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こちら、駒桜高校将棋部Outsiders  作者: 稲葉孝太郎
第8局 熱血!春の団体戦(1日目・2015年5月10日日曜)
101/682

89手目 3回戦 来島〔駒桜市立〕vs葛城〔升風〕(1)

※ここからは来島くるしまさん視点です。

「5番席、葛城(かつらぎ)ですよ? そっちは?」

「あ、はい……5番席、来島(くるしま)です」

 まさかここで当たるとはね。予想してなかったよ。

「はずされちゃったね……」

 カンナちゃんは、いつもの静かな声で話しかけてきた。

「……そうだね」

 私はオーダー表に相手の名前を書き込んでから、席を立った。

 裏見(うらみ)先輩とカンナちゃんは、獅子戸(ししど)くんの棋力について話し合っていた。

「とりあえず裏見先輩と馬下(こまさげ)さんと私でなんとかするから……」

 飛瀬さんは、私を当て馬だと思っているらしかった。まあ、正しいよね。

「チームはそれでお願いするよ」

「うん……え、チームは……? どういうこと……?」

 私はそのまま5番席に向かった。葛城くんは、先に来ていた。

「……」

「……」

 私たちは黙って椅子を引き、駒を並べた。

「……」

「……」

 あ、睨んできたね。私も睨み返す。じーッ。

「ふえぇ……怖い……」

 まずは先勝。ガンの飛ばし合いで私に勝とうなんて、100年早いよ。

「振り駒をお願いします」

 1番席で、福留(ふくどめ)さんが振り駒。

市立(いちりつ)、奇数先」

升風(ますかぜ)、偶数先」

 私の先手だね。葛城くんは無言で、チェスクロの位置を直した。

「対局準備の整っていないところはありますか?」

 ひさびさに腕が鳴るよ。

「それでは、対局を始めてください」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 挨拶くらいは、ちゃんとしないとね。

 葛城くんがチェスクロを押して、私は7六歩と角道を開けた。

「8四歩ぅ」

 矢倉か……受けて立つよ。

「6八銀」

 3四歩、6六歩、6二銀、5六歩、5四歩、5八金右、4二銀、6七金、3二金。

「2六歩」


挿絵(By みてみん)


「早囲いするのぉ?」

「ノーコメント」

「無口な女は嫌われるよぉ」

 は? 転がして欲しいのかな?

 葛城くんは30秒ほど考えて、4一玉と寄った。

 4八銀、7四歩、7七銀、6四歩、2五歩、6三銀。

 葛城くんも、変則的に囲ってきたね。

「2四歩」

「過激だねぇ」

 2筋ががら空きでしょ。ここで突かないと女がすたる。

 同歩、同飛、2三歩、2八飛、7三桂、7八金。


挿絵(By みてみん)


 早囲い模様を餌にして、飛車先の交換に成功した。

 5三銀、6九玉、8五歩。

 ここで5七銀……はできないのか。6五歩と突かれちゃう。

「2五飛」

「手損するのぉ?」

「恋も将棋もスタイルが大事なんだよ。分かる?」

 1四歩、5七銀、5二金、4六銀、4四歩。

 4六銀と上がれたから、飛車はもう撤退でいいね。

「2八飛」

「うぅん、手損オッケーってことかぁ」

 4三金右、7九角。


挿絵(By みてみん)


 ここで葛城くんが長考に入った。仕掛けてきそうだね。

 私、他人の殺意は簡単に読めるんだよ。

 仕掛けてくるとしたら……6五歩かな。同歩、同桂が両取りじゃない。6六銀と逃げることができる。問題があるとすれば、そこで8六歩が入ること。8六歩、同歩、同飛、8七歩に……どこに逃げるのかな? 8三、8二、8一のどれもありそう。

 こういうところで違いが分からないのが、年季のない証拠なんだよね、私の。

 さすがに6五銀、6四歩みたいなポカはしないけど。

「……6五歩ぅ」

 あまり時間を使わずに、飛車の引き場所を打診したほうがいいかな。

 同歩、同桂、6六銀、8六歩、同歩、同飛、8七歩。

「8一飛ぃ」


挿絵(By みてみん)


 そこか……とりあえず、壁角を解消しておく。6八角。

 葛城くんは歩を手にして、6四に打とうとした。そして、手を引っ込めた。

「あッ……9五角……」

 チッ、バレたか……と、素が出ちゃったよ。自制しなきゃ。

「遊子ちゃんも、やるねぇ、9四歩ぅ」

 9六歩、6四歩、7九玉。葛城くんは、また考え始めた。

 先手のほうが、模様はいいのかな? あとは3六歩と突くくらいで主導権を握れそう。

「うぅん、駒組み間違えたかなぁ……」

 素人目だけど、後手は5三銀の位置が悪いね。もう矢倉に組めないから。

 私が考えていると、そばを辰吉(たつきち)くんが通った。あの日から、お互いにひとことも口を利いていない。癇癪起こさずに、そのまま一緒に帰れば良かったかな……反省。

「形が悪いけど、こうするしかないっぽいねぇ……5二玉ぅ」


挿絵(By みてみん)


 ふぅん、右玉模様だね。8一飛は、その伏線だったのかな。

「8八玉」

 入城完了。

「囲いは大事。辰吉くんから教わったよ」

「なんでいちいち、たっちゃんに絡めるかなぁ……1三角ぅ」

 端角……右玉だと、よく見る形だね。

 3三桂で、香車に紐をつける作戦だと思う。

「すぐにいじめちゃうよ。1六歩」

 3三桂、1五歩、同歩、1四歩、2二角。

 端を制圧したからポイント……だけど、ちょっと忙しくなっちゃったかな。

 7五歩、同歩、7七歩、同桂、同桂成、同銀、9五歩……こっちじゃないか。7七桂成とはしないで4五歩、5七銀、同桂成としてきそう。これを回避する手段は……ちょっとなさそうかも。うーん、さっきのところで、もっと考えておけばよかったかも。

 とはいえ、恋も将棋も猪突猛進。私はガンガンいっちゃうよ。

「7筋から来るつもりなら受けて立つよ。3六歩」


挿絵(By みてみん)


 ここで葛城くんは、長考に入った。ひるんだかな? 私は続きを考える。

 3六歩の意味は単純で、やってこないなら3七桂。これで7五歩、同歩、7七歩、同桂に4五歩の筋が消える。葛城くんとしても、急いで攻めてくるんじゃないかな。多分。

 というわけで、受けは読まないよ。7五歩、同歩、7七歩、同桂、4五歩、5七銀、同桂成、同角(さすがに同角だよね?)……意外と続かないのかな? 9筋を絡めないと、葛城くんサイドは手がないような気がしてきた。7七同桂に9五歩、同歩も入れて、4五歩、5七銀、同桂成……あれ? これも後手は手がない?

 私のほうが有利なのかな? なにもないなら、次に3七桂で有利なんだけど。

 私はちらりと視線をあげて、葛城くんの目の動きを追った。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 んー、やっぱり7〜9筋を追ってる気がするね。受ける気はなさそう。

 こういう盤外戦術も、案外に有効。

「さっきからなに睨んでるのぉ?」

「睨んでないよ」

「睨んでるよぉ」

 チッ、うっせーな、転がすぞ……おっとっと、いけない、いけない。

 私は視線を下ろした。葛城くんの攻め手を考える。

「こうかなぁ」


 パシリ


挿絵(By みてみん)


 だよね。私はサッと取った。7七歩、同桂、4五歩、5七銀。

「2五桂だよぉ」

 ん? 桂馬? ……タダだよね。

 私はなにかあると思って、すこし考えた。そして気付いた。角筋が通っている。

 ただ、それからあとのことがよく分からなかった。私ってまだまだ弱いね。

「とはいえ、これを取れなきゃ女がすたるよ、同飛」

「なんか啖呵切ってきたねぇ、9五歩ぅ」

 同歩、5七桂成、同角。

「5八ぎぃん」


挿絵(By みてみん)


 ああ、2五桂と捨てたのは、こういう効果もあるんだ。

「そんな攻めは繋がらないもん。7六桂」

 ここは急所だから、埋めておく。

 5八銀のまえに一回7六歩と叩いてくるかと思ったら、来なかったね。

「えへへぇ、繋がるかどうかは、見れば分かるよぉ」

 なにかあるのかな? 6七銀成しかないと思うんだけど。

 そこで端攻めを敢行してくるか、それとも角を切ってくるか。合わせ技もありそう。

 このとき7六歩がめんどくさいから埋めておいたんだよ。

 実際に6七銀成、同金として、葛城くんは持ち駒の金を手にした。

「金? ここで受けるの?」

「一気に寄せちゃうよぉ」


 パシリ

 

挿絵(By みてみん)


「え……?」

 こんな手があるの? 同玉……あ、そっか、8七飛成。

 でも、追撃の手段がないよね? 金駒が……あッ。

 私は内心で青くなった。銀が6六に落ちている。

「同玉、6六角、同角、8七飛成ってことか……」

「さぁ、どう受けるかなぁ?」

 私は落ち着いて読む。これ、取らない手もあるんじゃないかな? 例えば、7八玉と寄るのもありのような……7八玉に7九金と追えないんだよね。同角があるから……あ、そうでもないのか。7八玉にすぐ6六角と切って、同角、7九金。これを同玉なら8七飛成とできるし、8八玉と戻ったら7八銀でいきなり危なくなっちゃう。

「うーん……結構めんどくさいね……」

「ちゃんと読み入れてるからねぇ」

 私は心理的勘を働かせる。これで私のほうが即死なら、時間を使わなかったんじゃないかなあ。途中変化に時間がかかった可能性はあるけれど、合計で10分以上読んでいる。残り時間は、私が13分、葛城くんが10分。残し方もおかしい。微妙に寄らないから、終盤に時間を残しているようにもみえた。

 ここは考えどころだね、うん。

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