表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 魔女の館にピンポンダッシュ(2015年5月24日日曜)
191/682

179手目 黒木さんの、お宅拝見

※ここからは、前空まえぞらさん視点です。

 今日は、美沙みさちゃんのおうちで女子会。

 私はサイコキネシスで空を飛びながら、艶田つやだ市へと向かっていた。美沙ちゃんのおうちは、山奥にある洋館。幽霊が出るけど、気にしなければ大丈夫。

 ……あ、見えた、見えた。私は高度を落として、洋館の庭に着陸した。あんまり手入れがされていないね。ダメだよ、美沙ちゃん。

 

 ワンワンワン

 

 あ、ケルベロスちゃんを発見。ケルベロスちゃんは、3つの頭を持つ真っ黒な犬。美沙ちゃんの愛犬。私も好き。よしよしよし。私が頭を撫でると、ケルベロスちゃんは可愛らしい声で鳴いた。

 それを聞きつけたのか、正面玄関がひらいた。上下を黒で統一した少女が現れる。

「静先輩、こんにちは」

《こんにちはぁ。ちょっと遅れちゃった》

「カンナ先輩もさっき来たばかりですし、構いませんよ」

 私はケルベロスちゃんにバイバイしてから、玄関にあがった。映画でよくみるホールみたいな空間がひらける。あいかわらず広いなあ。

 私がうらやましがっていると、2階から、ひとりの少年が降りてきた。黒いマントを羽織っていて、真っ黒なツヤツヤした髪が綺麗。美沙ちゃんに似て、ちょっと気難しそうな顔をしていた。

「あ、前空まえぞらさん、こんにちは」

《こんにちはぁ》

「あいかわらず、脳内に直接話しかけてくるんですね」

《しゃべると疲れるからね……美都夫みつおくん、今日は学校ないの?》 

「魔法学校は、創立記念日で休みなんです。これから友だちと遊びに行きます」

《なにして遊ぶの?》

「サヴァの森へドラゴンを観に行くんです。シーズンなんですよ、今」

 いいなあ、ドラゴン観たい。

《写真撮ってきてね》

「すみません、魔界は撮影禁止なんです」

《いいじゃん、すこしくらい。バレないよ》

 私がからかうと、美沙ちゃんはムッとして、

「息子をそそのかさないでください」

 と怒った。アハハ、美沙ちゃん、親バカ。

 美都夫くん、早く反抗期を迎えたほうがいいよ。

「それじゃ、行ってきます」

「気をつけてね。変なサキュバスに捕まっちゃダメよ」

「母さんこそ、父さんとあんまりケンカしないようにね」

 美沙ちゃんは美都夫くんを送り出すと、私を2階へ案内した。もうすこしでお茶の間、というところで、突然、右方向のとびらがひらいた。

「ふわぁ……美沙、シャツはどこだ?」

 上半身裸の少年が、あくびをしながら出てきた。髪の毛が緑色で、ヤギみたいな大きな角が生えている。身長は高からず低からず。眉毛がキリッとしていた。だけど、全体的なオーラは、なんだか頼りなさそう。

 美沙ちゃんは赤くなって、少年の背中を小突いた。

「なんて格好してるのッ!?」

「なんだ、美沙、そこにいたのか……おッ」

 少年は、私の存在に気付いた。

「お客さんか」

前空まえぞらしずかさんよ」

 少年は、私の名前に聞き覚えがあるらしい。首を縦に振った。

「お客さんが来るなら、最初からそう言ってくれよな」

「いいから、シャツを着てきなさい」

 美沙ちゃんはシャツの場所を伝えて、少年はそれを羽織って出てきた。アロハシャツみたいな模様だね。少年は、眠たそうに頭をかくと、私に挨拶した。

「どうも、美沙の夫のアスモデです。悪魔やってます」

《前空静です。エスパーやってまーす》

「ん、ほんとにしゃべらないんだな……テレパシーって、めんどくさくない?」

《しゃべるほうが疲れますよ》

 そんなもんかな、とアスモデくんはつぶやいた。

《初めてお会いしましたね。いつもは、どこにいらっしゃるんですか?》

「ンー、普段は魔界にいるからな。今日は召喚してもらって、一緒に過ごしてる」

 うわぁ、夫婦水入らず。お邪魔しちゃったかな。

「ところで、今日はなんの集まりなんだ? だれかを呪う会?」

《将棋女子の集まりです》

「ああ、ボードゲームね……前空さん、強いの?」

《市代表程度です》

 分かるかなぁ、この微妙さ。伝わるか心配だったけど、アスモデくんは、美沙ちゃんも市代表なのは知っているらしかった。意外。

「ま、夫婦ですからね」

 美沙ちゃん、なんだか誇らしげ。

「腹減ったから、なんか作ってくれない?」

「自分で作りなさい。今からお茶会なの」

《アスモデくんも、一緒にお茶会しませんか?》

 私の勧誘を、美沙ちゃんのほうが断ってきた。でも、ここは押す。

《アスモデくんの話、いろいろ聞きたいですし》

 こうして、悪魔を引き込むことに成功した私は、お茶の間へ移動した。

 とびらを開けると、これまたアンティークぞろいの豪華な客間が現れた。

 中央のソファーに、カンナちゃんが座っていた。

「あ、静ちゃん……」

《おまたせぇ》

 私はアンティークテーブルに腰をおろした。カンナちゃんのとなり。

 ホスト役の美沙ちゃんとアスモデくんが着席すると、部屋のとびらが開いた。

 あれれ、だれもいない……けど、お盆だけが浮いて、こっちに向かってくる。そのうえに乗っていたティーポットが、唐草模様のカップに、お茶を注ぎ始めた。

《あいかわらず、幽霊メイドさんがいるんだね》

「ええ、去年の夏休みに雇いました」

 カップがひとつひとつ、テーブルのうえに乗せられる。

 幽霊メイドさんは、そのまま部屋を出て行った。挨拶のしようがないね、これ。

「マンドラゴラ茶です。健康にいいですよ」

 毒々しくて、なんか、マズそう。私は一口飲む……うん、マズい。

「地球で、初めてセンスのいいお茶を飲んだ……」

《カンナちゃん、それ本気で言ってる?》

「うん……このお茶は、エモニア星のガトガラン茶とおなじくらい美味しい……」

 そのお茶もマズいんだね。理解したよ。

「静先輩、遠慮せずに、どうぞ」

《おかまいなく……ところでさ、アスモデくんって、美沙ちゃんの旦那さんだよね?》

 ふたりは、そうだと答えた。

《ふたりのめって、どんな感じだったの?》

「あのですね……そういう話をするために、招待したわけではないのですが」

 県大会の練習のため、だったかな。私とカンナちゃんは主将だもんね。

《だけど、そっちのほうが気になるかな。どっちが告白したの?》

「告白してきたのは、美沙のほうだ」

 アスモデくんの答えに、美沙ちゃんはきょとんとして、

「ダーリンのほうでしょ?」

 と反論した。

《あ、ダーリンって呼んでるんだ。ラブラブだね》

「ち、ちがいます。今のは……」

「ああ、俺は美沙のことをハニーって呼んでる」

 美沙ちゃんは真っ赤になって、歯ぎしりした。

「とにかく、告白してきたのはあなたですよ。今でも覚えてますから」

「ちがう、美沙だよ」

 ふたりとも、意見が食い違ってるね。記憶の混乱かな。

《告白したときの台詞は? それで分かるんじゃない?》

「告白って言っても、懸想文けそうぶみだけどな」

《ケソウブミ……?》

「ラブレターのことだ。美沙からもらった。今でも持ってるぞ」

「だって、あなたが先にお尻をさわったじゃないですか」

《お尻? ……お尻をさわるのは、告白じゃなくてセクハラだよね?》

 美沙ちゃんは腕組みをして、

「江戸では、好きな女性をナンパするとき、お尻をさわると相場が決まっていたのです」

 と答えた。えぇ……なんか、すごい雑学を仕入れちゃった。

 っていうか、美沙ちゃん、江戸時代の生まれだったね。378歳だっけ。

「ん、ちょっと待て……俺、ケツはさわってないぞ。紳士だからな」

「お客さんのまえですし、そういうことにしてあげます」

 そうだったかなあ、と言って、アスモデくんは折れた。

 お尻をさわったかどうかはともかく、敷かれてるのはたしかだね。

 恋愛の話だけあって、カンナちゃんも興味を示し始めた。

「300年間、夫婦をやる秘訣ってなんですか……?」

 美沙ちゃんはマジメな顔をして、

「相性じゃないですか? 相性が悪いと、どうしようもありませんよ?」

 と答えた。アスモデくんも、

「自然とそばにいられる相手じゃないとダメだな」

 と添えた。そして、相手がいるのか、と、カンナちゃんにたずねた。

 カンナちゃんは、素直に捨神すてがみくんのことを伝えた。

「へぇ、地球人か。俺たちと一緒で、異種婚いしゅこんなんだな」

「まだ結婚はしてません……」

「あ、そうなの? 俺と美沙なんか、出会って一週間だったぞ」

「あなたッ! なにべらべらしゃべってるんですかッ!」

 アハハ、次々と明かされる、美沙ちゃんの恥ずかしい過去。

 アスモデくんも、自分とおなじ境遇だからか、カンナちゃんに興味を示した。

「どういう経緯で地球人の男と知り合ったんだ?」

「将棋の大会で出会いました……初対面でビビッと……」

「ああ、やっぱり美沙とは将棋仲間なんだな」

「将棋……知ってますか……?」

 アスモデくんは、知っていると答えた。

「でも、指せないぜ」

「何回説明しても覚えてくれないんですよ、このひとは」

「いやあ、俺、ボードゲームって趣味じゃないんだよね」

 あれれ、さっき相性が大事って言ったよね。適当に答えただけなのかな。

 私がそこを突っ込むと、アスモデくんは、

「細かい趣味まで一致してる必要は、ないんじゃないかな」

 と返してきた。美沙ちゃんも同意した。

「相性というのは、似てるってことじゃありませんよ。凸凹でも、それがぴったり合えばいいわけですから。静先輩も、恋愛してみれば分かります」

《つまり、敷くものと敷かれるものだね》

「ん? どういう意味ですか?」

《なんでもないよ》

 美沙ちゃんみたいな、テキパキした女性と、アスモデくんみたいな、ずぼらな男性。

 ダメンズウォーカーかな?

「あんまりお邪魔しても悪いから、俺はそろそろ抜けるぜ。じゃあな」

 アスモデくんはそう言うと、ボンと煙を出して消えてしまった。

 いよいよ本格的な女子会になって、リラックスムード。

 

 この先で交わされた会話は、Outsidersだけのヒ・ミ・ツ♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ