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シュウサーチ

 『FM South WAVE 22時台、Urban Hype from NYC, MCは私、ナオミがお送りします。


 こんばんはー、今夜もたっぷり3時間、音楽を通して皆さんとの楽しいひと時、過ごしていきたいと思います。


 さて、NYCでは花粉症が猛威をふるっています。でも朝日がとっても奇麗なんですよー。


 では、今夜も花粉にまみれたNYCから番組お送りしていきますね』



 軽快で流暢に紡がれる言葉、



 流れる音楽。



 暗く冷えた森の中に、そぐわない音声が響き渡る。じめりとした土と葉のにおいが鼻につく、夜の深い森の中で、ラジオの音はとてもよく通っていた。



 大きな岩が、幾つも積み重なっている処にシュウは寝そべり、ボーっと空を見上げている。



 流れる音楽を聴いているようで、聴いていない。どちらともいえず、ただ、ボーっと無表情で空を見上げていた。


 無表情のままに、彼はすっと目の前に右手の甲を翳す。


 遮る光が無いのにそうしたのは、既に煩わしいだけとなった“騒音”を止めるためだった。



 5本の指先を立て、


 空中に“触れる”



 すると何も無い空間に、平板状の光が発生した――



 3Dホログラム、


 所謂、空中投影ディスプレイである。



 周囲にはガラスなどの覆いは無く、装置も一切無い。しかもどういう仕組みなのか、裸眼で見えるのだ。ただ映像だけが浮いているように見え、手を伸ばせばそのホログラムに触れることができた。



 シュウが人差し指の先を動かすと、動きに合わせて映像が変化する。

 

 触るようにして操作し――流れる音を止めた。



 「――どうせオレなんか……どうせオレなんか……どうせオレなんか……どうせオレなんか……どうせオレなんか……どうせオレなんか……どうせオレなんか……どうせオレなんか……」



 音が止まっても森に静けさは訪れない。


 空中で光る平板が消えると、シュウはぶつぶつと呟き始めた。



 そうして彼は、頭を抱えるようにして小さく丸まり、そのまま朝までぶつぶつと独り言を呟き続ける。



 数日に一度、彼はこうして一日を過ごすのだ。


 探し人と最後に別れた、この場所で――




 この異質な雰囲気を纏った男シュウが、異世界の住人――ヒルという少女に片思いをして、かれこれもう17年以上にもなる。



 10歳くらいに出会い、それから年にたった数回の頻度でしか会えなかったが、一方的な恋をした。



 ヒルと最後に会ったのは17歳くらいのとき、

 これまでは『好きだ』と伝えていた自分の気持ちを、初めて『愛してる』の言葉に置き換えて伝えた日のことである。


 


――あれからもう、10年経つ。



 彼は変わり者だったが、“好きな人に好かれたい”という気持ちは持ち合わせている。

 

 もしヒルが10代の男しか愛せなかった場合に困るので、歳をとるのを“止めた”


 だからシュウは実年齢よりずっと若い、17歳の姿のままなのだ。



 「でもそんなの判らないじゃないか! もしかしたらもっと若い、10歳くらいの奴が好きかもしれないし! そもそも男が好きかも判らない……なんでオレは、早くに、ヒルの嗜好を訊いておかなかったんだ!!」


 呟きの合間に突然喚く。


 常軌を逸しているが、突然に色んな感情が湧き出てくるのだから仕方が無い。



 「訊いておけばよかった……訊いておけば……。

 女にはなれるだろうけど、若返るのは不可能だ……」



 泣きながら頭を抱える彼は、もはや正気ではない。



 「オレは馬鹿だ、なんでオレはこんなに馬鹿なんだよ。もう死にたい、死にたいよ……」


 消え入りそうな、悲痛な声が闇夜に響く。



 そもそも彼が、こんなにも自分を責めるのには訳が有り、

 それは、こうして数日に一度、メディアで情報収集する理由でもあった。


  

 他人と殆ど関わらない生活をしているシュウは、一般的な情報を得られる機会が少ない。


 必要が無いとも言える。



 それに、これまで自ら得た情報に絶対の自信を持っていた彼は、メディアの伝える情報には関心が無かった。



 が、それによって、重要な情報を逃してしまったのだ。



 “空間の神殿が出現した”


 という、全世界的に大きく報道されたニュースを、彼はあろうことか、数ヶ月後に知った。


――知ったときには手遅れだった。



 “空間の神殿”が在るという島には結界が張られ、外部から立ち入ることができなくなっていたのだ。




 「空間の力……それさえ有れば、ヒルの世界に行けるかもしれない――」


 シュウはヒルを探し続ける。


 世界中の重要機密情報を得ることができても、ヒルを見つけるには未だ至らない。


 だが彼は諦めない。


 ヒルを探すことだけが彼が今存在している理由であり、彼女を探すことを諦めてしまえば、生きる理由は無くなる。



 単純に――どうしても彼女と再び会いたい。


 という気持ちも有る。



 だから、シュウはヒルを探し続けるのだ。

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