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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第17局 怪盗キャット・アイ、駒桜に現れる(2015年5月25日月曜〜29日金曜)
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158手目 五見誠の華麗(?)なる推理

※ここからは大場さん視点です。

 というわけで、早速、清心せいしん高校にやってきたっス。

 放課後だけど、グラウンドはクラブ活動でにぎやかっス。

「ンー、このベンチっスかねぇ」

 花壇のそばにある、いかにも休憩所って感じの設備。

 どこにでもありそうな、平凡な木製のベンチっス。

 うしろには、校舎の窓が見えるっス。

大場おおば先輩、ひとつよろしいですか?」

 顔を上げると、メガネをくいくいしてる五見いつみくん。

「なんっスか?」

「どうして僕を巻き込むんですか?」

 あれだけ説明したのに、なーんにも分かってないんっスねぇ。

 すみちゃんタメ息。

駒桜こまざくらの一大事なんっスよ。ちゃんと協力するっス」

「異常な身体能力の猫耳レオタードのお姉さん……ですか」

「そうっス」

 いわゆる痴女っスね。

「そんなの、いるわけないでしょう」

「なんで信用しないんっスかッ!?」

 五見くんはメガネをくい〜とやって、角ちゃんに軽蔑のまなざし。

「自分の目で見たんですか?」

「み、見てないっス」

 五見くんは、ほらね、みたいな顔で、グラウンドを見渡したっス。

「このベンチから校門まで三歩さんぽ? ……ありえないですよ。50メートル近いのに」

「オリンピック選手かもしれないっス」

「オリンピック選手でもムリです。幅跳びの世界記録は、8メートル95センチですよ」

 いちいち細かいっス。

 今日が休日だったら、絶対に優太ゆうたくんのほうを呼んだのにっスねぇ。

「それに、僕たち、あやしまれてますよ」

 たしかに、清心の生徒から、じろじろ見られてるっス。

「きっと、角ちゃんのカシワモチ制服に、目が釘付けなんっスよ」

「まあ……その制服は、釘付けになりますね……」

 カシワモチの刺繍を縫い付けた、とってもチャーミーなデザインっス。

「っていうか、学校から注意されないんですか?」

「されても問題ないっス」

 角ちゃん、管理教育に反対するっス。

「ま、いいですけど……ところで、話を戻しますが、大場先輩、だまされてますよ」

「なにがっスか?」

「キャット・アイなんて、いません。新巻あらまきくんの冗談です」

「そんなことはないっス。ヨシュアちゃんも、そう言ってたっス」

佐伯さえき先輩は、自分の目で見たんですか?」

「……見てないっス」

 五見くんタメ息。

「その時点で、又々聞またまたぎきでしょう」

古谷ふるやくんも疑うんっスか?」

「え……古谷くんも、そう言ってたんですか?」

「それだけじゃないっス。九十九つくもちゃんも言ってたっス」

 喫茶店で聞いた話を、全部伝えるっス。

 五見くん、手のひらくる〜。

「それを早く言ってください……でも、身体能力については、見間違いでしょう」

「それを今から検証するんっスよ」

 角ちゃんたちは、ベンチのまわりを調べたり、花壇のまわりを調べたりしたっス。

 でも、なにも見つからなかったっス。残念。

「さすがに、足跡は消えてますね。生徒の靴で上書きされてます」

 虎向こなたくんたち、なんで現場保全しなかったんっスかね。捜査の基本っス。

「こうなったら、聞き込みをするっス」

「まあまあ、そう焦らずに……ここは、安楽椅子あんらくいす探偵と行きましょう」

「安楽椅子が、どうかしたんっスか?」

 外国のおじいちゃんおばあちゃんが、ゆらゆら揺らしてるやつっス。

 捜査と全然関係ないっス。

「安楽椅子探偵というのは、あちこち歩き回らずに、推理だけで解決する探偵です」

「そんなこと、できるわけないっス」

 五見くんは、メガネをくい〜とやって、目を光らせたっス。

「いいですか、犯人の特徴を、順番にあげて行きますよ?」


 1、20代前半の女性。

 2、高校県代表クラスの実力者。

 3、中・四国地方の地理に詳しい。


「将棋というジャンルからして、相当範囲を絞れるはずです」

「つまり、どういうことっスか?」

「中・四国の将棋界OGなんじゃないかと」

 なーるほどっス。それは可能性が高そうっス。

「高校を襲撃してるのは、学生時代の鬱憤を晴らすためっスかね」

 管理教育への反抗っス。

「さすがに、動機までは分かりませんが……」

「オーイ」

 1階の窓から、角ちゃんたちを呼ぶ声が聞こえたっス。

 噂をすれば影――虎向くんが、窓ぎわで手を振ってるっス。

「大場先輩たち、なにやってるんですか?」

「虎向くんのために、捜査をしてるんっスよ」

「あ、佐伯先輩から聞いたんですね」

 虎向くんは、角ちゃんたちを部室に招待してくれたっス。玄関から入って、右手に曲がると、【将棋部】のプレートを発見。ドアを開けると、兎丸くんもいたっス。室内は、リノリウムの床に、上履きであがるスタイルっス。角ちゃんたちは、入り口のところで、スリッパを借りてきたっス。壁にはスチール製の棚があって、棋書がいっぱいあるっス。それから、窓際にはパソコンがあるっス。ルーター付き。

「大場先輩、こんにちは」

 兎丸くんは、あいかわらず笑顔がさわやかっスね。

「こんちゃっス。ちょうど良かったっス。証言するっス」

 角ちゃんたちは、お茶を入れてもらったっス。

 事情聴取、開始。

「五見くんは、虎向くんたちの見間違いだって言ってるっス」

「ちょっと待ってください。その言い方は、誤解を生みますよ」

 五見くんは、角ちゃんを押しのけて、釈明を始めたっス。

「僕が気になってるのは、身体能力の見間違いじゃないかってことだよ」

 これには虎向くんが反発して、

「そんなことはないぞッ! この目で見たッ!」

 と断言したっス。でも、兎丸くんのほうは、

「僕もね、なんだかおかしいと思うんだ。トリックがあるのかも」

 と、五見くんがわについたっス。

「兎丸、よく考えろ。空中に浮かぶトリックを、どうやって校庭に仕込むんだ?」

「難しいのは分かるけどさ、50メートルを三歩さんぽで移動するのは、不可能だよね?」

「それは、その通りッ!」

 虎向くんはいきなりガッツポーズをして、

「つまり、キャット・アイは人間じゃないんだッ!」

 と叫んだっス。呆れ。

「人間じゃないなら、なんなんっスか?」

「妖怪ですよ、妖怪」

 はぁ〜、角ちゃん、タメ息。

「もっとマジメに考えるっス」

「マジメに考えてますよ。駒桜には、宇宙人だっているじゃないですか」

「カンナちゃんのことっスか? ……あれは冗談に決まってるっス」

 あんな変な宇宙人、いるわけがないっス。宇宙人はもっとスマートっス。

 ここで、五見くんのストップ。

「その点は棚上げするとして、容姿とか、覚えてないの?」

「ショートカットで、猫耳があったぞ。スタイルは、かなり良かった」

「付け耳でしょ?」

「いや、対局中に動いてた。作り物には見えなかったし、やっぱり妖怪だ」

 なんで妖怪がレオタード着て将棋用具を盗むんっスか。意味不明っス。

「そんなことはいいっスから、犯人の特定につながる情報を出すっス」

 虎向くんと兎丸くんは、うーんと考え出したっス。

「あのレオタードって、新品に見えなかったんですよね。着古きふるしてるというか……」

 兎丸くんは、またよく分からない情報を落としたっス。

「それが、どうかしたんっスか?」

 男子には悪いっスけど、レオタードの話から離れて欲しいっス。

「ああいう証拠品って、すぐに処分したいと思うんですよね。それをしないなら、普段の生活が、質素なんじゃないでしょうか。ようするに、お金がないというか」

 これには、虎向くんが割り込んで、

「当たり前だろ? 金があったら、どろぼうなんてしない」

 と言ったっス。

「動機は、お金じゃないと思うんだよね。昨日盗まれた将棋盤なんて、古道具屋に転売しても、100円くらいだよ。キャット・アイは、将棋のコレクターなんじゃないかな。となると、犯人像は、お金よりも将棋用具のほうが好きな女性ってことになるね」

「金より将棋用具? ……そんな女、いるか?」

「ただの、推測だよ」

 今の虎向くんと兎丸くんの会話は、なんだか的を射てる気がするっス。

「やっぱり僕は、高校将棋界のOGだと思うな」

 五見くんは、OG説にこだわるっスね。

「20代前半の県代表OGに、そんな変なひと、いたかな?」

 兎丸くんは、半信半疑。

「言われてみると、20代前半なら、大学生か社会人のはずっス」

「その点は、大場先輩に同意します」

 あ、五見くんと意見が一致しちゃったっス。

「情報がすくなすぎて、だれだか分かんないっスね」

「やっぱり妖怪ですッ! こんな変な女、いるはずがありませんッ!」

 どうっスかね。カンナちゃんのほうが変な気がするっス。

「そのときの会話を、詳しく思い出してくれない?」

 五見くんの催促に、虎向くんと兎丸くんは、会話を再現し始めたっス。

 全部聞き終えた五見くんは、目を光らせて、

「『我が輩の家にある、特製カツオブシ』って言ったの?」

 と確認したっス。

「ああ、言ったぞ」

「ってことはだよ……家が近いんじゃないの?」

 五見くんの指摘に、全員あんぐり。

「いや……まさか……そんな……」

「でもさ、そういうポロっとした台詞って、嘘じゃないと思う」

 五見くんは、やたら自信がある模様。

「キャット・アイは、H島県民ってことか?」

「あるいは、Y口県の東部じゃないかな? I国市とか」

 あ、優太くんの近所っスね。それに、I国市は、キャシーちゃんの地元っス。

 五見くんも、そのことに気付いたのか、メガネをくい〜。

「Y口県なら、ネットワークがあるから、調べてみるよ」

「よし、俺たちは、駅で不審な女を見なかったか、探ってみるぞ」

「え? どうやってっスか?」

 虎向くんは、自分の胸をポンポン。

「親父が、鉄道会社に勤めてるんですよ」

 あ、いいっスね。貴重な情報源っス。

「今日はもう暗くなってきたから、これで解散するっス」

 ほかのメンバーは、どういう調査をしてるんっスかね。

 MINEで確認するっス。

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