192手目 突撃取材、となりの将棋部さん!
というわけで、やって参りました。清心高校よ。
さすが私立だけあって、市立より綺麗な校舎だ。カトリック系は寄付が多いって、風の噂で聞いたことがある。メモリーカードも買い替えたし、バンバン撮っちゃいましょう。
パシャ パシャ パシャ
「あれ? 葉山先輩じゃないですか」
ファインダーから顔をあげると、後ろ髪を結んだイケメン少年を発見。
「虎向くん、こんにちは」
「こんにちは……なにやってるんですか? 秋に向けての偵察とか?」
「佐伯くんから聞いてないの? 今日は、取材に来たんだけど」
「取材……ああ、連盟広報誌のやつですか。今日だったんですね」
情報の周知がなってないわね。そんなことじゃ、県大会は勝ち抜けないわよ。情報を制する者が、競争を制するんだから。
私は早速、部室に案内してもらった。清掃が行き届いていて、いかにも佐伯くんが主将という感じの部屋だった。パソコンも完備されている。駒桜市も、もっと市立にお金をかけてくれないかしら。今度、投書してみましょう。
そんなことを考えていると、入り口に佐伯くんが現れた。
「葉山さん、こんにちは」
「こんにちは。ちょっと早かったかしら?」
「そんなことはないよ。僕のほうこそ、遅れてごめんね」
ほら、この紳士さ。爪の垢を煎じて、駒込くんに飲ませてあげたいわね。
私はテーブルに案内されて、お茶をごちそうになった。佐伯くんと虎向くんも、向かい側に座る。いやあ、眼福、眼福。ツーショットも撮っておきましょう。パシャリ。
「ほんとうは、自分の学校の新聞部に依頼するのが筋なんだろうけど、だれも将棋を知らなかったから、葉山さんに頼むことにしたよ。迷惑じゃなかった?」
「全然」
「そっか、それは良かった。ところで、僕たちはどうすればいいのかな?」
うーん、企画すら私に丸投げなのか――いいこと思いついた。
「とりあえずさ、兎丸くんも呼んでもらえない?」
*** 少女、職権乱用中 ***
「もうちょい右……そうそう、腰に手をあてて……虎向くんは、両腕をあげて」
パシャリ パシャリ
「今度は、兎丸くんと佐伯くんが、場所をチェンジして……そうそう、で、兎丸くんは机のうえに座って、足を組んで……左足のほうがいいかな……佐伯くんは適当にポーズ」
佐伯くんは棒立ちになったまま、くちびるを動かした。
「ごめん、これって将棋と関係あるの?」
ないです。
「エース3人の集合写真は、必要でしょ? 見開きに使えるし」
「そういうものかな……ちょっと、恥ずかしいけど……」
「いいから、いいから、ポーズ取って、ポーズ」
佐伯くんは、右手を腰に当てた。積極性が足りない。
「もっと体をくねらせて……腰も突き出して……」
ガラララ
いきなりとびらが開いて、私は振り返った。
「Warte mal!! セクハラの犯行現場を取り押さえましたわよッ!」
ちょ、なんでエリーちゃんがいるのよ。
私が慌てていると、高崎さんと林家さんも入って来た。
「おい、バカ虎、遊びに来たぞ」
「あ、バカ崎、おまえなに勝手に入ってるんだ」
高崎さんは、虎向くんをヘッドロックした。悶える虎向くんをよそに、私はエリーちゃんに話しかけた。どうやら今日は、清心と藤女の交流会らしい。そんな話は聞いていなかったから、私はちょっぴり動揺した。
「しゅ、取材日に交流会をするの? マズくない?」
佐伯くんはいつものポーカーフェイスで、
「せっかくだから、駒桜市の紹介みたいにしたほうが、いいと思ったんだ」
と答えた。なんという博愛主義。普通、独占したくなるでしょ、こんなの。
一方、となりに立っていた林家さんは、うんうんうなずいていた。
「まったくでがす。駒桜市にお鉢が回って来たとき、うちが優勝してないとか、なにかの間違いですからねぇ。ここは出してもらわないと……いってッ!」
高崎さんの鉄拳制裁。
「そういう貧相な考えするなっつーのッ!」
「なんで身内から攻撃食らうんですか……絶対おかしい……」
「だいたい、うちは姫野先輩がいたとき、取材受けてるだろうが」
あ、そうなんだ。初耳だわ。バックナンバーを漁ってみようかしら。姫野さんは、将棋指しじゃなくても市内では有名だった。姫野重工のお嬢様だし、弓道でも有名な女性だったからだ。当然、私も入部前から知っていた。
「でも、交流会メインの記事じゃないから……構成が難しいわね」
駒桜市の紹介記事ではダメなのか、と佐伯くんは尋ねた。
「ダメよ。市立だって取材するんだから、被っちゃうでしょ」
「それも、そうだね。葉山さんに全部任せるよ」
お楽しみタイムも終わって、本格的な撮影に取りかかる。テーブルに座って、メモ帳を準備。藤女のメンバーは、すみっこに移動してもらった。佐伯くんメインで訊いて、虎向くんと兎丸くんにフォローしてもらうスタイルが、いいわよね。
「まずは、普段の活動から、よろしく」
「将棋を指してるよ」
そういうことじゃなーい。
「もっと詳しくお願い。週に何回とか、平均何人くらいでやってるとか」
「例会は毎週水金で、これは出席義務があるね。ほかは各自任意。例会の日は全員集まるけど、ほかは平均4、5人くらいかな。最近は、ちょっと増えてるよ」
うちと、そんなに変わらないのね。
「主将の佐伯くんは、毎日来てる感じ?」
「そうだね。メインメンバーは、最低週4で来てるかな」
メインメンバーというのは、佐伯くん、虎向くん、兎丸くんのことらしい。結局、この3本柱で何とかしてるのが清心なのよね。こういう情報は、万が一県大会で優勝したときのことを考えると、伏せておいたほうがいいかも。
「普段の練習は、どういう形式でやってるの? 対局? 研究?」
「研究は、あんまりしないかな」
へぇ、研究しないんだ。うちは、カンナちゃん、遊子ちゃん、よもぎちゃんあたりの、居飛車党メンバーがよく研究をしている。横歩とか角換わりとか。
「研究しないのは、なにかこだわりがあるの? 研究将棋が嫌いとか?」
「僕は力戦が多いから、研究するより指したほうがいいかな、って思う」
なるほど、佐伯くんは右玉を中心にした、よく分からない棋風だ。箕辺くんが、そう解説していたのを思い出す。私は兎丸くんのほうへ向き直って、
「兎丸くんたちも、研究はしないの?」
と尋ねた。
「僕たちはしますよ。ただ、部室じゃなくて、昼休みの教室か自宅でやってます」
「ひとりで?」
「ひとりでするときもありますし、虎向とするときもあります」
このふたり、やたら仲がいいわよね。虎と兎なのに。あやしい。
「ほかに、なにか特別なことはしてる? 将棋以外でもいいわよ」
カードゲームとか、テレビゲームとか、合コンとか……いや、合コンはないか。
3人は、お互いに顔を見合わせた。佐伯くんが代表して、
「僕たちの部では、将棋オンリーだよ」
と答えた。
「え? 手品の練習もしないの?」
「手品の練習は、人前でするものじゃないからね。飛瀬さんは、してるの?」
……してないわね。部室で将棋以外のことをしているのは、あまり見かけない。カンナちゃんって、そう考えるとクソマジメよね。福留さんあたりは、マンガを持ち込んでいることがある。遊子ちゃんも、新作ゲームが出たときは、部室でやっている。
「ってことは、ひたすら将棋を指してるってこと?」
「うん、レギュラーとそれ以外で分かれて指してる」
「後輩の指導は?」
去年の秋冬は、裏見先輩がカンナちゃんたちを指導していた気がする。それが伝統なのかどうかは、よく分からない。裏見先輩も、だれかに指導を受けたのかしら。ありうるとしたら、卒業生で一番強かった駒込くんのお姉さんかなあ。
「今年は、兎丸くんと虎向くんが強いから、指導の必要がないんだよね。ほかの1年は、ふたりが指導してくれるし。去年、田中先輩を指導してた時間のほうが長いかも」
田中先輩、なにやってんのよ。
「ここまで話を聞く限り、マイペースな部みたいね」
「そうだね。升風と比べたら、うちはマイペースかな。もともと、OBの三宅先輩がマイペースな人で、わいわいやる方針じゃなかったから」
三宅って人は、聞き覚えがなかった。あとで、名簿を引っ張り出しときましょ。
普段の活動は、以上でいいとして……私は、チェックリストを確認した。
「次は、春の団体戦について、いろいろ感想を聞きたいんだけど」
さっきと打って変わって、3人とも答えが慎重になり始める。
「運が良かったかな。それが第一感。初戦で藤女だったのが大きかったよ。オーダー表が分からなくて、対策できなかったみたいだし。戦力的には、どうしても升風と藤女のほうが強いからね。途中で、兎丸くんと虎向くんが崩れなかったのも助かった」
なかなか気配りのあるコメントね。
「記憶に残った一局、みたいなのは、ある?」
これは、3人とも訊いておきたい。
まずは、佐伯くんから。
「僕の面子だと……1回戦のポーンさんか、5回戦の飛瀬さんかな」
ここでエリーちゃんが微妙に反応。
私も、ここは誘導する。
「どちらか一局でお願い。勝ち局のほうが、印象に残ってるかなあ、と……」
「印象に残ったほうで言うと、飛瀬さんだね」
ちょ、おま。私は理由を尋ねた。
「飛瀬さんは、1年生からのノビシロが凄いと思う。あそこまで強くなると思ってなかったし、裏見さん一強だった市立を変えたのは、個人的に尊敬するよ」
エリーちゃん、ハンカチを噛み始める。いかん、いかん。
「カンナちゃんは市立で取材するから、エリーちゃんのほうが良くない?」
「……それも、そうだね。どう振り返ればいいのかな?」
今日は予定を空けて来たと、私は伝えた。
夜中まで付き合っちゃうわよ。
「だったら、ちょっと並べてみようか。印象で語るのも失礼だから」




