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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第18局 呪いを解け!(2015年5月29日金曜)
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170手目 仁義なき調査隊(来島ルート)

葉山さんが文献調査をしている頃のお話――

「今日もあいちゃんの店へ遊びに行くぞーい」

 白装束を着たお姉さんが、こちらに向かって歩いてくる。

 私とともえちゃんは、路地に隠れて、それを待ち伏せしていた。

「お嬢様、ほんとうにやるのですか?」

「あの女が、今のところ一番怪しいんだよね」

 辰吉たつきちくんと会ってるし、神社でスッと消えたところなんかが、キャット・アイの超人的な身体能力に通じていた。私はサングラスをかけて、マスクをする。

「ほら、巴ちゃんも」

「眼帯のうえからサングラスをするのは、どうも感触が悪いです」

 さっさとせんかい。

 準備が整ったところで、私たちは通りに飛び出した。

「ん? なんじゃ、おぬしら……むごッ!?」

 はいはい、黒塗りベンツのトランクにしまっちゃいましょうねぇ。

「お嬢様、行き先は?」

「組の地下倉庫……うぅん、町外れの工場にしようか」


 *** 仁義なき少女たち、移動中 ***

 

「ぷはッ! なにをするんじゃッ!?」

 さるぐつわを解いてあげると、お姉さんはいきなり吠えかかった。

 手足を縛られてるのに、なかなか強気だね。

 私は、彼女のロングヘアを引っ張り上げる。

「いたたたッ!」

「……かつらじゃないんだね」

 ここは廃工場のボイラー室で、壁がかなり厚いから、外に声が漏れる心配もない。私は用意したパイプ椅子に座って、尋問を始めた。

「お姉さん、どこのひと? 本名は?」

「自分から名乗るのが礼儀じゃぞ」

「じゃかぁしぃ! さっさと名乗らんかいッ!」

「ニャーン……タマじゃ」

「本名」

「タマはタマじゃぞ」

 私は持ってきた木刀で、床を叩いた。

 お姉さんは、びくんとなって、丸くちぢこまる。

「お、脅しても、タマはタマじゃぞ。ほかに名前はないぞい」

 私はタメ息をついて、巴ちゃんのほうへ向き直る。

 巴ちゃんは、部屋のすみっこで腕組みをしていた。

「今の反応、どう思う?」

「この女、頭がおかしいのではありませんか?」

 その可能性も、あるっちゃあるんだけど……うーん。

「とりあえず、拷問かな」

「かしこまりました」

「ニャ!?」

 巴ちゃんは腕組みを解いて、お姉さんに近寄る。

「な、なにをするのじゃ? わしの皮は三味線にならんぞ? ……ギニャー!」


 *** 仁義なき少女たち、拷問中 ***

 

「ひぃ……ひぃ……もう勘弁じゃ……」

 巴ちゃんのくすぐり拷問に耐えるなんて、やるね。

「この女、口を割りませんな」

「ぐすん……動物愛護法違反じゃぞ」

 こちとら、彼氏の命がかかってるんだよ。手は抜かない。

 私は巴ちゃんと一緒に部屋を出て、ひそひそと相談する。

「自白剤は用意してある?」

「してありますが……ほんとうに使うのですか?」

「あの女、キャット・アイとなにか関係がありそうなんだよね」


 カラン

 

 私と巴ちゃんは、急いで部屋にもどった。

「い、いないッ!?」

 床にロープが転がっている。拾い上げると、結び目はそのままだった。

「縄抜け?」

「お嬢様、ボイラー室のどこにもいません」

 そんなはずがない。唯一の出口は塞いであったのに。私たちは、もういちどボイラー室をすみずみまで捜した。ボイラーのうしろを覗いていると、巴ちゃんが、

「お嬢様ッ! ここに排気口がッ!」

 と叫んだ。しまった。抜け道があったか。

「どこ?」

「ここです。金網が壊れています」

 私は排気口を見て、エッ?となった。どうみても、小犬が通れるくらいの幅しかない。

「これは違うよ」

「しかし、ここ以外に抜け道はないのですが……」

 むぅ、縄抜けができるってことは、ここから出た可能性も否定できないか。

 関節が外れる体質なのかもしれない。それでも狭過ぎるとは思うけど。

「組員に連絡して、あたりを捜索するよ」

「了解です」

 私たちは廃工場を出て、運転席の男に声をかける。

「さっき、女が出て来なかった?」

「いえ……だれも見ませんでしたが」

 チッ、こっちのルートじゃないのか。私は付近に連絡を入れるよう指示してから、廃工場の敷地を飛び出す。

「巴ちゃんは、あっちのほうを捜して。私はこっちを捜すから」

「おひとりでは危険です」

 極道を舐めたら、あかんぜよ。自分の身は、自分で守れる。

 私は巴ちゃんと分かれて、一本道に駒桜神社を目指した。あそこで姿を消した以上、なにかヒントがあるはずだ。石畳を駆け上がり、神社の敷地に飛び込む。

「足跡は……ん?」

 私は、本殿に見慣れた後ろ姿をふたつ発見した。

 ふたりは、なにやら熱心に拝んでいた。

葛城かつらぎくん?」

 私が声をかけると、葛城くんが振り向いた。一緒にいたのは、内木うちきさんだった。

「ふえぇ……遊子ゆうこちゃん……」

「葛城くん、ここでなにをしてるの?」

 葛城くんは目に涙を浮かべていた。

「たっちゃんとつっくんが……う、うえぇん……」

 内木さんが、葛城くんを慰める。話を聞けば、辰吉たつきちくんと捨神すてがみくんが重体と聞いて、お百度参りに来たらしい。葛城くんは泣きじゃくりながら、

「たっちゃんとつっくんが死んじゃったら……僕、生きて行けないよぉ……」

 とつぶやいた。

「葛城くん……」

「来島先輩は、なぜここにいらしたのですか? やはりお参りに?」

 私は、ここに来た経緯を説明した。

「そ、その女が犯人なのぉ?」

「……分からないけど、犯人に繋がってると思うよ?」

 葛城くんは急にマジメな顔になって、

「僕も手伝うよぉ。遊子ちゃんとは停戦だねぇ」

 と言った。私は時間が惜しいから、この停戦協定に乗ることにした。握手をする。内木さんは、「停戦」がなんのことか分かっていないようだ。放置。

「そのお姉さんは、どこにいるのぉ?」

「ここに来なかった? 手分けして捜してるんだけど」

 だれと手分けしているのかは、ナイショにしておく。

「うぅん……そう言えば、だれかうしろを走った気がするよぉ」

「そうですね。拝んでいる最中だったので、顔は見ませんでしたが」

「どこに向かってたか、分からない?」

 葛城くんと内木さんは顔を見合わせて、

「本殿の裏へ回った気がするよぉ」

「私も、そう思います。裏手のほうで、なにか音がしました」

 と意見を揃えた。私たちは、本殿の裏側に回る。すると、やしろの戸が開いていた。

「なかに逃げ込んだのかな?」

「ふえぇ……警察を呼ぼうよぉ」

 私は葛城くんのアドバイスを無視して、懐のM1911を確認した。

 戸口から覗き込んで、視線を走らせる――だれもいない。私は本殿に上がって、室内を隅々まで調べた。調べたと言っても、簡単なことだった。家具はなかったし、隠れられそうな場所もない。がらんとした空間の中央に、鏡が置いてあった。

「これが御神体ごしんたいですか」

 内木さんも、鏡の前に立った。葛城くんもあとに続く。

「だれもいないみたいだねぇ」

「風でとびらがひらいたのかな?」

 私たちは、本殿を出ることにした。きびすを返したところで、急に内木さんが、

「鏡のうしろに、なにかいます」

 と言った。それと同時に、真っ白な猫が飛び出して、私たちを驚かせた。

「び、びっくりしたよぉ……」

「どうやら、猫が忍び込んだ音だったようですね……おや」

 内木さんは、床にかがみ込んだ。

「今ので、なにか倒れました……将棋の駒?」

 床に将棋の駒が散らばっている。そばには箱が落ちていた。内木さんは駒を拾い集め、箱に仕舞い始めた。私と葛城くんは、猫を本殿から追い出す。

「シッシッ……内木さん、急いで」

「少々、お待ちを……キャッ!?」

 最後の1枚を箱に収めたところで、室内がパッと明るくなった。

 私たちは目を覆って……それから、まぶたをひらいた。

「い、今の、なにぃ?」

「西日が射したのかな?」

「……」

 内木さんが無言で一番驚いていたけれど、とにかく鏡のうしろに箱を納めなおした。

 私は本殿を出て、ふたたび左右を見回す。

「それじゃ、神社の周りを捜そうか。危ないから、3人一緒で」


  ○

   。

    .


(返信がない……鳴門なると先輩に伝言を頼んだのですが、まさかそれっきりとは……大谷おおたに先輩と直接連絡を取る方法がありません。出雲いづも先輩のほうも、善処すると言われただけで、その後は音信不通……)

 手詰まりという言葉が、私、馬下こまさげよもぎの脳裏をよぎった。

「こうなったら、私がお祓いするしか……」


 ニャー

 

 ん? タマの鳴き声?

 

 ニャー ニャー ニャー

 

 私は神社の売り場から出て、本殿へと向かった。裏口で、タマが鳴いていた。

「どうかしましたか? そろそろご飯に……むッ」

 裏口が開いている。どろぼうかと思い、私は慎重になかを確認した。

 だれもいない。御神体が無事かどうか、念のため調べてみることに。

「御神体も無事ですか……タマ、本殿に入ってはいけませんよ」

 私はタマを撫でながら、社を出た。タマは、私の巫女服に鼻を押しつけた。

「今日は、やけに甘えてきますね。なにか怖いことでもあったのですか?」

 売り場にもどると、携帯が振動していた。

「はい、もしもし、馬下です」

《おお、よもぎか。出雲いづもじゃ。出雲いづも美伽みかじゃ》

「出雲先輩ッ! どうなさったのですか?」

《どうもこうも、おぬしがわらわを呼んだのであろうが》

「ということは……来ていただけるのですね?」

 出雲先輩は、すでに駒桜市内の病院にいると答えた。

《できれば、もっと早く連絡して欲しかったのぉ》

「……どういう意味ですか?」

 携帯の向こうから、出雲先輩のため息が聞こえた。

《今、容態を確認しておるが……1日ももたぬぞ、このままでは》

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