118手目 5回戦 佐伯〔清心〕vs飛瀬〔市立〕(2)
この局面……2七銀はあるのか……。
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
同金は4五角が飛車金両取り……この見落としはしないはず……飛車を動かすかな……7六飛とか……あ、7六飛は、7四歩で止められちゃうのか……6六飛……これも6四飛に6三歩と止める手があるから、冴えない……5八飛かな……3八銀成、同玉……最後のところで同飛はないよね……玉飛接近形になっちゃうし……。
私は、攻めの継続手をさがした。パッと見、4五桂なんだよね……さっきまでなら3六香で反撃されちゃうけど……今は3六香、3七桂成が王手だから、同桂、3三歩とガードすることができる……4五桂、5三銀の攻め合いは、すぐ3七桂成とせずに、5七歩と叩いてから、4二銀成、同金、5七金……ん……ちがうか……そこで3六香……。
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
これが王手で、私の持ち駒は金銀角……うまく止められない……2二玉と逃げて、5九飛に5八金、同金、同歩成、同飛、6九角とでも打てば、私の勝ちかな……いや、そうでもない……5六飛と浮いて、3七桂成、同玉のあと、先手には5三歩成、同銀、4一龍の必殺技がある……同金なら3三金以下の詰み……ただ、5三歩成のまえに5五銀打もあるし、そこまで脅威でもないのかな……?
私は悩んだ。歩切れのあとの3六香が気になる。
「2七銀……」
佐伯くんは、私の手にこくりとうなずいて、5八飛と引いた。
「3八銀成……」
「同玉」
「2二玉……」
3六香の当たりを避ける。
「4五桂じゃないんだね」
「ちょっと危ないかな……と……」
佐伯くんは、攻め合いを本線に読んでいたようだ。ここで小考した。
「4八銀打」
うーん……先手も固めてきた……今度は、4五桂が効かない……。
「2二玉を活かすということで……7四角……」
次こそ4五桂で……あ、7六香と打ってきたね……うーん……ここに香車を使ってくるのは、あんまり考えてなかった……どうしようかな……6五角は6六歩だし……。
「あ、そうだ……」
「どうかした?」
「6三角って引くね……」
私は、龍に当てながら逃げた。佐伯くんは事前予想していたらしく、すぐに5一龍。
ここで、さっき閃いた手を指す。
「5三歩……」
「5三歩……そんな消し方があるんだ」
「たまたま思いついたんだけどね……」
5三同歩成、同銀の形は、もう同飛成と突っ込むしかない……同金、同龍、5二金と受けて、5九龍、5三歩と固めれば、角銀交換で駒得……うん、ナイス……。
佐伯くんは背筋を伸ばしたまま、じっと考えた。
「……1五歩」
端攻め……? これは、さすがに手抜くかな……。
「5四角……」
5筋が一気に安定した……佐伯くんは、3六歩……私は4一歩……受け合う……。
「これで、だいたいOKかな。1四歩」
これは……同銀かな……?
同香は、すぐに取らないで1五歩と叩いてくるだろうから……。
「同銀」
9一龍、2五銀、1二歩、同香、1三歩、同香、同香成、同玉。
「1四歩」
歩をたくさんもらったから、今度は逃げる……2三玉……。
「9三龍」
さっきの9一龍は、やっぱり桂馬の補充……先手は、もう駒があんまりない……。
私は攻めの継続手段を考える。3六銀、同銀、同角は、意味がない……ただの銀交換だから……1八角成とはさせてくれないだろうし……先に1六角と打ったら、今の攻めが炸裂しないかな……? 例えば、1六角、2七歩、3六銀(詰めろ)、同銀、同角……2八香で簡単に止ま……らない……2五香がある……。
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
これでいける……? 2七香成、同香、同角右成以下は詰み……かと言って、4九玉、2八成香の進行は、香車を打った意味がない……駒をあげてるだけ……。
残り時間は、私が4分、佐伯くんが5分。
……………………
……………………
…………………
………………
ああ、でも、1六角、2七歩、3六銀に4九玉の早逃げはあるのか……こうなると、左が広過ぎて、捕まらないかも……うーん……私のほうが危険ってわけでもないし……違う手の候補が、そもそもあるのかな……2六香とか……? 2六香、2七歩……あ、これは意味がない……同香成に同玉は、1六角、1八玉、1七歩、2八玉、2七金、3九玉、3八金までの詰みがある……それに、2六香自体が詰めろ……先手は4九玉と早逃げするしかない……となると……そこで2九香成……?
(※図は飛瀬さんの脳内イメージです。)
私はさらに30秒悩んで、2六香とした。
佐伯くんも悩む。
「むずかしいね」
微妙に私が有利のはず……。
「4九玉」
「2九香成……」
「9五龍」
入玉阻止かな……あんまり入玉するつもりはないんだけど……。
4五桂打、5九玉、8八歩。手裏剣を飛ばす。
「1五香」
あッ……さきに1四玉だったかな……?
ピッ
しかも、ここで時間がなくなるのか……私は、1二歩と受けた。
3五桂、同銀、同歩、3七桂成、同銀、2七角成。
「3八銀」
攻めが速くならない……方針転換しよう……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「1六馬……」
あせらせる作戦……完全に入玉含みの一手……。
佐伯くんは、2六歩と打ってきた。同銀に3四歩と突かれる。
「同玉は4六桂か……2五桂……」
ここで、佐伯くんも1分将棋になった。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「3五桂」
私は3四玉。佐伯くんは3六銀。上部を厚くしてきた。
そろそろ私も攻めないと……でも、そのまえに……。
「6五桂……」
これが攻防……佐伯くんは、すこし前のめりになった。
「そうか……その手があったか」
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「7五龍」
ちょっと変かもしれないけど、ここで6三銀……完全にブロックする……佐伯くんはすぐに7三龍と入ってきた……これは無視……。
「1五馬……」
入玉の準備を進める。
以下、6三龍、3五銀、3七歩、3六銀。
「6四龍」
5四香と打って、もう一度ガード。佐伯くんは6五龍と引いた。
なかなか入玉させてくれない……どうしよう……なにか手は……。
私は、寄せのほうを考え始めた。普通は5八香成だよね……3七銀成は遅いし……5五桂の攻防手は、あるかな……ん、待って……3七銀成のとき、王手だったら……? 王手だったら続くよね……?
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「4八銀……!」
佐伯くんは、かすかにくちびるをひらいた。
「そ、そんな手が?」
5四に香車がいるから、同飛とはできない……だからと言って、同玉は3七銀成が王手になって、同銀なら同馬以下の詰み……5九玉は、4七成銀が王手飛車……6九玉、5八香成、同金、同成銀、同玉とバラバラにして勝ち……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「6九玉」
5八香成、同金……ドキドキしてきた……なにかうまい寄せ……うまい寄せ……8九歩成はちょっと微妙……金がどけば飛車打ちで勝ちだから……。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
「5七桂……」
決まった……はず……。
佐伯くんは、かるく息をついた。59秒まで考えて、同金。
以下、5九飛、7八玉、6九角、8八玉、8七金。
「7九玉」
「7八角成……」
「負けました」
……………………
……………………
…………………
………………
勝った。
「ありがとうございました」
周囲で、どよめきが起こった。
気づけば、ほとんどの学校の生徒に囲まれていた。
裏見先輩や遊子ちゃんだけでなく、大場さんと不破さんもいた。
それに、捨神くんも。
「これ……どうなったの……?」
捨神くんは、にっこりと笑った。
「おめでとう、市立の勝ちだよ」
「そっか……」
実感が湧かない。私は盤面にむきなおって、佐伯くんと目が合った。
「おめでとう……飛瀬さん、ほんとに強くなったね」
「ありがとう……ところで、最後は全部詰んでた……?」
ギャラリーが騒いでいるなか、感想戦を始めた。
……………………
……………………
…………………
………………
「全部詰んでるんじゃないかな」
佐伯くんと私はまず、6九玉が全部詰んでいるかどうか確認した。
6九玉、5八香成、同金、5七桂以下は、即詰みだよね……同金、5九飛に6八玉と逃げたら、5七銀成が入るだけだし……5七桂を取らない選択肢は、7八玉なら6九角、6八玉なら6九飛、7八玉、8九飛成、8七玉、7八角で、7九玉ならやっぱり6九飛……うん、全部詰む……最初の5八香成を同金としないのも、簡単な詰み……。
「4八銀に6九玉は、詰むね……同玉だと……?」
「同玉も、詰むと思うよ。3七銀成、6九玉、4七成銀と開き王手して、6九玉なら5八香成、同金、同成銀、同玉、5九飛と打てばいいんじゃないかな」
「5九飛、6八玉、5八金、7八玉、6九角、8八玉、8七金……そうだね……5九飛に4七玉と逃げても、3七金、4六玉、3六金打で詰み……」
つまり、4八銀で詰んでたわけか……寄せにいっただけなのに、ラッキー……。
「あの時点で負けなのは分かってたけど、詰むとは思わなかったよ」
「私も、即詰みとは思わなかった……ところで、中盤なんだけど……」
私は、局面をもどした。
「こっちのほうが、よかった……? 本譜は案外粘られたんだけど……」
「とりあえず、2七歩だよね」
佐伯くんもある程度は読んでいたらしく、3六銀、4九玉と進んだ。
「2七銀成……?」
「角成も、あるんじゃない? 一回王手だから」
私は迷って、2七銀成とした。5九玉、3七成銀、同銀。
「うーん……これでも優勢だけど……予想してたほどじゃないかな……」
「そうだね。これなら、まだ勝負は続きそうだね」
本譜が最善だったのかな……よく分からない……。
「僕が気になってるのは、5三歩と合わせられたとき、7三香成もあったかな、って」
私たちは、さらに局面を変えた。
ああ、これか……。
「5四角だよね……」
「6二成香で?」
「一回3六歩と打って……2八銀、2五桂、5二成香、4三金直……?」
「4筋と5筋が、意外と堅いね……4一成香」
佐伯くんは、成香を入った。これも、すぐには怖くないから……。
「3七歩成……」
同桂、同桂成、同銀左、2五桂、4八銀。
「歩切れをどうみるか……2回目の桂馬が性急かも……」
「1五歩で拾いにいくのは、どう?」
「このかたちで端攻めを仕掛けると、私のほうが危ないような……」
「3七歩成とせずに、1五歩、同歩、同香、同香、1四歩は?」
「うーん……同香、同銀、1九香で、受ける歩がない……」
感想戦を続けていると、箕辺くんのアナウンスが入った。
「全局終了しました。表彰式および閉会式がありますので、感想戦を終えてください」
どうやら、ここまでの模様……私は一礼しなおす。
「ありがとうございました……」
「ありがとうございました」
席を立つと、市立のメンバーに話しかけられた。
「飛瀬さん、助かったわ」
と裏見先輩。
「チーム勝ちってことは、裏見先輩も……?」
「私、飛瀬さん、馬下さんで3勝よ」
そっか……1年生から3年生まで、まんべんなく勝った……。
「ちなみに、私が負けてたら……?」
今度は、裏見先輩のかわりに、遊子ちゃんが答えた。
「藤女が3−2だから、プレーオフだったよ。あっちはもう準備してたみたい」
「なるほどね……まあ、あのオーダーをみたら、準備するよね……」
これで私たちが女子の部優勝……恋も将棋も絶好調……かな……?
場所:2015年度春季団体戦 5回戦
先手:佐伯 宗三
後手:飛瀬 カンナ
戦型:相掛かり
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲2六飛 △9四歩
▲3八銀 △9五歩 ▲2七銀 △3四歩 ▲3六飛 △8四飛
▲3八金 △4一玉 ▲5八玉 △6二銀 ▲2六銀 △5一金
▲2五銀 △5四歩 ▲3四銀 △5五歩 ▲6八銀 △1四歩
▲1六歩 △9三桂 ▲4九玉 △4四角 ▲5九銀 △2二銀
▲4八銀 △8六歩 ▲同 歩 △4二金上 ▲4五銀 △5三角
▲7六飛 △3一玉 ▲3九玉 △3三桂 ▲3六銀 △2四歩
▲5六歩 △5四飛 ▲7九角 △5六歩 ▲4六角 △5七歩成
▲同 銀 △4四歩 ▲5五歩 △6四飛 ▲5六飛 △4五歩
▲5四歩 △4六歩 ▲5三歩成 △同 銀 ▲7五角 △3五歩
▲6四角 △同 歩 ▲5一飛 △4一角 ▲9一飛成 △3六歩
▲4六銀 △3七歩成 ▲同 銀 △8一歩 ▲5四歩 △4四銀
▲8一龍 △2三銀 ▲6八金 △2七銀 ▲5八飛 △3八銀成
▲同 玉 △2二玉 ▲4八銀打 △7四角 ▲7六香 △6三角
▲5一龍 △5三歩 ▲1五歩 △5四角 ▲3六歩 △4一歩
▲1四歩 △同 銀 ▲9一龍 △2五銀 ▲1二歩 △同 香
▲1三歩 △同 香 ▲同香成 △同 玉 ▲1四歩 △2三玉
▲9三龍 △2六香 ▲4九玉 △2九香成 ▲9五龍 △4五桂打
▲5九玉 △8八歩 ▲1五香 △1二歩 ▲3五桂 △同 銀
▲同 歩 △3七桂成 ▲同 銀 △2七角成 ▲3八銀 △1六馬
▲2六歩 △同 銀 ▲3四歩 △2五桂 ▲3五桂 △3四玉
▲3六銀 △6五桂 ▲7五龍 △6三銀 ▲7三龍 △1五馬
▲6三龍 △3五銀 ▲3七歩 △3六銀 ▲6四龍 △5四香
▲6五龍 △4八銀 ▲6九玉 △5八香成 ▲同 金 △5七桂
▲同 金 △5九飛 ▲7八玉 △6九角 ▲8八玉 △8七金
▲7九玉 △7八角成
まで158手で飛瀬の勝ち
【2015年度 春季団体戦 最終成績】
《1位 清心高校 チーム勝数4 勝ち星14》
《同率1位 駒桜市立高校 チーム勝数4 勝ち星14》
《3位 藤花女学園 チーム勝数3 勝ち星13》
《4位 升風高校 チーム勝数2 勝ち星12》
《同率4位 駒桜北高校 チーム勝数2 勝ち星12》
《6位 天堂高校 チーム勝数0 勝ち星10》
※男女別の優勝が確定したので、プレーオフはなし。




