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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第10局 熱血!春の団体戦(2日目・2015年5月17日日曜)
120/682

108手目 5回戦 不破〔天堂〕vs大場〔駒北〕

※ここからは大場おおばさん視点です。

挿絵(By みてみん)


 なんでこんなことになってるんっスかッ!?

「さ、最終戦で、ヤンキーと当たっちゃったっス……」

 五見(いつみ)くんは、眼鏡をくぃ〜。

「おたがいに端ですからね。ずらしようがありませんよ」

「なに冷静な分析してるんっスか! 全勝賞(ぜんしょうしょう)がかかってるんっスよ!」

「それは僕も同じですよ。4連勝で、捨神(すてがみ)先輩と当たってますから」

(すみ)ちゃん、全勝賞欲しいっス!」

「だったら、倒せばいいでしょう、倒せば」

 おうおう、やったるっスよ。あのヤンキー女を、ぼこぼこにしてやるっス。

「これから5回戦を始めます。全員、着席してください」

 角ちゃん、怒りの着席。

 (かえで)ちゃんは先に座って、飴玉を舐めてるっス。

「ちぃす」

「今日こそは、ぎたんぎたんにしてやるっス! 覚悟するっス!」

「なんだ、それ、挨拶くらいしろよ」

「上級生にむかって、なんっスか、その態度はッ!?」

「いや、下級生にむかって『ぎたんぎたん』もないっしょ……つーか、あたしは、将棋の序列でしか敬意払わないから。年齢とか関係ないんで、よろしくぅ」

 くぅ、マジで頭金にしてやるっス。怒りの駒並べ。

「振り駒をしてください」

 1番席の五見くんがカシャカシャ。

「……駒北(こまきた)、偶数先」

天堂(てんどう)、奇数先」

 なんで後手引いてるんっスか! ちゃんと振り駒の練習するっス!

「対局準備の整っていないところはありますか?」

 ないっス。

「では、始めてください」

「よろしくお願いするっス」

 チェスクロをポチポチ。

「よろしく、と……7六歩」

「3四歩っス」

「2六歩」


挿絵(By みてみん)


 ふえ?

「居飛車っスか?」

「あんた、三間党(さんげんとう)だろ。相振りにする必要性を感じないんでね」

 くぅ、たしかに中飛車vs三間飛車は、中飛車が不利っスけど、メタらなくていいじゃないっスか。角ちゃん、ぐれちゃう。

「お望み通り、三間っス! 3五歩!」

 6八玉、3二飛、4八銀、4四歩、7八玉、6二玉、7七角。

 やっぱり居飛車穴熊っスね。そのための2六歩だったっス。

 7二玉、8八玉、8二玉。

「9八香」

「こっちも9二香っス!」


挿絵(By みてみん)


「へぇ……相穴にするんだ」

 美濃囲いオンリーと思ってもらっちゃ、困るっス。穴熊も得意なんっスよ。

「まあ、じっくり指しますか。9九玉」

 9一玉、8八銀、8二銀、2五歩、3四飛。

 いい感じに出られたっスね。

「こっちも浮くよ、2六飛」

 5二金左、7九金、1四歩、5九金、7一金、6九金右、4二銀、5六歩。

「角ちゃんの十八番(おはこ)、石田流を喰らうっス!」


挿絵(By みてみん)


 楓ちゃんは、飴玉を口の端によせて、眉をひそめたっス。

「石田穴熊ぁ? ……欲張り過ぎでしょ」

「欲張りの、なにが悪いんっスか?」

「べつに悪いとは言わないけどさ……6八角」

 い、いきなり角をぶつける準備っスか? ……成立してるっぽいっスね。

「さあ、どうする? 3六歩でも、いいぞ?」

「さ、3六歩は、そのうちやるっス。先に4三銀っス」

 5七銀、6二金左、7八金上、3三桂、1六歩、5四銀。


挿絵(By みてみん)


「あたしのほうが、堅いんだよなあ」

「バランスでなんとかするっス」

「石田穴熊とか、バランス無視してる構えだろ……そろそろ、いくぜ」

 楓ちゃんは、6六銀と上がったっス。7七銀引の準備っスか?

 ……違うっスね。5五銀とぶつけてきそうっス。

 だったら、手順に固めるっス。

「6四歩っス」

「5五銀」

「6三銀っス」

 ここで、楓ちゃんが小考。

「……ちょいとゆさぶりをかけるか。7七角」


挿絵(By みてみん)


 あ、攻勢に出たっスね。手損では、あるんっスが……次は4四銀っスか?

 一見、桂馬が助からないように見えるっスけど、5七の地点が空いてるっス。

「4五桂っス」

「ふぅん、やるね……4六銀」

 角ちゃんも、5四銀と出直すっス。

 9六歩、1二香、6八角、6五銀。

「7六と5六、どっちかの歩は、助からないっスよ」

 ここで、楓ちゃんは長考。ハマったんじゃないっスか?

「……成立してるな。1五歩だ」


挿絵(By みてみん)


 ふわぁッ!? いきなり端攻めっスか?

「そんなの、成立してないっス」

「成立してるかどうかは、将棋の神様が決めることなんだよ」

「じゃあ、楓ちゃんが決めることでもないっス」

「チッ、口だけは達者だな」

「デザインが達者と言って欲しいっす」

 楓ちゃんは、角ちゃんの制服を、じろじろ眺めたっス。

「それ、駒北の制服だろ? なんで星マークとかついてるんだ?」

「これは、角ちゃんがデザインした、特製っス」

「おまえ……制服改造したらダメだろ」

「煙草吸ってるような女に言われたくないっス」

「校則はなぁ、破るためにあるんだよ」

 そこだけは意見が一致したっス。角ちゃんの才能は、ルールに縛られないっス。

「いいから、さっさと考えろよ」

 あ、おしゃべりに時間を使っちゃったっス。反省。

「とにかく、こんなの成立してないっス」

 ああしてこうして……受かってるはずっス。

「同歩っス!」

 3六歩、同歩、1五香、4六角、同歩。

「5七銀で、桂馬は死んでないっス」


挿絵(By みてみん)


「あたしの読みについてきてるね。そうこなくっちゃ、面白くねぇよな。8六角」

 ここで4六銀成……じゃないっスね。香車を拾ってから、4五歩に3七歩成っス。

「やっぱ桂馬はあげるっス。1五香っス」

「4五歩」

「3七歩成っス! 先着したっスよ!」

 楓ちゃん、ここで指の骨をポキリ。暴力はダメっス。

「これを見落としてるんじゃないか? 3五歩だ」

 飛車の頭に歩打ちっスか?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「あッ、1三角」


挿絵(By みてみん)


 (※図は大場(おおば)さんの脳内イメージです。)


 見落としてたっス。楓ちゃんはニヤリ。

「飛車角交換までは、確定だな」

 ひ、飛車角を交換しない方法……ないっスね。

「くぅ、同飛っス!」

 1三角、3六と、2八飛、4五歩、3五角成、同と、3一飛、4六と。

 

挿絵(By みてみん)


 こうなったら、がむしゃらに、と金を寄せて行くっス。

 楓ちゃんは、また長考。スティック付きの飴玉を転がして、両腕を組んだっス。

「さすがに、と金の速度では負けるか……じゃあ、こうだな」

 6四角。飛び出してきたっスね。

「5六とっス。まむしのと金っスよぉ」

「4四歩」

 ここで6七と、同金、6六銀直……は、さすがにヌル過ぎるっスね。

「角を殺しに行くっス! 6三香っス!」

 楓ちゃんは、ガリリと飴玉を噛み砕いたっス。

「そいつを待ってたんだよ。7五桂」


挿絵(By みてみん)


 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「は、8三桂不成が激痛っス……」

 8三桂不成〜7一龍〜6二龍は、投了級っス。

「7四銀と引くしかないぜ?」

「言われなくても分かってるっスよ! 7四銀っス!」

 6三桂成(あうあう、角ちゃんの香車)、同銀、8六角。

 6五の銀がいなくなって、5六とが立ち往生してるっス。角ちゃんピーンチ!

「4三歩成は阻止するっス。5二銀っス」

「3八飛寄」


挿絵(By みてみん)


「じわじわ行くぜ」

「それは悪手っス! 4九角があるっス!」

 これが飛車取り&6七とを見てるっス。

「飛車を取ってる暇があるのか? 4三歩成だよ」

 ふわぁ? ここで歩成っスか?

「ろ、6七……」

 待つっス。6七と、間に合ってるっスか? 6七と、同金、同角成、5二と、同金、7八銀とかっスか? 同馬と切って……切ったら、さすがに繋がらないっスね。まず3八角成と取ってから、5二と、同金、3八飛成……は飛車を打ち込む場所がないっス。

「両方の含みを残すっス。4三同銀っス」

「そっちか……」

 楓ちゃん、またまたシンキングタイム。

 残り時間は、角ちゃんが13分、楓ちゃんが15分っス。

 楓ちゃん、早指しだけど、要所要所で、きっちり使ってる印象っスね。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「これでだいたい決まってるな。7一飛成」


挿絵(By みてみん)


「ひ、飛車を切るんっスか……?」

「終盤は駒得より寄せの速度だぜ」

 同銀で、なにかあるんっスか? 金じゃ絡めないっスよ?

「同銀っス」

「3一飛成……どう対応する?」

 銀取りっスね……8二銀で、いいんじゃないっスか?

 8二銀……ああッ! 7一金があるっス!

「ぎ、銀をもどれないっス……」

「もどったら、7一金、同銀、同龍、8二金、6二龍までだ。それとも、同龍のときに、8二飛と打つか? 龍を撤退して、あたしの勝ちだよ」

 どうするっスか? 6一歩っスか? でも、金底の歩には香車、になっちゃうっス。6五香があるっス。6一桂は、6五香、6三歩、同香成、同金、6一龍で、金銀の連結が悪いっス。どう繋げても、こっちが駒損になるっス。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ヤバいっスね、これ。受けの手が、ひとつしかないっス。

「は、8二玉っス」


挿絵(By みてみん)


 これで耐え忍ぶっス。

「6一金」

「それはイモ筋っス! 同金っス!」

 同龍、6二金。これでただの手損っス。

「6五香」


挿絵(By みてみん)


 ブーっ!

「龍も捨てるんっスか!?」

「あのな、相穴の終盤は、金銀>その他なんだよ。分かってんのか?」

「そんなの攻めが切れるに決まってるっス!」

「おう、じゃあ切らせてみろよ」

 望むところっスよ。

 6一金、同香成、6三飛(攻防っス)、7一成香(いきなり詰めろっスか)、同玉。

「6三飛は、攻防にみえて疑問手だ。6四銀」


挿絵(By みてみん)


 あッ……完全に閉じ込められちゃったっス。

 角ちゃん、ここで最後の長考。時間がないっス。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ピッ

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同飛っス!」

「なんだ、おまえも切ってるじゃないか。同角」


挿絵(By みてみん)


 めちゃくちゃ薄いっス……先手は穴熊が丸残り……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「ご、5二銀打っス」

 楓ちゃん、残り5分をここで全部投入。読み切られちゃ〜う。

「よし……5三角成」

 角切りとか、どうみても寄り筋を見つけたとしか思えないっス。

 同銀、6三金。詰めろっス。5二飛は4一飛、6一合駒(5一合駒は同飛成、同飛、7二金打で詰むっス)、4三飛成以下、駒をボロボロ取られて投了っス。

 かと言って、ほかに適当な手も……4三の銀に紐をつけるっスか?

 6一角? でも、5三の銀に紐がないから、5三金と取られて終了っス。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「ご、5二飛っス!」

「4一飛」

 6一角、4三飛成、6二飛。

「投げ場がなくなってるぞ。5三龍だ」

 6三飛、同龍、7二金。

「6二金……詰みだ」


挿絵(By みてみん)


 同金、8二銀、同玉、6二龍、7二合駒、7一銀、9一玉、8二銀までっスか。

 この時点で8二玉と逃げても、7二金、同角、7一銀以下、詰むっスね。


 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!


「負けましたっス」

「ありがとうございました」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 角ちゃん、悲しい。

「どこが悪かったっスか?」

「端攻めが炸裂してるし、駒組みが悪いんじゃないか」

 マジっスか!? 全否定っスか!?

「もうちょっと、先輩をいたわって欲しいっス」

「あのさぁ……あたしは、将棋が強くない人間に、頭下げないから」

「どういう価値基準なんっスか?」

 楓ちゃんは、新しい飴玉を取り出して、口に頬張ったっス。

「あたしはね、大人のマネしてるだけなの、分かる? 地位にへこへこしたり、金にへこへこしたりするだろ? あたしの場合は、その基準が将棋ってだけ」

「大人のマネなんか、しちゃダメっスよ。心が穢れるっス」

「おまえ、いいこと言うな」

「角ちゃんは、ピュアな心の持ち主っスからねぇ」

「お、おう……それより、藤女(ふじじょ)市立(いちりつ)の試合、観に行こうぜ。まだ決まってないだろ」

 そうっスね。男子は清心で決まりっスけど、女子はまだ逆転の芽があるっス。

 今回は、角ちゃんの完敗っス。潔く、負けを認めるっス。

 

 あとで優太(ゆうた)くんに慰めてもらっちゃ〜う。

場所:2015年度春季団体戦 5回戦

先手:不破 楓

後手:大場 角代

戦型:先手居飛車穴熊vs後手石田流穴熊


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △3五歩 ▲6八玉 △3二飛

▲4八銀 △4四歩 ▲7八玉 △6二玉 ▲7七角 △7二玉

▲8八玉 △8二玉 ▲9八香 △9二香 ▲9九玉 △9一玉

▲8八銀 △8二銀 ▲2五歩 △3四飛 ▲2六飛 △5二金左

▲7九金 △1四歩 ▲5九金 △7一金 ▲6九金右 △4二銀

▲5六歩 △1三角 ▲6八角 △4三銀 ▲5七銀 △6二金寄

▲7八金右 △3三桂 ▲1六歩 △5四銀 ▲6六銀 △6四歩

▲5五銀 △6三銀 ▲7七角 △4五桂 ▲4六銀 △5四銀

▲9六歩 △1二香 ▲6八角 △6五銀 ▲1五歩 △同 歩

▲3六歩 △同 歩 ▲1五香 △4六角 ▲同 歩 △5七銀

▲8六角 △1五香 ▲4五歩 △3七歩成 ▲3五歩 △同 飛

▲1三角 △3六と ▲2八飛 △4五歩 ▲3五角成 △同 と

▲3一飛 △4六と ▲6四角 △5六と ▲4四歩 △6三香

▲7五桂 △7四銀 ▲6三桂成 △同 銀 ▲8六角 △5二銀

▲3八飛寄 △4九角 ▲4三歩成 △同 銀 ▲7一飛成 △同 銀

▲3一飛成 △8二玉 ▲6一金 △同 金 ▲同 龍 △6二金

▲6五香 △6一金 ▲同香成 △6三飛 ▲7一成香 △同 玉

▲6四銀 △同 飛 ▲同 角 △5二銀打 ▲5三角成 △同 銀

▲6三金 △5二飛 ▲4一飛 △6一角 ▲4三飛成 △6二飛

▲5三龍 △6三飛 ▲同 龍 △7二金 ▲6二金


まで119手で不破の勝ち

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