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第一章 『最初の出会い』

「――それで、その女子生徒が老人の家の前まで来た瞬間……、」


なんで暗闇の帰り道怖い話を聞かなければいけなくなったのか。最近学園で噂になっている夜にしか現れない老人の所為だ。


普段なら一人で帰るのに、そうゆう噂をいじめっ子体質の南秋が聞いてしまったら、なぜか帰りが偶然一緒になってしまう。さらには、幼馴染という因果の所為で、おれがその手の話が苦手だと知っていて、当然話したがるのが秋という存在だ。


「後ろから、『こんなところで何してるんだいっ!』」


「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」


申し訳ないほど響き渡った悲鳴でいくつかの玄関から人が飛び出てきた。


「こらあああ、紛らわしい悲鳴を出すんじゃないオオカミ小僧!」


「でたっあああああああああああ!」


このタイミングで昔懐かしカミナリじいさんが出てきて怒鳴り散らせば、また騒いでしまうのは仕方ないと思う。


「シン、古ぼけた老人から家が出てきたぐらいで騒いだら近所迷惑だよ」


「もっと怖いわ!」


恐怖で無理に明るくツッコムおれを確認して、もう一人の幼馴染の緋衣宙が携帯を片手にパタンパタンと開いたり閉じたり繰り返している。この仕草は慣れるまでイラつくほど請け合いだ。


「お前さんらの黙殺の方が怖いわい。これ以上騒がんと、はよう帰りなさい」


で、忘れそうになった慣れ親しんだじいさんは強面の顔の割に優しかったりする。実際、家を飛び出して心配して出来てきたのはじいさんだけで、他の家の住人は窓から顔すら見せない。この程度の騒ぎは日常茶飯事で、きっと家の中で「またあの悪がき(秋のことだけを指したい)だろ」ぐらいの感想で終わっているのだろう。

おれ達はじいさんに別れを言い捨てて、帰り道を再度歩き始めた。


「それで、さっきの話の怖いところって結局どこなの?」


せっかく終わったと思ったら、宙が余計なオチを聞き出しやがった。


「なんか、空き地でその老人が消えちゃうんだって」


おれが驚いて叫んだことで秋はすっきりしたようで、どうでもいいようにさっさとオチを片づける。


「あの空き地ってシンよりも高い草で中なんて見えないと思うけど? たまたま見失っただけじゃないかな」


「みなまで訊くな宙。秋が答えたくなるじゃないか――ってだれが草よりも小さいだ!」


秋がニヤッと唇を釣り上げたのは気のせいであってほしい。


「いや、僕たちよりも草は伸びてるけど……」


「それがね――」


やっぱりと言わざるを得ないほど、秋は見事に嫌がらせをするつもりだ。


「あの空き地には実は小さな小屋のような建物があるんだって。で、噂を聞いたうちのクラスの男子が老人を見張って小屋まで後を付けたらしいのよ」


「あーあーあー」


耳を叩いて聞き取れない工夫は、おれを秋の嫌がらせから救ってくれるはずだ。


「ちゃんと聞きなさい!」


「NOぉおおおおおおおお」


あっさり秋に手首を抑え込まれ防御不能に陥った。


「その中には……」


「中には?」


「ただの物置しかなかったらしいの」


「何そのオチ?」


「そ、そんなことだろうと思ったね、おれは。だいたい幽霊だの妖怪だのってのは人の思い込みで存在する妄想現象なのだよ秋君。きっと老人は尾行されているのに気付いて逃げたんだ。最近の中学生は怖いからね」


「ふーん、その割には足が震えているように見えるけど」


悪いか! 怖いものは怖いんだよ!


「どっちにしろ、その老人が小屋で消えているけどね」


「「なんで?!」」


宙の説明が理解できずにおれと秋が声を揃えて、話を聞く。ただ興味本位で訊くんじゃなかったと、おれはこの後後悔することになった。


「だって老人は実在してたなら、そこで見失うのはおかしいよ」


まったく理解できない。秋も同じようで考え込んだフリをしている。秋がおれのことを知っているように、おれも秋がアホだということを知っているのだ。


「ぐほっ」


「そのバカにした目はむかつくわね」


あ、アホにバレた……。


「説明続けるよ」


「お、おねがいしまふ」


「シンの言うとおり老人がクラスの男子に気が付いたとは思う。でも逃げ場があそこの空き地にはないんだよ。隠れるにしたって、クラスの男子は小屋の後ろぐらい探すと思うし、草むらを歩けば音とか、草の動きで分かる」


「でも、草の中に身を隠せばやり過ごせるんじゃない?」


「いや、だから草むらで動けば見つかるんだよ」


「だから隠れれば――」


「宙、秋に説明するときはもっと丁寧にしなきゃ、アホなんだごふッーー」


「要はね、秋。クラスの男子は老人を見失っているわけじゃないんだ。ってことは隠れるにしても草が止まったところを探せばそこに老人がいることになる。でも、見つけられなかったってことは、老人は確かに小屋の中に入ったってことなんだよ」


「そうそう。つまり、老人は小屋の中またはその前には消えちゃったって――」


秋に仕返しつもりだったのに、考えなければよかった……。


「なるほどねー」


秋が納得したところで、おれたちは分かれ道に辿り着いた。


幼馴染と言っても極端に家が近いわけじゃない。幼稚園から中学まで同じなだけで、家がある方向はバラバラ。おれの家に限っては少し山を登るような長階段が待っている。


「それじゃあ、また明日」


「あいあーい。あ、そうだシン。明日の朝も道場に顔出すからおじいちゃんに伝えておいて~」


十字路になっている交差点を道なりに秋は左に、宙は直進、おれは右に曲がる。


と――それぞれ帰る道に入り込む前にやっておくべきことがあった。


「まてまて」


そう言っておれは二人の袖を掴む。


「離してくれるかな~」


優しい笑顔の裏に秋の腹黒い部分が漏れ出しているのが分かる。


「家臣は殿を送るぐらいしてもいいのではないか?」


「あらやだ~、誰が家臣なのかしら~。素直に怖いと言えば考えてあげないこともなかったのにな~」


くっ、なんて性格の歪んだ女だ! だったらこんなアホに頼むまでもない!


「ぞらぁああああああ」


もっとも頼りになる宙に泣きつくぐらい、おれにはなにも感じない。そんなプライド疾うに捨てわ!


「悪いけど、僕は夜忙しんだよ。知ってるだろ?」


「そこをなんとか! 頼むよ宙」


「むーり、一人で帰りなよ」


そう言い残し、幼馴染という仲を顧みず宙は帰って行ってしまった。

うん。いつか、宙には嫌がらせをしよう。


「ところで秋様」


「さーて、帰ろう」


「待ってくださいまし、どうかお見捨てにならないで下さい!」


プライド? 横文字なんおれは嫌いだね。


「さっき私はなんて言ったでしょう」


「ふっ、そこまで言うなら聞かせてやろう」


そこまで言われたら後には引けない。


「怖いんです! どうか一緒に帰ってください!」


話題に出ていた空き地は通り道にある。そんな場所、あんな話を聞いた後に通れる? 通れるわけがない。捨てるものは捨てたんだよ!


「残念。私はさっき、『素直に怖いと言えば考えてあげないこともなかった』って言ったの。か こ け い」


アホのくせして、要らぬ知識を……。


「――――(怒)」


しまった、と思った時には遅かった。


おれの心の呟きをしっかりと聞き取り「また明日ねぇ~」、と笑顔を満開に咲かせて最後の頼りまで行ってしまった。


「本気ですか……」



仕方なく一人になってから歩き続ける事、とうとうこの場所へとやってきてしまった。


周りを膝丈ぐらいの柵で囲い、身長を遥かに超えた草むらが生えそろう空き地。草むらにあるとされる建物はどんなに薄目でみても見えやしない。


「ふ、結局近寄らなきゃいいだけさ」


見えないなら安心、近寄らない限り関わることなんてないのだ。


空き地に面している道路を通る際、一番離れた場所を歩く。誰の家だけ知らない塀を背中にし、忍者の如く隙を見せない。


「ふっふっふっ。背中は壁に守られ前で異常が起きればすぐに分かる。これぞ最高の作戦。いざとなったら走り逃げる」


さっさささ、と移動を繰り返し、左、右、前方を安全確認。


「異常はな……」


と塀に触れていた左手に硬いコンクリ―トの硬さが感じられなくなった。


「しまった! T字路か」


今まで気にすることのなかったその道は、途中家と家との間を切り裂くように道を作っている。これでは背中が無防備になってしまう。


「……仕方ないか」


悩んでいてもどの道、帰れる道はここしかない。無駄に山を所有していて、その平地に家を建てるなんてうちの先祖はアホばっかりだ。しかも、じいちゃんに至ってはリフォームついでに道場まで作り上げた。階段を上りきった先で構える門なんてもはや漫画で見るような奥寺のようだ。


「せーので行くぞ。せーのッ――」


おれの家も実は昔幽霊屋敷と呼ばれていたことなど忘れ、新鮮な噂から逃れる為に塀を勢い任せに押し、とびっきりのスタートを切った――


「ぐへっ」


「おおっ」


――のも束の間、誰かが家と家との間の道路を歩き、飛び出してきた。


……正確に言えば、普通に歩いてきた誰かに向かって、上体を低くしたおれが弾力のあるモノへと突っ込んでいった。


「いてて、すいません」


「こっちは大丈夫だ。この太っ腹が守ってくれたわい」


弾力のあるモノはお腹だったようだ。


おれは跳ね飛ばされた体を立ち直し、その相手を確認した。


街灯の明かりに照らされ、そこにいた老人は髪の毛を一本も残らず白髪に染め、白衣をきた小太りのメタボリック軍。その白髪の老人は髭もないのに顎を触っていた。


悲鳴を上げる五秒前。


老人→話題に出てきたあの人(新鮮すぎる)。


白衣→悪い奴は大体着ている(勝手なイメージ)。


白髪→白髪鬼(自然とそうなる時期が来る)。


髭を触る→涎を拭くような仕草(そう見えただけ)。


小太り→メタボリック(もはや関係ない)。


それでも、妄想現象ができるには十分だった。



「ぎぃやあああああああああああああああああああああああ!!!」


「あ、こら、まてそっちは」


後ろで老人が呼び止める声が聴こえた気がする。おれは驚いた拍子に思わず策を飛び越え、草むらへと姿を隠す必要がないのに身を低くして移動する。


「(ってだれが小さいだ!)」


いや、そんな一人ボケツッコミをしている場合じゃない。これは危機的状況だ。

宙が言っていた通り、草むらは動くたびに音と動きを大きくし、これじゃあどこにいるのか教えているのも同じだ。


それでも後ろから聴こえてくる老人の呼び声と、草が擦れる音に止まるわけにはいかない。手で口をしっかり抑え込み出そうな叫びを飲み込んで活路を見出す。


そして、辿り着いたそこには小さな小屋があった。


ホラー映画で追われて小屋に入る気持ちが分かる。何も考えずにおれはその扉に手を掛けると中に入ってしまった。


「はぁはぁ――はっ! しまった……」


小屋に入ってから冷静さを取り戻したおれはとんでもない過ちに気が付いた。


「他の場所から出ればよかった……」


クラスの男子とは違い、おれは老人を探しているわけじゃないから、空き地内で逃げ回る必要はない。つまり、塀のある家と違って膝丈ぐらいの柵で囲まれているこの土地は逃げ放題なのだ。


コンコン、とノックで握っていたノブにさらに力が入る。


「開けてくれ」


おれがもっとも嫌いな童話がこんな時に思いついてしまった。


『オオカミと七人の子ヤギ』だ。


「老人じゃないという証明をしてくれ!」


「いや、若返ることはできないんだが……」


もう冷静な判断はできない。幽霊はすぐそばにいるのだ。


小さな小屋の中を窓から零れる月明かりだけを頼りに見渡していき、ある異変に気が付いた。


小屋の中は誰かがすんでいる形跡はない。それは誇りまみれになっている棚や、雑貨品からも窺える。それなのに、床の一部分だけが不自然に埃が少なくなっていた。


「(あそこに何かがある!?)」


「開けてくれんか?」


もう賭けに出るしかない。


二度目の老人のノックを合図に、ノブから手を離し埃の少ない床を叩いたり、取っ手のようなものがないか調べていく。


そして――それはあった。


床の窪みに指を突っ込み上に持ち上げる。


すると、途中まで持ち上げた床は自動で開きそこには下へと下る階段があった。


「地下……」


「みーーーーたーーーーなぁーーーー」



「ぎゃあああああああああああああああああああああああ――ッ!」



「あ、バカタレッ!」


老人の声を最後に、階段から落ちたおれは意識を失った。


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