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第四章 『初めての色々』

「ふぐぇっ」


無重力の時間はたぶん一〇秒と掛からなかったと思う。浮遊感から投げ出されて背中に衝撃が来ると自然に閉じていた目を開いて、時計に目をやっても長針は動いていない。


「いててて」


立ち上がりながら叩きつけられた背中を届く範囲で擦り辺りを見渡した。そこは部屋の中央辺りでとにかく広い。


「わっ」


ガラス張りの天井から赤く浮かんでいる月を見て、勢いよくガラス張りの壁へと近づいた。


眺めが絶対綺麗で幻想的な世界が広がっていると思った……のに、


「って、街灯一つないし!」


上から見下ろす景色は辺り一面月明かりのみで照らされる森が広がっていて、幻想どころか不気味に鳥の鳴き声までもが聴こえる。


「博士の家といい、こんな場所ばっか」


期待を裏切られてため息が出た。でも、明らかに博士が作った人口神隠しマシーンの中でもないし、本当に異世界には来られたみたいだった。


「誰かの家なのかな……。半分が窓ガラスみたいな感じであとは石、一応二階があるけど、観客席?」


期待外れの外の風景を後ろにして部屋を改めて確認して分かるのはそれぐらい。部屋の目的を考えてみても想像つくのは中央を舞台にした劇場か。それにしてはおれがいる場所には舞台らしきものはないようだ。


「ここじゃよく分からないな」


危険は無さそうだし、ある程度歩いてみてもいいだろう。時間制限もあることだし、考えるよりもまず行動したい。


そう思って、ここまで大きくしなくてもいいだろうと言いたくなるほどの扉へと近づいていく。


「……開けられるのかな?」


すると、



「侵入者が揚々と見物?」



観客席の下、二階を支える柱の影から誰かが寛美な声と共に現れた。いや、扉は開いていないのだからそこにいた。


おれは肩が跳ね上がるほど驚いてその姿が月明かりではっきりするまで凝視する。声の主は流れるような銀の髪を靡かせ、首に掛けられた宝石を胸元まで下げて、艶美な服から見える白い肌の女の子がそこにいた。見た目で判断できるのは年上と言うことだけ、それも合っているかどうかは分からない。


「だれ?」


相手からすれば逆に訊きたいだろうけど、思わず尋ねていた。


当然というか返事は返ってこない。そりゃそうだ、ここにいるってことはこの家の主だろうから、おれがいることの方が不思議で……あれ? おれって不法侵入してる? うん。言い訳を考えようと思う。


考え始めた頃、どういうわけか女の子はこっちに近づいてきて、腰に巻きつけたベルトに掛かる両刃の剣に手を触れている。おれが剣だと分かったのは、実家に刀があって違う武器だと判断できたからだ。


「ってなぜ故、武器を所持してるんですか!?」


いつもの感覚で会話をしていたつもりだった。だけどその女の子はこっちの意を無視するように言葉を繋ぐ。


「言い残すことはそれでいいの? 小僧」


小僧っていう言葉には悪意を感じてしまうのは、おれの身勝手なのだろうか。身長で人を判断するのはよくないと思うな。


文句の一つも言いたいところだったけど、ここはおれが人の家に勝手に入った方が悪い。だから、


「道に迷いました。出口を教えてください」


とっさの言い訳は嘘に変わった。


だが、


「うわっ、ちょっと!?」


急に振られた剣を間一髪避ける。


「ほう。良い反応ね」


その女の子は感心した感想を述べたけど、斬られたら人は死ぬということを知らないのだろうか――って、んなっはずあるか!


「迷い人ですっ!」


だから、急いでもう一度確認のためおれの状況を説明する。


「どちらにせよ、侵入者には変わりない」


うん。この人マジだ。


だって、じりじりと距離を詰められている。


「あの、止めてくれませんか」


後退しながら提案してみる。


「わちょっっ!?」


ダメだった。


どうにか逃げないといけない思い、ようやくボタンの事を思い出した。すぐさま押そうと腕を動かした瞬間、すぐさま女の子の剣が振り落される。


「ひぃっ!」


押す暇すら与えてくれない。ヘタに動くと本当に殺される。額からで流れる冷や汗が状況の緊迫さを物語っていた。


「さて、ここまで弱い種族は記憶にないわね」


女の子が攻撃を止めそんなことを言って剣に付いた赤い液体を舐めた。そこでおれは初めて頬の辺りの痛痒さに気が付いた。


どうやら、さっきの攻撃の時に頬を掠めていたらしい。


喉の奥がゴクリとなった。


血を舐める女の子の姿は恐怖だ。


「……お前」


なにやら、思案するようにおれの方を視認して、さらに続ける。


「くくっ、これは面白いことになるかもしれないわね」


なってもらっては困ると断言できる。だって、女の子がおれを見る目が明らかに獲物を狩る獣の目に変わったからだ。


「再確認の為にもう少し血を頂こう」


そんなこと言われて了承できるわけがない!


「だったら、おれも久しぶりに本気を出すしかないな」


一旦ボタンの事は忘れよう。そうでもしないとあの剣を避ける集中力が欠ける。


「どれぐらいもつか」


「ナメんなよ。おれだってただで秋の幼馴染やっているわけじゃない。この鍛えられた足で、おれは本気で逃げるッッッ!」


「………………」


沈黙ってたまに人を馬鹿にする。


「ふっ、じゃあ逃げ切って見せて」


おれの本気が始まった。



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