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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第9局 恋愛にまつわる7つの対話(2015年5月11日月曜〜16日土曜)
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95手目 恋愛にまつわる7つの対話(不破楓の場合)

※ここからは、不破さん視点です。

「はぁ……」

 師匠、またタメ息ついてる。どうしたんだろうな。

 ここは、捨神(すてがみ)九十九(つくも)の一番弟子、不破(ふわ)(かえで)様が相談に乗って差し上げるしかない。

「師匠、どうしたんですか?」

 師匠は体育座りの状態から顔をあげて、こちらににっこり。

「あ、不破さん、どうしたの?」

「いや、先にこっちが訊いたんですけど……どうかしたんですか?」

 あたしが尋ねると、師匠はふたたびタメ息をついた。

「ちょっと心配事があってね……」

 学校の成績……なわけないか。将棋は絶好調だし、ピアノのスランプとか?

 師匠は、それも違うと言った。そして、顔を赤らめた。

「実はね、ちょっと彼女のことで心配があるんだ……」

 ああ、はいはい、了解です。

 師匠、初めて彼女ができて、どう付き合えばいいか、分からないんですね。

 やっぱりぶっちゃっけてもらわないと困りますよ。

「デートの行き先が決まらないとか、そういうことですか?」

「うぅん……そういうのは大丈夫なんだけど……」

 へぇ、大丈夫なんだ。そっちのほうが意外。

 師匠のことだから、デート中も将棋とピアノの話しかしてない気がする。

 ま、相手もそれを承知でOKしたんだろうし、当分は大丈夫だろうな。

「じゃあ、なんなんですか? ファッションでもないですよね?」

「不破さんのまえで言うの、恥ずかしいんだけど……」

 また水臭い。

「あたしと師匠の仲じゃないですか、今更過ぎますよ」

「んーとね……赤ちゃんができたらどうしようかな、って……」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

「師匠……わりとシャレになってないですよ……」

 師匠は赤ら顔をやめて、マジメな表情になった。

「や、やっぱりマズいかな?」

「マズいですよッ!」

 っていうか、師匠、ちょっと幻滅しましたよ。

 もっと優しいひとだと思ってたのに、そんな付き合ってからいきなり──

「んー、そうだよね……おたがいに学生だし……どうしよう……」

「えぇ……確定してるんですか? ちゃんとつけましょうよ……」

 師匠は「え?」という顔をした。

「つけるって、なにを?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 そこからかよ。これは致命的。

「ゴムですよ、ゴム」

「ゴム? ……コウノトリって、ゴムが嫌いなの?」

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………は?

「師匠、なんの話してます?」

「赤ちゃんの話」

「赤ちゃんって、どうやってできるか知ってますか?」

 もちろん、と師匠は言って、

「コウノトリが連れてくるんでしょ」

 と答えた。

 こいつは反応困る……さすがに冗談だよな。

「師匠、セクハラですよ。女のあたしに対して、分かってて言ってますよね?」

「な、なんでセクハラなの? 僕、女の子に失礼なことしてないよ?」

 うっそだろ……なんて反応していいのか、分からない。

「し、師匠、小学校とか中学校で、性教育受けなかったんですか?」

「うーんとね、僕のいた養護学校はなくて、中学のときは学校行ってなかった」

 そういうオチか……どうしよう……スマホで検索させるか?

 師匠には刺激が強過ぎるかもな。鼻血出して倒れる可能性あり。

 そこまで考えて、ふと疑問が湧いた。

「師匠……ひとついいですか?」

「うん、ふたつでもみっつでもいいよ」

「彼女は、なんて言ってるんですか?」

「何について?」

「いや、その……赤ちゃんについて……」

 あ、そのことね、と師匠は言って、いつもの笑顔にもどった。

「赤ちゃんは、工場で作るって言うんだよ。さすがにそれはないよね、アハハ」

 工場ぉ? なんだそのSFみたいな設定。SFオタクか?

 師匠をからかって遊んでるとか、どうしようもない女だな、まったく。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ああッ!

「不破さん、どうしたの? なにかあった?」

「な、なんでもないです」

 分かっちまったじゃねぇかッ! 師匠の彼女がだれかッ!

「師匠、ちょっと出掛けて来ますッ!」

「え? どこ行くの?」

 あたしは適当に答えて、押井(おしい)先輩の教室に向かった。

 先輩から自転車の鍵を借りて、駐輪場へ。

 校門を飛び出して、駒桜(こまざくら)市立(いちりつ)高校へと全力失踪した。

 裏門からこっそり入って、茂みに駐輪しておく。鍵をかけて……と。

 さあて、あの女、どこにいるんだ? 学年は分かるが、教室は分からない。

 あたしは適当に見繕って、気の弱そうな男子に話しかけた。

「と、飛瀬(とびせ)さんですか? ……2年A組だったかな」

「校舎は?」

「そこに見えるやつですよ。3階です」

「サンキュ」

 あたしは人気(ひとけ)のないところから入って、3階の廊下に出た。

 私服に金髪だから、かなり目立つな……先公に見つかるとマズい。

 さっさと用事を済ませるぜ。あたしは教室のプレートを確認した。

「さっきから、だれを捜してるのかな……?」

「うわぁッ!?」

 いきなりうしろから声をかけられて、あたしは飛び上がった。

 振り返ると、飛瀬先輩がいた。

「ど、どっから現れたんですか?」

「普通に現れたんだけど……私を捜してるの……?」

 えッ……なんで分かったんだ? なんか怖いな。

 まあ、さっきの男子が告げ口したんだろう。あたしは気を取り直す。

「ちょっと話があるんです。いいですか?」

「いいよ……ここじゃマズいから、屋上にでも行こうか……」

 あたしたちは屋上へ移動した。5月の風が心地いい。煙草吸いたくなってきた。

「で、なんの用かな……?」

 あたしは、飛瀬先輩が師匠と付き合ってるんじゃないか、と尋ねた。

 すこしは否認するかと思いきや、飛瀬先輩はあっさりと白状した。

「そっか……やっぱり不破さんもエスパーだったんだね……」

「は?」

 飛瀬先輩は、あたしのことをジーッと見つめてきた。

「おかしい……全然通じない……」

「な、なにがですか? 日本語なら通じてますよ?」

「ま、いいや……それで……?」

「それで、ですね……」

 説明しにくいな……女同士だし、ちょっと踏み込んでみるか。

 あたしは、師匠から聞いた話をそのまま伝えた。

「うん……そうだね……赤ちゃんは工場で作るんだよ……」

 えぇ……マジか……師匠も師匠だけど、この女もすげぇな。

 演技じゃなさそうなところが不気味過ぎる。

「どこにそんな工場があるんですか?」

 飛瀬先輩は、きょとんとした。

「そう言えば、地球の生殖プラントって、まだ発見されてないね……」

 生殖プラントとか言い出したぞ。どうすればいいんだ。

「と、とりあえず、どうやって作るか説明しますから、聞いてください」

 かくかくしかじか。

 あたしの説明を聞いているうちに、飛瀬先輩はかなり動揺した。

「ウソでしょ……? ウソだよね……?」

「ウソじゃないですよ」

「え……だってそれ……えぇ……野蛮過ぎるよ……地球人、頭おかしい……」

 あんたほどじゃないよ。っていうか、愛の営みを野蛮って言うな。

「そんな……地球人と付き合ってる時点でアブノーマルなのに……そんなことしたら、母星のみんなに白い目で見られちゃう……解雇対象になるかも……」

「地球人と付き合ったら、どのくらいインパクトあるんですか?」

「娘がアフリカに行って、ゴリラと結婚して帰って来るくらいインパクトある……」

 あり過ぎだろッ! どんだけ見下してるんだよッ!

「それならもう、飛瀬先輩は変態ってことでいいじゃないですか」

「私は変態じゃないから……愛に目覚めただけだから……」

「その愛の力で、カルチャーショックを克服するんですよッ!」

 飛瀬先輩は真っ赤になった。

 このひと、最近また表情が豊かになった気がする。

 これも愛の力?

「だって、捨神くんと、そんな……ああしてこうして……うーん……」

 飛瀬先輩は、その場に倒れてしまった。おおいッ!

 ど、どうする? あたしは介抱の仕方が分からずに、おろおろした。

 AED、AEDはどこだッ!? 救急車、救急車ッ!

「楓さん、そこでなにをしてるんですか?」

 ギョッとして振り返ると、もみじが立っていた。

「もみじッ! 助けてくれッ!」

 もみじは、コンクリートのうえに倒れた飛瀬先輩を見て、

「あらあら、これは大変です」

 と言い、てきぱきと介抱した。

 変な液体を嗅がせると、飛瀬先輩は目を覚ました。

「ここは……宇宙探査局の救急センター……?」

「学校の屋上です」

 もみじはそう言ってから、あたしのほうへ顔をむけた。

「楓さん、なぜここに? 天堂(てんどう)はお休みですか?」

 天堂は、休みとか関係ないんだよなあ。授業中に姿がみえないとかデフォだし。

 まあ、もみじもそれが分かって言ってる感がある。

「ちょっとね、立ち寄っただけだ」

「そうですか……飛瀬先輩、大丈夫ですか? 保健室に行きますか?」

「大丈夫……地球の薬は、あんまり体によくないから……」

 ふたりはそのまま、屋上をあとにした。

 ふぅ……とりあえず、勘違いは正したぞ。あとは、師匠が飛瀬先輩から教育されるのを待つだけだな。うん、いいことをした。

 あたしはポケットから煙草を取り出すと、その場で一服した。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あれ? なんであたし、飛瀬先輩が宇宙人みたいな前提で話してたんだ?

 そんなわけないんだよなぁ……ま、いっか。

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