表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第20局 地球、ちょうだい(2015年6月1日月曜)
204/682

192手目 突撃取材、となりの将棋部さん!

 というわけで、やって参りました。清心せいしん高校よ。

 さすが私立だけあって、市立いちりつより綺麗な校舎だ。カトリック系は寄付が多いって、風の噂で聞いたことがある。メモリーカードも買い替えたし、バンバン撮っちゃいましょう。

 

 パシャ パシャ パシャ

 

「あれ? 葉山はやま先輩じゃないですか」

 ファインダーから顔をあげると、後ろ髪を結んだイケメン少年を発見。

虎向こなたくん、こんにちは」

「こんにちは……なにやってるんですか? 秋に向けての偵察とか?」

佐伯さえきくんから聞いてないの? 今日は、取材に来たんだけど」

「取材……ああ、連盟広報誌のやつですか。今日だったんですね」

 情報の周知がなってないわね。そんなことじゃ、県大会は勝ち抜けないわよ。情報を制する者が、競争を制するんだから。

 私は早速、部室に案内してもらった。清掃が行き届いていて、いかにも佐伯くんが主将という感じの部屋だった。パソコンも完備されている。駒桜こまざくら市も、もっと市立にお金をかけてくれないかしら。今度、投書してみましょう。

 そんなことを考えていると、入り口に佐伯くんが現れた。

「葉山さん、こんにちは」

「こんにちは。ちょっと早かったかしら?」

「そんなことはないよ。僕のほうこそ、遅れてごめんね」

 ほら、この紳士さ。爪の垢を煎じて、駒込こまごめくんに飲ませてあげたいわね。

 私はテーブルに案内されて、お茶をごちそうになった。佐伯くんと虎向くんも、向かい側に座る。いやあ、眼福がんぷく眼福がんぷく。ツーショットも撮っておきましょう。パシャリ。

「ほんとうは、自分の学校の新聞部に依頼するのが筋なんだろうけど、だれも将棋を知らなかったから、葉山さんに頼むことにしたよ。迷惑じゃなかった?」

「全然」

「そっか、それは良かった。ところで、僕たちはどうすればいいのかな?」

 うーん、企画すら私に丸投げなのか――いいこと思いついた。

「とりあえずさ、兎丸うさまるくんも呼んでもらえない?」


 *** 少女、職権乱用中 ***

 

「もうちょい右……そうそう、腰に手をあてて……虎向くんは、両腕をあげて」


 パシャリ パシャリ


「今度は、兎丸くんと佐伯くんが、場所をチェンジして……そうそう、で、兎丸くんは机のうえに座って、足を組んで……左足のほうがいいかな……佐伯くんは適当にポーズ」

 佐伯くんは棒立ちになったまま、くちびるを動かした。

「ごめん、これって将棋と関係あるの?」

 ないです。

「エース3人の集合写真は、必要でしょ? 見開きに使えるし」

「そういうものかな……ちょっと、恥ずかしいけど……」

「いいから、いいから、ポーズ取って、ポーズ」

 佐伯くんは、右手を腰に当てた。積極性が足りない。

「もっと体をくねらせて……腰も突き出して……」


 ガラララ

 

 いきなりとびらが開いて、私は振り返った。

「Warte mal!! セクハラの犯行現場を取り押さえましたわよッ!」

 ちょ、なんでエリーちゃんがいるのよ。

 私が慌てていると、高崎たかさきさんと林家はやしやさんも入って来た。

「おい、バカとら、遊びに来たぞ」

「あ、バカさき、おまえなに勝手に入ってるんだ」

 高崎さんは、虎向くんをヘッドロックした。悶える虎向くんをよそに、私はエリーちゃんに話しかけた。どうやら今日は、清心と藤女ふじじょの交流会らしい。そんな話は聞いていなかったから、私はちょっぴり動揺した。

「しゅ、取材日に交流会をするの? マズくない?」

 佐伯くんはいつものポーカーフェイスで、

「せっかくだから、駒桜市の紹介みたいにしたほうが、いいと思ったんだ」

 と答えた。なんという博愛主義。普通、独占したくなるでしょ、こんなの。

 一方、となりに立っていた林家さんは、うんうんうなずいていた。

「まったくでがす。駒桜市にお鉢が回って来たとき、うちが優勝してないとか、なにかの間違いですからねぇ。ここは出してもらわないと……いってッ!」

 高崎さんの鉄拳制裁。

「そういう貧相な考えするなっつーのッ!」

「なんで身内から攻撃食らうんですか……絶対おかしい……」

「だいたい、うちは姫野ひめの先輩がいたとき、取材受けてるだろうが」

 あ、そうなんだ。初耳だわ。バックナンバーを漁ってみようかしら。姫野さんは、将棋指しじゃなくても市内では有名だった。姫野重工のお嬢様だし、弓道でも有名な女性だったからだ。当然、私も入部前から知っていた。

「でも、交流会メインの記事じゃないから……構成が難しいわね」

 駒桜市の紹介記事ではダメなのか、と佐伯くんは尋ねた。

「ダメよ。市立だって取材するんだから、被っちゃうでしょ」

「それも、そうだね。葉山さんに全部任せるよ」

 お楽しみタイムも終わって、本格的な撮影に取りかかる。テーブルに座って、メモ帳を準備。藤女のメンバーは、すみっこに移動してもらった。佐伯くんメインで訊いて、虎向くんと兎丸くんにフォローしてもらうスタイルが、いいわよね。

「まずは、普段の活動から、よろしく」

「将棋を指してるよ」

 そういうことじゃなーい。

「もっと詳しくお願い。週に何回とか、平均何人くらいでやってるとか」

「例会は毎週水金で、これは出席義務があるね。ほかは各自任意。例会の日は全員集まるけど、ほかは平均4、5人くらいかな。最近は、ちょっと増えてるよ」

 うちと、そんなに変わらないのね。

「主将の佐伯くんは、毎日来てる感じ?」

「そうだね。メインメンバーは、最低週4で来てるかな」

 メインメンバーというのは、佐伯くん、虎向くん、兎丸くんのことらしい。結局、この3本柱で何とかしてるのが清心なのよね。こういう情報は、万が一県大会で優勝したときのことを考えると、伏せておいたほうがいいかも。

「普段の練習は、どういう形式でやってるの? 対局? 研究?」

「研究は、あんまりしないかな」

 へぇ、研究しないんだ。うちは、カンナちゃん、遊子ゆうこちゃん、よもぎちゃんあたりの、居飛車党メンバーがよく研究をしている。横歩とか角換わりとか。

「研究しないのは、なにかこだわりがあるの? 研究将棋が嫌いとか?」

「僕は力戦が多いから、研究するより指したほうがいいかな、って思う」

 なるほど、佐伯くんは右玉を中心にした、よく分からない棋風だ。箕辺みのべくんが、そう解説していたのを思い出す。私は兎丸くんのほうへ向き直って、

「兎丸くんたちも、研究はしないの?」

 と尋ねた。

「僕たちはしますよ。ただ、部室じゃなくて、昼休みの教室か自宅でやってます」

「ひとりで?」

「ひとりでするときもありますし、虎向とするときもあります」

 このふたり、やたら仲がいいわよね。虎と兎なのに。あやしい。

「ほかに、なにか特別なことはしてる? 将棋以外でもいいわよ」

 カードゲームとか、テレビゲームとか、合コンとか……いや、合コンはないか。

 3人は、お互いに顔を見合わせた。佐伯くんが代表して、

「僕たちの部では、将棋オンリーだよ」

 と答えた。

「え? 手品の練習もしないの?」

「手品の練習は、人前でするものじゃないからね。飛瀬とびせさんは、してるの?」

 ……してないわね。部室で将棋以外のことをしているのは、あまり見かけない。カンナちゃんって、そう考えるとクソマジメよね。福留ふくどめさんあたりは、マンガを持ち込んでいることがある。遊子ちゃんも、新作ゲームが出たときは、部室でやっている。

「ってことは、ひたすら将棋を指してるってこと?」

「うん、レギュラーとそれ以外で分かれて指してる」

「後輩の指導は?」

 去年の秋冬は、裏見うらみ先輩がカンナちゃんたちを指導していた気がする。それが伝統なのかどうかは、よく分からない。裏見先輩も、だれかに指導を受けたのかしら。ありうるとしたら、卒業生で一番強かった駒込くんのお姉さんかなあ。

「今年は、兎丸くんと虎向くんが強いから、指導の必要がないんだよね。ほかの1年は、ふたりが指導してくれるし。去年、田中たなか先輩を指導してた時間のほうが長いかも」

 田中先輩、なにやってんのよ。

「ここまで話を聞く限り、マイペースな部みたいね」

「そうだね。升風ますかぜと比べたら、うちはマイペースかな。もともと、OBの三宅みやけ先輩がマイペースな人で、わいわいやる方針じゃなかったから」

 三宅って人は、聞き覚えがなかった。あとで、名簿を引っ張り出しときましょ。

 普段の活動は、以上でいいとして……私は、チェックリストを確認した。

「次は、春の団体戦について、いろいろ感想を聞きたいんだけど」

 さっきと打って変わって、3人とも答えが慎重になり始める。

「運が良かったかな。それが第一感。初戦で藤女だったのが大きかったよ。オーダー表が分からなくて、対策できなかったみたいだし。戦力的には、どうしても升風と藤女のほうが強いからね。途中で、兎丸くんと虎向くんが崩れなかったのも助かった」

 なかなか気配りのあるコメントね。

「記憶に残った一局、みたいなのは、ある?」

 これは、3人とも訊いておきたい。

 まずは、佐伯くんから。

「僕の面子だと……1回戦のポーンさんか、5回戦の飛瀬さんかな」

 ここでエリーちゃんが微妙に反応。

 私も、ここは誘導する。

「どちらか一局でお願い。勝ち局のほうが、印象に残ってるかなあ、と……」

「印象に残ったほうで言うと、飛瀬さんだね」

 ちょ、おま。私は理由を尋ねた。

「飛瀬さんは、1年生からのノビシロが凄いと思う。あそこまで強くなると思ってなかったし、裏見さん一強だった市立を変えたのは、個人的に尊敬するよ」

 エリーちゃん、ハンカチを噛み始める。いかん、いかん。

「カンナちゃんは市立で取材するから、エリーちゃんのほうが良くない?」

「……それも、そうだね。どう振り返ればいいのかな?」

 今日は予定を空けて来たと、私は伝えた。

 夜中まで付き合っちゃうわよ。

「だったら、ちょっと並べてみようか。印象で語るのも失礼だから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ