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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 1年前の出会い(2014年4月22日火曜)
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169手目 フェイク・ボックス

 はーい、こんにちは、葉山はやまひかるよ。

 入学式も終わって、いよいよ高校生活が始まる。ドキドキしちゃう。市立いちりつに入れたのはいいけど、中学の友だちとはバラバラになっちゃった。新しい出会いがあるといいね。

 というわけで、まずは部活よ、部活。どこに入るかは、もう決めてあるんだ。

「お邪魔しまーす」

 ドアの先にあるのは……そう、新聞部。

 あたしが初対面の学生だからか、部員のひとたちは、一斉にこちらを見た。

「きみ、新入生?」

「はい、葉山って言います」

 部長らしき太めのひとが出てきて、あたしはいろいろと説明を受けた。とくに入部条件のようなものはないようだ。ま、あったとしてもだいじょうぶだけどね。だって、中学のときに新聞部だし。本音をいえば、写真部に入りたかったんだよねぇ。でも写真部なんてそこらへんの中学にはないんだもん。

「中学のときは、なにしてたの?」

「新聞部です」

「あ、経験者なんだ。なんで新聞部を選んだの?」

「カメラが好きなんです」

 高校の入学祝いに、一眼レフを買ってもらったの。高かったんだから。

「カメラが好きなら、写真部じゃないかな……と言ってもうちに写真部はないか。でも、美術部にカメラ好きの子は何人かいるよ」

「なんていうか……芸術系をめざしてるわけじゃないので……」

「中学のときにどういう記事を書いてた?」

「校内の施設紹介とか、クラブで活躍した生徒の紹介とかです」

「学級新聞みたいな感じ? もうちょっと社会的な記事は?」

「……書いたことないです」

 マズかったかしら。思ったより本格的な部活っぽい。ちょっと不安になったけど、部長さんは、パソコンが使えるかどうか、特にデザイン関連のソフトが使えるかどうか尋ねてきた。

「ワードとフォトショは使えます」

「そうか。とりあえず仮入部してごらん」

 やった。交渉成立。あたしは仮入部書にサインしてから、ほかの先輩の話を聞いた。みんなは口をそろえて、日頃から周りを観察しろっていうアドバイスをくれた。あたしはそのアドバイスを念頭に置きながら、その日は帰宅した。

 

 翌日、あたしは早速、周囲を観察してみた。やっぱりクラスメイトからよね。3組の面子で気になるひと……うーん、彼かな。

箕辺みのべくん、おはよう」

 あたしは、となりに座っているツンツン頭の男子に声をかけた。

「おはよう、葉山」

 イケメンで溌剌としてて、あたし好み。入学早々席が隣だなんて、ツイてるぅ。

「箕辺くん、もう部活は決めた?」

「ああ、俺は入学前から決めてた」

「え? 入学前から?」

「中学のときと同じクラブなんだ」

 へぇ、ってことは、運動部かしら。箕辺くん、がっちりってわけじゃないけど、スポーツは普通にできそうだし。体格的には、サッカーかしら。でも、日焼けしてないのよね。

「バスケ? バレー?」

「いや、ちがう」

 ちがうのか――名推理だと思ったんだけど。

 もしかして、日焼けしてないのは、シーズン外だから?

「水泳?」

 箕辺くんは、爽やかに笑った。

「スポーツじゃないぞ」

 あれ、根本的にはずれちゃった。

 ひょっとして生徒会かな、と思った。箕辺くん、そういうのに推されそう。

「いや、俺は生徒会には興味ない」

「吹奏楽?」

「うーん……楽器に興味はあるけど、クラブとしてはやらないな」

 箕辺くんは、友だちがピアノのプロだと言った。

 プロって、また大げさね。

「ごめん、ヒント」

「ヒントか……ゲームの一種だ」

 ん? ゲーム? ……スポーツじゃないゲームってこと?

「あ、もしかして、2組の子とお友だち?」

「2組? ……お、正解だ。来島くるしまのことだよな?」

 そうそう、来島くるしま遊子ゆうこちゃん。市内で有名なゲーマーだ。なにかの携帯ゲームで、市代表になっていた記憶がある。

 ってことは、答えは簡単。ちょっと意外だけど。

「テレビゲーム研究会ね」

 あたしの答えに、箕辺くんはポカーンとした。

「いや……もっとアナログなゲームだ。そもそも、そんな研究会あるのか?」

 うーん、eスポーツでもないのか。

 アナログなゲーム……ダメだ、デジタルな光ちゃんには分からない。ギブアップ。

 あたしが降参すると、箕辺くんはにっこりと笑って、

「将棋だよ、将棋」

 と答えた。

「え……将棋って、日曜日におじさんがふたりでやってるやつ?」

「そ、その説明はどうかと思うが……まあ、そうだな」

 えぇ……イメージ壊れる。

「なんで将棋なの?」

「面白いからだ」

 うぅん、そっか。あたしはやったことないから、面白くないとは言えないし、箕辺くんの第一印象と将棋がくっつかなかっただけで、文句もなにもなかった。

「葉山もまだ部活決めてないなら、見学しに来るか?」

「男子ばっかりなんでしょ?」

「いや、女子将棋部があるぞ。というか、学校公認なのは女子のほうだ」

 マジで? 衝撃的事実。箕辺くんは、けっこう強いチームだと言った。

「ごめん、あたしもう、新聞部に入るって決めてるんだよね」

「へぇ、マスコミ志望なのか?」

 あたしはカメラが好きだと答えた。

「カメラが好きなのか。そう言えば、このまえ……」

「箕辺くん……」

 おっと、びっくりした。いきなり女の子が現れて、あたしたちに話しかけてきた。

 その顔に、あたしは見覚えがあった。

「あれ? あなたって、たしか、入学式のときの……」

「1年生代表の、飛瀬とびせカンナです……」

 声がちっちゃい。もっとハキハキしゃべって欲しいわね。

 でも、学年トップの成績で入ってきたらしいし、ここはコネを繋いでおきましょう。期末テストなんかで、有利になるかも。あたしったら悪い子。

「こんにちは、あたしは葉山っていうの。よろしくね」

「よろしく……これでまた、地球人の友だちがひとり……」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 え? 今、なんて言った?

「ごめん、地球が、どうかしたの?」

「ああ、葉山、今のは気にしなくていいんだぞ」

 箕辺くんが、なぜか割り込んできた。どういうことだってば。

 トビセさんはあたしの疑問をスルーして、箕辺くんに話しかけた。

「箕辺くん……今日の放課後、時間ある……?」

「ああ、あるぞ」

 おっと、これはデートのお誘いかな。と思いきや、どうやら将棋らしい。訊けば、飛瀬さんも将棋部とのこと。彼女のほうは、なんとなく納得がいくかな。おとなしそうで、いかにも体育会系じゃない感じ。

「あ、ちょっと待ってくれ。来島とも約束があるんだよな」

「来島さんと……? なんの……?」

「来島は、完璧に初心者だろ。ルールから教えないといけないんだ」

 む、これはスクープなのでは。市内のゲームマスター、将棋にも手を出す、と。

 こういうのは、ちゃんとメモしておきましょう。メモメモ。

 それから、ススーッと会話にわりこむ。

「飛瀬さんが入学式で挨拶したのは、成績が1番だったからなんでしょ?」

「うん……」

「すごいね。ほかの高校に行こうとは思わなかったの?」

「ここには、いいサンプルがたくさんいるから……」

 ??? サンプルって、なに? なにか観察してるのかな?

「葉山、今のも気にしなくていいぞ」

 だから、どういうことだってば。あたしはわけが分からないまま、昼休みを終えた。

 数学→英語、と授業を受けて、放課後に。新聞部に顔を出すと、思わぬ事態が。

「え? もう記事を書いていいんですか?」

「うちは下積みみたいなのはないよ。っていうか、書かないと練習にならないだろ?」

 と言われても、なにを書いていいのか分からない。

「思ったことを書け、と言いたいところだが、それはダメだ。新聞というのは、記者の感想文じゃないからな。周りをよく観察して、読者に伝える価値のある情報を発見しろ」

 読者に価値のある情報……なにかしら。部長は、とにかく校内を回ってみろと言った。あたしはそのアドバイスを受け入れて、早速メモ帳とカメラを片手に、校内を散策した。

「ネタ……ネタになりそうなのは……ん?」

 校舎の裏側から、なにやら大きな声が聞こえた。覗き込んでみると、学ランを着たひとが、器械体操みたいなポーズで、声を張り上げていた。応援団だと気付くまで、しばらく時間がかかった。学ランの少年は、ちょっと色黒で、ハンサム。練習が終わった隙を見計らって、声をかけてみる。

「すみません、新聞部の者ですが」

 ペットボトルで水分補給をしていた少年は、こちらへ顔を向けた。

「ん? 新聞部? ……新入りか?」

「あ、はい、そうです」

 よく分かったわね。あたしがいぶかしく思っていると、

「新聞部の連中とは、顔見知りだからな」

 と言った。なるほど、応援団と新聞部、いかにも一緒に行動していそう。スポーツ大会なんかだと、しょっちゅう顔を合わせる仲に思えた。あたしは、なにから質問していいのか、よく分かっていなかったので、しどろもどろになった。

「まあ、そこに座れ。由緒正しい駒桜市立高校応援団の歴史を話してやる」

 ちょ、なんでそういう流れになった。

 あたしはベンチに腰掛けさせられて、長々とお説教を喰らった。

「というわけでだな、オレが入部した頃には……」

「オーイ、まどかちゃーん」

 あたしたちのほうへ、背の低い女の子が駆けてきた。応援団の少年は立ち上がって、

「おう、木原きはら、どうした?」

 と尋ねた。

「じつはね、すっごく美味しい……あれ、この子、だれ?」

 キハラと呼ばれた少女は、あたしに好奇心一杯のまなざしを送ってきた。

「新聞部の葉山です。新入生です」

「あ、新聞部なんだ。もしかして、円ちゃんの取材?」

 マドカって、この少年のことかしら。女みたいな名前なのね。

「はい、応援団の歴史についてうかがってます」

「ふぅん……」

 キハラ先輩は、やたらあたしのことをじろじろ見てから、

「じゃあさ、私が企画出すから、一緒に取材しようよ」

 と言ってきた。なんのことかと思い、あたしは企画の内容を尋ねた。

「ずばり、駒桜グルメツアーだよッ! スイーツ店をめぐるのッ!」

 なんだか良さげな企画ね。

「宣伝効果もあるから、スイーツをただでもらえるように交渉ッ!」

 セコい……セコいけど、この先輩、商売上手。

「部長と相談してみてます。企画が通れば」

「絶対通るよ。数江かずえちゃんが言うんだから、間違いなし」

 自信家だなあ。と思っていると、またべつの女性に声をかけられた。

「円ちゃん、数江ちゃん」

 おかっぱ頭の、ちょっと怖そうな雰囲気の女性だった。

 でも、マドカ先輩とキハラ先輩は知り合いらしく、おたがいに挨拶していた。

駒込こまごめ、どうした? ついに留年が決定したか?」

「なんでそうなるのよ……どっちか、部室に行く?」

 マドカ先輩もキハラ先輩も、首を横に振った。

「困ったわね。駒を借りっ放しなのよ」

「駒込が借りパクを気にしてるだと……? 明日は雨だな」

「失礼ね。卒業前にはちゃんと返すわ。で、どっちも部室に行かないのね?」

「事務室で鍵借りて、自分で返せばいいだろ」

「私、出禁なのよね。10回くらい返し忘れて」

 マドカ先輩は、なんだか呆れたような顔をした。

「あのなぁ……」

「で、どっちも部室に行かないのね?」

「オレは練習中だ。見れば分かるだろ」

「見たら休憩中だったみたいだけど?」

「うっせぇ」

「私は、今から友だちとスイーツ食べに行くんだ」

 コマゴメ先輩は、かるくため息をついてから、あたしのほうに目をつけた。

「あなた、1年生? 2年生?」

「い、1年生です」

「何組?」

「3組です」

 コマゴメ先輩の目が光る。

「あなたのクラスに、箕辺みのべ辰吉たつきちって子がいるでしょ」

「……はい」

「この駒を、彼に渡しておいて」

 コマゴメ先輩は、有無を言わさずに、木の箱を押しつけてきた。

「……これを、どうすればいいんですか?」

「渡すだけでいいわ……貴重な駒だから、絶対になくさないでよ」

 コマゴメ先輩はそれだけ言って、その場を立ち去った。

 あたしは、マドカ先輩とキハラ先輩に事情を尋ねようと思ったけど、マドカ先輩は応援団の仲間に呼び出されるし、キハラ先輩は「あ、集合時間だ」と言って消えてしまった。

 まったく、どういうことなのよ、これ。あたしは憤りつつも、箕辺くんの居場所を知っていたから、箱を持って行くことにした。学生食堂のテラスだ。着いたときには、ちょうど箕辺くんと来島さんが、向かい合って座っているのが見えた。

「この駒が真っすぐ進んで……」

「これも、成れるの?」

「成れるぞ。成ったら龍になる。動き方は……」

「箕辺くん」

 あたしが声をかけると、箕辺くんはちょっとびっくりしたようだ。

 と同時に、向かいがわに座っている来島さんが、じっとりとした目を向けてくる。

 来島さんと直接出会ったのは、初めてだ。妙な威圧感があるわね。それに、ピ○チュウのフードを被ってるなんて、校則違反じゃないかしら。改造制服。

「どうしたんだ、葉山?」

「コマゴメって言う先輩から、預かりもの」

 箕辺くんは、それだけで分かったらしく、箱を受け取った。

 あたしは将棋盤(でいいのよね?)を見てみたけど、なにがなにやら分からない。

 でも、そのまま去るのは癪だから、来島さんに話しかけてみた。

「2組の来島さんよね?」

「そうだと思うよ?」

「あたし、新聞部に入ってるんだけど、今度、取材させてくれない?」

「取材って、なにかな?」

 あたしは、去年のゲームチャンピオンになったときの感想を聞きたいと答えた。

 快諾してくれると思いきや、来島さんはすげなく、

「そういうのは困るかな」

 と言って、拒否してきた。あたしは何回もお願いしたけど、ダメだった。

 もう、愛嬌がないなあ。男子にモテないわよ。

 それにしても、さっきの箱の中身、なんだったのかしら。気になるわね。

 ……ま、いっか。葉山光、これからバッチリ青春しちゃうんだから。

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