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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第10局 熱血!春の団体戦(2日目・2015年5月17日日曜)
131/682

119手目 表彰式・閉会式・打ち上げ

※ここからは、香子きょうこちゃん視点です。

 いやあ、疲れた……私は、大きく背伸びをする。

 各校の参加者は、運営席を囲むかたちで、半円をつくっていた。

 となりの来島(くるしま)さんに、声をかけられた。

裏見(うらみ)先輩、表彰式は、だれが出ればいいんですか?」

「部長の来島さんで、いいんじゃない? 飛瀬(とびせ)さんは全勝賞があるし」

 ひとりで2回出る必要はないでしょう。

 来島さんと飛瀬さんも了承して、賞状の分担が決まった。

「それでは、表彰式を開催します」

 会長の箕辺(みのべ)くんと副会長の葛城(かつらぎ)くんが、まえに出る。

 葛城くん、一時気絶してたらしいけど、大丈夫かしら。男の娘はデリケート?

清心(せいしん)の代表者は、前に出てください」

 古久根(こくね)くんが登場。佐伯(さえき)くんじゃないんだ。

 箕辺くんは、賞状をとりだした。

「2015年度、春季団体戦、男子の部優勝、清心高校。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 受け渡しがあって、拍手。

「なにか、ひとこと」

 箕辺くんは、古久根くんにコメントを求めた。

 古久根くんは、頬を掻いて、

「うちはずっと優勝から遠かったので、あんまり実感がないのですが……1年生ふたりと主将の佐伯くんが、よくがんばってくれたと思います」

 とコメントした。あっさり風味。

 もう一度拍手があって、今度は女子の部に移る。来島さんが前へ。

「2015年度、春季団体戦、女子の部優勝、駒桜(こまざくら)市立(いちりつ)高校。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 来島さんが受け取ったところで、拍手ぅ。

「なにか、ひとこと」

 来島さんは、私たちのほうへ向きなおる。

「今年度は、戦力的にむずかしいかな、と思っていましたが、こうして優勝することができて、とてもうれしいです。チームワークのおかげかな、と感じています。県大会では1回戦負けにならないように、またがんばっていきたいです」

 パチパチ。

 優勝チームの表彰が終わって、全勝賞へ。

 司会は、箕辺くんから葛城くんにタッチした。

「それでは、全勝賞を発表しまぁす。今回の全勝賞は、清心高校の古谷(ふるや)くん、駒桜市立高校の飛瀬さん、藤花(ふじはな)女学園の春日川(かすがかわ)さん、天堂(てんどう)高校の捨神(すてがみ)くんと不破(ふわ)さんでぇす。ギフト券をプレゼントしますので、まえに出てくださぁい」

 おたがいにゆずりあって、名前を呼ばれた順に横一列。

 まずは、古谷くんがギフトカードを受け取る。

「おめでとうございまぁす」

「ありがとうございます」

「コメントをどうぞぉ」

 古谷くんは、こちらへ振り返って、にっこり。

「個人的な勝ち負けはともかく、チームに貢献できてよかったです」

 次に、飛瀬さん。

「おめでとうございまぁす」

「ありがとうございます……」

「コメントをよろしくぅ」

「2回連続でもらえて、とてもうれしいです……宇宙船のなかに飾っておきます……」

 ギャラリーが爆笑。なんで宇宙人ネタを入れるかなあ。

 次に、春日川さん。視覚障害者用のステッキをにぎって、一歩前に出た。

「おめでとうございまぁす」

「ありがとうございます」

 若干、受け渡しに手間取る。

「コメントをお願いしまぁす」

「そうですね……私は今回、やや楽をさせてもらった印象です。チームが勝てなかったのは残念なので、秋にむけての励みにしたいと思います」

 当たりが楽だったかしら? 私は、ホワイトボードの対戦表を確認した。

 森屋(もりや)小島(こじま)押井(おしい)葉山(はやま)蔵持(くらもち)……うーん、これは5連勝でもおかしくない。

 次に、捨神くん。

「おめでとうございまぁす」

「ありがとうございます」

「コメントをどうぞぉ」

 捨神くんは、こちらに向かって、いつものへらへら笑い。

「今年は、元気のいい1年生と4回も当たっちゃって、結構キツかったです」

 対戦表によると、曲田(まがた)福留(ふくどめ)林家(はやしや)田中(たなか)五見(いつみ)……1年生を皆殺し。

 今回は全体的に、戦力が端に偏ってたみたいね。

 最後に、不破さん。あいかわらずスティック付きの飴玉を頬張っていた。

「おめでとうございまぁす」

「あざす」

「コメントをよろしくねぇ」

「んー、もうちょっと同学年と当たりたかったかな。特に笑魅(えみ)あたりを凹して」

「えぇ……なんで私が指名されるんでがすか……」

 なんとも不破さんらしい発言で、表彰式は幕を閉じた。

「春季の公式イベントは、これで終了です。なにか連絡事項はありますか?」

 箕辺くんは、一同を見渡した。

「ありませんね。以上で、2015年度春季団体戦を終わります。お疲れさまでした」

「お疲れさまでした」

 全員で椅子やテーブルをかたづけて、会場を撤収。

 そのまま、打ち上げに突入した。近所のファミレスに移動する。

 大人数で、店員さんは目を白黒させていた。てんやわんやだ。

 市立がまとまって着席すると、そこへ各校の主将が集まった。うちに会長の箕辺くんがいるから、自動的に幹事席になってしまったようだ。私は松平(まつだいら)のとなりに座って、3年生同士で固まる。ちょっと窮屈になって、福留さん、馬下(こまさげ)さん、赤井(あかい)さんの1年生陣営は、藤女(ふじじょ)の1年生と合流しに、べつの席へ移動した。仲がよろしいことで。

 結局、私が座っている大テーブルのメンバーは、私、松平、飛瀬さん、捨神くん、来島さん、箕辺くん、葛城くん、葉山さん、ポーンさん、佐伯くん、大場(おおば)さんになった。並びもこの順。私たちは適当に注文して、ドリンクを飲む。

 第一声をあげたのは、箕辺くんだった。

「みんな、お疲れさま。なんだかんだで、無事終わってよかったな」

 箕辺くんは、全員の協力に感謝した。

「まだすこし早いとは思うんだが、夏のイベントの準備をしたい。7月になると期末で身動きがとれなくなりそうだから、できれば6月がいいんだが、どうだ?」

「ボクはそれでオッケーだよぉ」

 葛城くん以外のメンバーも了解した。

 私は幹事じゃないから、蚊帳の外。松平とおしゃべりする。

「松平は、県大会に来るの?」

「裏見は?」

 質問を質問で返すなというに。

「私は、まだ決めてないわ」

「裏見がいないと、1回戦負け濃厚だと思うけどな」

 なかなか痛いところを突いてくる。でも、今回の団体戦で、私は意見が変わった。

「そうでもないんじゃない? 飛瀬さん、来島さん、馬下さんなら、強豪校と当たらない限り、1回戦は突破できるような気がする」

「まあ……最終的には当たり次第だからな」

 そうそう。初戦でソールズベリーあたりを引いたら、それで終わりになってしまう。

 逆に言えば、そこまで強くないブロック代表と当たる可能性もあるってこと。

「でも、最後の県大会だろう?」

「そこなんだけど……日日(にちにち)杯のゲストに呼ばれるか、囃子原(はやしばら)くんのイベントに呼ばれるかしたら、そっちに行こうと思ってるのよね。さすがに、それプラス県大会も出場は、キツいかなあ」

 勉強する時間がない。日日杯のゲストは、おそらく司会とか解説だろう。だったら、準備して行く必要はない。囃子原くんのイベントはお祭りだろうし、これも無問題。

「それもひとつの選択肢だな」

 なんとなくしんみりした空気になったところで、料理が運ばれてきた。

 私は、たらこスパゲティにフォークを入れる。松平はハンバーグステーキ。

 話題は今回の将棋から、だんだん日常的なものへ移っていった。市内や校内の面白い話になって、葛城くんがふと、ナイフとフォークをとめた。

「そう言えば、町中で変なお姉さんが出るって噂、聞いたことあるぅ?」

 みんなの視線が集まる。箕辺くんは「なんだそれ?」と尋ねた。

「あのねぇ、飴玉お姉さんっていう、変な女の人が出るらしいよぉ」

「飴玉お姉さん?」

「髪の真っ赤なお姉さんが現れて、飴をくれるんだってぇ」

 そのとき、メンバーの何人かが、思い当たるような顔をした。

 でも、だれもなにも言わなかった。

「ふえぇ……大場さん、会ったことあるのぉ?」

「す、(すみ)ちゃん、会ったことないっス」

 ……あやしい。

 葛城くんは、敢えて追及しなかった。というか、ポーンさんが話題を変えた。

「今週の21日に、Frauウチキがテレビに出演なさいますのよ」

「21日って言えば、名人戦第4局の2日目だよね」

 なにもかもが将棋基準な捨神くん。

「なんの番組っスか?」

「『アイドル登竜門』とおっしゃってましたかしら」

 分からん。とりあえず、ゴールデンじゃないのは確か。

 唯一、葉山さんが知っていた。さすが新聞部。

「関西のローカル番組だね。若手の女性アイドルがふたり出て、勝負する番組」

「勝負って、なんっスか? 殴り合うんっスか?」

 放送禁止になるわよ。

「んー、そのときどきで決めるんじゃなかったかな。私が観たときは、有名なスマホゲーで勝負してたよ。あと、一輪車とかのスポーツ系もあったかな」

「Frauウチキは、将棋を指すとおっしゃってましたが」

 これには、葉山さんもびっくり。

「え? 将棋対決なの? ……だれと?」

「Hmm……そこまでは存じ上げませんわ」

 ってことは、将棋を指せるアイドルが、もうひとりいるわけよね。

 私はアイドルにくわしくないから、なんとも言えなかった。

「なんだか面白そうっスね。何時にあるんっスか?」

「夜の11時」

 おっそ。完全に深夜枠。学校は大丈夫なのかしら。

「そんな時間に未成年を働かせて、いいんっスかね……角ちゃんもう寝てるっス」

 なんだか、急に現実的な話になった。

「勝負で思い出したけど、飛瀬と佐伯は、マジックしないのか?」

 箕辺くんが、また話題を変えた。勝負つながり。

「そうだね。打ち上げのときは、毎回やってる気がするね」

 佐伯くんはそう言うと、空っぽになったグラスにハンカチをかぶせた。

「今からこのグラスをコーラでいっぱいにします」

 佐伯くんはスプーンの柄で、ハンカチ越しにグラスをたたいた。

 パッとハンカチをのけると、コーラが並々注がれている。

「ど、どういうトリックなんっスか?」

 大場さんは、目がハテナマークに。私も首をかしげる。

「それじゃあ、今度は飛瀬さんの番だよ」

 佐伯くんったら、飛瀬さんをライバル視してるわね、これ。

「うーん……私のはスペーステクノロジーなんだけど……」

 いつもの前置き。飛瀬さんは、鞄から試験管のようなものを取り出す。

「今からこれを使って、グラスのコーラを水に変えます」

 飛瀬さんは佐伯くんのグラスを受け取って、そのうえに試験管を傾けた。

 でも、試験管にはなにも入っていないようにみえる。

「なにも起きないっスよ?」

「ちょっと時間がかかるかな……」

 10秒ほど待っていると、コーラの色が、どんどん薄くなり始めた。

 え? なにこれ? ……1分くらいで、コーラは透明になった。

「脱色剤っスか?」

「ナノマシーンで添加物を分解してる……」

 ポカーンとする私たちをよそに、佐伯くんは拍手。

「すごいや、またトリックが分からなかったよ」

「うん……トリックはないから……」

猫山(ねこやま)さんの手品は分かるんだけど、飛瀬さんのはなんか次元が違うね」

 佐伯くんは、ほんとうに感心しているようだ。

 箕辺くんは、猫山さんも手品をするのか、と尋ねた。

「一度見せてもらったよ。テクニックは凄かったけど、タネは簡単だったかな」

「へぇ、猫山さんって、手品やるんだな。今度見せてもらおう」

 確かに、意外……いや、そうでもないか。商店街の大会で、手品をされたことがある。振り駒で、歩を5枚ともオモテにするマジックだ。

 駒桜市って、ほんとに変なひとがいっぱいね。なにか、起こりそうな予感。

ここまでお読みいただき、まことにありがとうございました。

前作・本作を通じて最長話数の団体戦が終了です。


以降は、イベント回を長期連載する予定になっています。

もちろん、将棋の描写もありますので、お楽しみください。


更新頻度なのですが、新作なども書き始めましたので、

週2(月→金)にしたいと考えています。

とりあえず、今週金曜で藤花のおまけ回(金子さんメインの話)、

来週月曜からは内木さんのテレビ番組になります。

その後は香子ちゃんの四国遠征編が始まる予定です。


今後ともよろしくお願い致します。

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