第十一章 『危険な少女、パンツの色は……』
「おいっしょッッッ!」
足元からの落下は以外にも着地を安定させた。
「着いたぁあああ――ああおっと」
見事な着地に思わず叫んでしまった口を自分の手で塞ぐ。またあの時みたいに斬りかかれたりするたんて嫌だ。
静かに一本の柱に近づき部屋にいないことを確認した。
「よし、いないみたいだな」
いなければよし! ……と思ったけど、次にどうしよう。いたらいたで困ったけど、いなければいないで困る。どこにいるかも分からないし、話の切り出しすら考えてきていない。
「ま、なるようになるか」
考えても埒が明かないのは前回で十分承知。それに前はこの部屋しか探索できなかったから、他にも興味がある。
「それにしても、」
到着した場所は天窓がある部屋だ。おれが博士の家に行ったのが夕方ぐらいで日が落ちるにはもう少し時間があったはずなのに、また赤い月が見える。それに壊れたはずのガラスは綺麗に元通りになっている。まぁそれは修理をしたのだろうけど。
「冬ってことはないか……」
制服は長袖だけど冬に備えられていない恰好だったら少なからず寒さを感じるはずだ。でも、それがないから季節での早い日暮れではないようだ。
空以外にも確認することはできるけど、下の方に見えるあの森は不気味で覗きたくない。それに、部屋から出るのに巨大な扉に時間を取られそうだ。
あの時は開くことがなかった扉だけど、どうやったら開くのか仕組みが分からない。もしかしたら、博士の家みたいにどっかにパネルが合って暗証番号を入力しなければいけないかもしれない。
意外と押してしまえば開くのかもしれないけど、こればっかりは試してみないことには――
そう思って近づくと、扉は勝手に静かに押し開いた。
「ぃいっ!」
探索ついでのあの女の子も探すつもりだったけど、こんなにも早く誰かに会うなんて予定にない。
急なことでおれは一本の柱に隠れた。
すると、扉が独りでに閉まっていく。
「…………?」
もう一度扉に近づいてみる。
開いた。
離れる。
閉じた。
「って自動扉かいっ!」
なんで一人コントなんてやらなきゃいけないのか、おれの世界に自動扉と言ったら横に開くものしかないからだ。
「くそっ、恥かいた」
そんなこんなでおれが部屋から出ると、思っていた以上に広い空間が現れた。大理石かどうかは分からないけど、元の世界だったらそんな代物で造られるような立派なつくりだ。
数えられるほどの階段の下には広い空間と、さっきまでの部屋によりも大きな扉があることから推測できる。おそらくここが玄関なのだろう。
右にも左にも廊下が広がっていてどっちに行くかは運頼み。
そして、
「右っ!」
人の気配があまりに薄いので警戒も徐々に薄れて直感で決めた。
一本の廊下を選んで歩いてみたのはいいけれど、もしかしたら学園の廊下よりも広いんじゃないだろうか。それに下はコンクリートでも木造でもない絨毯仕様。それだけで結構この家の持ち主はお金持ちの可能性が高いと思う。
そう考えればあの非常識の攻撃も考え――
「――られねぇ、あれは考えられない」
妙に納得しながら、この家での情報を集めて独り言を何度となく呟いていた。当然無意識何てことはない。自分の意思で声を出していたいのだ。
だって、
「……怖い」
家の中だっていうのにこの家の明かりは全てにおいて薄暗い。まるでお化け屋敷にでも来たような雰囲気でおどろおどろしい。
「うう、廊下も長いし先が見づらいし、ちくしょう。だいたいなんで夜なんだよ」
恐怖を独り言で誤魔化しながら歩くこと数分で、一つ目の部屋を見つけた。
見つけたはいいが、部屋の中を確認してみるか、してみないか。
「よし、見よう」
いや、ここは確認するでしょ。だって気になるもん。
即座に扉を開けることを決意したおれの右手は早々と取っ手を掴み、それでいて慎重に部屋の中を覗き込んだ。
「…………」
中にはテーブルやら椅子やら小物が置かれた、質素な部屋。
「はぁ」
期待はしてなかったけど、ガッカリだ。
おれは扉を閉めて、「にひ」と君の笑みを浮かべる。別に錯乱したわけじゃない。
「ぐひひ」
面白いものが出てくる可能性はある――だって、こんなに扉がいくつも並んでいるのだから。
最初に空けた部屋はあくまで一つ目で、先が見えない長い廊下にはまだまだ部屋がたくさんある。見えている範囲でも十以上。その中のどれかにはきっとおれを楽しませてくれるものがあるに違いない。
「よーし、いくぞ!」
おれは制服の袖を捲りあげた。
心躍らせる秘密の部屋(普通に存在しているけど)、これを調べればきっとおれの知らないこの世界のことが自ずと知れるはず。
だって……、
だって、
――ここは異世界だから。
本来の目的をおれは忘れて、昨日できなかった冒険に周りが見えなくなった。部屋の中からなにが飛び出してくるのか、お宝がでてくるのか、奇怪ななにかがでてくるのか(これは別にいいかも)、または伝説の武器が台座の上に刺されているのか。
これは確かめたくなるのが当然だ!
「ひゃっひゃっひゃっあああああ」
湧き出る笑いを惜しまなく吐き出し、次の部屋へと走り出す。
一つ、
「誰かの部屋!」
二つ、
「綺麗な誰かの部屋!」
三つ……。
「整頓された部屋!」
……五つ。
「あははははっ、くさっ!」
…………十。
「……片づけようぜ!」
……………………二十。
「…………もはや、物置以下」
この辺でおれもさすがに気付き始めた。
……何もないかもしれない。
「いや! まだ部屋はある!」
否定してないとやってられないくらい可能性が減ってきた。
さすがに残っている部屋もわずか。それに加えてどの部屋もホテルの部屋のようにただ並んでいる特徴の変化がみられない。その中に急な変化を持つ存在感を放っているものはなかった。
ようやく掴みかけた『面白い!』という、ただそれだけの期待感が薄らいでいく。
「ま、まだまだ!」
一人奮起してようやく保つテンション。
だけど、歩くスピードには反映されない。
一つ、また一つ希望が消えていく。
……そして、ついにその希望は一部屋になった。
「ここが最後か……」
願いを込めて取ってを握る。
妙な緊張が辺りを支配していく。
最後の残された希望。これで何もありませんでした、なんてことになればさっきまでのおれの興奮は赤っ恥。
想像できる未来は、宙と博士に誤魔化しつつこの世界を口からでまかせで創造し、説明をしながら徐々に暴かれていく姿。そして、「何しに言ったの?」とか、「無駄じゃったの」とか散々言われる始末。
そう、こんな未来にしないためにもおれはこの手に掴み取らなければいけない。希望という名の名誉を。
今この時だけでいい。おれの右手に隠された潜在パワーよ宿れ!
「いざっ!!!」
『所詮はただの右手ですけど何か?』
部屋の扉が開かれた。
そして、そこに――
――まるで前日にでも引っ越しでもされたような、綺麗さっぱり何もない部屋がある。
「――っですよねぇッッッ!」
何もかもが終わった……。
塞ぎ込むこと数秒で気持ちを入れ替える。
冒険?
はぁ、何それ?
本来の目的はあの時の女の子を見つける事ですけど。
「さーて、探そ探そ」
この階の部屋には何もなかったけど、見つけ出した階段は二階へと続く新たな希望があるのだ。
飛び跳ねる気力はないので普通に上る。
すると、また長い廊下がある。
そして、
「また部屋か……」
とりあえずその部屋の前に立つ。
下の階と違って部屋は並んでないし、扉には取っ手が二つあり両開き式。それにしたって期待はしない。考えてみれば、おれが降り立った部屋はあれだけバカデカイ扉だったにも関わらずその中は造りが変わっているだけで、何もなかった。
それに引き替え、この部屋の扉は下の階よりも大きいけれど、最初の部屋に比べれば何の変哲もないと言える。
「はいはーい」
だから、いままでと同じように勢いよく両扉を全開に開閉させた。
「へ?」
「……へ?」
そこにいた誰かの声が一瞬遅れる。
そこにいた女の子はあの時の女の子の姿に似ていた。
髪も銀色でツインテールにはまとめているけど解けば長いし、透き通るような白い肌も同じ。でもあの時の女の子に比べれば身長は低いし(おれよりは高いけ、怒ッ)、椅子に掛けられた服も露出部分が少ない気がする。
なにより、あの時の女の子は間違いなく半裸ではなかった。
「…………」
硬直した女の子と目が合う。
おれは瞬きを数回したのち、勢いよく開いた扉が反動で閉まっていくのを待つ。それで女の子とおれの間に壁ができる。
女の子の裸を見たのは初めてだ。でも、一応こっちには背を向けていたし、下着は履いていた。
色は白と確認してしまったけど、
これは――
「セーーーーフッ!」
両腕を大きく広げてジェスチャー付きでおれは判定を言い渡した。
その直後、爆音が聴こえたと思ったらおれは扉と一緒に吹き飛んでいた。
「ア ウ ト」
ここでおれが分かることをまとめよう。
おれは扉の下敷きになっているということ。
セーフとアウトは異世界共通であるということ。
少女は半裸を見られて激怒しているということ。
そして、これからの状況には『緊急事態』『急展開』『生命危機』なんて言葉が合うに違いないということ。
「殺す」
ほーらね♪
おれは急いで扉の下から這い出る。
ジャキン! と刃物が鞘からと擦れ音を鳴らす。
逃げる前に少女の方を念のため確認しておくと、服をちゃんと着ていて、脇付近にある鞘からしっかり得物を所持している。
引き抜かれた得物はポニャート・ダガーっていう代物に似ている。じいちゃんの書物の一冊に『世界の武器』ってものを読んだことがある。
もう少し分かりやすく言うところの短剣だな、うん。
まぁ、どっちにしても、
「死ね!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」
逃げ出すのには十分すぎた。
叫んで走る。叫んで走る。叫んで走る。
きっと通り過ぎる人がいたならば、F1の車が通り過ぎるように聴こえているだろう。
「殺してあげるから、潔く死になさいっ!」
ギュュュュンッッッ!
効果音が出るほどスピードが自然と上がったと思う。
「なっ、早ッ! 逃げ足早すぎよッ!」
待てと言われて待たないのと同様に、殺すと言われて死を受け入れないのは当たり前だ! 恐怖を感じた時のおれの逃げ足を舐めてもらっては困る。
「くっ」
後ろの方で少女の悔しそうな悲鳴が聞こえる。
勝った!
距離は十分すぎるほど空き、長い廊下の末、おれの位置から階段が見えていた。あとは上に上ったか、下に下りたかは少女からは死角になって判断できなくなる。仮に、運任せに正解の方向に来たとしてもおれの姿は彼女の視界から完全に外れる。
しかも、さっきまで探索した階下は誰もいないことを確認済み、仮にこの騒ぎに誰かが気が付いても来るのは上からだと断言できる。来ていればの話だけどね。
おれはすぐさま階段の踊り場へと入り込み少女の死角へと立つと、急ブレーキを掛けなければいけなくなった。
「…………何者ですか?」
「来ちゃってたぁああっ!!」
人間ってのは不思議なもので、上から人が来る可能性があると分かっていても本当にこられると驚くんだ。
「………………」
ショートカットの黒髪に黒と白を基調とした服を着た女の人は見下ろす形でおれを眺めている。
一目で女の人と判断できたのはその体型だ。モデルかと思わせるようなそのスタイルは凹凸がはっきりとしている。それに、さっきの女の子にはナイものがその女の人にはあるからこそ、すぐに気が付けた。
ビュッ!
見えないところから小型ナイフが飛んできて床に突き刺さった。
そういえば、父さんがこんなことを言ってたっけ、
『女の人の勘はするどいからね』
当たらなくても投げるあたり、あの女の子は危険だ。
一目で綺麗と言える女の人がいてもマジマジと見ている暇はおれにはない。結局この人もこの家の住人の可能性が高い。上がダメなら下しかない。元々下に逃げる予定だったのだから、急ブレーキをかけて事以外問題はないのだ。
階段を数段飛ばして飛び下りた。おれは女の人が、全く追いかけてこないことに疑問を浮かべながら、
「アスターッ! さっきの変態雑魚どっちに行ったか教えて!?」
やっぱり女の人もここの住人だったと確信して喜び、頭上で聴こえる悪評を聞き残しおれは涙するしかなかった。
「…………セイ様、この件私に一任してもらえませんか?」
「ダメよ! あいつは私が殺る!」
――――ピッィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!
「――なにッ!?」
「…………?」




