のみなさん、着席してください」

 駒桜オールスターズ、出動ッ!

 私は2番席へ直行した。

 桐野さん……じゃない。さっき会ったばかりの立花くんだった。

「あなただったのね」

「裏見香子さんですね。こんにちは」

「あれ? 私、自己紹介した?」

「竜王戦優勝のとき、僕もあの場にいました」

 っと、当然か。艶田の副会長なら、いるに決まっている。

 私は着席して、左右を確認した。

 3番席は、知らない男子。1番席は――

「お花が大将ですぅ」

 菅原先輩は、露骨にイヤそうな顔をして、ニット帽をずらした。

「げぇ……おまえ、なんで大将なんだ?」

「お花が1番強いからですぅ」

 あのさぁ……団体戦って、そういうゲームじゃないから。

「1番席は、振り駒をお願いします」

 菅原先輩は、桐野さんに譲った。桐野さんは、遠慮せずに歩を5枚集める。

「カシャカシャカシャ」

 口で言わなくてよろしい。

「ぽい」

 私が横目にのぞき込むと、歩が1枚。

「艶田市、偶数先ですぅ」

「駒桜市、奇数先ッ!」

 私が後手か。戦法は、どうしましょう。データがないんだけど。

 八千代先輩は受験勉強でいないし、駒桜はブレインが不在になっている。

 とりあえず、チェスクロの位置をなおす。

「対局準備のできていないところは、ありますか?」

 返事なし。

「それでは、対局を始めてください」

「よろしくお願いします」

 私はチェスクロを押す。立花くんは、すぐに7六歩とした。

 2手目に悩む。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 様子見。3四歩。

「2六歩」

 ぐッ、居飛車党か。横歩は拒否。

「8八角成ッ!」


挿絵(By みてみん)


「一手損角換わりですね。了解です」

 同銀、2二銀、4八銀、6二銀、3六歩、6四歩、3七銀。

 むッ、これは、角換わり棒銀ね。

 丁寧な物腰とは違って、攻め将棋らしい。

 桐野さんも、ほんわかな外見とはうらはらに、攻め将棋。用心しましょう。

 6三銀、2五歩、3三銀、6八玉、5四銀、7八玉。


挿絵(By みてみん)


 左金を上がらないのか……ちょっと変則的ね。

 私は、持参したお茶のキャップを開ける。駒組みについて考え始めた。

 ここまでお読みいただき、まことにありがとうございました。

 活動報告でも告知したのですが、今週土曜日から、

 

 『凛として駒〜裏見香子の大学将棋物語』

 

 の連載が始まります。

 更新時間は、12日の午前7時、8時、9時、10時の4分割になります。

 一括してお読みになられたいときは、10時以降にアクセスしてください。

 並行連載でどちらか遅れるかもしれませんが、

 これからもよろしくお願いいたします。

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