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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
幕間 つじーんのカウンター業務(2015年5月29日金曜)
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131手目 みんなの借り物(2)

 えー、つじ龍馬りょうまです。

 まえから思うんですが、僕の名前、仰々しいですよね。

 いや、親からもらったものなんで大切にしますが、はい。

 それでは、今日も公立図書館のカウンター業務、いってみましょう。

「こんにちは……」

「あ、飛瀬とびせさん、こんにちは」

 出ましたね。市立いちりつの謎少女。自称宇宙人。

 ちなみに僕は信じてません。常識派なもので。

「これ、貸してください……」


 『月刊ニュー』

 『宇宙人は見た! 投資マンションの危険な落し穴』

 『世界の宇宙人〜共生の時代へ』

 『UFO大図鑑』


 うわぁ……危ない。っていうか、2冊目はジャンルが違う気がするんですが。

「飛瀬さん、宇宙人なのに地球の本を借りるんですか?」

「99のウソのなかに、1つの真実があるかもしれない……」

 なんですか。それっぽいこと言いますね。

 ちょっかいをかけてみましょう。

「宇宙でも、みんな本を読むんですか?」

「え……もちろん読むよ……」

「どういう本ですか? 見せてもらえません?」

 飛瀬さんは、バッグに手を突っ込んで、ごそごそ。

「はい……」

 電子端末――いかにもそれっぽいですが、どこかの最新商品ですかね。

「3D投影……モーションキャプチャーで映像紙えいぞうしがめくれるすぐれもの……」

「どういう本をお読みなんですか?」

「今読んでるのは『これでうまくいく、異星人婚』……」

 えぇ……なんですか、それは。飛瀬さん、好きなひとでもできたんですかね。

 ストーキングしないことを祈るばかりです。

 

 ピッ ピッ ピッ ピッ

 

「はい、貸出手続きが終わりました。6月8日までです」

「ありがとうございます……」

 飛瀬さん、退館――おっと、次の利用者が。

「こんにちはッ!」

「こんにちは、福留ふくどめさん」

 いつも元気溌剌ですね。

「なにかいいことでもありましたか?」

「待ちに待った最新刊が、ついに図書館に入りましたッ!」


 『後宮でイチャイチャ秘密の新婚生活』


 こ、これは……後宮はーれむものッ!

「福留さん、こういうのが趣味だったんですか?」

「あ、いけませんか?」

「いえいえ、なんでも借りて読んでみるものです」

「ですよね。私も逆ハーレム欲しいなぁ。松平まつだいら先輩、箕辺みのべ先輩、佐伯さえき先輩、捨神すてがみ先輩あたりに囲まれて、ムフフ……」

 やっぱり僕は入ってないんですね。ま、いいですけど。

 ピッとバーコードを読んで、ガッと磁気を解除。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございますッ!」

 ひとつ気になったのですが、最新刊は買い支えたほうがいいんじゃないですかね。そのほうがクリエイターも潤って、次の作品につながるような。

 学生さんは金がない、というやつなのでしょうか――次のお客さんです。

「あれ? 天野あまの先生?」

 スーツを着たメガネの30代男性。我らが升風将棋部の顧問、天野あまの賢一けんいち先生です。

 担当は数学ですね。

「辻くんじゃないか。アルバイト?」

「はい、お姉さんのあとを継いで」

「うちは原則バイト禁止なんだけどなぁ」

 許可はありますよ。公共機関ならOKなんです。ほんとですよ。

「先生、今日は貸し出しですか?」

「いや、返却で頼むよ」


 『イチから学び直す教科指導法(数学)』

 『理数系のアクティブラーニング』

 『教育現場のLGBT』

 

 こ、これはッ! マジメすぎますッ!

 3番目は、某葛城かつらぎくん用な気もしますが……。

「先生、マジメに研究なさってるんですね」

 天野先生、照れ隠しで後頭部をぽりぽり。

「いやぁ、僕が教職取ってたときと、変わってきてるからねぇ」

 先生のヤル気をみせられて、なんかもうしわけなくなってきました。

 次回の定期考査は、1位を目指します。


 ピッ ピッ ピッ


「返却が終わりました。ありがとうございました」

「じゃ、受験勉強がんばってね」

 最後に釘を刺されました。

 それでは、こっそりと受験参考書をひらいて内職を――

「すみません」

「Entschuldigung」

 ん、この声は……顔をあげると、佐伯くんとポーンさんが立っていました。

 ふたりとも私服……図書館デート!

「辻先輩、ここで働いてるんですか?」

 佐伯くんは、なんだか物珍しそうな顔で、そうたずねました。

「いえ、アルバイトですが……おふたりは、読書ですか?」

 佐伯くんは「はい」と答えました。でも、ポーンさんはなんか違う雰囲気ですね。

 うれしそうにもじもじしてます。

「これを貸し出して欲しいんですが」


 『デートで学ぶ日本語』

 

 えぇ……これはいったい。選書基準。

 困惑する僕をよそに、佐伯くんはパラパラとページをめくりました。

「こういうのって、勉強になるんでしょうか。『ごめん、電車が遅れちゃった』」

「オホホ、気になさらないでくださいまし」

「ポーンさん、台詞と違うよ。『このまえも遅れたじゃない。今日は全部おごり』ね」

「そんな、Herrサエキにおごらせては、もうしわけございませんわ」

「『じゃあ、まずはディズ……あれ、髪切った?』」

「そうです。お気づきになられて? カリスマ美容師に切らせましたのよ。やはり特別な殿方とお会いするときは、身だしなみに気をつけませんと」

 おのれ(血涙)

 しかしッ! この辻龍馬、職務中の精神的動揺はないものと考えていただきたいッ!

 

 ピッ

 

「6月8日までです」

「ありがとうございます……あ、そうだ。僕、新しい手品を思いついたんですよ」

 佐伯くんは右手で本を持ち、左のポケットからハンカチを取り出しました。

「このハンカチをかけます。1、2、3!」

 サッとハンカチを取ると――本が消えました。

「消失トリックです」

佐伯さえき宗三むねみつさん、本の紛失ということで、事務室までおいでください」

「え?」

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