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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第10局 熱血!春の団体戦(2日目・2015年5月17日日曜)
129/681

117手目 5回戦 佐伯〔清心〕vs飛瀬〔市立〕(1)

※ここからは飛瀬とびせさん視点です。

挿絵(By みてみん)


「はずれたね」

 遊子(ゆうこ)ちゃんは席を立って、私にそう告げた。

「1勝2敗2ガチだから……まだ勝機はあるよ……」

「そうだね……私のところも頑張るよ」

 遊子ちゃんが古谷(ふるや)くんに入れれば、金星……でも、そう簡単にはいかない……ここまでみてきた限り、古谷くんはゆるめないタイプ……。

「それじゃ、またあとで」

「またあとで……」

 私は、2番席に向かおうとした。そのとき、ふと声をかけられた。

 ふりかえると、捨神(すてがみ)くんが立っていた。

飛瀬(とびせ)さん、調子は?」

「まあまあ……かな……捨神くんは……?」

「4連勝で、まずまずだよ。飛瀬さんも、4連勝だよね?」

 私は、うなずいた。捨神くんは、いつものように笑った。

「今季もふたりで全勝賞取れるといいね」

「うん……」

 捨神くんは、ほんのいっときだけ、真剣な顔になる。

 ときおりみせてくれる彼の真剣なまなざしが、私は好き。

「またあとで……応援してるから」

「私も応援してる……」

 捨神くんは、天堂(てんどう)の1番席に向かった。私は市立(いちりつ)の2番席へ。

 愛をもって着席……。

「飛瀬さん、よろしく」

 佐伯(さえき)くんは、先に着席していた。

「よろしく……今回のオーダーは、私の狙いうち……?」

「狙いうちってわけじゃないけど、うえにズラしてくるかな、と思った」

 オーダーが読まれてたのか……。

「市立は、5番席不在の前科があるしね」

「あ、はい……」

 私がやったんじゃないんだけど……連帯責任……。

「読んでたなら、どうして新巻ー中川ー佐伯ー古谷ー古久根にしなかったの……?」

「それも考えたよ。僕と馬下(こまさげ)さんのところが真剣勝負になるだけだよね。棋風が分かってる飛瀬さんと、指したことのない馬下さん相手なら、前者かな、って」

 佐伯くんは、王将を自分のマス目においた。私も駒を並べる。

「それに、飛瀬さんとは公式戦で、一度指してみたかったし」

「エンターテイナーだね……」

「そうだよ、将棋はエンターテイメントなんだよ」

 責任と興行の狭間でつくったオーダーか……さすがは駒桜(こまざくら)のマジシャン……。

「1番席は、振り駒をお願いします」

 箕辺(みのべ)くんの指示で、裏見(うらみ)先輩が振り駒。

「市立、奇数先(きすうせん)

清心(せいしん)偶数先(ぐうすうせん)!」

 私が後手。チェスクロの位置をなおして、待機。

「準備のできていないところはありますか? ……それでは、始めてください」

「よろしくお願いします……」

「よろしくお願いします」

 チェスクロをポチポチ。

「2六歩」


挿絵(By みてみん)


 んー、まさかの相掛かりのお誘い……どうしよう……佐伯くんとなら、どのみち変則将棋になりそうだし、手将棋だと私が不利か……相掛かりのほうがマシ……。

「8四歩……」

 2五歩、8五歩、7八金、3二金、2四歩、同歩、同飛、2三歩、2六飛。

 深く引かない流れ。

「9四歩……」

 積極的にいこう……格上相手に守勢はムリ……。

 3八銀、9五歩、2七銀、3四歩、3六飛、8四飛。


挿絵(By みてみん)


「さすがに受けてきたね。3八金だよ」

 4一玉、5八玉、6二銀、2六銀、5一金、2五銀。

 まっすぐ棒銀……これはもう、3四の歩が受からない……。

「5四歩……」

 手を稼ごう……3四銀に5五歩として……ここで6八銀か……。

 1四歩、1六歩、9三桂。

 この手をみて、佐伯くんは顔をあげた。

「積極的だね」

「うん……積極的……」

「じゃあ、今回は飛瀬さんから動いてもらうね。4九玉」

 4四角、5九銀、2二銀、4八銀。

 

挿絵(By みてみん)


 どっちが先手か分からない布陣だね……佐伯くんは、もたれて指すつもり……ここで私がひよると、ちぐはぐになる……先手も3四に銀がいるから、手がないわけじゃない……例えば、次に4五銀がみえてる……ここで長考。

 攻めるなら……8六歩かな……? 同歩……同歩で、なんともないね……歩があれば、8六歩、同歩、9六歩、同歩、8五歩みたいなのも……ムリ攻めか……。

「手がない……」

「パスはなしだよ」

 パスは反則だね……パスって言ったら、その場で反則負けになるのかな……? 佐伯くんのことだから、冗談で済ませてくれそうだけど……っと、こんなこと考えてる場合じゃないか……なにか手は……なさそう……。

 とりあえず、8六歩と指した。佐伯くんは、黙って同歩。

「4二金上」


挿絵(By みてみん)


 手待ちする。

「8六歩からの手待ちか……これは予想外だな」

 佐伯くん、ご感心。

「さすが、マジックのコツを心得てるね」

「あれは、スペーステクノロジーなんだけど……」

「4五銀」

 無視された。5三角、7六飛、3一玉、3九玉、3三桂、3六銀、2四歩。

 ここで、佐伯くんが長考。

 手待ちの甲斐があって、攻めてきてくれるかも……。

「5六歩」


挿絵(By みてみん)


 これは……7九角で、角筋を通すつもりかな……そのまえに動きたい……。

「5四飛……」

「7九角」

 あッ……すぐに7九角か……5六歩〜5七歩成は、同銀で受けるのかな……?

「5六歩……」

「4六角」

「5七歩成……」

「同銀」

 どうしよう……4六角と出られたから、そこを目標にしたい……でも、4四歩と突いたときに、5五歩〜5六飛〜5四歩の返しが気になる……例えば、5五歩、6四飛、5六飛と回られて、次に5四歩で角が死ぬ……。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬(とびせ)さんの脳内イメージです。)

 

 もちろん、6四飛と逃げないか、5六飛と回られたときに4五歩と突き返せば、それでいいわけだけど……6四飛と逃げないなら、7四飛のぶつけか、8四飛……7四飛のぶつけは5六飛と手順に逃げればいいだけ……8四飛も、5六飛、2三銀、5四歩、6四角、同角、同飛のあと、5三角と突っ込まれてダメっぽい……つまり、角を逃げるのは意味がなくて、4五歩の突き返しが本線……。

 4五歩と突き返して、3五角、同角、同銀、6九角、8七角、8八歩……8八歩と打てるのが大きい……同金なら6七飛成……これで、いこう……。

「4四歩……」

 佐伯くんは1分ほど考えて、5五歩と応じた。

「6四飛……」

「5六飛」

「4五歩……」

 佐伯くんは、5筋の歩に指をそえた。

「5四歩」


挿絵(By みてみん)


 攻め合い……これは……うーん、あんまり読んでなかった……5三歩成、同銀と手順に銀を寄せられるから、ないと思ってたんだけど……うーん……4六歩、5三歩成、同銀のときに、4六歩以外ってことだよね……? でないと、こっちにまた手番が渡って、私が有利になるから……7五角?

「ん、そっか……」

「どうかした?」

「いや……なんでもない……」

 私はごまかして、盤面にむきなおる。

 そっか……7五角が痛いね……飛車を逃げられない……逃げたら5三角成、同金、同飛成で一気に終わっちゃう……飛車角交換はしょうがないとして……そこで攻めないといけないわけか……ただ、飛車角交換後に、絶対5一飛があるし……。

 私はポケットから、真っ黒な名刺大のケースをとりだした。

 お口直しの錠剤(じょうざい)型お菓子。ひとつ口にふくむ。

「それ、なに?」

「これはね……シャートフの特産品……ヴァレニカっていうお菓子……」

「僕にも、ひとつくれる?」

「どうぞどうぞ……」

 地球人でも、可食だったはず。佐伯くんは一粒もらって、口にほうりこんだ。

「ああ、Lukrecjaだね」

「食べたことあるの……?」

「ヨーロッパだと、一般的なお菓子だと思うよ」

 そうなんだ……箕辺(みのべ)くんに食べさせたら、激マズだって言ってたのに……スーパーやコンビニでも売ってないし……日本で売られてなかっただけ……?

 私も食べながら考える。とりあえず、もう方針変更できないから、4六歩、5三歩成、同銀、7五角までは確定として……相手の守備を剥がそう……3五歩、同銀、4五桂みたいな感じで……ただ、3五歩は手抜くかも……3五歩、6四角、同歩、5一飛……。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は飛瀬(とびせ)さんの脳内イメージです。)

 

 これが、激痛なんだよね……4一角としか受けられなくて……うーん……じつはそうでもない……? 4一角、5三飛引成、同金、同飛成は、案外受かってるか……次に3六歩から飛車を打って……いや、飛車が先かな……とにかく、反撃できそう……となると、4一角には3五銀と、手を……もどせない……4五桂がまたあるから……9一飛成?

 9一飛成なら、私も戦えるかな……うん……。

「4六歩で……」

「この流れは、僕も覚悟を決めるよ。5三歩成」

 同銀、7五角、3五歩、6四角、同歩、5一飛、4一角、9一飛成。

 あッ……予想通り……。

 3六歩、4六銀、3七歩成、同銀。


挿絵(By みてみん)


 こうやって固めるんだ……ちょっと読みから外れてきたかも……。

「私に角と銀しかないから、バランスは取れてるのか……」

「さあ、飛瀬さんのテクニックをみせてもらうよ」

 テクニックと言われましても……ひとまず、4五桂かな……。

 私は4五桂と跳ねかけて、手を引っ込めた。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 マズい……4五桂だと、3六香がある……3三歩と受けたら、そこで4六銀……3七に歩を打てない……かと言って、4五桂、3六香、3七桂成は王手じゃないから、3二香成が入る……同角はできないし、同金なら5三飛成が残る……同玉は形が悪過ぎ……。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 技をかける。

「8一歩」


挿絵(By みてみん)


 私の指し手に、佐伯くんはちょっとだけ顔色を変えた。

「同龍に6三角打?」

 あ、見抜かれた……8一同龍、6三角打、5一龍、3六歩みたいな……それとも、3六歩が先かな……? あと、6三角打は、5四歩や5五香の攻めにも対応してる……。

 佐伯くんは、真剣に読む。

「……5四歩」

 うーん……取らなかった……。

「4四銀……」

「8一龍」

 狙いは不発……でも、9三龍〜7三龍は回避した……。

「こっちはもう、手がないね……2三銀……」

 佐伯くん、また考える。

「飛車を渡さない攻めがむずかしいな」

 そう……飛車さえもらえば、佐伯くんの王様はスカスカ……6九飛で勝ち……。

「じゃあ、僕も守るね。6八金」


挿絵(By みてみん)


 手堅い……私のほうが攻めろってことか……。

 残り時間は、私が12分、佐伯くんが13分。ほぼ同じ。

 私は、長考に入った。

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