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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第14局 剣道夫婦の駒桜パトロール(2015年5月31日日曜)
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132手目 恋のパンチングマシン

※ここからは林家さん視点です。

「え? 鞘谷さやたに先輩といっしょに、市内の防犯マップ作り? ……いやでがす」

 なんでそんなことしないといけないのか、笑魅えみわかんない。

 依頼の張本人、金子かねこ部長は、もうしわけなさそうに手をあわせた。

「鞘谷先輩から頼まれたのよ。だれか手伝って欲しいって」

「いや、意味わかんないでしょ。なんで防犯マップなんですか?」

 あれか、鞘谷先輩が竹刀を持って見回るのか。治安がよくなるってもんだ。

「話せば長くなるんだけど、横溝よこみぞ先輩のAO入試にボランティア歴が必要なの。鞘谷先輩が防犯マップを作って、横溝先輩が作ったことにしたいんだって」

 あのさぁ、いかんでしょ。詐欺ですよ、詐欺。

「替え玉受験でがすよ、それ」

「べつにいいんじゃないかなぁ。本人の貢献度なんてあいまいなんだし」

「まあ、ボランティアがそもそも加点になる理由もよくわからんでがすが……で、なんであっしなんでげすか? やっぱり有能だから?」

升風ますかぜ蔵持くらもち先輩も来るから、あんまり目立たない子にして欲しいって言われたの」

 コ◯すぞ。

「林家さん、お願いできないかな。ポーンさんがあとでケーキおごってくれるらしいよ」

「しょうがないですね。林家はやしや笑魅えみ、ひと肌脱ぎやしょう」

 ひと肌脱ぐというのは、肌を脱ぐんじゃなくて、肌が見えるように脱ぐんでやすよ。

 知ってました?

 

  ○

   。

    .


「というわけで、お控えなすって。手前、粗忽者そこつものゆえ、前後間違いましたる節は、まっぴらご容赦ようしゃ願います。向かいましたるおにいさんには、初のお目見えでもないと心得ます。手前、生国は日本、H島、駒桜。稼業、縁持ちまして、身の片親と発しますは、桜区さくらくに校舎を構えます、藤花ふじはな女学園じょがくえん一家、姫野ひめの咲耶さくやを継承致しますエリザベート・ポーンに従います若い者で御座います。姓は林家、名は笑魅。稼業、昨今の駆出し者で御座います。以後、万事万端、お願いなんして、ざっくばらんにお頼み申します」

 決まったな。噛まなかった。

 鞘谷先輩は、腕組みをしてじろり。

「いきなりどうしたの?」

「仁義でがす」

「よくわかんないけど……今日はよろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いいたしやす」

 ジーッ……こいつ、かなりおめかししてるな。

 デートか? デートのつもりなのか?

 一方、蔵持先輩は、ラフなかっこう。

「林家さん、よろしく。どこから回ろうか?」

 ここで私が挙手。

「はい、質問」

「ん? どうしたの?」

「こんな軽装で、防犯マップとか作れるんですか?」

 筆記用具と地図しか持ってないように見えますね。

 パソコンくらいないとムリな気がするんですが。

「大丈夫。升風のOBで、昔作ったひとがいるんだ。今回はざっと後追いして、施設が変わったところだけ書き換えていくんだよ」

 思ったよりヤバいことに手を染めてるな、これ。

 蔵持先輩、意外とリテラシーが欠如しているのでは。

「えーと、まずは……この近くにゲーセンがあるね」

 とりあえず、行くでがす。

 私たちはゲーセンへ直行。

 不良どもの溜まり場だから、あんまり行きたくないんだよなぁ。

 案の定、天堂てんどうの学生らしき男どもが大勢。

 なにかあったら逃げるため、鞘谷先輩のうしろへ移動。

 蔵持先輩は鉛筆で、マップに丸印をつけた。

「ここはそのままだね。じゃあ、次……」

「ねぇ、冬馬とうま、ちょっと遊んで行かない?」

 この女、なにを言い出したのか。常軌を逸している。

「まだ回るところはいっぱいあるよ?」

「いいじゃんいいじゃん」

 鞘谷先輩、蔵持先輩のうでをひっぱって中へ。

 置いてかないでくだせぇ。

 入店した私たちを、音ゲーの曲が包み込む。

「これ、ひさしぶりにやってみない?」

 鞘谷先輩が指差したのは……え? パンチングマシン?

 デート戦略としてまちがってるでがすよ。

 ところが、蔵持先輩はまんざらでもないようす。

「そうだね。3ヶ月ぶりくらいかな」

 おうおう、升風の男子がこんなところに出入りしてていいのか。

 蔵持先輩はお金を入れて、鞘谷先輩に先をゆずりました。紳士。

「それじゃ、いくわよぉ」

 鞘谷先輩、おおきく振りかぶって、思いっきり正拳突き。

 

 パシーン

 

 ピピピピッ 153kg

 

 え、なにこの数字は。いきなり本日のランキング入りしてるんですが。

涼子りょうこちゃん、調子悪い?」

「やだ、冬馬、私がゴリラみたいな言い方しないでよ。か弱いんだから」

 いや、この段階でゴリラだろ。いおりんが殴っても120しか出ないんだぞ。

 もしかして手抜いたのか? 手抜いたつもりなのか?

「こんどは僕だね」

 蔵持先輩、うでまくりをして、マシンのまえでポーズ。

「今日はいい数字が出る気がする……」

 深呼吸して、ドーンと一発、轟音がゲーセンに鳴り響いた。

 

 ピピピピッ 225kg

 

 えぇ……ドン引き。

 そういえば、蔵持先輩、剣道の大会だとひとが変わるって聞いたことがあるでがす。

「うーん、まあまあかな」

「さすが冬馬ッ! 日本一ッ!」

「もうちょっと出ると思ったんだけどなあ……あ、そうだ、林家さんも、どう?」

 は? なぜここで私に振る?

「あっしは遠慮するでがす」

「まだ2回分余ってるからさ。このマシン、数字は出やすいから安心していいよ」

 いや、絶対ウソだろ。前やったとき50も出なかったぞ。

 とはいえ、上下関係は大事。

「まあ、ちょっとだけなら」

 あっしが前に出ると、鞘谷先輩が肩をたたいて、耳元でひとこと。

「あんまり低いと私がゴリラにみえるから、150くらいは出しなさいよ」

 ヒエッ。

「い、いくでがす」


 パシン 

 

 ピピピピッ 28kg

 

「あれ? 計測ミスかな?」

 蔵持先輩は、表示された数値に首をかしげました。

「もう1回やってみようか」

「え、あの、女子はこんなもん……」

 ポンポンと肩たたき。ふりかえると、ひきつり笑顔の鞘谷先輩が。

「次は150出しなさいよ」

 む〜り〜む〜り〜ッ! 落語少女じゃ平均も出せないッ!

 あっしが遠慮していると、うしろから声をかけられました。

「アハッ、蔵持先輩、鞘谷先輩、こんにちは」

「こんにちは……」

 おっと、宇宙人+変態ピアノマンだ。

 これは助かったかも。話をそらすでがす。

捨神すてがみ先輩、お控えなすって。あっしの代わりにパンチングマシン、いかがですか?」

「ごめん、指を痛める可能性のあるゲームはしないんだ」

 なるほど、一理ある。

「宇宙人、もとい飛瀬とびせ先輩は、いかがでがすか?」

「え……べつにいいよ……」

 やったぜ。そそくさと順番をゆずる。

 これで鞘谷先輩をゴリラだと証明できる。Q.E.D.

「飛瀬さん、あんまり無理しないでね」

「うん……飛瀬カンナ、いきます……」


 パシリ

 

 ピピピピッ 150kg


 ……は? なんだこれ?

 呆然とする私をよそに、蔵持先輩は納得顔。

「うん、やっぱり計測ミスだったね」

 なんだ。なにが起こったんだ。こっそり話しかける。

「飛瀬先輩、どういうトリックでがすか?」

「反重力スタンガンをにぎって殴っただけ……痴漢防止用……」

 くそぉ、絶対手品だな。こんど佐伯さえき先輩に再現してもらおう。

「ところで、蔵持先輩、鞘谷先輩、なんでゲーセンに?」

 捨神先輩の質問に、蔵持先輩は事情を説明しました。

 すると、捨神先輩はじゃっかん困ったような顔で、

菅原すがわら先輩が目を光らせてたときは、かなり安全だったんですけどね」

 と答えた。菅原っていうのは、天堂の去年の卒業生でがす。

 このへんの不良の元締め。

「捨神くんは慣れてるからいいけど、飛瀬さんはちゃんとカバーしてあげてね」

「大丈夫です。いつもいっしょにいます」

「捨神くんといつもいっしょ……」

 なんかこのふたり、あやすぃ。

 捨神先輩は菅原先輩とよくここに来てたっぽいけど、宇宙人はなぜ。

 不思議がる私をよそに、蔵持先輩は移動を始めました。

「じゃ、林家さん、涼子ちゃん、行こうか」

「私も冬馬とずっといっしょッ!」

「えーい、おにが出るかが出るか、林家笑魅、突撃ィ!」

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