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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第9局 恋愛にまつわる7つの対話(2015年5月11日月曜〜16日土曜)
108/683

96手目 恋愛にまつわる7つの対話(続・飛瀬カンナの場合)

※ここからは、飛瀬さん視点です。

「エスパーと魔女に問う……女子力とはなんぞや……?」

 私の質問に、(しずか)ちゃんはにっこりして、

《知らなーい》

 と一蹴。

 (ほうき)にまたがって地面スレスレに浮いている美沙(みさ)ちゃんも、

「最近の若いひとは、まーた変な言葉を作ってるんですか」

 とバッサリ。

 ここは艶田(つやだ)市のさびれた公園。Outsiders全員集合中。

「あの……質問の答えになってないんだけど……」

 こうなったら、スカウターで検証しようか……

 

 ピピピピ……ザーッ

 

「あれ……砂嵐……?」

《それ、女子力計る機械でしょ?》

 バレたか……静ちゃんの妨害サイコキネシスが入っている模様……。

「女子力が低いっていう自白かな……?」

《スカウターかち割るよ?》

「あ、はい……すみません……」

 とりあえず謝罪するスタイル。

「というか、それ質問してどうするんですか?」

 美沙ちゃんの問い。理由を言うのはちょっと恥ずかしいけど……。

「こう、女子力をあげて……捨神(すてがみ)くんにもっと愛して欲しいかな……と……」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 なに、この沈黙。

 美沙ちゃんは、黒い笑みを浮かべた。

「ひとつ質問があります」

「なんでしょうか……?」

「カンナ先輩って、何歳ですか?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「17歳」

「その間合いは、絶対に嘘です。魔女には分かります」

《魔女じゃなくても分かるけどね》

「なんで嘘だと思うの……?」

「カンナ先輩、社会人だって言ってたじゃないですか? 公務員なんでしょう?」

 あッ……しまった……。

「シャートフ星では17歳でも公務員になれるから……」

「それも嘘ですね。惑星間スペースクラフト免許が20歳からだって言ってましたよ」

《え? これなに? カンナちゃんが宇宙人であること前提なの?》

 そこは疑わなくていいから……どうやって誤摩化そう……。

「私は成績が良かったから特別……」

「宇宙畜産学校を『並の』成績で卒業と言ってましたよね?」

 ぐぅ……この魔女、記憶力がグンバツ過ぎる……。

「白状します……34歳です……」

 静ちゃんは、キャーという歓声をあげた。

《ダブル年の差恋愛だぁ、すごーい》

「愛は年齢じゃないから……」

「声が震えてますよ。シャートフ星には恋愛がないとか言ってませんでした?」

「なんというか……地球人に感化されました……愛は素晴らしい……」

「その年齢差、捨神先輩には伝えてあるんですか?」

「嘘は吐いてないから……シャートフ星の平均年齢は160歳……地球の平均年齢と比較すれば、34歳と17歳で釣り合うよね……」

「年齢詐称は、離婚事由だと思いますが」

 えぇ……そんな……酷い……地球人は、愛を大切にしているのか、形式を大切にしているのか……はっきりして欲しい……結婚という制度も謎過ぎる……。

「地球人は、結婚とか、なんでするの……?」

「むしろ、シャートフ星の夫婦制度は、どうなってるんですか?」

 この魔女……質問を質問で返してきた……。

「シャートフ星では、定期的に工場で受精させるから……ペアで住む人もいるけど……例外かな……子供は保育省の管理下に置かれて、育てなくていいし……」

「愛情もなにも、あったもんじゃありませんね」

 そこに呆れられてもね……効率がいいんだから、しょうがない……。

《それってさ、カンナちゃんにも、実はパートナーいるんじゃないの?》

「いないんだな……これが……」

《なんで? あぶれたの?》

「中央コンピューターからお呼びがかからなかった……」

 ふたりとも、なんでそんな顔するのかな……?

「まあ、深入りしませんよ」

「中央コンピューターに呼ばれないひとは、たまによくいるから……ほんとだから……」

 とりあえず、結婚する理由を教えてもらおうか……。

「昔は、周囲に公示する機能があったと言いますね」

 なるほど……コンピューターもなにもないもんね……。

 公示するには、結婚式を挙げて同居するしかないわけか……。

「じゃあ、なんで現代は結婚するの……?」

「いろいろあると思いますが、生活というファクターは重要ですね。共働きして、住居をひとつに定めたほうが、間違いなく生活は楽になります。経費が削減できるので」

 ふむふむ……生活ができないと、愛もままならない、と……あれ?

「愛はすべてを乗り越えるんじゃないの……?」

「それは幻想ですよ。衣食住があって、愛です」

 えぇ……話が全然違う……。

「つまり、愛よりもお金が大事……?」

「まあ、純粋に大切なのは愛だと思いますが」

 説明が矛盾している……どっちやねん……。

「最近の若いひとは、ライフスタイルも変わっていますからね。昔とは違います」

 うぅん……よく分からない……愛とはなんぞや……。

「ところでさ……美沙ちゃんに、ひとつ訊いてもいいかな……」

「私にですか? どうぞ」

「美沙ちゃんってさ……『最近の若いひとは』って口癖だけど……何歳なの……?」

 美沙ちゃんは、一瞬固まった。

「16歳です」

「はい、嘘……さすがに宇宙人でも分かる……」

《そう言えば、美沙ちゃん、ずいぶん昔のこともたくさん知ってるよね》

 静ちゃんが加勢にきた。頼もしい。

「女性に年齢を訊くのは、失礼だと思います」

「さっき私の年齢、散々訊いたよね……?」

 魔女は、ぐぅの音も出ないようだ……やり込めた……。

「さ……は……」

「ごめん……聞こえない……」

 美沙ちゃんは、ムッとくちびるを結んで、ちょっと怒ったように答えた。

「はいはい、分かりましたよ。言えばいいんでしょう、言えば……378歳です」

 静ちゃん、またまたキャーと叫んだ。

《チョーお婆さん》

「失礼な。魔女は長生きなんですよ。2000年以上生きてる大御所もいますし、私みたいな新米は、16歳ぐらいです。ほんとですよ。今度、会わせてあげましょうか?」

《ムキになってるところが、あやしいよねぇ》

 静ちゃん、ほんと凄いね……年齢差もなんのその……。

「べつにいいですよ。実年齢通り、敬ってもらいますから」

《残念。日本では年齢よりも学年が重要なんだよね、これ。美沙ちゃんは後輩》

「だったら、最初からこんな話、しなきゃいいじゃないですか」

「最初に私の年齢を訊いたの、美沙ちゃんなんだけど……」

 私の指摘に対して、美沙ちゃんは、「そうでしたか?」と答えた。

《美沙ちゃん、さっきお昼ご飯食べたの、覚えてる?》

「私はまだボケてませんよッ!」

 話を元に戻して、女子力について。

《女子力とか、普通に生きてたら要らないと思うよ》

「私も静先輩に賛成です。マスコミに踊らされてはいけません。平凡が一番かと」

 エスパーと魔女がそれを言うんだ……説得力ゼロ……。

「じゃあ、ふたりは女子力なしで戦っていくの……?」

《サイコキネシスとテレポーテーションがあれば、そこそこ戦えるよ》

「それは、なんか違う戦いだよね……」

 宇宙連合創設前にあった、サイキック・ウォーズの再来かな……?

「私は既に、結婚しています。戦う必要がありません」

 ふわ? これには私と静ちゃんもびっくり。

「結婚してるの……?」

「正確な説明ではありませんが、魔女はそれぞれ悪魔を夫としますからね」

《あ、そっか。魔女は悪魔とHして契約するんだよね》

 美沙ちゃんは、ちょっと顔を赤くした。

「そういうあからさまな表現は、やめてください」

《べつに恥ずかしがらなくていいじゃん》

「まったく、これだから最近の若いひとは。慎みが足りません。私は夫を愛してますし、邪な気持ちで契約を結んだわけじゃありませんからね。夫婦生活は今年で365周年、たまにケンカはしますが、ずっと一緒です。現代では、すぐに別れるだのなんだの……」

 うんたらかんたら。

《はい、分かった分かった、美沙ちゃんが旦那さんとラブラブなのは分かったから》

 美沙ちゃんは愚痴って気分が楽になったのか、ご機嫌回復。

「ちなみに、夫婦生活を300年も続けるコツは、なにかな……?」

 美沙ちゃんは、そうですねぇ、と首を斜めにかしげた。

「やっぱり、お互いに思いやりをもって尊敬し合い、会話をよくして、たまにはケンカをすることですかね」

「ケンカをするの……?」

「家庭によると思いますよ。しないところは、しないみたいですし」

 私と捨神くんがケンカ……将棋でケンカするのかな……?

「どういう風にケンカをするの……?」

「私の場合は、召喚して背中にメテオストライクをぶち込んでやります」

《死んじゃわない?》

「悪魔は死なないですからね。キツくお仕置きするに限ります」

 それ、ケンカじゃなくて制裁だよね……悪魔を尻に敷く女……。

「そういう静先輩は、おつきあいとかしてないんですか?」

《うーん、いい男がいないんだよねぇ》

「なかなか言いますね。どういう男性が好きなんですか?」

《世界征服できるくらいの超能力者がいいかな》

 基準が高過ぎる。

「静先輩は、自分がそういうエスパーと釣り合っていると思うんですか?」

《あ、それ言っちゃダメだよぉ。理想を述べただけだしぃ》

「そもそも、エスパーじゃないとダメなんですか?」

《もちろんッ! でないとテレパシーで会話できないじゃん》

 普通にしゃべればいいと思うんだけど……。

 静ちゃんは、テレパシーでしか会話しないから、無口だと勘違いされている。

「結論として、女子力はあんまり関係ないってことでいいのかな……?」

《いいんじゃない?》

「そう思います。カンナ先輩の場合は、もっと気にするところがあるのでは?」

「うん……あるね……」

 あまり触れられたくないところが、たくさん……。

《例えば?》

「例えば……宇宙連合に加盟していない星の生物とカップルになると、子供は宇宙連合の会員になれないんだよね……登録拒否されるから……」

《えぇ、それは酷いね。差別、差別》

 しょうがないと言えば、しょうがないんだけど……困るよね……。

「なにかデメリットは、あるんですか?」

「宇宙連合の職員になれないくらいかな……地球で育てたら、そもそも関係ないし……」

「だったら、いいじゃないですか」

「うん……それよりも深刻なのは……子供ができるかどうか……」

 ふたりは、急に押し黙った。

《できない可能性があるの?》

「現在遺伝子解析中……可能性は半々だと思う……」

 異星人だからね……宇宙連合内部でも、できないカップルは存在する。

「それは気になりますね。ご武運を」

「ありがとう……ところで、美沙ちゃんには子供いるの……?」

 美沙ちゃんは、大きく胸を張った。

「立派なひとり息子がいます」

《うわぁ、次々と明らかになる、美沙ちゃんの衝撃新事実》

「悪魔と人間のハーフなんだ……すごいね……」

「ええ、私が言うのもなんですが、とても優秀な子です。将来は、結社の幹部になるか、あるいは高位の女悪魔と契約を結んで欲しいと思っています」

 美沙ちゃんは親バカ。

「世の中には、いろんなカップルがいて、いろんな愛のかたちがあるんだね……」

「その通りです。だからカンナ先輩も、堂々と恋愛してください」

 宇宙人と地球人の恋愛も、こうしてみると普通だね……愛はすべてを克服する……。

「ちょっと気持ちが軽くなったよ……将棋でも指そうか……」

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