173手目 人外だらけの拷問大会(飛瀬ルート)(2)
「ニャハハ、そんな動きで、我が輩は捕まらんぞ」
キャット・アイは高らかに笑いながら、木から木へと飛び移る。
市立の校庭で、激しいバトルが繰り広げられていた。
「こいつら強い……うぷッ!?」
私は、スラッグ・ガールの放ったネバネバの液体にからめとられた。美沙ちゃんが魔法で助けてくれたけど、気持ちが悪い。キャット・アイは、野良猫を援軍に呼んで、私たちを足止めする。
ニャー!
ぶち猫が、私に飛びかかってきた。私は、催眠銃でそれをやっつけた。
ケルベロスちゃんもがんばって追っ払ってくれているけれど、数が違い過ぎる。野良猫はフェイントをかけながら、ケルベロスちゃんを翻弄していた。
「これではキリがありませんよ」
美沙ちゃんの言う通り、野良猫の数は増すばかりで、キリがない。催眠銃のエネルギーも少なくなってきたし……そろそろ決着をつけよう……。
「美沙ちゃん、魔法であのふたりを……」
ニャー! ニャー!
飛びかかってきた黒猫と白猫に、催眠銃をはなつ。
でも、多段攻撃になっていて、うしろから茶色の虎猫が飛び出した。
咄嗟に反応して引き金を引いたけど――
「あ、バッテリー切れ……」
私の顔面に、猫のふさふさしたお腹がぶつかった。
「全軍、かかれーッ!」
キャット・アイの号令で、一斉攻撃が始まった。
むぎゅぅ……私は、猫の山に押さえ込まれてしまう。
「美沙ちゃん、助けて……あッ」
美沙ちゃんはスラッグ・ガールのネバネバにやられて、地面に墜落していた。
「すみません……ケルベロスちゃんを助けようとしたら、隙を突かれて……」
地面に伏した私たちのまえに、キャット・アイとスラッグ・ガールが現れた。
「ニャハハ、我が輩たちの勝ちだな」
「アイちゃん、こいつら、どうするの?」
「とりあえず、襲った理由を……ンニャ!?」
私の体が、急に軽くなった。猫たちが飛び退いたのかと思ったら、みんな宙に浮いている。キャット・アイとスラッグ・ガールの体も、目の前で宙に浮き上がった。
《ごめんごめん、お待たせ》
静ちゃんが、校庭に舞い降りてきた。
キャット・アイは目を見張る。
「な、何者だニャ!? 新手の魔法使いかッ!?」
《残念、エスパーだよ》
「ニャ!? 直接脳内にッ!?」
これには、キャット・アイも驚きを隠せない。私は起き上がって、泥を払った。
「それでは、拷問を始めます……静ちゃん、よろしく……」
「だから、拷問はダメだと言っているでしょう」
もう美沙ちゃんは無視で……私が取り合わないと、美沙ちゃんは怒り始めた。
「静先輩も、なにか言ってくださいッ! 違法行為ですよ、違法行為ッ!」
《でもさ、話し合いで解決できないから、しょうがなくない?》
そうそう……静ちゃんの言うとおり……。
「静ちゃん……何分くらいがんばれる……?」
《これだけ数が多いと、サイコキネシスも疲れるんだよね。30分以内でお願い》
「30分あれば十分……拷問開始……」
*** 宇宙人、拷問中 ***
「ギニャー!」
闇夜に火花が散る。私は感電拷問の真っ最中……空中に固定された怪盗を撃つだけの、簡単なお仕事です……光線銃には、予備のバッテリーもついてるから安心……。
「どう……? オモチャの銃だけど、MAXで撃つと、なかなか効くでしょ……?」
「も、もうやめてくれ……」
「捨神くんたちにかけた呪いを解除して……それで問題は解決するから……」
「だから、我が輩は知らんと……ギニャー!」
はい、ビリビリビリ。
「どっちが悪だか分かりませんね」
ほうきにまたがった美沙ちゃんは、空中でそうつぶやいた。
「捨神くんを傷つける者は悪……Q.E.D.……」
《アハハ、カンナちゃん、恋の暗黒面に堕ちてるよ》
「笑ってる場合じゃないですよ、静先輩。そろそろ止めないと」
静ちゃんは、寝転がった格好で、空中をふわふわした。
《うーん、この様子だと、お姉さんは関係ないんじゃない?》
「そ、そうだ。我が輩は関係ない……ギニャー!」
私は光線銃を撃ちながら、静ちゃんのほうを見上げた。
「でも、こいつらしか考えられないんだけど……」
《そもそもさ、このお姉さんたちって、なんなの? 人間?》
そう言えば、確認してなかったね……地球駐在員、痛恨のミス……。
「お姉さんって、何者……? 宇宙人じゃないんだよね……?」
《だから、宇宙人はいないって》
静ちゃんは頑固。
「まず、おまえたちから名乗れ」
お姉さんは強気に、アイマスクの奥から私をにらんだ。
「名乗れって言うけどさ……お姉さん、私の名前知ってるよね……」
キャット・アイは、ギクリとした。
「ニャ、ニャんのことだ?」
「私、知ってるんだよ……お姉さんが普段なにをしてるのか……」
キャット・アイは動揺した。
「ま、まさか、おまえ、ほんとに宇宙人なのか?」
「そのまさか……で、お姉さんに教えて欲しいのは、名前じゃなくて種族ね……初めの頃は、違法な宇宙移民かと思ったんだけど……なんか違う気がする……」
「……」
キャット・アイは、黙秘権を行使した。私は、光線銃のトリガーに指をかける。
「妖怪ではありませんか?」
美沙ちゃんのひとことに、私は手をとめた。
「ヨウカイ……? ヨウカイってなに……?」
「動植物や家庭用品が、理性を持つようになった存在ですよ」
なぜそんなオカルト現象が起こるのか……地球は理解に苦しむ……。
「で、このお姉さんは、もともとなんだったの……?」
「ニャーニャー言ってるから、猫じゃないですか?」
「猫が人間になるの……? おかしくない……?」
「宇宙人がそれを言いますか? 魔女とエスパーもいるのに?」
うぅん……それを言われると、困るかな……。
「じゃあ、こっちのタレ目のお姉さんも、ヨウカイ……?」
「そっちのひとは、なんなんですかね。猫じゃないような気がします」
《ねえねえ、15分経ったから、そろそろ追い込んでくれない? 疲れてきちゃった》
静ちゃんの催促を受けて、私はふたたびトリガーに指をかけた。
「待て待てッ! 我が輩の正体を知ってるなら、我が輩と捨神たちの仲も知ってるだろうがッ! なんで我が輩を疑うッ!?」
む……それは、一理ある……。
「でもね、普段の態度は、見せかけかもしれないから……」
「我が輩は猫かぶってないッ!」
ん? 猫なのか猫じゃないのか、はっきりして欲しい……。
「とりあえず、キャット・アイさんしか心当たりないんだよね……」
「あ、それは冤罪の構図ですよ、無能捜査」
また美沙ちゃんが突っ込んできた……私は振り返って、
「美沙ちゃんは、だれが犯人だと思うの……?」
と尋ねた。
「知りませんよ」
「じゃ、対案がないってことで……」
「対案があるかどうかじゃないでしょうッ! 拷問反対ッ!」
私たちが揉めていると、静ちゃんはあくびをした。
《ふわぁ……こんなことしてる場合じゃないと思うんだけどなあ……ん、雨?》
聞いたことのない悲鳴があがった。
「キャー! なめくじッ! なめくじ嫌いッ!」
あ……静ちゃんがしゃべるとこ、初めてみた……。
静ちゃんは、空からパラパラと降ってくる大量のなめくじに覆われていた。
サイコキネシスが解けて、キャット・アイたちは地面に落ちる。
「アイちゃん! 逃げるよ!」
「さすがはナメちゃん!」
キャット・アイとスラッグ・ガールは、校門のほうへダッシュ。
私と美沙ちゃんは追いかけようとしたけど、私は猫に、美沙ちゃんは空から降ってくるナメクジに行動を妨害された。私は猫を光線銃でおどしながら、道を確保する。
だけど、身体能力はキャット・アイのほうが高い。あっと言う間に見えなくなった。
「ケルベロスちゃん! あのふたりを追いなさいッ!」
私たちもケルベロスちゃんを先頭に、市立の校庭を飛び出した。




