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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第18局 呪いを解け!(2015年5月29日金曜)
184/682

172手目 Outsiders、キャット・アイを追う(飛瀬ルート)(1)

《そうじゃな……明日の日の出まで、それ以上はまかりならぬ》

《明日の朝ッ!? そんなはずないだろッ!》

《まことじゃ。祈祷で進行を遅らせても、そこまでじゃ》


 プツン


 私は通信機のスイッチを切った。

 美沙みさちゃんは魔法のステッキを片手に、

飛瀬とびせ先輩、たいへんなことになってますね」

 とタメ息をついた。

「うん……決心がついた……」

 違法行為に着手します……捨神すてがみくんのために……。

「駐在地での紛争介入って、どれくらい重い罪なんですか?」

「懲役2、3年くらいかな……」

「そんなに長くないですね。魔女の世界では、懲役50年とかザラにありますよ」

 まるで私の決意が軽いようなこと言わないで……職もなくなっちゃうのに……。

「で、美沙みさちゃんとしずかちゃんは、協力してくれるよね……?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「えッ……なんで黙るの……?」

 美沙ちゃんは、ほうきにまたがったまま、

「もしかすると、悪魔のしわざかもしれません。高位の悪魔には、逆らえないのですが」

 と答えた。

「美沙ちゃんは、悪魔に魂を売るんだね……」

「それが魔女ですからね。もう売るもの残ってませんよ」

「静ちゃんは、なんでOKって言ってくれないの……?」

《原則OKなんだけどさ、相手がエスパーだと困るなあ、と思って》

 身内のかばい合い……やめてください……。

「とはいえ、高位の悪魔が来るときは夫が知っているはずですし、高位の魔女でもないと思います。このあたりの魔女は、みんな顔見知りなので」

《エスパーも、呪いをかけるとかはしないから、違うかなあ》

 じゃあ、同意してください……強制です……。

「というわけで、Outsidersを再結成します……目標は、犯人の捕獲……」

「そう簡単に見つかるとは思えませんが」

 私は、犯人が分かっていることを伝えた。

「え? 犯人が分かってるんですか?」

「うん……怪盗キャット・アイ……」

 あの猫耳女で、間違いない。

神崎かんざき先輩から聞いたことがあるよ。猫耳レオタードのどろぼうだっけ?》

「私も、おはな先輩から聞いたことがありますね」

 私は、これまで駒桜こまざくら市であったことを教えた。美沙ちゃんは微妙な顔をして、

「状況証拠に過ぎませんね」

 と言った。

「でも、ほかに証拠はないんだよ……?」

「状況証拠は状況証拠ですよ。魔女を長年やっていたら分かります。『犬が夜鳴くのは魔女のしわざ』だの、『足がつるのは魔女のしわざ』だの、そんなヒマ人じゃないです」

《とか言いつつ、やっぱり美沙ちゃんのしわざなんでしょ?》

「はいはい、私のせい、私のせい」

 喧嘩しないで……Outsiders内部崩壊の危機……。

《いずれにせよ、そのキャット・アイが怪しいのは、事実だよね》

「でしょ……?」

「キャット・アイの正体は、さすがに分かっていないのでしょう?」

 私は、分かっていると答えた。ふたりとも、これには驚いた。

《え? だれなの? だれだれ?》

「それは、教えられない……」

《えーッ、ケチぃ》

 情報流出までしたら、服役期間が延びちゃうからね……秘密……。

「魔女でなければ、だれでもいいです」

《私も、エスパーじゃなきゃいいかな》

 なんでそんなに同業者びいきなの……とにかく出発の準備。

 私と静ちゃんは学校の制服で、美沙ちゃんだけは、黒のドレスだった。

「移動は、どうします? 全員飛べるんですよね?」

 美沙ちゃんは、ほうきにまたがって高度をあげた。せっかち。

「UFOは飛行記録が残るから……ほうきに乗せてくれない……?」

《カンナちゃん、そんなこと言って、UFOなんか持ってないんでしょ》

 持ってるから……宇宙探査局からの支給品で、私用に使えないだけ……。

 美沙ちゃんも、微妙に困ったような顔をした。

「ほうきのふたり乗りは、マナー違反ですよ」

「悪魔に魂を売ってるんだよね……マナーとか、どうでもよくない……?」

 美沙ちゃんは怒って、魔女は礼儀正しいと説教してきた。

「そもそも、『悪魔に魂を売る』というのは、悪魔と恋愛関係になるという意味で、それ以上でも以下でもないんですよ。好きになった相手が、たまたま悪魔だっただけです」

《でもさ、魔女ってハレンチなパーティーとかしてるんでしょ?》

「そういうのは、ネガキャンですよッ! ネガキャン!」

「とにかく、乗せてくれないの……?」

 美沙ちゃんは、しばらくぐずったあと、しぶしぶ私をうしろに乗せてくれた。落ちないようにきちんと抱きついておく。ふわりとほうきが浮いた。静ちゃんも地面を蹴って、そのまま空中に浮いた。

 私たちは夕焼け空のなかを、駒桜市へと向かった。

 

「うーん……見つからないね……」

 すっかり暗くなった夜空のうえで、私と美沙ちゃんは駒桜の町並みを見下ろしていた。

 静ちゃんには、べつの場所を担当してもらっている。役割分担。

「この高さだと、ひとが米粒ですね。さすがにムリがありませんか?」

 美沙ちゃんは、風で飛ばないように三角帽子を押さえながら、下を眺めた。

 私はスコープを片手に、通行人を観察する。

「カンナ先輩、キャット・アイの出没地点は、分かっているのですか?」

「そろそろのはずなんだけど……あッ」

 屋根から屋根に飛び移る人影。私のスコープは、キャット・アイを補足した。

「目標発見……急降下……」

「よーそろ」

 美沙ちゃんはほうきをほぼ直下にして、急降下を始めた。

「ニャハハ、今日もお魚ゲット……んにゃッ!?」

 あわや激突というところで、キャット・アイは華麗にほうきを避けた。

 魚をくわえたまま、路地裏に飛び込む。

「うまく行きましたか?」

「ごめん……速過ぎて、発信器取り付けられなかった……」

 美沙ちゃんは地面に着陸して、魔法のステッキを取り出す。

「Sub meo nomine provocatur meus canis!!」

 空中に漆黒の渦ができて、そこから一匹の犬が飛び出した。


 ワンワンワン

 

「あ……ケルベロスちゃんだ……」

 美沙ちゃんの飼い犬で、頭が3つある珍しい動物。黒い毛に赤い目が特徴。

「さあ、ケルベロスちゃん、あの猫を追いかけなさい」


 ワンワンワン

 

 ケルベロスちゃんは、3つの口で吠えながら、路地裏に飛び込んだ。

 私たちはほうきに乗り直して、あとを追跡する。

 そのあいだ、私は静ちゃんに通信機で連絡を入れた。

「こちら、TK、こちらTK、キャット・アイを捕捉……G6方面へ移動中……」

《こちら、MS、了解》

 ケルベロスちゃんは、キャット・アイの匂いを正確に捉えたようだ。迷うことなく私たちを誘導してくれた。到着した先は――市立いちりつ高校だった。

「カンナ先輩の高校では?」

「そうだね……なんでここに……」


 ワンワンワン

 

 ケルベロスちゃんは、一本の街灯のうえに吠えかかっていた。

「シッシッ! うるさいぞ、ワンコロ!」

 街灯のてっぺんでつま先立ちになったキャット・アイが、しきりに悪態をついている。

「追いつめました……」

 私たちはほうきから降りて、街灯に駆け寄った。その瞬間――

 

 キャン!

 

 ケルベロスちゃんが吹っ飛んで、近くの地面に打ち付けられた。

 ケルベロスちゃんは、地面に横たわったまま、ネバネバの液体と格闘していた。

 美沙ちゃんは魔法でネバネバを取って、ケルベロスちゃんを抱きかかえた。

「おお、よしよし、ケガはありませんか?」

「アイちゃん、助けに来たよッ!」

 校舎のうえから、ひらりとなにかが舞った。プロレスラーみたいな格好をしたタレ目の女性が、すたりとグラウンドに着地した。

「怪盗スラッグ・ガール、参上!」

 え……だれ、このひと……? データベースに載っていない。

 キャット・アイは、援軍の到着に勇気づけられて、街灯からするすると降りてきた。

「ナメちゃん、さすが」

「この女の子たち、人間じゃないみたいだね。どうする?」

 キャット・アイとスラッグ・ガールは、私たちを値踏みするように眺めた。

「おまえたち、我が輩になんの用だ?」

「捨神くんたちを助けに来ました……」

「捨神たちを……? 我が輩、なにもしていないぞ?」

 はい、嘘。

「証拠は全部上がってるんだよ……」

「状況証拠ですけどね」

 美沙ちゃん、仲間に突っ込まないで……ここは一丸となろうよ……。

「ま、待て……ほんとうになにを言っているのだ? 捨神が、どうかしたのか?」

「呪いをかけたでしょ……?」

「呪い? ……我が輩、そんなことはしていない」

 はい、嘘。

「あくまでも、シラを切るんだね……それじゃあ、拷問を始めます……」

「ちょっと待ってください。拷問は絶対ダメです。魔女憲章にも書いてあるでしょう」

「あのさ……美沙ちゃんは、どっちの味方なの……?」

「国家権力に迫害されてきた魔女の一員として、拷問には断固反対します」

 私たちは拷問するかしないかで、揉め始めた。

「そもそもですね、カンナ先輩は地球の生命体をバカにし過ぎです」

「いや……してないから……どうしてそうなるの……?」

「宇宙連合の法律がどうのこうの言ってますが、ここは地球ですよ、地球」

「宇宙連合のほうが地球より進んでるからね……しょうがないよ……」

「ほらッ! それが上から目線だって言ってるんですよッ!」

「地球人をバカにしてるなら、捨神くんと恋愛しないから……」

「捨神先輩は、地球人の標準じゃないでしょう」

 は……?

「今、捨神くんの悪口言ったね……?」

「言ってませんよ。変わってるって言っただけです」

「『変わってる』っていうのは、暗に悪口だよね……?」

「なんでそうなるんですか?」

「捨神くんみたいな紳士をつかまえて『変わってる』だなんて……ひどいよ……」

「辞書で『紳士』の項目を100回引いてください」

「あ、悪口だって認めたね……?」

「認めたら、どうなるんですか?」

 これはもう、徹底的にやるしかない。

「だいたいね……美沙ちゃんの旦那さんだって、甲斐性なしじゃん……」

「は? 今、なんて言いました?」

「甲斐性なしって言ったんだよ……」

「それ、本気で言ってます? 怒りますよ?」

「だって、美沙ちゃんがいつも言ってるじゃん……『甲斐性がなくて困る』って……」

 美沙ちゃんは真っ赤になって、魔法のステッキを振り回した。

「ダーリンの悪口を言っていいのは、私だけなんですッ!」

「じゃあ、捨神くんの悪口を言っていいのも私だけ……OK……?」

「ぐッ」

 完全論破。

「おまえら、ニャにしてるんだ? 捨神に呪いがかけられてるって、どういうこと?」

「それは、自分の胸に訊いてみてね……」

「ニャ?」

 さっそく、拷問を始めようか……徹底的にね……。

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