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第十三章『登場の仕方』

「―――ふるべべべべべッ」


見事なまでの回転着地を成功させ本日二度目の異世界へとやってきた。


着地の際尻を強打し、そこをさすり立ち上がる。


現実に帰って博士に小言を言われ、近くで宙が呆れた顔をしていたが、どんな表情をされようとおれの新技が完成。世にも珍しい異世界から現実世界へ行き来する最高の逃走技『異世界ヒットアンドアウェイ』。これを捕まえられるものはいないだろう。


しかし、短時間でのジャンプは思った以上に体に負担が掛かる。一瞬とはいえ無重力のような浮遊感の後の意識の飛び、で、すぐに意識が戻ると着地に思考を切り替えなければいけない。


「ま、なんにせよ。これに手を当てる準備を忘れない方が身のためだな。うん」


ボタンに手を当て殺戮を繰り出す女の子の時は完全に忘れていたことを肝に銘じておく。


「逃げるのにこれは最高のおれの武器に間違いない」


これは確信だ。


「…………なるほど、そういうことですか」


「――っっっ!?」


なんでこうもこの世界の住人は影に潜んで後ろから声を掛けるのか、心臓に悪すぎる。


驚き心臓に手を当てながら、おれは静かで暗さが残る声の持ち主の方を見ると、殺戮少女から逃げる際階段にいた女の人がいた。


「あ、」


おれはすぐさま時計に付いているボタンへと手をやった。予行練習の後なら、すぐにでもおれは反応できる。


ところが、


「へ?」


ザッ、という床が蹴られる音がしたと思うとおれは間抜けな声を出した。そして、おれの体は腕ごと女の人に抱えられるように捕縛されていた。


「…………我が主にお会いしていただくまで拘束させていただきます」


感情の薄い命令のみを実行するような言い回しの女の人は、おれの時計の秘密を聞いていたようだ。


抱えられたおれの姿勢はまるで『気を付け』をするように腕は横。当然、腕時計を嵌めている右腕に左手は届かない。なにより、女の人の身長はおれよりも三〇cmはたか…………。


「うぉおおおおお! はなせぇええええっ!」


これは屈辱の恰好だった。


あしが、足が地面に届かない……。


「…………暴れないでください。命令によりあなたを傷つける真似は、今はいたしません」


「手遅れだーーーー!」


すでにおれの心は傷ついている。それに「今は」って後が怖すぎる。


女の人に抱えられたまま、脚をバタつかせることどんどん惨めになってきた。諦めて動くのを止める。……というより、足が届かないことを目立たないように止める。


「…………失礼ながらこのまま移動します」


「や、やめてぇえええ」


決定事項をそのまま告げられて、羞恥プレイにおれは叫ぶしかない。


――その時だった。


あのバカデカイ扉が動き始めていた。


この最高のタイミングで誰かが現れようとしているのだ。


その誰かにこの姿を見られるのはこの際諦めるしかない。大勢の前に曝されるよりはマシだ。


そして、そんな助け舟におれは歓喜と嫉妬を覚える。こんな奇跡的な登場漫画の主人公ぐらいしかできない。ちくしょう、かっこいいじゃないか。


でも、助けられるのがおれなら、イッツアカモン主人公!



「殺す」



「…………………………」

「…………セイ様」


主人公どころか、へたすれば主人公を殺しかけない最悪の悪役が降臨した。


「離してぇえええええええええええ!!!」


逃げないと殺される。


「アスター……、その獲物を……、こっちに……よこしなさい」


童話に出てくる子供を鍋に放り込もうとする魔女のような、獲物を追い詰めていく血に飢えた獣のような、屍が這いつくばりながら生きた人間を追い込むような女の子は、ゆらりと上体を揺らし、今にも高笑いをしだしそうな口調と共に近づいてくる。


それでもってどの内容も襲われるのは間違いなくおれ。超怖いすぎる!


「おおおおお姉さん、離して逃げないと!」


言っても無駄だと分かる。だって相手を様付しちゃってるような間柄、万事休すだ。


「…………申し訳ありません、セイ様。それはできません」


だけど、絶望の淵に立たされそうになっているおれを助ける発言をお姉さんがしてくれる。


「よこせぇええええ」


……もはや、化け物だ。


「…………セイ様のご命令であっても、私はリチア様の命令を優先させていただきます」


「私の……裸……みた…………殺す」


もう少し誰にも分からないように言葉を繋いでくれるとおれの名誉が守られた。


「…………」


ほらね、お姉さんの視線がおれに向いてるよ。


「ちが、違います! 断じてあんな身体を覗いたわけでは――」


「ぶるごろーすっっ!!」


ぶち殺す、の言語がおかしい! おれは言い訳をしただけなのにっ。


「……貧相……筋肉質…………ペッタンコ……処刑」


なぜが余計に怒りを爆発させた化け物は臨戦態勢を取って呪術を吐き出している。これは赤信号だ。


「…………しかたありません」


お姉さんがそう言い、おれの身体が解放された。


「…………離れていてください」


「え?」


突然の自由にお姉さんの方を見る。


「…………来ます」


その直後化け物が飛んだ。


お姉さんも構えて跳躍した化け物が突進してくるのを避ける。化け物と化した女の子が着地をすると当時に空いた距離を縮めお姉さんが腕を掴む。


「…………落ち着いてください。セイ様」


「……八つ裂きに……奴を八つ裂きにぃいいいいいいいいいいい!」


生きていたら軽率な発言は控えよう。なんかの拍子に秋がああなったら、取り返しがつかない……。


「…………申し訳ありません。気を失っていただきます」


お姉さんが押しながら取り返しがつかなくなった少女の腕を離し、拳を振るう。

少女は拳を紙一重で避ける選択をし、すかさず応戦する。しかし、その手には短剣は持っていない。マントのような織物から動くたびに鞘に納められた短剣が見え隠れしている。


その代わりに異常に長い爪を尖らせ、お姉さんを仕留めようとしていた。


「……なんだこれ」


嫌だけと、おれを狙ってくるならまだ理由は分かる。それなのに、知り合いの二人が争う意味が分からない。別に、目の前の状況を理解していないわけじゃない。

少女が錯乱しておれを狙い、それを止める為にお姉さんが止めようとしている。ついには目的のために女の子が障害を取り除く、この構図は分かっている。


「……なんで」


それでも、あの二人が争うのは間違ってる。


自然とおれの拳は力強く握られ、この争いを止めたいと思っていた。


逃げることなんてこの際忘れてやる。この引き金はおれが引いてしまったのだから、逃げるよりも止めることをするべきなのだ。


「でも、どうする……?」


止めたいと強く願っても、何も変わらない。だからと言ってあの二人の動きは異常だ。少女の尖らせた爪は幾度となく首から上を狙い、気絶させると公言したお姉さんの拳も少女の首から上を狙い定めていた。


「くそっ」


気分が悪い。まるで殺し合いを見ているようだ。


だけど、気分が悪いのを理由にイラついている時間などない。今は早くこの二人の争いを止めるのが優先だ。


だから俺にできることを考える。


避けると逃げる。


これがおれにできる事。だからといって、このまま実行したのでは意味がないどころか、頭が悪すぎる。


ようは考え方次第だ。


避ける――すなわち、二人の動きを読んで、攻撃を止める。


これが行動。


逃げる――すなわち、この世界から消えて少女の怒りを無意味にする。


これが処理。


「あとはタイミングだけど……」


二人を止める作戦が出来上がったけど、決定的なものがない。ただでさえ逃げ回っていたおれには二人の攻撃を受け止める手段何て――――あった。


『そっか……。それじゃあ、相手と会った瞬間に突拍子もないことをしてみたら?』


そうだ。一瞬でも宙が行っていたことを出来れば! それにそれは意外に簡単にできる。皮肉にも二人はおれのことを意識に入れていない。


「よしっ」


分かれば実行に移る。


おれは二人の紛争に飛び込むため走り出す。


「「――――!?」」


二人は突然の参入者に驚いた反応を見せた。


イケる!


その隙にその腕を払うなり掴むなりして、態勢を崩させることができる。


ところが、攻撃途中の二人の間に入ったところで大きく反動をつけた腕は急には止まらない。少女に至っては本来の標的はおれなわけで止める必要すらない。


「しまっ――」

「――っ!?」

「なッ!?」


おれはバカだ……。


お姉さんは苦い顔で拳の軌道を変えようとしてくれているのが分かる。でもうではもう間に合う距離じゃない。


女の子は正気に戻ったようで、おれの登場に驚き体のバランスを失っている。それでも鋭い爪はおれの身体に傷を負わせるだろう。


だから、おれは払うために準備していた左手を右腕に近づける。二人の反応でおれがこの場から消えたとしても、二人の攻撃はお互いを傷つけない。


「間に合えっ!」


だから、おれがボタンを押しさえできれば作戦通りと行かないまでも成功するんだ。


「ちくしょう!」


だけど、ボタンに届くよりも二人の攻撃の方が早い。


ボタンを押すことは諦めない。でもおれは目の前で起こる事態に目を瞑った。


「―――――…………」


……手は届かなかった。


だけど、おれの身体には鋭い爪も、握られた拳も来ることはない。


「?」


疑問が浮かぶ。


だって、おれの手はボタンを押してはいないのだ。


その代わり、


「騒がしいと思ったら、こんなところでお楽しみ?」


懐かしいような、そうじゃないような、あの時の寛美な声がおれの耳に届いてきた。


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