序章 ~少女の悩み~
すでにUPされている編集版になります。
改良点は、文の間隔、サブタイトルの追加になります。
全文UP次第、元のタイトルは削除します。
お付き合いよろしくお願いいたします。
その土地は漆黒の闇がしか来ず、赤い月が満月になりかかろうとしていた。
大半の面積を森に囲まれたその奥地、その城はそびえ立っている。
「た、たのむ! 命だきゅ――」
城の中、最後まで命乞いを終える前に侵入者の首が飛んだ。それなのに不思議と血は飛び散らない。
そして、侵入者の首を跳ねた長身の少女は顔色一つ変えず歩き出し、王座に腰かけるもう一人の少女の前へ跪く。
「退屈ね」
雲の移動により月明かりが王座を照らす。すると肘掛けに腕を置いたまま少女の姿が現れ、退屈そうに呟いた。侵入者の死など全く興味もない様子で、片づけられていく死体に一瞥すらくれない。
「アスターこれで何人目になる?」
跪く少女の名を呼び侵入者の人数を訊きだすと、
「…………本日で五人目になります」
人数に少女からため息が漏れた。
「少ないわね」
「わざわざ命を捨てに来る酔狂な奴なんていないと思いますよ、お姉さま」
隣から王座に座る少女をお姉さまと呼び、また少女が現れる。
「それではなぜ侵入者が来ると思う、セイ」
「それは……」
セイと呼ばれた少女は言葉に詰まった。事実減ったというだけで侵入者は後を絶たない。
銀髪の少女は胸元の宝石を触りその実態を口にする。
「結局、あわよくばと考えるバカ者どもがこれを狙ってこの土地へと侵入してくるのよ。我が『月紅』を甘く見ているのか、別のくだらない理由なのか、ね。いっその事全ての種族から狙われる方がどれだけマシか」
少女は立ち上がり扉へと歩き、その後を追おうと長身の少女も立ち上がった。
「付いてこなくていいわ、アスター」
だが、それを少女は拒み部屋から出た。
少女が出て行ってから、セイと呼ばれた少女から愚痴にも似た言葉が吐き出される。
「お姉さま、また月を見に行ったみたいね。最近いつもあれだもん、どうにかできないのアスター?」
「…………嫡流から婚約の話がきていますので、この機会にご結婚、そして赤子を授かってもらうのが一番なのですが……」
「ないわね。お姉さまより強い一族は『月紅』にはいないし、第一お姉さまが気に入るような奴がいれば、あんな状態にはならないもの」
「…………そうなると私には」
「やっぱり、アスターでもダメか……」
銀髪の髪を揺らしながら廊下を歩き続け、今ではほとんど使用されない部屋の中央に少女は立った。
ガラス張りになった天井を見上げる。
空には闇の中に光る赤い月――
「この世はこんなにもつまらない…………」
――それ以外には何もまだなかった。