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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第14局 剣道夫婦の駒桜パトロール(2015年5月31日日曜)
145/682

133手目 危険な一服

「さぁて、次は鞘谷さやたに涼子りょうこの家でがすね」

「なんで私の家が防犯マップに乗るのよ」

 自分の胸に訊いてみてくだせぇ。

「次はここだね。駒桜市内で一番交通量の多い交差点」

 蔵持くらもち先輩は、私たちを無視して地図をひろげました。

 なんかノリが悪いんだよなぁ、この男。

 鞘谷先輩も、こいつのどこがいいんですかね。パワーか?

「ここはよく事故が起きてるわよね。このまえも、けいがガードレールに突っ込んでたわ」

 たしかに、ここは通学・通勤路。朝と夕方はけっこう危ない。

 近くに銀行があるから、なおさら。

「交差点が消えるわけないんで、ここはオッケーですね、先輩方」

 次、行きましょ、次。

 移動しかけたところで、いきなりうしろから声かけ。

「お、笑魅えみじゃないか」

 げッ、この声は――いおりん。琴音ことねちゃんもいました。

「なんだなんだ、土下座ナンパでもしてんのか……っと、鞘谷先輩、こんにちは」

 急にしおらしくなるいおりん。

 上下関係を重んじる体育会系の鑑。

「蔵持先輩とご一緒みたいですけど、どうかなさったんですか?」

「防犯マップを作ってるの」

「ああ、それで笑魅がいるんですね。変質者役で」

 は? コ○すぞ。今日は微妙にキゲンが悪いってんだ。

 と思いきや、これに鞘谷先輩が悪ノリ。

「一理あるわね。林家はやしやさん、変質者のマネしてみて」

「ぐへへへ、姉ちゃん、えらく筋肉質でおまんなぁ」

「きゃぁああ、冬馬とうま、助けて」

 鞘谷先輩は、蔵持先輩に抱きつく。

 それがやりたいだけだろ。蔵持先輩もあきれぎみで、

涼子りょうこちゃん、ここは歩道が狭いからあぶないよ」

 と諫めました。ざまぁみろ。好感度が下がったぞ。

「おほほほ、ごめんあそばせ」

「みなさん、さきほどから、なにをなさっているのですか?」

 琴音ちゃん、白杖はくじょうを手にしたまま質問。

 世界一しょうもない会話だから、聞く価値ないですよ。

「あ、そうだ、林家笑魅、いいこと思いついたでがす。琴音ちゃん、鞘谷先輩の肩に手を乗せてもらえませんか?」

「? こうですか?」

 スマホをとりだしてパシャパシャ。

「交差点で視覚障害者の手助けをするゴリ……女子高生のできあがりぃ」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………え、なんですか、この空気は。

 蔵持先輩は、気まずそうに頬をぽりぽり。

「そういうヤラセは、さすがに……」

「笑魅、マジで一回死んだほうがいいぞ」

「やだやだ、彼氏いないまま死ぬのやだ」

「おまえはあと30年生きてもできねぇから安心しろ」

「は?」

 圧倒的ポリティカル・コレクトネスを感じる。

 からかっていい人といけない人とのあいだの格差を感じる。

伊織いおりさん、そろそろ行かないと時間が」

 琴音ちゃんの一言で、いおりんは我に返ったもよう。

「っと、そうだ。練習に遅れちまう。鞘谷先輩、蔵持先輩、お先に失礼します」

「なんであっしにはあいさつしないんでがすか?」

「笑魅、明日逮捕されてなかったら会おうぜ」

 くそぉ、ぐれてやる、不良になってやる。

 

  ○

   。

    .


「というわけで、不良になりにきたぜ……場末ばすえのタバコ屋でがす」

 ここ、けっこう有名なんだよなぁ……未成年者に売ってるって言うんで。

「マップには『83歳のおばあさんが店主』って書いてあるね。製作日が2012年だから、今は86歳かな」

 どれどれ……うわぁ、ババァですね、これは。まちがいない。

 しわしわよぼよぼの、それでいて気の強そうなおばあさんが座ってます。

「いちおう変わってはいないけど……涼子ちゃん、どうしようか?」

「どうしようかって、どういう意味? そのままにしとくんじゃないの?」

「未成年者にタバコ売ってるところ紹介していいのかなぁ」

「あ、そういう……マップにはなんて書いてある?」

「『コワいお兄さんが多いから気をつけよう!』だって」

 ごまかしてますね。どうせタバコ買いに来た天堂てんどうの学生でしょ。

 こうなると、なんか興味が出てきやした。話しかけてみましょう。

「もしもし、生きてるでがすか?」

「あぁ?」

 おばあさん、耳に手をあてて前のめりに。

 生きてるっぽいな。

「タバコ売ってもらえませんかね?」

「あぁ?」

「タバコ売ってもらえませんかねッ!?」

「銘柄言ってもらわないとねぇ」

 それもそうか。でも、知らないんだよな。

 とりあえずガラスケースをのぞきこんでみて……おおっとッ!?

 ものすごい勢いで引き離されました。

「なにやってんのよッ! ひとに見られたらどうするのッ!」

 痛い痛い痛い。力がはいりすぎ。

「冗談でがすよ。冗談」

「剣道は素行そこうに厳しいんだから。私と冬馬が出場停止になったらどうするのよ」

「どうなるんでがすか?」

 鞘谷先輩、私の体をはなして、指をぽきぽき。

「そうねぇ……頭が正門、右腕が理科室、左腕が家庭科室で、下半身はプールに浮かんでるってのはどう?」

 ヒエッ――林家笑魅、生きたいとあらためて思った。

 蔵持先輩はタメ息をついて、

「ここは消しといていいんじゃないかな。ポイントは他にもあるし」

 と提案。異議なし。

「だったら、ここにいても仕方がないでがす。次、行きやしょ」

「えっと、次は……」

「おーい、ババァ、タバコくれ」

 なんとべつの客が登場。

 髪の毛が真っ赤で、胸がボインボイン。こいつはかぶいてやがるぜ。

 などと観察していると、私は襟首えりくびをつかまれて、路地裏へ引っ張り込まれました。

「さ、鞘谷先輩、首がまるでがす」

「シーッ……あれ、飴玉あめだまお姉さんじゃない?」

 あめだまおねえさん……? あ、なんか聞いたことありますね。

 駒桜こまざくらで飴玉を無料でくばる変質者だったかな。たしかに変質者っぽい。

 私たちは路地裏に隠れて、耳を澄ませました。

「はいはい、いつものだね」

「タール50のやつだぞ」

 飴玉お姉さんは、白地に赤いふたのパッケージを開けて、その場で一服。

「地球のタバコはしけてやがるなぁ。がつんとγ線が利いてるやつはねぇのかよ」

「あぁ?」

 飴玉お姉さんは、カウンターによりかかって紫煙をプカーッ。

「おい、ババァ、このへんでスペースクラフト見かけなかったか? 最新のハウロー型かぽんこつヴェスタだと思うんだが」

「あぁ?」

「チッ、モデルじゃ分かんねぇか。空にピカピカ光ってるもんが見えなかった?」

「となりの源蔵げんぞう爺さんはぁ〜いつも頭がピカピカ光ってるよ」

 ババァ、やるな。返しが冴えてやがる。

 っていうか、この巨乳のお姉さん、ヤバいんじゃないですかね。

 言動がおかしすぎる。ヤク中かなにか?

 一本目をすぐに吸い終えて、そばの灰皿にポイッ。2本目に火をつけました。

「しっかし、こんな辺境の惑星で燃料切れになるとはついてねぇよなぁ」

「ガソリンスタンドならそこのかどだよ」

「あたしが欲しいのは核融合用のチップなんだよ。分かる?」

「あぁ?」

 ババァ、耳に手をあてて聞き返すも、お姉さんは無視。

 スパーッと一服。

「この星は技術力が低過ぎて、他の船から奪うしかねぇんだよなぁ。駒桜に絶対1機あるはずなんだが、離陸地点すらつかめねぇ」

 ……あれか、宇宙人プレイか?

 どこぞの自称宇宙人女子高生(笑)と同類じゃないか。あほくさ。

 鞘谷先輩もおなじ結論に達したのか、じゃっかんあきれぎみに、

「もしかして、市立いちりつ飛瀬とびせさんの親戚かしら?」

 とつぶやいた。いやぁ、どうだろ。全然似てない。

 宇宙人女子高生は、クールな美少女(笑)って感じがするけど、飴玉お姉さんは水商売系にみえるんだよなぁ。着てる服も派手だし、髪の毛が真っ赤だし。

「涼子ちゃん、林家さん、なんか危ない雰囲気だから、とりあえず移動しない?」

 蔵持先輩に賛成。移動、移動……ん?

 ふりかえると、飴玉お姉さんがうしろに立っていた。

「そこのお嬢さんたち、飴玉はいらんかねぇ」

 ひえぇ〜退散ッ!

 

  ○

   。

    .


「ハァ……ハァ……間一髪でしたね」

 走り過ぎて死ぬかと思った。

「先輩たち、あっしを置いて行こうとしませんでしたか?」

 鞘谷先輩は汗ひとつかかずに、肩をすくめました。

「置いて行くつもりはなかったけど、林家さんが遅いんだもの」

 100メートル22秒だからね。しょうがないね。

 ところで、ここはどこでがすか? ん、あの男は――

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