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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第14局 剣道夫婦の駒桜パトロール(2015年5月31日日曜)
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134手目 終わりよければ?

田中たなか先輩じゃあ〜りませんか〜」

 あっしの呼びかけに、角刈りのメガネ男子が顔をあげました。

「なんだ、林家はやしやさんか。こんにちは」

 なんだとはなんだ、このやろう。

 先輩は公園のベンチに腰掛けて、日陰で本を読んでいました。

「エ◯本でも読んでるんですか?」

「あのね……受験参考書だよ」

 エ◯い受験参考書もあるかもしれない。

「あ、鞘谷さやたにさんと蔵持くらもちくんもいるのか。こんにちは」

 蔵持先輩も日陰に入って、にっこり。

「やあ、田中くん。勉強熱心だね」

「きみたちとちがって、僕はスポーツ推薦じゃないからね」

 微妙に毒入ってるな、これ。

 場をなごませていただきやしょう。

「田中先輩なら第一志望も楽勝でがすよ、へっへっへ」

「な、なんか気になる言い方だな……ところで、3人は何やってるの?」

 蔵持先輩は事情を説明。これには田中先輩も、あんまりいい顔をしませんでした。

「他人がやったボランティアを使うのは、マズくないかな?」

「え? そう?」

 同意。でも、笑魅えみ、かしこいから口に出さない。

 年上の意見のくいちがいには、口出ししないに限る。

 話題を変えましょ。なにがいいかな――あ、そうだ。

「田中先輩、デートとかしてらっしゃらないんですか?」

「林家さん、先輩に訊く質問はよく考えようね」

「じゃあ、どういう女性が好みでがすか?」

 ちょっと強引に行く。田中先輩の好みから、佐伯さえき先輩の好みにスライドさせる。ポーン主将にあとで報告するでがす。1万円くらいもらえちゃうかも。うっしっし。

「うーん、そうだな……好きになるひとって、あらかじめ決まってないんじゃない?」

 はぁ、優等生タイプの返事。まあ、田中先輩の好みは本命じゃないから無問題。

 次の質問に移ろうとしたところで、先に鞘谷先輩が口をひらきました。

冬馬とうまは、どういうタイプの女の子が好き?」

「明るくて元気な子かな」

「よっしゃぁ!」

涼子りょうこちゃん、どうしたの?」

「なんでもないわ。鞘谷さやたに涼子りょうこ、今日も明るく元気でーす!」

 大丈夫か、この女。田中先輩も困惑している。

 とんずらされないうちに、私は本命の質問をぶつけた。

「でも、普通はタイプってもんがあるんじゃないですか? 佐伯先輩とか、あのあたりも好みの女性っているんでしょ? ね? 知りません?」

「佐伯くん? ……彼、モテそうだけど、彼女がいるって聞いたことないな」

「彼女がいるかどうかじゃなくて、女性の好みでがす」

 田中先輩は腕組みをして、大げさに首をひねりました。

「彼とは、そういう話をしないからなぁ」

「え? しないんですか? ……じゃあ、どんなこと話してるんです?」

「佐伯くんの新作手品とか、大会の会計とか……あと、新巻あらまきくんが持ち込んだネタかな」

虎向こなたは女の話をしないんですか?」

「しないね。彼と一番しゃべる古谷ふるやくんが、そういう話にノッてこないから」

 やっぱあそこのふたり、あやしいな。関係性に疑惑の目を向けていくぞ。

「女の話をしない男ばかりの将棋部、ヤバくないですか?」

「そう? 藤女ふじじょでも男の話はそんなにしないでしょ?」

「とってもす……ふごぉ」

 鞘谷先輩に口もとを押さえられて、頭ぐりぐり。

「藤女の評判落とすようなこと言ったら……分かってるわね?」

 はい――とりあえず解放してもらう。

「モチロンシャベッテナイデス」

「な、なんでロボットみたいな話し方なのかな」

 命の危険を感じるからね、しょうがないね。

「で、佐伯先輩の女の趣味は分かんないでがすか? 少しも?」

「うーん……佐伯くん、お母さんっ子だから、おなじタイプが好きなんじゃない? かなり適当な推論だけど。このまえもカーネーション送ってたよ」

「え? マザコン?」

「そうは言ってないんだけど……」

 高校生ですよ、高校生。反抗期でお母さん大好きはマザコンでしょ。

 将棋部、まっとうにみえてやっぱ変なの多いな。

「マザコンなら、外部から女をがつんとぶつけるしかありませんね」

「だからそうは言ってないんだけど……ま、いいや、僕はそろそろ行くね」

 田中先輩は参考書を小脇にはさんで、その場を離れました。

 逃げられた感がある。

 しょうがない。笑魅、もとの仕事にもどる。

「先輩方、そろそろ目的地へ移動しやせんか?」

「ここが目的地だよ」

 マジ? 都合よすぎだろ。

 とはいえ、公園が防犯マップに入っているのは、変とも言えない。

「公園は逃げないから、チェック完了でがす」

「だね。とくに変わったところもないみたいだし、マルと」

 こうして、私たちは順番に街を回っていきました。他の公園が2ヶ所、川辺が1ヶ所、古い工場跡が1ヶ所、駅前が1ヶ所(ロータリーの出入りが激しいですからね)、いくつかの通学路と、こども110番のお店を回って、ついには――

「いらっしゃい」

 将棋喫茶店、八一やいちに到着。

「お控えなすって、手前、粗忽者そこつものゆえ……」

「林家さん、いきなり仁義なんか切っちゃって、どうしたの?」

 マスターは皿を拭きながら笑いました。

「マスター、お詳しいようで」

「おじさんくらいの年齢なら、ヤクザ映画は多少観てるからね、テレビで」

 なるほど、ならば要件に入らせていただくでやんす。

「アイス抹茶オレひとつ」

 これには鞘谷先輩が敏感に反応。

「林家さん、休憩していくの?」

 いや、来店して注文しないほうが、どうかと思うんですが。

「涼子ちゃん、ここが最後だから休んでいこうよ」

「私もそう思ってたところなの」

 もはや突っ込む気もうせた。私はさっさと席につく。

 鞘谷先輩はアイスコーヒー、蔵持先輩はジンジャエールを注文。

 マップを見ながら、今日の成果を確認する。

「お冷やです」

 メイド服姿の猫山ねこやまさんだぁ。あっしもけっこう常連なんですよ。

 あの裏見うらみ香子きょうこと出会ったのも、ここですしね。

「みなさん、学校の課題ですか?」

 猫山さんはマップをのぞきこみました。お行儀が悪い。

 店員のマナーとして、どうなんですかね。

 だけど、蔵持先輩は普通に対応。

「ボランティアで市内の防犯マップを作ってるんです」

「ほぉ……防犯マップですか」

 ん? なんか微妙な空気になった? なぜ?

「なんのための防犯マップですか?」

「とくに目的はないです。作ったってことが重要なんです」

 蔵持先輩の説明に、猫山さんは首をかしげました。

「作ったことが重要……ずいぶんと変わった趣味ですね」

「趣味ってわけじゃないです。大学生活に向けた努力です」

 あんまりしゃべらないほうが、いいような。横溝よこみぞ先輩のためにも。

「大学生活というのは、ずいぶん大変ニャんですね」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………あれ? 猫山さん、大学生じゃないの?

 私はそう思ってたんですが……ただのフリーターだった?

あいちゃーん、注文できたよ」

「はーい」

 猫山さんは飲み物を取ってきて、私たちのまえに置きました。

 あっしはアイス抹茶オレをひと口飲んで、ひとこと。

「ここの抹茶オレは最高だと思いますね。ビター・アンド・マイルド」

「そう言ってもらえると、店長もよろこびますよ」

 マスター、あとでまけといてね。

「では、ひとつ謎解きを。喫茶店八一とかけまして、丸の内のオフィスビルと解きます」

「ニャンと、その心は?」

将棋しょうぎ商議しょうぎ)に最適です」

 どやぁ。なかなかやろ。

「ひねってきましたね。では、私も謎解きをします」

「どうぞ」

「穴をくぐる猫とかけまして、思わず人気が出たときの処世術と解きます」

「その心は?」

ひげ卑下ひげ)が大事です」

 いよ、座布団1枚。

 私たちのやりとりを見た、鞘谷先輩は、

「なんとかゲームしてるの?」

 とたずねました。いいかげん覚えてくれませんかね……4文字なんですし……。

「謎かけですよ、な・ぞ・か・け」

「あ、それ僕知ってるよ。なんとかと掛けて、なんとかと解くんでしょ?」

 さすがは蔵持先輩、学がある。だてに升風ますかぜ男子じゃない。

「蔵持先輩も、どうでがすか、ひとつ」

「んー、そういうのやったことないから苦手なんだよね」

 いやいや、大喜利おおぎりは勢いが大事。初参加でも大丈夫。

 蔵持先輩、やや長考。

「こんなのは、どうかな。涼子ちゃんとかけまして、このジンジャエールと解きます」

「その心は?」

さややか!」

 おおっと、ここで鞘谷先輩が真っ赤になった。

「冬馬に褒められちゃった……うーん……」

 その場で卒倒。

 どうやら、おあとがよろし……くないだろッ! いいかげにしろッ!

 救急車ッ! 救急車ッ!

 

  ○

   。

    .


「というわけで、たいへんだったんですよ」

 私の愚痴ぐちに、いおりんはひとこと。

「日頃のおこないだな」

「笑魅のおこないなら、そらから1億円降ってきてもおかしくないんですがね」

「今日の学食、カツ丼が売り切れてたんだよなぁ」

 こいつ、無視しやがった。

「カツ丼じゃなくてチキン丼食べればいいでしょ」

「バカ、チキン丼は金曜日の甘辛マヨネーズが一番うまいんだよ」

「じゃあ藤花ふじはなラーメン」

 いおりん、寝そべって腕枕に切り替え。

「たんぱく質を取らなきゃダメなの」

 筋肉か? やはり筋肉なのか?

「だったらプロテインでも飲んで……」

「Hallo」

 がらりとドアが開いて、ポーン主将が登場。

 いおりんとあっしは畳のうえに正座。

「おはようございます」

「Schon nachmittags……Frauハヤシヤ、少々お話があります」

「『ピーッってどういう意味ですかしら?』みたいな卑猥ひわいなのはダメですよ」

「あなた、Herrサエキに気がおありね?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………は?

「あの、なにを言って……」

 ポーン先輩、口もとに手をあてて、お嬢さま笑い。目が笑ってない。

「おほほほ、お隠しになられなくても、けっこうですわよ。先日、Herrタナカに根掘り葉掘りお聞きになられたとか。しかも、『外部から女をがつんとぶつけるしかありません』とは……ずいぶん大きく出られましたわね」

「え、あのですね、完全に誤解で……」

「Herrサエキほどの好男子、ライバルがいないのも、おかしな話ですもの」

 ひとの話を聞けよ。お嬢さまはひとの話が聞けないのか?

 私の弁明を無視して、ポーン先輩は黒い笑みを浮かべた。

「というわけで、今後ともよろしくお願いいたします、Frauハヤシヤ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………おあとがよろいようで、ちゃんちゃん。

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