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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第10局 熱血!春の団体戦(2日目・2015年5月17日日曜)
117/682

105手目 4回戦 鞘谷〔藤花〕vs来島〔駒桜市立〕(2)

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………ピッ

 あ、鞘谷先輩が1分将棋に。

 ここで7七桂と受けてくるのが、気になる。同角成、同金は、こっちが一方的に詰めろになるから、負け。無視して8九飛が正解っぽい。


挿絵(By みてみん)


 (※図は来島(くるしま)さんの脳内イメージです。)


 これで6六歩なら、6七金、6九玉(5九玉は7九飛成、同金、5八銀まで)、7九飛成として、同金に5八銀で詰み。同玉も7八金。かなり簡単に詰んじゃう。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7七金打ッ!」


挿絵(By みてみん)


 いやらしいのがきたね……でも、角金交換なら、こっちは詰めろにならない。

「同角成」

 同金、8九飛(やっぱりこれが急所)、6一角、同玉、6二銀、7二玉。

 ……あれ、ちょっと危なくなったかな?

 6三成香、8二玉、7三銀成、9二玉。セーフ。

「2三歩」

 鞘谷先輩は、角筋を止めた。

 これは……寄るっぽいね。おそらく、鞘谷先輩は、自分の寄り筋に気付いてる。

 こういうのは、なんとなく直感で分かるよ。でないと、2三歩と打たないし。

 おそらく、私が9九飛成とかするのを期待した手。

「同角」

「5六歩」


挿絵(By みてみん)


 ノータイムで指してくる。やっぱり、先手は寄り筋に入ってるみたい。

 だとすれば……6七桂成からだね。

 私は、棋力以外のところで、心理的に打開する。

 とりあえず、5六同角で……8三桂成、9一玉、8四桂、6七桂成……。


 ピッ

 

 あ、私も1分将棋になっちゃった。まだ読み切れてない。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「同角ッ!」

 鞘谷先輩は、黙って5九桂と打った。


挿絵(By みてみん)


 ん? これで寄らなくなってるとか?

 ありうるけど……私のほうも、詰めろじゃないし……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

()らいでかッ! 6七桂成ッ!」

「ぐッ!」

 なんとなく、詰む気がする。

 同金、同角成。

 私も詰めろになっちゃうけど、持ち駒は角1枚、金3枚。

 5筋の守りは、龍が利いている。これで詰まないはずがない。

 まず、6七同桂なら7七金と打つ。同玉、7九飛成、7八合駒、6八角、6六玉、6五金まで。一番簡単なパターン。龍最強。7七金に5八玉と逃げるのは、6九角、同玉(5七玉は5五龍、5六歩、6六金まで)、7九飛成、5八玉、6八龍、4九玉、5八銀以下の追い詰め。

 以上は、駒が余るくらいに単純。次に、6七角成に同玉なら……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「ど、同玉ッ!」


挿絵(By みてみん)


 ここでまた1分使う。このパターンは……やっぱり7七金かな?

 同玉は詰みそう。同玉、7九飛成、7八合駒、6八角、6七玉……ん、詰まない? これだけあって詰まないってことは、ないと思う。ああして、こうして……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「7七金ッ!」

「5八玉ッ!」


 え? そっち? そっちは明確に詰まないかな?

 ……あ、6七に桂馬が利いてるのか。うっかりするところだったよ。王様を逃がさないようにするには……6九角かな? 同玉は6八金打までの一手詰め。飛車が利いてて、同銀とは取れないから。6九角、5七玉は、5五龍、5六合駒、6六金。さっきと同じ。

 というわけで、4九玉だけが問題。4九玉、5八金、3八玉……。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

 私はとりあえず、6九角と打った。

 鞘谷先輩は、ノータイムで4九玉。

 5八金と打って、どうなるか。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は来島さんの脳内イメージです。)

 

 ……あ、なんだ、簡単。

「5八金」

「3八玉」

「2七金」

「……2九玉」

 私は、2八歩と打った。鞘谷先輩は、大きくため息。

 

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

 

「負けました」

「ありがとうございました」

 投了図以下は、同金、同金までだね。

 鞘谷先輩は、ウーンとうなって、腕組みをした。

 剣道をやっているだけあって、なかなか筋肉がついている。

「最後、6七同金、同角成以下は、全部詰んでるわよね?」

「それは、ちょっと読み切れてません……」

「7七金に同玉も考えたんだけど……7九飛成、7八桂、6六角と捨てて、8六玉なら、8五銀、同玉、8四金、8六玉、8五金打まで。6六同玉なら、6八龍、6七歩、6五金までね。かと言って、6六角を取らずに6七玉は、7七金、6六玉、6八龍、5六玉、5五金で詰むわ……こっちの負け」

「6七同桂でも、詰みますよね?」

 私はそう尋ねてから、さっきの自分の読み筋を伝えた。

 鞘谷先輩は、うんうんとうなずいた。

「そうよね、やっぱり詰んでるわ。6七同桂、7七金に5八玉も、6九角からさっきと同じ順で詰むし、それ以外は逃げようがないわ」

「6七角成、同金のところで、なんで同桂にしなかったんですか?」

 私たちは、局面をもどした。


挿絵(By みてみん)


「これも考えたんだけど……そっちが詰めろにならないのよね」

「桂馬1枚……でも、先手に即詰みもありませんよ?」

「即詰みがなくても、後手が安泰じゃ、どうしようもないわ」

 そんなもんかな? まあ、これは次に6六歩と打って、勝ちっぽいね。同金、7七金、同玉、7九飛成以下、似たような形で詰む気がする。それとも、7七金、5七玉で詰まない? ……詰まないかも。でも、7九飛成が詰めろで勝ち。

「途中、攻め間違えた気がする」

 鞘谷先輩、攻め自体は繋がってると考えてるのかな。

「6五龍に、6六金と受けなかったら、どうなりますか?」


挿絵(By みてみん)


「単に3六歩ってこと?」

「この段階だと、私のほうは大駒しかありません」

「んー……9九角成くらいで、イヤな感じがする」

 角成りは、こっちがかなり危なくないかな?

 この筋は、あんまり読んでないから、自信がない。

「7五桂、8三歩、5三香成のプレッシャーを、結構感じます」

「詰めろじゃないわよね?」

 6一銀、8二玉、7二金、同銀、同銀成、同玉、6一銀……詰まないね。

「詰めろじゃないみたいです。でも、6三成香、同龍、同桂成も気になります」

「6三成香に逃げても、詰まなくない?」

 ん……あ、そっか。詰まないね。

「すみません、今のはナシで」

「いずれにせよ、来島さんのほうは、手が難しいわね……5五桂とか?」


挿絵(By みてみん)


「……次に6七桂成ですか?」

「間に合ってない?」

「とりあえず、6三成香、8二玉、6二銀と詰めろをかけますよね?」

 鞘谷先輩は、「あ、そっか」と答えた。

 もちろん、6三成香に同龍、同桂成も考えられるけど、それは私が危険過ぎる。

「6七桂成、同金、6六香が間に合わないのか……ごめん、撤回」

 私たちは、局面をもどす。

「……9九角成が、甘いんじゃない?」

 撤回に撤回を重ねる女。

「6四桂とか、打ってみますか?」

「あ、それいい手かも」


挿絵(By みてみん)


 5三香成なら、7六桂が二重にキツい。王手なうえに、7五桂と打てなくなる。

 まさに一石二鳥な手。

「ただ、ここで6六金があるかも。2五龍、7五桂、8三歩……」

「このタイミングで6六金なら、同角と切りたくなります」

「それも、そうか……6六金、同角、同歩、7六桂、5八玉……いや、これは微妙か」

 難しい変化かな? すくなくとも、本譜より鞘谷先輩に勝機がありそう。

 これはこれで一局、っていうやつだね。

「こちらが3六銀と喰いちぎった瞬間、8四金はありませんでしたか?」


挿絵(By みてみん)


「それは、あまり良くないと思う」

「どうしてですか?」

「8二銀と手順に固められて、3六歩、8三歩で、金の進退に困るわ」

 なるほど……納得。

「いやあ、全体的に、ちょっと油断し過ぎた感じ」

 あん? われ、舐めとんのか?

「ところで、対局開始前も訊いたけど、来島さん、なにかあった?」

「え? ……どうしてですか?」

「なんだか、顔色が悪いように見えるわよ?」

 うーん……表情に出てたか……私も、まだまだだね。

「ちょっと……まあ……いろいろ……」

「恋の悩みなら、だれかに相談したほうがいいわよ。あ、でも、私はダメだからね。私と冬馬(とうま)はラブラブだから、一度も喧嘩したことないし、相談に乗れないわ」

 なにを言ってるのかな? 鞘谷先輩と蔵持(くらもち)先輩って、付き合ってないよね?

 一方的に付き合ってる設定? 世の中って怖いね。

「雨降って、地固まるって言うでしょ。こういうのも、一種のチャンス」

「あ、それはあると思います。やっぱり、苦難のときこそ、愛が試されますよね」

「でしょ?」

「鞘谷先輩は、蔵持先輩から『一緒に死んで欲しい』って言われたら、どうします?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「そ、その質問は、なに? ジョーク?」

「ジョークじゃないですよ……蔵持先輩と心中できますか?」

 鞘谷先輩は、目を白黒させた。

「鞘谷先輩と蔵持先輩って、心中もできない仲なんですか?」

「いや……あの……そもそも、どういうシチュエーションなのか……」

「つまり、添い遂げる気がないんですね……蔵持先輩、かわいそう……」

 鞘谷先輩は髪を掻きむしったり、「いやあ、でも」とつぶやいたり、きょどり始めた。


涼子(りょうこ)ちゃん、さっきから、なにしてるの?」

 いきなり、升風(ますかぜ)の男子が現れた。蔵持先輩だ。噂をすれば、影かな?

「と、冬馬……もう終わったの?」

「もう、って、開始から1時間以上経ってるよ? 藤女(ふじじょ)市立(いちりつ)は、どうなったの?」

「わ、分かんない……」

「あ、ごめん、まだ感想戦中なんだね」

 蔵持先輩が局面を確認しているなか、鞘谷先輩は、意を決したような顔をした。

「と、冬馬、私が『一緒に死んで』って言ったら、一緒に死んでくれる?」

「えぇッ!?」

「なによ、その反応は?」

「だって、いきなりそんなこと言われても……」

「冬馬のなかで、私はその程度の存在なのねッ! くぅ、死んでやるッ!」

「ちょ、ちょっと待ってッ! どういうことなのッ!?」


 話が見事にこじれた……お幸せに。

 ところで、ほかはどうなってるのかな?

 私、裏見(うらみ)先輩、カンナちゃんか、私、裏見先輩、馬下(こまさげ)さんで、勝ってるといいな。

場所:2015年度春季団体戦 4回戦

先手:鞘谷 涼子

後手:来島 遊子

戦型:横歩取り


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩

▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩

▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △8四飛

▲2六飛 △2二銀 ▲8七歩 △5二玉 ▲6八玉 △7二銀

▲4八銀 △2四飛 ▲3三角成 △同 銀 ▲2四飛 △同 銀

▲2二歩 △同 金 ▲2三歩 △同 金 ▲3一飛 △2二金

▲3二角 △5一飛 ▲同飛成 △同 金 ▲3一飛 △2七飛

▲2一角成 △同 金 ▲同飛成 △2九飛成 ▲3九金 △2五龍

▲3六桂 △3三角 ▲7七桂 △1二角 ▲3一龍 △4一金

▲6二金 △同 玉 ▲4一龍 △4二金 ▲3一龍 △3五銀

▲8二金 △4一桂 ▲6五桂 △6一銀 ▲9一金 △7二銀

▲5六香 △5四歩 ▲8一金 △同 銀 ▲6六桂 △3二金打

▲5四桂 △7二玉 ▲4二龍 △同 金 ▲同桂成 △3六銀

▲4一成桂 △6五龍 ▲6六金 △2五龍 ▲3六歩 △7四桂

▲7五桂 △8三歩 ▲5三香成 △6六桂 ▲同 歩 △同 角

▲6七歩 △5五桂 ▲7七金打 △同角成 ▲同 金 △8九飛

▲6一角 △同 玉 ▲6二銀 △7二玉 ▲6三成香 △8二玉

▲7三銀成 △9二玉 ▲2三歩 △同 角 ▲5六歩 △同 角

▲5九桂 △6七桂成 ▲同 金 △同角成 ▲同 玉 △7七金

▲5八玉 △6九角 ▲4九玉 △5八金 ▲3八玉 △2七金

▲2九玉 △2八歩


まで122手で来島の勝ち

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