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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第12局 香子ちゃん、ボランティアに勤しむ(2015年5月23日土曜)
137/682

125手目 運命の少女

挿絵(By みてみん)


 中央に銀が進出してきた。ちょっと意外かな。

 攻めたいお年頃なのかしら。

「5六歩」

 さっさと追い返しましょう。

「4四銀」

 ん? そっち? 王様の周りが薄くなったのでは?


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6八金右」

 一回は固めておく。私は相手の持ち時間を使って、攻めの構想を練った。

 4枚銀冠vs2枚銀冠なら、なにかあるはずだ。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6四歩」

 ほうほう、6三の地点に隙間を作りますか。

 だったら攻めちゃいましょう。

「9六銀」


挿絵(By みてみん)


 玉頭戦――銀冠の厚みの違いを一番活かせる展開だ。

「そう来ましたか。5三銀」

 私は8五歩で開戦する。

 同歩、同桂ではずみがついた。

「ひねらないと受からないですね」

 そもそも受けがあるの? 端が潰れそうだけど?


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「9四歩」


挿絵(By みてみん)


 うわ、逆に突き返してきた。

 9四同歩に同銀と取るつもりかしら。それ以外には思いつかない。

「同歩」

 ウラベさんは案の定、9四同銀と取った。

「9二歩」

 歩があるから、追撃してよし。

「8五桂」

 そっち? ……あ、9一歩成、同飛の予定?

 それは9五歩で止まる気もするけど……ごちゃごちゃしてきた。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「9一歩成」

 迷ったら取る。将棋の基本。

「9八歩」


挿絵(By みてみん)


 うッ……わけわかんなくなった。

 同香? 以下、9七歩、同香、同桂成、同玉、8五桂がめんどくさい? 同銀に8九香の串刺しがあるけど、9一飛が激痛で、先手はもちそうにない。先に9二と、同玉、9六香と打つのは、9三香と打ち返すのがあるような……さすがにダメ?

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「9五歩ッ!」

 私は銀を撤退させる方針を選択した。

「同香を読んでいましたが、そちらですか」

 ウラベさんは小考。私も続きを読む。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「8四桂」

「それは疑問手ッ! 9三角ッ!」


挿絵(By みてみん)


 同玉なら9四歩、同玉、8五銀、同玉、9八香で一気に危なくなるわよ。

 7三玉と逃げても、8四角成以下の2枚換えだ。

「うまいですね。さすがは高校県竜王」

 まあ、それほどでも。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7三玉」

 そっちか。逃がすべからず。

 8四角成、同玉、9四歩(2枚換え)、9九歩成。

 香損だから、と金をもう1枚作りましょう。

「9三歩成」


挿絵(By みてみん)


 同玉とはできないはず。それは8五銀で包囲完了。

「桂馬はにがします。8九と」

 なるほど、同玉に9七桂成か。それは右が広い。

 私は自信を持って同玉と取った。

 9七桂成、9九香(これで駒損回避)、9六成桂、同香、7三玉。

「9二と引」

 さあ、ここからと金攻めよ。

 6三玉、8二と寄、6二金、8三と寄。

「キリがありません。9七銀」


挿絵(By みてみん)


 プレッシャーをかけてきた。

 さすがにこれは逃げておく。7九玉。

「8七歩」

 追撃か……どうしましょ。放置は、8八歩成じゃなくて3九角とされそう。

 さすがにそれはもたない。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「8七金」

 私は歩を払った。ちょっと時間に追われた感。

「8五香」

 んー、痛いところに置かれた。

 9七金、8八角、6九玉、9七角成。


挿絵(By みてみん)


 あ……れ……?

「お姉さん、これ、終わってませんか?」

「あ、うん……負けました」

「ありがとうございました」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「キョドちゃん、このひとほんとに裏見さんなのかな?」

「はわわ、もしかして影武者さん?」

 ツンツンヘアとキョウドウさんの会話。

 聞こえとるんじゃッ! 今のはノーカン! ノーカン!

「もう1局」

「やまやまですが、かおるちゃんが待っているので」

「そうですッ! 交代ッ!」

 ツンツンヘアの女の子は、ウラベさんをどかして席についた。

 えぇ……なぜ中学生相手に連敗を……そこまで棋力が落ちてるのかなぁ。

 気合いを入れなおす。

「お姉さん、じゃんけん」

「ぽん」

 私の先手。

「お姉さん、じゃんけん強いですね」

 なんですか、それは? 嫌味ですか?

「じゃ、30秒でいいわね。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 7六歩、8四歩――居飛車党か。

「6八銀」

 矢倉で潰す。

 3四歩、7七銀、6二銀、2六歩。

「加藤流ですね。受けて立ちますよぉ。3二銀」


挿絵(By みてみん)


 早囲いっぽい動き。

「かたちを決めてちょうだい。2五歩」

「はいはい、3三銀」

 ハイは一回ッ! 4八銀、3二金、5六歩、5四歩、7八金、4一玉。

 後手から急戦はムリよね。こちらに主導権がありそう。

 6九玉、5二金、3六歩、4四歩――ここで私は手を止めた。

「……4六歩」


挿絵(By みてみん)


 この手に、相手の少女はイヤそうな表情を浮かべた。

「右四間ですか? 舐められてるような?」

 べつに舐めてはいない。定跡勝負になるのを避けただけだ。

「私は普通に指します。4三金右」

 4七銀、6四歩、3七桂、6三銀、6八銀。

「そういえば、名前を聞いてなかったわね」

「薫です。8五歩」

 下の名前のような気がするけど……ま、いっか。

 ただ、どっかで見た顔なのよね。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4五歩」

 はい、開戦。

 同歩、同桂、4四銀、4六銀、5五歩。


挿絵(By みてみん)


 カオルさんは、即座に反撃してきた。

 こんなのじゃ日和ひよらないわよ。

「同歩ッ!」

 8六歩、同歩、同飛、4八飛、5六歩、5八金。

 んー、いい感じなんじゃない。後手はそんなに手がないでしょ。

「ちょっとマズったかも……」

 カオルさんは、腕組みをして考え込んだ。

「はわわ、薫ちゃんが押されてます。やっぱり影武者さんじゃないんですねぇ」

 当たり前でしょッ! なんで一般市民に影武者がいるんですかッ!

「先手が押すも押されるも、運命よ」

 10代から80代の男または女みたいな解説をするなっちゅーにッ!

 香子きょうこちゃん、無礼な中学生に怒り爆発。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ


挿絵(By みてみん)


 ほぉ……外野が騒いでいるのとはうらはらに、冷静ね。

「8七歩」

 私も冷静に受ける。

 8二飛、4七金、7五歩、5六金。

 まずは位を完全に確保。

 この子たちの攻めっ気からして、5二飛もあるかと思ったけど、さすがにないか。

「7六歩です」


挿絵(By みてみん)


 攻めて来るのに変わりはないのよね。

 6九玉のまま戦うか、一回7九玉と入るか、ちょっと悩ましい。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「2四歩」

 7九玉はチャンスを逸すると判断した。このまま攻める。

「めちゃくちゃ悪いとは思わない……同歩」

 私は3五歩と畳み掛けた。

「あーッ……悪い気がしてきた……」

 さっきから自分の形勢判断を口にしすぎでしょ。

 三味線認定しますよ。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「4二歩」

 これは弱気。私は3四歩と取り込む。

 3六歩、4七飛、3四金、2三歩、同金、3五歩。

「このままじゃ潰れるんで、めますね。3七歩成」


挿絵(By みてみん)


 いくら矢倉でも、飛車を渡せる状況じゃないわね。

「同銀」

 いったん撤退する。

「ふぅ、3五金。ひと息つけた」

 甘い――私は4三歩と打つ。

「あ、そっか……同歩だと5三桂成に同銀って取れないですね」

 なかなか読みが速くてよろしい。

「王様で取りに行きます。3二玉」

 それは3三歩が効くのでは?

 私は29秒まで読んで、5四歩、同銀を入れてから3三歩と叩いた。

 同金、同桂成、同銀、4六金。


挿絵(By みてみん)


 これが機敏と見ました。同金なら同飛〜7六飛とスライドする。

「へぇ、そういう回り方があるんですか。勉強になります。同金」

 もっと褒めていいのよ。同飛。

「でも、これでこっちも落ち着きました。4三銀」

 7六飛、7三歩、7二歩、6五金。

 んッ……これは読んでなかった。露骨な飛車当て。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「2六飛」

「反撃、7六桂」


挿絵(By みてみん)


 金を土台に、むりやり両取りをかけてきた。強引な手順。

 とはいえ、これは逃げざるをえない。私は7七角と上がった。

 6八桂成、同角、3四銀直(しまった、角筋が開いた)、7七桂、5七歩と進む。

 金を取るか、5筋を受けるかで悩ましくなった。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「6五桂」

 私は金を回収した。当然のごとく5八銀が飛んでくる。

「7九玉」

「挟撃形になったんじゃないですか? 9九角成」

 たしかに、こっちが不利になった気がする。

 2六飛がヌルかった? ……今は反省してる場合じゃない。

 とりあえず7七歩と打って受けを――

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「って、2歩じゃないッ! 7七桂ッ!」

「それにはこれですッ!」


 パシリ!

 

挿絵(By みてみん)


 あッ……終わった。同金に8七飛成だ。

「ま、負けました」

「ありがとうございました」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………3連敗しちゃった。

「3三同銀の瞬間、4二歩成を入れたほうが良くなかったですか?」

「あ、うーん……そうだったかも」

 私は局面をもどした。


【検討図】

挿絵(By みてみん)


「4二同飛は同飛成、同銀、2二角成?」

 私は手を動かさずにたずねた。

 カオルさんは、具体的な案があったわけではないようで、小考した。

「……同玉に4四角の両取りで、なんとかなりませんか?」

「3三角だと? 7二飛は4九飛で先に角を抜かれるわよ?」

「すぐに3三角成で引っ張り出せばよくないですか?」

「それなら4四角とせずに7二飛と打って、3九飛、5九歩、3七飛成、4二飛成、3二歩、4四角で迫ったほうがよくないかしら。詰みはないかもしれないけど」

「たしかに……4四角は4九飛が常に残って損ですね」

 カオルさんは腕組みをして、天井を見上げた。

「すくなくとも、本譜よりはこっちがかなり苦しいです」

 なんとも言えない。先手は6九玉の位置が飛車交換に向いていないからだ。

 とはいえ、カオルさんに指摘されてみると、4二歩成はアリだったかも。

「それにしても、あなたたち強いわね」

 私が褒めると、カオルさんは後頭部をかいて照れた。

「えへへ、そうですか。まあ、お兄ちゃんよりは強いかも」

「お兄さんがいるんだ……ん?」

 私はカオルさんの顔をじっと見つめた。

 キリっとして、それでいてなんか人が良さそうなこの顔……じーッ。

「ああッ!」

「うわッ、びっくりした」

「あなた、箕辺みのべくんの妹さんでしょッ!?」

場所:藤花女学園の視聴覚室

先手:裏見 香子

後手:卜部 くるみ

戦型:後手ダイレクト向かい飛車


▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲7六歩 △2二飛

▲3三角成 △同 桂 ▲9六歩 △4二銀 ▲9五歩 △6二玉

▲6八玉 △7二玉 ▲7八銀 △8二玉 ▲7九玉 △7二銀

▲5八金右 △5四歩 ▲4八銀 △2一飛 ▲7七桂 △5三銀

▲5九銀 △8四歩 ▲8六歩 △8三銀 ▲8七銀 △7二金

▲7八金 △7四歩 ▲8八玉 △7三桂 ▲6六歩 △6四銀

▲6八銀 △4二金 ▲6七銀 △5五銀 ▲5六歩 △4四銀

▲6八金右 △6四歩 ▲9六銀 △5三銀 ▲8五歩 △同 歩

▲同 桂 △9四歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲9二歩 △8五桂

▲9一歩成 △9八歩 ▲9五歩 △8四桂 ▲9三角 △7三玉

▲8四角成 △同 玉 ▲9四歩 △9九歩成 ▲9三歩成 △8九と

▲同 玉 △9七桂成 ▲9九香 △9六成桂 ▲同 香 △7三玉

▲9二と引 △6三玉 ▲8二と寄 △6二金 ▲8三と寄 △9七銀

▲7九玉 △8七歩 ▲同 金 △8五香 ▲9七金 △8八角

▲6九玉 △9七角成


まで86手で卜部の勝ち



場所:藤花女学園の視聴覚室

先手:裏見 香子

後手:箕辺 薫

戦型:矢倉先手右四間


▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七銀 △6二銀

▲2六歩 △3二銀 ▲2五歩 △3三銀 ▲4八銀 △3二金

▲5六歩 △5四歩 ▲7八金 △4一玉 ▲6九玉 △5二金

▲3六歩 △4四歩 ▲4六歩 △4三金右 ▲4七銀 △6四歩

▲3七桂 △6三銀 ▲6八銀 △8五歩 ▲4五歩 △同 歩

▲同 桂 △4四銀 ▲4六銀 △5五歩 ▲同 歩 △8六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲4八飛 △5六歩 ▲5八金 △7四歩

▲8七歩 △8二飛 ▲4七金 △7五歩 ▲5六金 △7六歩

▲2四歩 △同 歩 ▲3五歩 △4二歩 ▲3四歩 △3六歩

▲4七飛 △3四金 ▲2三歩 △同 金 ▲3五歩 △3七歩成

▲同 銀 △3五金 ▲4三歩 △3二玉 ▲5四歩 △同 銀

▲3三歩 △同 金 ▲同桂成 △同 銀 ▲4六金 △同 金

▲同 飛 △4三銀 ▲7六飛 △7三歩 ▲7二歩 △6五金

▲2六飛 △7六桂 ▲7七角 △6八桂成 ▲同 角 △3四銀直

▲7七桂 △5七歩 ▲6五桂 △5八銀 ▲7九玉 △9九角成

▲7七桂 △6七銀成


まで92手で箕辺(妹)の勝ち

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