表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第10局 熱血!春の団体戦(2日目・2015年5月17日日曜)
116/682

104手目 4回戦 鞘谷〔藤花〕vs来島〔駒桜市立〕(1)

※ここからは来島くるしまさん視点です。

 この世のなごり ()もなごり

 死にに()く身を たとふれば

 あだしが原の 道の(しも)

 一足づつに消えて行く

 夢の夢こそ あはれなれ


「……来島(くるしま)さん、さっきから怖い顔して、どうしたの?」

「いえ、なにも」

「そ、そう……だったら、いいけど」

 対局開始の合図を待つ。

「準備のととのっていないところはありませんね? ……では始めてください」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 一礼して、チェスクロを押す。私が後手、鞘谷(さやたに)先輩が先手。

 7六歩、3四歩、2六歩、8四歩、2五歩、8五歩、7八金、3二金、2四歩、同歩、同飛、8六歩、同歩、同飛、3四飛。


挿絵(By みてみん)


 横歩か……受けて立つ。

「3三角」

「3六飛」

「8四飛」

 8五飛戦法って、廃れてきたよね? そうでもない?

「うーん、そっちか」

 鞘谷先輩は、すこし考えてから、2六飛と寄った。

 2二銀、8七歩、5二玉。最新型に移行する。私の棋力だと、鞘谷先輩には、まだまだ及ばない……でも、勝機はあるはず。鞘谷先輩は受験勉強中だし、横歩の最前線を追うのは不可能だと思うから。わざわざ矢倉や角換わりにしなかったのも、そのため。

「……6八玉」


挿絵(By みてみん)


 谷川先生の好きな形か……7二銀、4八銀。

「2四飛、ぶつけます」

 過激に山崎流。

「ぐッ……いきなり激しい変化か……」

 ここで鞘谷先輩は、1分ほど考えた。定跡を把握していない模様。

「大丈夫よね……3三角成」

 同銀、2四飛、同銀、2二歩、同金、2三歩、同金。

「さあ、これで飛車を打ち込めるわけだけど?」

 鞘谷先輩は、3一飛と下ろした。


挿絵(By みてみん)


 うぅん……いきなり厳しい……でも、ここでひよるのは、女がすたる。

「全部受けて立ちます。2二金」

「3二角」

「5一飛」

「さすがに、それは読み切りよ、同飛成」

 同金に3一飛の打ち直し。ここからは、少し研究してある。

「2七飛」


挿絵(By みてみん)


「ん……攻め合い……」

 鞘谷先輩は、あごに手をあてて、ふんふんと考え始めた。

「まあ……後手は攻め合うしかないでしょうね……2一角成」

 同金、同飛成、2九飛成。これが金当たり。

 さらに、桂馬を入手してるから、純粋に角金交換の駒得になった。

「3九金」

「2五龍」


挿絵(By みてみん)


 この撤退でどうか……というのが、私とカンナちゃんの研究。

 吉と出るか凶と出るか、勝負。

 鞘谷さんも難しいとみたのか、ここで長考。先手は、手が広いもんね。

 一番やって欲しいのは、1一龍のうっかり。3三角で龍香両取りになる。先手はもう角がないから、7七角の打ち返しはできない。以下、2一龍、9九角成、7七桂で、後手が有利だと思う。でも、この楽観的な順は、多分実現しないよね、うん。

「……3六桂」

 これは、カンナちゃんとの検討でも出た手。

「3三角」


挿絵(By みてみん)


「さっきから、指し手が速いわね」

 あッ……もうちょっと、考えるふりをすればよかったかな。

 でも、時間がもったいないよね。

 私は寄せを読むのが遅いから、時間は温存しておかないと。

「……7七桂」

 これは当然の一手。次の手も読んでいたはず。

「1二角」

「やっぱりそう来るか……3一龍」

 4一金、6二金、同玉、4一龍、4二金、3一龍……今度は、さすがに私が長考。そこまで深く掘り下げてないんだよね……どうしたものか……一番分かりやすく……。

「3五銀」


挿絵(By みてみん)


 銀は助かったね。桂頭にダイブして、いい感じになったよ。

「う、動かせる駒がない……ッ!?」

 かな? 先手はもう、手がない気がするね。端歩か……6五桂?

 横歩だとよくみる桂跳ねだけど、現状は怖くない。

「あるいは、8八銀……? 壁銀を解消して……いや、そのまえに……」

 鞘谷先輩は、いくらか思考を漏らして、金を手にした。

 どこに打つのかな?

「8二金」


挿絵(By みてみん)


 これは……? 裏見(うらみ)先輩なら、「ふわあッ!?」とか言ってそうな局面。

 8二金……8二金の意味……7一龍かな? それプラス、駒の補充?

 こういうのって、あんまりよくない印象なんだけど……うーん……私の棋力だと、アリなのかナシなのか、判断がつかないね。とりあえず、7一龍、5二玉、7二龍の流れはイヤだから、龍を遮断しないと。

「4一桂」

 これしか打ちようがないね。

「6五桂」


挿絵(By みてみん)


 ここで桂跳ね……6四歩で殺せないってこと? 5三桂成、同金……ああ、これは3三龍で角を抜かれちゃう。痛いね。同玉は7二金で、銀を回収……ってことは、6四歩では殺せないわけだね。納得。

 でも、両方をちゃんと回避できるんじゃないかな? ちょっと危ないけど、6一銀と引いて、5三桂成、同玉の顔面受け……大丈夫だよね?

「6一銀」

 鞘谷さんは、1分ほど考えて、9一金と取った。

 完全にそっぽ。私は手応えを感じる。これ、押さえ込めないかな? 次に8一金とされると、駒を渡し過ぎな気がするから、7二銀と上がりなおして……香車を打ってくる?

 打つとしたら……うーん……5六香かな。桂馬と香車の2枚攻めで……えーと、こういうときは、どうやって受けるんだっけ? 4四銀とはできないし……あ、そっか。棋譜並べをしているときに、よく見る筋があるよ。5四歩だね。


挿絵(By みてみん)


 (※図は来島さんの脳内イメージです。)


 同香、5二歩と低く打ちなおして、先手はやることがなくなるね。

 私は実際に安全なことを確認してから、7二銀ともどった。

「5六香」

「5四歩」

「くッ……その手筋を知ってるんだ……」

 舐めプかな? 舐めプは命に関わるよ?

 鞘谷先輩は、さらに1分考えて8一金……ん? 8一金? 金を捨てた?

 なにかあるのかな? 同銀……うーん、分かんない。

「取れるときは、取ります。同銀」

 鞘谷先輩は、黙って6六桂と打った。


挿絵(By みてみん)


 これは……これは、さすがに分かるね。5四桂の王手金取り。5四桂、5二玉、4二桂成、同角、1一龍は、さすがにこちらが危なくなるから……持ち駒チェック。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あれ? 金があるね。3二金打で、龍を殺しちゃダメなのかな?

 鞘谷先輩の見落とし? ……なわけないか。仮に3二金打として、5四桂が王手。すぐに3一金とはできないから、5二玉、4二桂成……あ、これはダメだ。4二桂成が王手になるから、3一金の暇がない。7二玉と反対側に逃げて、4二桂成、3一金、3一成桂。


挿絵(By みてみん)


 (※図は来島さんの脳内イメージです。)

 

 ……思ったより、先手も頑張れそう? こっちが不利なイメージはないんだけど、金2枚渡すのは、ちょっと怖いね。ガチガチに固められたら、どこかで飛車か角を捨てないといけないはず。私の陣地は、角も飛車も打ちたい放題。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ただ、深く考えても、しょうがないか。素直にいこう。

「3二金打」

「5四桂」

「7二玉」

 鞘谷先輩は、桂馬を成るかと思いきや、4二龍と切った。


挿絵(By みてみん)


 さっきから読みが外れる……順番の問題かな?

 同金、同桂成、同角……ああ、そのとき5二香成があるのか。これが角取りで、角を3三に逃げなおすと、8四金。


挿絵(By みてみん)


 (※図は来島さんの脳内イメージです。)

 

 いきなり詰めろ。これは、私のほうが急激に危なくなってる。

 6五桂の存在が予想以上にウザイ……()らいでか。

「同金」

「同桂成」

「3六銀」


挿絵(By みてみん)


「ッ!?」

 鞘谷先輩の顔色が変わった。これは、一見桂馬を喰いちぎっただけに見えて、6五龍のスライドを用意している。6六歩としても、紐がついていないから同角。以下、7七金と受けてきたら、同角成と叩き切る。金駒がないから、角金交換は、むしろ歓迎。


 鞘谷(さやたに)涼子(りょうこ)さん……死んでもらいます。


「狙いは単純なのに、回避できないッ!」

 鞘谷先輩は、3六同歩とはせずに、4一成桂と入った。

 6五龍、6六金、2五龍、3六歩、7四桂。

 

挿絵(By みてみん)


 攻め駒を攻める。6六の金は王様から遠いけど、詰みには効いてくるから。

「な、7五桂ッ!」

 8三歩と手堅く受けて、5三香成。

 ここで私は、なるべく残していた持ち時間を使う。まだ13分もある。

 まずは、自玉の安全度を……うん、詰まない。今度は、相手の王様の危険度を……うまい手があるかな……パッと見、6六桂だよね。そのために打ったんだし。6六桂、同歩の瞬間に、1二角の角筋が6七に貫通。鞘谷先輩の王様は、一気に危なくなる。ただ、ここで6七金なんて放り込んでも、なにも起きない。

 だから、6六桂、同歩、同角を読んでるんだけど……6七歩と受けてくるよね。こう受けられると、めんどうかも。やることがない。9九角成、6三成香、8二玉、8五桂の追撃が怖いし。

 

挿絵(By みてみん)


 (※図は来島さんの脳内イメージです。)

 

 これが詰めろなんだよね……7三成香、9二玉(9一玉は8三桂不成、9二玉、9一金まで)、8三桂成、9一玉、8二金、同銀、同成香まで。さすがに私でも読める。

 というわけで、もっと速い攻めが必要。速い攻め……速い攻め……6七が空いた瞬間、狙い目だと思うんだけど……6七に歩を打たれない方法……はないか。9九角成のあと、6六桂と捨ててみようか? ……あ、意味ないや。同歩のあと、5五桂と打てなくなる。

 6六香と打ってみる? でもこれ、6六香自体が、そんなに痛くないんだよね。もう一枚香車があれば、6七香成、同金、6六香なんだけど……ん?

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あ、6七の地点を開ける方法、あるね。

 念入りに読んで……

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 うん、これでいこう。

「6六桂」

「同歩」

 鞘谷先輩は、私との持ち時間の差を気にしたのか、ノータイムだった。

「同角」

「6七歩」

 またノータイム。私はここで、とっておきの手を放つ。

「5五桂ッ!」


挿絵(By みてみん)


 鞘谷先輩は、軽くのけぞった。

「えッ……角を見捨てるの……?」

 ひたいに手を当てて、首をひねり始める。

「角が手に入ったら、そっちは詰めろでしょ……?」

 さあ、どうでしょう。

 鞘谷先輩は悩む。私は、おっかなびっくり、もう一度読みを確認した。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 まあ、さすがに詰めろだよね……6一角、8二玉、8三角成、9一玉、8二銀、同銀、同馬、同玉、8三銀、9一玉、9二金までの詰み筋。6一角に7一玉としても、7二銀、8二玉(同銀は同角成、同玉、6三成香、8一玉、7二銀、9一玉、8一金、9二玉、8三桂成まで)、8三銀成、9一玉、8二金、同銀、同成銀、同玉、8三角成、7一玉、7二銀までの追い詰め。

 でもね、そのまえに先手が詰むんだよ……私が間違ってなければ……6六歩、6七金と放り込んで、同金は同角成、6九玉、5八金まで。6七同金とせずに6九玉は、単純に7八金と取って、同銀、同角成、同玉、6七銀、8九玉、7九飛、9八玉、8八金、同玉、7八飛成まで。飛車があるから、7八角成に5九玉と逃げられない。


「しまった……角を取れないのか……」


 気付かれちゃった。どう受けてくるかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=390035255&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ