184手目 H島県幹事会杯争奪戦 2回戦 東雲vs月代
はじめましてッ! 東雲青來ですッ!
ソールズベリー女学院、期待の新人エース!
好きな言葉は【熱血】と【青春】!
5000円の図書券を賭けて、いざ出陣ッ!
相手は髪お化けこと、月代先輩ですッ!
「よろしくお願いしますッ!」
「よろしくお願いします」
月代先輩がチェスクロを押して、対局開始。
「7六歩ですッ!」
「もうちょっと静かに指しなさいよ……8四歩」
これは、2六歩とすれば角換わり、6八銀とすれば矢倉です。
私は角換わりを選択しますよ。
「2六歩ッ!」
8五歩、7七角、3四歩、8八銀、3二金、7八金、4二銀。
「2二角成ッ!」
角換わりは、私の得意戦法です。
「同金っと……ところで、青來に、ちょっと頼みがあるんだけど」
「八百長は受け付けませんよッ!」
「そんなわけないでしょ……日日杯のとき、私と寒九郎だけじゃ大変だから、1年生も臨時幹事出して欲しいのよね。あんたがまとめて、だれか選んどいてくれない?」
なんで1年生に仕事を押しつけるんですか。おかしいですよ。
「って、時間を使わせる作戦ですねッ! 7七銀ッ!」
こういうのを盤外戦術って言うんですよ。盤外戦術。
幹事長にあるまじきトリックです。
「いや、時間使わせたつもりはないんだけど……ま、よろしくね。6二銀」
3八銀、6四歩、4六歩、6三銀、1六歩、1四歩、3六歩、4一玉。
腰掛け銀です。
6八玉、3一玉、4七銀、3二金、5六銀、5四銀、9六歩、7四歩。
「端は受けないんですかッ!?」
「見りゃ分かるでしょ」
「端を受けないと、後悔することになりますよッ!」
私より先に、7三桂から攻めるつもりですね。受けて立ちます。
3七桂、4四歩、7九玉、7三桂、5八金、6二金、2五歩。
とりあえず飛車先は詰めておきます。攻め将棋の鉄則。
「3三銀」
「6六歩ですッ!」
「突いてくれるんだ。じゃあ、6五歩」
開戦ッ!
将棋って、やっぱり開戦の瞬間が一番わくわくします。
同歩、同桂、6六銀、6四歩。
「反撃ですッ! 4五歩ッ!」
「さすがにそれは取らない。8六歩」
同歩、同飛、8七歩、8一飛。
一方的に攻められたりはしません。反撃、反撃ぃ。
「4四歩ッ!」
「放置……はさすがにできないか。同銀」
2四歩、同歩から、端をからめて1五歩、同歩、1三歩。
2二玉と入ってないから、これが痛打ですよ。
月代先輩、先攻に気をとられて、囲いがおろそかになってます。
「ほんじゃ、再反撃ね。8八歩」
「同玉ッ!」
「8六歩」
「同歩ッ!」
「もう一丁、8五歩」
同歩、8六歩。
「その垂らしの歩は悪手ですッ! 9五角ッ!」
「……うげ」
端を受けないと、とんでもないことになるって言ったじゃないですか。
再反撃は許しません。
月代先輩は、ぽりぽりとこめかみをかいて、反省。
「あちゃー、臨時幹事の話なんか、してる場合じゃなかったな……6三金ね」
8六角で、歩を回収。月代幹事長は歩切れ。
やることがなくなったのか、3三銀とバックしてきました。
「攻め攻め攻めぇ! 4四歩ッ!」
1三香、2五歩、1六歩、2四歩、1七歩成。
遅い遅い遅い。そんな歩成り、間に合いませんから。
「2五飛ッ!」
「飛車の追撃手段がないか……2二歩」
「5五銀直ッ!」
全軍出動です。
交換すると、4三銀の打ち込みで崩壊します。
「もたれてさす。4九角」
6七金右、5八角成。月代流の、悪くなったら乗っかかり作戦ですね。
「8六に角がいることを忘れてませんかッ!? 6四銀ですッ!」
4四銀、6三銀不成、同銀、4三歩。
止まりませんよ、これは。
月代先輩、すでに顔色悪し。あきらめムード。
「綾つけるしかないか。8七歩」
「そんなのは同玉ですッ!」
3三桂、6五飛、5四銀打。
あ、飛車の逃げ場所がないッ!
「なんて言うとでも思ったんですかッ! 読み切りですッ! 5六桂ッ!」
6五銀、4四桂。
ここで、月代先輩は小考。
「……あれ、もしかして詰めろになってる?」
もちろんです。3二桂成、同玉、4二金、2一玉、3二金打、1一玉、2二金、同玉、2三銀、1一玉、1二歩、2一玉、3二金までの13手詰めです。
「は、8一の飛車が受けに利いてないのか……」
「投了しましょうッ! 投了ッ!」
「他人に投了勧告するなっつーの。他県の生徒にそれやったら、制裁だかんね」
「じゃあ、まだ指しますかッ!?」
「……投了」
やりぃ。幹事長を撃破しました。3回戦進出。
ガッツポーズ、ガッツポーズ。
「はぁ……青來との将棋は、ほんと疲れる」
「腕力将棋ですからねッ!」
「そういう意味じゃないんだけど……」
「じゃあ、どういう意味なんですかッ!」
月代先輩は、自分の胸に訊いてみろと言いました。
どれどれ、自分の胸に訊いてみましょう。
「どう、分かった?」
「『熱く生きろよッ!』っていう声が聞こえますッ!」
「そう……感想戦しようか」
あ、逃げましたね。
「6五歩の攻めが、成立しなかったか」
後手が簡単に先攻できるなら、角換わりなんてだれも指しません。
「となると、序盤から失敗か……悪いなりにも、8六歩はやめて1三同香だった?」
「それは1四歩、同香、2四飛としますッ!」
「2三歩、1四飛、4九角、6七金右、5八角成……ムリか。7五歩だと?」
「1三同香に代えてですかッ!?」
「そうそう。7五歩、1五香、7六歩で」
「1二歩成、7七歩成に2一と、同玉、1一香成ですッ!」
月代幹事長は、こりゃダメだ、とつぶやきました。
「ってことは完敗か。負けました。感想戦しようがないわね」
では、解散。一礼して、私は席を立ちました。
のどが渇きましたね。水を飲みに行きましょう。
「並木くん、水飲み場は、どこですかッ!」
「教室を出て左だよ」
ダッシュ、ダッシュ。ろうかを走っていると、うっかりだれかとぶつかりそうに。
「ちょっと、危ないでしょ……って、青來さん」
「ああッ! 素子ちゃんッ!」
ぶつかりかけたのは、カァプの応援ユニフォームに身を包んだ素子ちゃんでした。
小古堰の一匹狼、数学バカと呼ばれてる1年生の女の子です。
「どうしたんですかッ!? なんでカァプのユニフォーム着てるんですかッ!?」
「青來さん、SNSに『明日は幹事会のあと、カァプの応援に行きます』って書き込んでたでしょう。私も行くつもりだったから、ご相伴しようと思ったの」
「そういうのをストーカーって言うんですよッ!」
素子ちゃんは私の指摘を無視して、あたりを見回しました。
「で、ほかのメンバーは? まだいるのかしら?」
「いますよッ! 今、図書券賭けて将棋指してますッ!」
私は、事情を説明しました。
素子ちゃんは腕時計を確認して、
「決勝が終わって、しばらくぶらぶらすれば、試合開始時刻になりそうね」
と言いました。
「今から参加できない?」
「もう2回戦が終わってますから、ムリですッ!」
「残念ね……昼寝でも、させてもらおうかしら」
素子ちゃんはそう言って、中庭のほうへ。私は水飲み場へ。ついでにお手洗い。
帰ってきたら、教室の入り口のところで、安奈ちゃんと遭遇しました。
「並木くんと、どこへ行くんですかッ!?」
「今からふたりで楽しいことをするの」
絶対嘘です。
「コンビニにお菓子を買いに行くんだ」
並木くんは正直です。
「私の分も買って来てくださいッ!」
「自分で買いなさいよ」
「準決勝に残ってるから、出掛けられませんッ!」
安奈ちゃんはタメ息をついて、了解してくれました。やっぱり友だちですね。
「で、なにを買ってくればいいの?」
「たぬきのマーチですッ!」
「お金は、あとで清算ね……それじゃ、がんばってちょうだい」
お菓子も注文して、メラメラ燃えてきましたッ! 準決勝へ向けて、GO!
場所:H島県幹事会杯争奪戦(修身高校) 2回戦
先手:東雲 青來
後手:月代 晶子
戦型:角換わり腰掛け銀
▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △8五歩 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △3二金 ▲7八金 △4二銀 ▲2二角成 △同 金
▲7七銀 △6二銀 ▲3八銀 △6四歩 ▲4六歩 △6三銀
▲1六歩 △1四歩 ▲3六歩 △4一玉 ▲6八玉 △3一玉
▲4七銀 △3二金 ▲5六銀 △5四銀 ▲9六歩 △7四歩
▲3七桂 △4四歩 ▲7九玉 △7三桂 ▲5八金 △6二金
▲2五歩 △3三銀 ▲6六歩 △6五歩 ▲同 歩 △同 桂
▲6六銀 △6四歩 ▲4五歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲8七歩 △8一飛 ▲4四歩 △同 銀 ▲2四歩 △同 歩
▲1五歩 △同 歩 ▲1三歩 △8八歩 ▲同 玉 △8六歩
▲同 歩 △8五歩 ▲同 歩 △8六歩 ▲9五角 △6三金
▲8六角 △3三銀 ▲4四歩 △1三香 ▲2五歩 △1六歩
▲2四歩 △1七歩成 ▲2五飛 △2二歩 ▲5五銀直 △4九角
▲6七金右 △5八角成 ▲6四銀 △4四銀 ▲6三銀不成△同 銀
▲4三歩 △8七歩 ▲同 玉 △3三桂 ▲6五飛 △5四銀打
▲5六桂 △6五銀 ▲4四桂
まで93手で東雲の勝ち




