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第二十章『新たなる希望』

シンの言葉が届いていたのか、無言でアスターの後をただ事務的にヴェーレは歩き続けた。沈黙のその先にはまるで死刑台でもあるかのようで、アスターも口を無理には開かない性格も加わり、より濃く映る。


そのうち急遽設けられた部屋に辿りつく。寝るためにだけ用意された部屋はベッドが一つあるだけのさびしい部屋だ。


促されて進んで部屋に入るヴェーレは座るわけでも、寝るわけでもないまま窓辺に立った。そして、小さな窓から見える紅い月を呆然と眺め始める。


「…………一つ、リチア様から言伝あります」


ようやく口を開いたアスターの言葉はただの伝言に過ぎない。だから、ヴェーレも返事をしないままその伝言を聞く態勢もとらないで、勝手に喋らせた。


「…………貴方はプレッツァをご存知ですか?」


前置きから始められるその伝言は、『王の杮』を把握せずにこの土地にやってきたヴェーレへの気遣いか、別のものかは分からない。


どっちの理由で受け取ったのか、その質問には簡略的にヴェーレは答えた。


「汚れ無き血を持つ滅んだ種族」


知っていて当然と発せられるその意味は、ヴェーレが望む種族復興の為に調べる過程で最初に見つけた物だからだ。だが、言われる通りその種族は滅んでいる。よって次に見つけたのが、『王の杮』の存在。


『王の杮』は噂が絶えない代物、だからこそ可能性に掛けてヴェーレはここにやってきた。


それを今更なんだというのか、興味すらわかないヴェーレは蔑んだものとしか受け取れない。


「…………ご存知であればリチア様の言伝をそのままなぞります」


だが――、


「『やる気のないままこの城に置いておいても意味がない。となれば一つ良い情報を与える。その昔滅んだとされる種族プレッツァは今この城の中にいる。ここまで言えば誰のことか分かるわね?』」


ヴェーレの心に一つの言葉が浮かんでくる。


『ヴェーレおれまた来るから!』


なんの意味もなかった、異世界に住む住人の戯言程度の言葉がヴェーレに光を与える。はるか昔に滅んだとされる種族が生き残っている可能性は、長い年月の記録上ない。


だが、その言葉を残す存在はこの世界でも考えられていなかった『異世界』という新しい種族。


「………………そんなことがあるのか」


まだ可能性は消えてはいなかった。


「『そしてこの噂は時期に広まり、この城にゴミどもが集まってくる。だけど、あいつはこの世界ではあまりに弱い。その時はお前が守れ、そうすれば夫の立場とまでとは言わないけど、妾ぐらいにはあいつを与えてやる』と。…………言伝は異常です」


シンを守ることが思い描ける種族の繁栄になる。そのことでヴェーレの脳裏にシンしかいなくなっていた。


「…………これは言伝ではないのですが、シン様に集まってくる輩をリチア様は選別します。…………それは、リチア様の旦那様の選定のためでもあります。ですので、その他は貴方が――」


「シンを守り抜くことが、私がこの城にいる理由だ」


「…………それだけは困るのですが、ひとまずはそれで仕事をしていただけるのでしたら結構です」


シンが納得しないであろう事情が出来上がる。それでも、きっとシンは許してしまうはずだ。


それほど力強い表情が戻っていた。




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