119手目 表彰式・閉会式・打ち上げ
※ここからは、香子ちゃん視点です。
いやあ、疲れた……私は、大きく背伸びをする。
各校の参加者は、運営席を囲むかたちで、半円をつくっていた。
となりの来島さんに、声をかけられた。
「裏見先輩、表彰式は、だれが出ればいいんですか?」
「部長の来島さんで、いいんじゃない? 飛瀬さんは全勝賞があるし」
ひとりで2回出る必要はないでしょう。
来島さんと飛瀬さんも了承して、賞状の分担が決まった。
「それでは、表彰式を開催します」
会長の箕辺くんと副会長の葛城くんが、まえに出る。
葛城くん、一時気絶してたらしいけど、大丈夫かしら。男の娘はデリケート?
「清心の代表者は、前に出てください」
古久根くんが登場。佐伯くんじゃないんだ。
箕辺くんは、賞状をとりだした。
「2015年度、春季団体戦、男子の部優勝、清心高校。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
受け渡しがあって、拍手。
「なにか、ひとこと」
箕辺くんは、古久根くんにコメントを求めた。
古久根くんは、頬を掻いて、
「うちはずっと優勝から遠かったので、あんまり実感がないのですが……1年生ふたりと主将の佐伯くんが、よくがんばってくれたと思います」
とコメントした。あっさり風味。
もう一度拍手があって、今度は女子の部に移る。来島さんが前へ。
「2015年度、春季団体戦、女子の部優勝、駒桜市立高校。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
来島さんが受け取ったところで、拍手ぅ。
「なにか、ひとこと」
来島さんは、私たちのほうへ向きなおる。
「今年度は、戦力的にむずかしいかな、と思っていましたが、こうして優勝することができて、とてもうれしいです。チームワークのおかげかな、と感じています。県大会では1回戦負けにならないように、またがんばっていきたいです」
パチパチ。
優勝チームの表彰が終わって、全勝賞へ。
司会は、箕辺くんから葛城くんにタッチした。
「それでは、全勝賞を発表しまぁす。今回の全勝賞は、清心高校の古谷くん、駒桜市立高校の飛瀬さん、藤花女学園の春日川さん、天堂高校の捨神くんと不破さんでぇす。ギフト券をプレゼントしますので、まえに出てくださぁい」
おたがいにゆずりあって、名前を呼ばれた順に横一列。
まずは、古谷くんがギフトカードを受け取る。
「おめでとうございまぁす」
「ありがとうございます」
「コメントをどうぞぉ」
古谷くんは、こちらへ振り返って、にっこり。
「個人的な勝ち負けはともかく、チームに貢献できてよかったです」
次に、飛瀬さん。
「おめでとうございまぁす」
「ありがとうございます……」
「コメントをよろしくぅ」
「2回連続でもらえて、とてもうれしいです……宇宙船のなかに飾っておきます……」
ギャラリーが爆笑。なんで宇宙人ネタを入れるかなあ。
次に、春日川さん。視覚障害者用のステッキをにぎって、一歩前に出た。
「おめでとうございまぁす」
「ありがとうございます」
若干、受け渡しに手間取る。
「コメントをお願いしまぁす」
「そうですね……私は今回、やや楽をさせてもらった印象です。チームが勝てなかったのは残念なので、秋にむけての励みにしたいと思います」
当たりが楽だったかしら? 私は、ホワイトボードの対戦表を確認した。
森屋、小島、押井、葉山、蔵持……うーん、これは5連勝でもおかしくない。
次に、捨神くん。
「おめでとうございまぁす」
「ありがとうございます」
「コメントをどうぞぉ」
捨神くんは、こちらに向かって、いつものへらへら笑い。
「今年は、元気のいい1年生と4回も当たっちゃって、結構キツかったです」
対戦表によると、曲田、福留、林家、田中、五見……1年生を皆殺し。
今回は全体的に、戦力が端に偏ってたみたいね。
最後に、不破さん。あいかわらずスティック付きの飴玉を頬張っていた。
「おめでとうございまぁす」
「あざす」
「コメントをよろしくねぇ」
「んー、もうちょっと同学年と当たりたかったかな。特に笑魅あたりを凹して」
「えぇ……なんで私が指名されるんでがすか……」
なんとも不破さんらしい発言で、表彰式は幕を閉じた。
「春季の公式イベントは、これで終了です。なにか連絡事項はありますか?」
箕辺くんは、一同を見渡した。
「ありませんね。以上で、2015年度春季団体戦を終わります。お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
全員で椅子やテーブルをかたづけて、会場を撤収。
そのまま、打ち上げに突入した。近所のファミレスに移動する。
大人数で、店員さんは目を白黒させていた。てんやわんやだ。
市立がまとまって着席すると、そこへ各校の主将が集まった。うちに会長の箕辺くんがいるから、自動的に幹事席になってしまったようだ。私は松平のとなりに座って、3年生同士で固まる。ちょっと窮屈になって、福留さん、馬下さん、赤井さんの1年生陣営は、藤女の1年生と合流しに、べつの席へ移動した。仲がよろしいことで。
結局、私が座っている大テーブルのメンバーは、私、松平、飛瀬さん、捨神くん、来島さん、箕辺くん、葛城くん、葉山さん、ポーンさん、佐伯くん、大場さんになった。並びもこの順。私たちは適当に注文して、ドリンクを飲む。
第一声をあげたのは、箕辺くんだった。
「みんな、お疲れさま。なんだかんだで、無事終わってよかったな」
箕辺くんは、全員の協力に感謝した。
「まだすこし早いとは思うんだが、夏のイベントの準備をしたい。7月になると期末で身動きがとれなくなりそうだから、できれば6月がいいんだが、どうだ?」
「ボクはそれでオッケーだよぉ」
葛城くん以外のメンバーも了解した。
私は幹事じゃないから、蚊帳の外。松平とおしゃべりする。
「松平は、県大会に来るの?」
「裏見は?」
質問を質問で返すなというに。
「私は、まだ決めてないわ」
「裏見がいないと、1回戦負け濃厚だと思うけどな」
なかなか痛いところを突いてくる。でも、今回の団体戦で、私は意見が変わった。
「そうでもないんじゃない? 飛瀬さん、来島さん、馬下さんなら、強豪校と当たらない限り、1回戦は突破できるような気がする」
「まあ……最終的には当たり次第だからな」
そうそう。初戦でソールズベリーあたりを引いたら、それで終わりになってしまう。
逆に言えば、そこまで強くないブロック代表と当たる可能性もあるってこと。
「でも、最後の県大会だろう?」
「そこなんだけど……日日杯のゲストに呼ばれるか、囃子原くんのイベントに呼ばれるかしたら、そっちに行こうと思ってるのよね。さすがに、それプラス県大会も出場は、キツいかなあ」
勉強する時間がない。日日杯のゲストは、おそらく司会とか解説だろう。だったら、準備して行く必要はない。囃子原くんのイベントはお祭りだろうし、これも無問題。
「それもひとつの選択肢だな」
なんとなくしんみりした空気になったところで、料理が運ばれてきた。
私は、たらこスパゲティにフォークを入れる。松平はハンバーグステーキ。
話題は今回の将棋から、だんだん日常的なものへ移っていった。市内や校内の面白い話になって、葛城くんがふと、ナイフとフォークをとめた。
「そう言えば、町中で変なお姉さんが出るって噂、聞いたことあるぅ?」
みんなの視線が集まる。箕辺くんは「なんだそれ?」と尋ねた。
「あのねぇ、飴玉お姉さんっていう、変な女の人が出るらしいよぉ」
「飴玉お姉さん?」
「髪の真っ赤なお姉さんが現れて、飴をくれるんだってぇ」
そのとき、メンバーの何人かが、思い当たるような顔をした。
でも、だれもなにも言わなかった。
「ふえぇ……大場さん、会ったことあるのぉ?」
「す、角ちゃん、会ったことないっス」
……あやしい。
葛城くんは、敢えて追及しなかった。というか、ポーンさんが話題を変えた。
「今週の21日に、Frauウチキがテレビに出演なさいますのよ」
「21日って言えば、名人戦第4局の2日目だよね」
なにもかもが将棋基準な捨神くん。
「なんの番組っスか?」
「『アイドル登竜門』とおっしゃってましたかしら」
分からん。とりあえず、ゴールデンじゃないのは確か。
唯一、葉山さんが知っていた。さすが新聞部。
「関西のローカル番組だね。若手の女性アイドルがふたり出て、勝負する番組」
「勝負って、なんっスか? 殴り合うんっスか?」
放送禁止になるわよ。
「んー、そのときどきで決めるんじゃなかったかな。私が観たときは、有名なスマホゲーで勝負してたよ。あと、一輪車とかのスポーツ系もあったかな」
「Frauウチキは、将棋を指すとおっしゃってましたが」
これには、葉山さんもびっくり。
「え? 将棋対決なの? ……だれと?」
「Hmm……そこまでは存じ上げませんわ」
ってことは、将棋を指せるアイドルが、もうひとりいるわけよね。
私はアイドルにくわしくないから、なんとも言えなかった。
「なんだか面白そうっスね。何時にあるんっスか?」
「夜の11時」
おっそ。完全に深夜枠。学校は大丈夫なのかしら。
「そんな時間に未成年を働かせて、いいんっスかね……角ちゃんもう寝てるっス」
なんだか、急に現実的な話になった。
「勝負で思い出したけど、飛瀬と佐伯は、マジックしないのか?」
箕辺くんが、また話題を変えた。勝負つながり。
「そうだね。打ち上げのときは、毎回やってる気がするね」
佐伯くんはそう言うと、空っぽになったグラスにハンカチをかぶせた。
「今からこのグラスをコーラでいっぱいにします」
佐伯くんはスプーンの柄で、ハンカチ越しにグラスをたたいた。
パッとハンカチをのけると、コーラが並々注がれている。
「ど、どういうトリックなんっスか?」
大場さんは、目がハテナマークに。私も首をかしげる。
「それじゃあ、今度は飛瀬さんの番だよ」
佐伯くんったら、飛瀬さんをライバル視してるわね、これ。
「うーん……私のはスペーステクノロジーなんだけど……」
いつもの前置き。飛瀬さんは、鞄から試験管のようなものを取り出す。
「今からこれを使って、グラスのコーラを水に変えます」
飛瀬さんは佐伯くんのグラスを受け取って、そのうえに試験管を傾けた。
でも、試験管にはなにも入っていないようにみえる。
「なにも起きないっスよ?」
「ちょっと時間がかかるかな……」
10秒ほど待っていると、コーラの色が、どんどん薄くなり始めた。
え? なにこれ? ……1分くらいで、コーラは透明になった。
「脱色剤っスか?」
「ナノマシーンで添加物を分解してる……」
ポカーンとする私たちをよそに、佐伯くんは拍手。
「すごいや、またトリックが分からなかったよ」
「うん……トリックはないから……」
「猫山さんの手品は分かるんだけど、飛瀬さんのはなんか次元が違うね」
佐伯くんは、ほんとうに感心しているようだ。
箕辺くんは、猫山さんも手品をするのか、と尋ねた。
「一度見せてもらったよ。テクニックは凄かったけど、タネは簡単だったかな」
「へぇ、猫山さんって、手品やるんだな。今度見せてもらおう」
確かに、意外……いや、そうでもないか。商店街の大会で、手品をされたことがある。振り駒で、歩を5枚ともオモテにするマジックだ。
駒桜市って、ほんとに変なひとがいっぱいね。なにか、起こりそうな予感。
ここまでお読みいただき、まことにありがとうございました。
前作・本作を通じて最長話数の団体戦が終了です。
以降は、イベント回を長期連載する予定になっています。
もちろん、将棋の描写もありますので、お楽しみください。
更新頻度なのですが、新作なども書き始めましたので、
週2(月→金)にしたいと考えています。
とりあえず、今週金曜で藤花のおまけ回(金子さんメインの話)、
来週月曜からは内木さんのテレビ番組になります。
その後は香子ちゃんの四国遠征編が始まる予定です。
今後ともよろしくお願い致します。




