185手目 H島県幹事会杯争奪戦 準決勝 東雲vs神崎
ゴーゴー! レッツゴー! がんばれ青來!
「神崎先輩、よろしくお願いしますッ!」
「うむ、よろしくつかまつる」
これは大一番ですよ。神崎先輩とは、いい勝負ですからね。
「初手、7六歩ですッ!」
「6二銀」
「あッ! 出ましたねッ! 変態戦法ッ!」
「変態ではない。かまいたちだ」
「そもそも、自称忍者っていう時点で、変態だと思いませんかッ!?」
ドン
私の対局席に、手裏剣が刺さりました。
「はわわ、おしっこちびりそう……とでも言うと思ったんですかッ! 違法ですよッ!」
「違法ではない。拙者は、殺しのライセンスも持っている」
それはさすがに、ちびりそうです。
6八銀、3四歩、6六歩、4二玉、5六歩、3二玉、4八銀。
矢倉っぽいかたち。意外と普通になりそう。
6四歩、7八金、6三銀、6九玉、5四銀。
「それは、右四間ですねッ!」
「おぬし、いちいちうるさいぞ。もうすこし、おとなしく指せぬのか」
「青春は爆発なんですッ! 5八金ッ!」
燃え尽きろ、青春。
6二飛、5七銀右、7四歩、6七金右、5二金右、2六歩。
ちょっと飛車先が遅れました。がんばれ、私。
「すぐには仕掛けられぬか……先受けする。3三角だ」
2五歩、2二銀、7九玉、4四歩、1六歩、1四歩、9六歩、9四歩。
「4六歩ッ!」
神崎先輩は、この手に2秒ほど長考。
「ここからは、勘の見せどころ。拙者の動きについてこれるかな」
5一角、3六歩、3三銀、7七角、6一飛、3七桂、2二玉。
ぐぬぬ、むずかしい局面をノータイム指し。
まるで神崎先輩が、ふたりに見える……って、ああッ!
「神崎先輩、分身してるじゃないですかッ!」
「左様」「拙者のような」「上級忍者ならば」「分身も能うのだ」
おかしい、おかしい。
「ギャラリーの皆さんッ! このひと分身してますよッ! ルール違反ですッ!」
幹事長、幹事長。
「分身しちゃいけないって、ルールブックには書いてないわよ」
「んだべ。分身しても、二手指ししなきゃ問題ないべ」
おかしい、おかしい。
「4五歩ッ! 開戦ですッ! 開戦ッ!」
神崎先輩は、この手を見て、ひとりにもどりました。
「ふぅ……分身の術は疲れる。同歩だ」
「年なんじゃないですかッ!? 5五歩ッ!」
「乙女の年齢に触れるとは、言語道断。刀の錆にしてくれる。4三銀だ」
5六銀、3二金、4五銀、4四歩。
「5六銀ッ! いったん引きますッ!」
「おぬしこそ、若々しさが足りぬのではないか。こちらの番だ」
8四角、8八玉、7三桂、5七銀、6五歩。
お、押し返される。さすがは忍者。
「受ける青春ッ! 2九飛ッ!」
「ここが勝負所! 8五桂!」
神崎先輩は、8六角に6六歩、同銀、6六角と切ってきました。
2枚換え。ちょっとマズった気配があります。がんばれ、がんばれ。
「同金ッ!」
「同飛……これにて、駒得確定」
「まだまだッ! 6七金ですッ!」
6一飛、6六歩。ひとまず安静になりました。
「無骨にいくか……4六金」
ッ!? これは、なんかよく分からないです。
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あッ! なるほどッ! 放置なら5六金、同金、6七銀、5七金、7六銀成。これを避けて6五銀は、3七金で攻撃不能になるわけですか。
「やりますね、神崎先輩ッ!」
「ふっ、年季がちがう」
自分から年齢に触れてるじゃないですか。どういうことですか。
「だったら、取られるまえに反撃しますッ! 2四歩ッ!」
同銀、4五歩、5六金、同金、6七銀、5七金、7六銀成、4四歩。
攻め合いですよ、攻め合い。雁木の急所。
「同銀」
ここで4九飛、じゃなくて、先に5四歩ですね。
「5四歩ッ!」
「貴様の陣は、すでに綻んでいる。8六成銀だ」
同歩、6八角、6七金打、8六角成。
プレッシャーをかけられてますよ、これ。
「受けますッ! 8七歩ッ!」
「6四馬」
「5三歩成ッ!」
神崎先輩は、5二の金に手をかけました。
「もはや手があるまい。同金」
うぐッ! 手がないッ! 時間もないッ!
「に、2五桂ッ!」
「端攻めのつもりか。よろしい、ならばこちらも端攻めだ。9五歩」
マネするなぁ。
8六角、7五銀、5九角、9六歩、9八歩。
はわわ、へこまされちゃいました。
6五歩、7六銀、6六歩、同金直、同銀、同金、5五銀。
ん、この手は微妙。止められるかもしれません。
「6五歩ッ!」
「5四馬」
「一手余裕ができましたッ! 6七銀打ッ!」
守備力回復ッ! まだまだ戦えますッ!
6六銀、同銀、5六金、6七銀打。
千日手は歓迎しますよ。千日手ッ! 千日手ッ!
「ちっ、小癪な。搦手からいくぞ」
「カラメル!?」
「すこしは国史を勉強しろ! 4五馬!」
に、2七飛と浮くしかないです。
2七飛、3六馬、2九飛、6六金、同銀、3八銀。
「こ、これは羽生ゾーン!」
「羽生ぞおんは2七だ」
いちいち細かいんですよ。お母さんですか。
「こんなの、そっぽですよッ! そっぽッ! 2八飛ッ!」
「2七金」
「はうわッ!?」
飛車が死んだ。神は死んだ。
「……」
「投了せよ」
「……」
「往生際が悪いな。あきらめろ。介錯してやる」
「東雲青來の辞書に……あきらめるっていう文字はないんですッ!」
頑張れ頑張れッ! できるできる絶対出来るッ!
2七同飛、同銀成、8六角、7五歩。
頑張れッ! もっとやれるってッ! やれるッ! 東雲青來!
同角、7七歩、7九歩、5八飛。
気持ちの問題だッ! 頑張れ頑張れッ! そこだッ!
7八金、同歩成、同歩、6八金。
そこで諦めんなッ! 絶対に頑張れッ! 積極的にポジティブに頑張る頑張るッ!
6七銀、同金、6九金、4五馬、8六歩、7八金、8七玉。
「ネバーギブアーップ!」
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「必至だ。7六玉と逃げても、7八飛成、8五玉、8四銀、同角、7四金まで」
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「ひとつだけ言っておこう。将棋は、やる気の問題ではない」
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「おい、時間が切れたぞ」
「いつもの燃え尽き症候群だべ。ほっとくべ」
「そうか。では、対局、感謝いたす」
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まっしろな、灰になっちゃったのさ。
場所:H島県幹事会杯争奪戦(修身高校) 準決勝
先手:東雲 青來
後手:神崎 忍
戦型:後手かまいたち
▲7六歩 △6二銀 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △4二玉
▲5六歩 △3二玉 ▲4八銀 △6四歩 ▲7八金 △6三銀
▲6九玉 △5四銀 ▲5八金 △6二飛 ▲5七銀右 △7四歩
▲6七金右 △5二金右 ▲2六歩 △3三角 ▲2五歩 △2二銀
▲7九玉 △4四歩 ▲1六歩 △1四歩 ▲9六歩 △9四歩
▲4六歩 △5一角 ▲3六歩 △3三銀 ▲7七角 △6一飛
▲3七桂 △2二玉 ▲4五歩 △同 歩 ▲5五歩 △4三銀
▲5六銀 △3二金 ▲4五銀 △4四歩 ▲5六銀 △8四角
▲8八玉 △7三桂 ▲5七銀 △6五歩 ▲2九飛 △8五桂
▲8六角 △6六歩 ▲同 銀 △同 角 ▲同 金 △同 飛
▲6七金 △6一飛 ▲6六歩 △4六金 ▲2四歩 △同 銀
▲4五歩 △5六金 ▲同 金 △6七銀 ▲5七金 △7六銀成
▲4四歩 △同 銀 ▲5四歩 △8六成銀 ▲同 歩 △6八角
▲6七金打 △8六角成 ▲8七歩 △6四馬 ▲5三歩成 △同 金
▲2五桂 △9五歩 ▲8六角 △7五銀 ▲5九角 △9六歩
▲9八歩 △6五歩 ▲7六銀 △6六歩 ▲同金直 △同 銀
▲同 金 △5五銀 ▲6五歩 △5四馬 ▲6七銀打 △6六銀
▲同 銀 △5六金 ▲6七銀打 △4五馬 ▲2七飛 △3六馬
▲2九飛 △6六金 ▲同 銀 △3八銀 ▲2八飛 △2七金
▲同 飛 △同銀成 ▲8六角 △7五歩 ▲同 角 △7七歩
▲7九歩 △5八飛 ▲7八金 △同歩成 ▲同 歩 △6八金
▲6七銀 △同 金 ▲6九金 △4五馬 ▲8六歩 △7八金
▲8七玉 △6九金
まで134手で神崎の勝ち




