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第2話



 まっしろなようであり、薄暗いようでもあり、安息のうちに揺蕩う世界。


 ああ、これは夢だ。と気づくと同時に意識が浮上していき、膚の感覚が戻り、音の感覚が戻ってくる。


 これは夢だ。夢から覚めるのだ、とクロイムツェルトは自分に言い聞かせる。すべては終わったのだと自分に言い聞かせる。浅い眠りのなかに自分がいると気付いたら、自分で意識的に目覚めるようにする。


 クロイムツェルトは兄に殺されかかって以来、いつもこのようにする習慣がある。


 浅い眠りにいるときには、悪夢を見やすいからだ。




 目を覚まし、状況を報告するようにとジーヴスに対して思念すると同時に、大量の情報が意識に送り込まれてくる。まずは作戦の成否を確認しなければならない。


 12番目の上位意識で処理していた宙域図を1番目の上位意識にもってくる。


 宙域図には、ひばり船団が跳躍前とほぼ変わらない姿で映しだされていた。


 損害はどうか?


(戦闘機F-A126が3機に観測機器L6型が4機ロストしました。他に損害は確認されていません)


 全体としては極めて軽微であるように見える。


 どうも様子がおかしいと思う。敵艦隊ごと瓦礫になるつもりで跳躍したのに、いま乗っている艦どころか船団がほとんどすべて無事に残っている。


 そして、広く薄く展開した、ひばり船団に囲まれるようにしてある空間に大量のデブリが浮かんでいる。


 これは、破壊された敵艦隊の残骸なのだろうか。


 思念すると、ジーヴスから、デブリの総質量の概算と、跳躍前に観測した敵艦隊の総質量の概算との対比結果が送られてくる。対比結果は、ほぼ一致している。つまり作戦も、ほぼ完全に成功したわけだ。


 敵艦隊はただの瓦礫になり、その乗組員全員の死と引き換えに帝国臣民六千億人、そしてなによりクロイムツェルトのメイドたちの命が守られたということだ。




 戦術図の縮尺倍率を下げ、ズームアウトするが、ひばり船団の背後にあったはずのメガ・コロニー群が見当たらない。現在位置を参照すると、不明になっている。


 ジーヴスに現状の評価を尋ねる。


(当船団の現在位置は不明です。観測結果を宙域図と比較してみましたが、該当はありません)


 原因は何だろうか。といっても考えられる可能性はあまりないわけだが。


 しかしジーヴスの返答は断り付きのものだった。


(確定的な判断は不可能です)


 仮説でもよいと指示を与えると、ジーヴスは機械知性であるにもかかわらず、人間が躊躇いつつ答えるときのように、間をとってから答えた。




(……深空間跳躍に失敗した場合、跳躍した物体は空間と空間の狭間で、空間跳躍の失敗の程度に応じて跳躍可能質量にまで粉々に引き裂かれ、しかる後に跳躍先の宇宙空間へ復帰します。

 しかし、理論物理学者の中には、極めてわずかな、二十億分の一以下の確率で、我々の存在する宇宙と並行して無数に存在する別の宇宙のどれかに飛ばされることになると言うものがいます。

 当船団が現在位置をロストしている状況を、この仮説に当てはめることは可能ですが、それが正しいとも間違っているとも判断する材料はありません。故に評価は不可能です)







 ……さて、宇宙の塵になってしまうことと、だだっ広い宇宙にたったひとりで放り出されて死ぬまで孤独でいることと、どちらが不幸だろうか?


 とりあえずは、すべきことをして時を潰そう。もっとも、宇宙の迷子になって、たった一人ぼっちになってしまった以上、すべきことなどもう無いのかもしれないが。


 すべきこと、すべきこと……敵艦隊を捕まえるために、広く薄く展開していた艦船や戦闘機や観測機器を旗艦の周囲に引き戻して配置しなおすよう指示を出す。


 それから、目の前にある塵状に分解されてしまった敵艦隊のなれの果てを回収して再資源化するよう指示を出す。でも、もともと人間の体だったものも含まれているから、人間の体由来の成分は分離して宇宙に流すべきだろうか……などと今後の物資の確保について考えていると、クロイムツェルトの思考を読み取ったジーヴスが、


(水や酸素を補給できる場所があります)


と言って座標と画像を送ってきた。







 画像を見てクロイムツェルトは死ぬほど驚いた。映った星は地球にそっくりだった。


 大陸の形が若干地球とは違うが、つまり、地球の様な青い海と、陸地には緑色に見える森林がある。つまりそれは生物の存在を示唆している。


 これは世紀の大発見だとクロイムツェルトは思ったけれど、次の瞬間、この発見を誰にも伝えられないのだということを思い出した。だからジーヴスも資源を補給する場所としてしか報告してこなかったのだろう。



 ……発見した惑星の近くまで船団を移動させるよう指示を出すと、意識にジーヴスから了解の返事が返ってきて、ゆっくり船団が動き始める。






 あまり大きな船を惑星の衛星軌道に入れると、惑星の軌道や気象に影響を与えるから、大きい船は恒星の惑星軌道に送って、それ以外の小型の船を惑星の衛星軌道に送って、そこから観察を始める。偵察用の観測機もたくさん降ろす。


 しかし、観測機から報告を待つまでもなく、この星、というか星系は不自然な点が多い。


 まず、星系の構成が太陽系と非常に似ている。


 母恒星の諸元は太陽とほぼ同じ、惑星も水星、金星、地球、火星、木星、土星に相当するそっくりな惑星が浮かんでいる。大きさも質量も軌道要素も位置関係もほとんど同じ。 


 地球にそっくりな惑星の周囲には、ご丁寧に月のそっくりさんまで浮かんでいる。


 もっとも、地球に相当する星の陸地の形が地球とは違うから、この星系が太陽系じゃないとわかるけれど、そうでなければ、一瞬見分けがつかないくらいだった。


 太陽系とこの星系の要素に、これほどの同一性が見られることが、もし偶然であるなら、その確率はどれほどのものだろうか?



 目を転じて、この地球そっくりな惑星を見る。


 海と陸の比率も地球に同じく、ただ自然が豊かであるから、雲を通した地表をよく観察すれば、森林の緑がかった印象がある。


 そのように、地球そっくりな惑星上であるけれども、決定的に違う点もあった。


 海の上にある島を、海面下で切り離して空中に持ち上げたような構造物、あるいは超巨大な塔のような構造物が、人工衛星にはなり得ない、かなりの低高度で十六個、浮いていた。


 クロイムツェルトは、その構造物を見た瞬間に、かの『ガリバー旅行記』を思い出して、下位意識のひとつを割り当てて、テキストや画像・映像の資料を漁った。






 さらに驚くような報告が次々に上がってきた。


 地球にそっくりな惑星で生物が発見されたというのだ。もちろん最初に惑星の映像をぱっと見ただけでも緑色の森林部分が見えていたから予想できていたことではあるけれど、植物や大気中の微生物とかだけではなくて、色々な大きさや種類の動物が発見され、街や村も発見され、ということは文明が発見され、人間そっくりな生物も発見され、人間の亜種のような生物も発見され、鎧を着て武器を持っている人間のような蜥蜴のような生物も発見され、見たことの無いような生物も発見され、どう見てもドラゴンとしか思えないような生物とか、東洋風の蛇っぽいドラゴンがふよふよ空中を飛んでいたり、馬っぽい生物など、地球の動物とそっくりな動物も数多く発見された。


 世紀の大発見が連続しすぎて何が何やらわからないというかもう笑うしかないほどだった。


 もちろんクロイムツェルトは無表情キャラであるので、その顔に乾いた笑いを浮かべたりはしなかったが。


 クロイムツェルトは、自分でも何が問いたいのかが分からないまま、ジーヴスに漠然とした疑問の感情を投げる。


 ジーヴスから、疑問の内容を絞るようにとの思念が返ってきて、クロイムツェルトは少し考えた後、この地球そっくりなようなそうでないような、この変な惑星についての見解を述べるようにと、ジーヴスに命じた。


 すると、……判断するには材料が少ないために確定的なことは申し上げられませんが、とジーヴスは前置きをした。


 クロイムツェルトはなんでもいいから述べるようにと促す。


(はい、陛下、私は、この惑星の環境は人工的に作り出されたものであると判断します)


 人工的に作り出されたというのであればそれは誰にだろうか?


(それは分かりかねますが……この映像をご覧ください)


 ジーヴスが意識に情報を流し込んでくる。



 それは、大きな熊みたいな生物に、人間(らしき生物)が火の玉みたいなものをぶつけて爆発させて、攻撃している映像だった。まるでファンタジー系のヴァーチャルゲームでよくある魔法のようにも見える。


(結論から申しますと魔法ではございません。この現象は、この惑星の大気中に極めて濃密に浮遊している、エネルギーコンデンサ内蔵型のナノマシンが作り出しているのです。観測機器を地表に降ろして大気のサンプルをとって分析しましたところ、サンプルのなかから、だいぶん古いタイプのものではありますが、ナノマシンが検出されました)


 それはすなわち、クロイムツェルト自身の体の中にも多数あるような種類のものだろうか?


(左様でございます、大気中に密集して浮いているナノマシンのエネルギーコンデンサから、熱エネルギーを引き出して、瞬間的に空気を膨張させて、爆発現象を発生させているのです。この爆発現象を発生させている人物は何らかの呪文らしきものを唱えていますが、発生した現象だけを観測する限り、それは超自然の現象ではなく、純粋に科学的なものです)



 どっかで聞いたことのある話だとクロイムツェルトは記憶を探る。


(何年か前に東銀河第4-1-4-12地区でオープンしたテーマパークコロニーにそのようなものがありました。施設名称は“ファンタジーランド”です)






 つい数日前まで、宇宙の塵になるのと、機械知性の群れにだけ囲まれて、死ぬまで孤独でいるのとどっちが不幸だろう。などと人が深刻に絶望していたというのに、何がファンタジーランドだ。


 と、自分の他にも誰かがいて助かったというより、クロイムツェルトは何だか馬鹿にされているような気さえしてきていた。





 さらに数か月の調査の後、クロイムツェルトは現地で用いられている言語の解析の進捗についてジーヴスに質問した。


(はい陛下、惑星上のほぼ全土で会話や文字のサンプルを採取して分析し、方言のレベルまで解析いたしました)


「そう……」


 クロイムツェルトは珍しくも発声して、呟くように答えて、腕を組み、長考の後、宣言した。


「ジーヴス、私は地上に降りる」


「……わたくしといたしましては、陛下には安全なこの総旗艦内にとどまっていただきたいのですが」

 ジーヴスもクロイムツェルトに合わせ、音声で返答してくる。


 こんな広い宇宙艦の中にたった一人で、共寝をしてくれるメイドも無く住んでいたら、孤独のせいで精神的な死を迎えてしまう。


 そう感じたクロイムツェルトはどこか適当な場所を選ぶよう重ねて指示する。


(神経接続した義体を降ろすのはいかがですか)


 ジーヴスが代案を提示するが、


「……私が直接降りる」


 クロイムツェルトは、そのように発声して命令し、踏みつぶした。


「……ご承知頂きたい点としては、観測結果の分析で得た結論として、この惑星上に見られる文化には様々な点で、我々の持つ文化と極めて類似している部分があるということです。それは、建築、食事、衣服、など様々な分野で、いうなれば我々の文化の歴史の中から、それを適当に切り取ってきて、この星の地域ごとに適当に貼り付けたような印象があります」


 どういうことだろうか?


「例を挙げますと、この星においては、陛下と同じようないわゆるコーカソイド系、白人種の居住している地域では、衣服の様式、建築、食物などはかつての地球におけるヨーロッパ中世から近世のものと極めて類似しています。しかし、ある文化圏において、衣服の様式、建築、食物などは、その地域でどのような食物や資材が得られるかという物理的な要因や、単なる偶然の積み重ねを含めた歴史的経緯やあるいは他の文化圏との関わりの中で左右されます。


そうであるにも関わらず、この惑星にはほかにも、インド風の文化、日本風の文化、中国風、アフリカ、インカ風、中東風、中央アジア風、その他様々に、かつて地球に存在した多種多様な文化が、あたかもかつての地球からコピーして地域ごとに貼り付けたように、様々に存在しています」


……つまりジーヴスは、この惑星の文明は丸ごと人為的に操作されたものだったといいたいのだろうか?


「左様でございます。そして、その結論が仮に事実であるとするなら、観測機器からの情報によれば現地住民の武装に限っては、弓矢に槍、刀剣、それにエネルギーコンデンサ内蔵のナノマシンを用いた“疑似魔法”“疑似銃砲“程度ということになりますが、ある星の文明を丸ごと“デザイン”するような表には出ていない隠された何らかの勢力が、高度な科学知識を有しており、それが我が船団の保有するそれを上回る可能性を否定することはできません」



 ジーヴスの心配は理解できる。判断できない要素があるから、クロイムツェルトを外に出したくないのだろう。しかし、危険“かもしれない”からといって、ずっと宇宙でたった独り過ごせと言うのだろうか。ジーヴスたち機械知性群からしてみれば指揮権者がいなくなる事態は避けたいだろうから安全第一を求めるのかもしれないが。


 それに、帝国臣民六千億人の利益のために命を捨てて、作戦を完璧に成功させ、二十億分の一の偶然で、誰も知らない宇宙に跳ばされて生き残ったのだから、それでもなお機械知性のお守りだけして過ごせというのは、自分に求め過ぎだ。とクロイムツェルトは思う。


 それにジーヴスたちを放り出すわけではなく、地上に降りれば地上から指揮をとると言っているのだから。


 というような思考をクロイムツェルトはジーヴスに送り付けながら、決め手となることを発声して言った。


「わたしがいくら強化されているといっても、今が十五歳。寿命は最長で、あと千年というところ。それ以上は脳の劣化で人格の同一性が保てない。私が死ねば指揮権者はいなくなる。だからいずれ地上に降りて、地上の人間は遺伝的には私と交配が可能とみられるから、結婚して次世代の指揮権者を作る必要がある」


 クロイムツェルトは、彼女にしては三年ぶりくらいの長台詞を喋って言葉を切り、確か倫理コードでは、私のクローンを作ったり、勝手に他人から体細胞を採取して子供を作ったりするのは禁止されているという情報も、今度は思考でジーヴスに送った。


(……地上に疑似性器つきのアンドロイドを降ろして、現地の男性を誘惑すれば、子供をつくることに関して黙示の承諾ある生殖細胞が手に入りますが)


 ジーヴスは即座に代替案を提示する。



 クロイムツェルトは、即座に青い焔をイメージした怒りの感情をジーヴスに叩きつける。


 デリカシーが無いというのは、機械知性らしいというべきなのかそうでないのか。


「……失礼致しました。それでは、陛下が地上に降下される準備と致しまして、地上で使用されております現地語の翻訳用のソフトを補助脳にインストールさせていただいてもよろしいでしょうか?」








 クロイムツェルトは、ジーヴスに翻訳ソフトをインストールしてもらって、現地に溶け込めるような農家の娘さん風の服も用意してもらって、お金がわりの金や銀や銅の小粒を核融合炉で作ってもらった。通貨の偽造は倫理コードに引っかかるからだ。あと弁当も用意してもらった。


 まあそれはともかく準備が万端整ったから、クロイムツェルトは光学迷彩を施した駆逐艦で地上に降りたった。


「駆逐艦6隻と1個戦闘機群を隠蔽して上空に配備しております。地上にも降下兵機と制圧歩兵機を隠蔽して多数配備しております」


 クロイムツェルトは、なんというオーバーキル、とジーヴスに思考を送ったが、不測の事態はどのような場合でも起こり得ますし、戦力を大規模に展開することによるデメリットは何もありません。それに、現状で、このひばり船団には陛下の他に次順位の指揮権者はおられませんので、くれぐれもご自重ください、と返されてしまった。


 ともかく座上している駆逐艦を地上に降ろし、周囲にだれもいないのを確かめ、クロイムツェルトは、駆逐艦のハッチから飛び降りる。



 クロイムツェルトが最初に感じたのは風だった。


 思いっきり伸びをしてみる。胸いっぱいに空気を吸う。


 突然笑いたくなって、泣きたくなった。しかしクロイムツェルトは、無表情キャラだったので、ただ右の眼から涙がひとすじこぼれたのみだった。


 涙を払って、周りをぐるりと見渡してみると、牧草地みたいな草原になっていて、視界の右手の方から森というか雑木林みたいなのが延びてきていた。


 靴を脱ぎたくなったので裸足になる。土と草の感触が気持ちいい。道を走り出した。


 走る、走る、走る。


(陛下、それ以上スピードを出されますと、現地住民に見つかった場合に騒ぎになります)


 ジーヴスから注意されて、クロイムツェルトは、この星には強化手術なんてないかもしれないのだったと思い出す。


(……空を飛んだりもなさいませんように)


 ジーヴスから念押しが入る。




 クロイムツェルトは、走るスピードを生身の人間でもあり得る程度に落としてから、何か面白いものはないかと上空の観測機から見てみる。


 右手に羊(にしか見えない生物)の群れがいたので、クロイムツェルトは、走って行ってみる。そーっと近づいてさわってみる。暖かくてもこもこしている。生き物だ。ああ、楽しい。人に慣れているのか、ほっぺたをぺろぺろ舐められる。なんだか嬉しくなって、その辺をごろごろ転がりたくなってくる。が、クロイムツェルトは無表情キャラなので表情には何も浮かばない。



 クロイムツェルトがそうやって羊と戯れていると、後ろの方からお爺さんが近づいてきた。大きなベルの付いた杖を持っていて、あふれるくらい牧草を積んだ荷車を引いたロバを後ろに連れていた。


 羊飼いの人だろうか? 彼の顔はよく日に焼けていて、いかにも屋外で仕事をしている風な男だった。かれはクロイムツェルとの前まで来ると、機嫌が良さそうに快活な調子で、被っていた帽子を取ると、


「あんだあ、お嬢ちゃん誰かね?」と言った。


「ごめんなさい。羊に許可なく触ってしまった」


「うんにゃ、怪我さしたり、脅かしたりせんかったらええよ」


「ありがとう。私はクロイムツェルトという」


「そりゃ立派なお名前で、わしゃあグライフちゅうもんじゃ。おじょうちゃん貴族さまかね」


「前はそうだったが、今は違う」


少し前まで王族だったけれどこの星では関係ない。


「ほう、没落でもしたかね」


「没落ではなく……私のほうが皆のところに帰れない場所に来てしまった……」


「うん? 家出かね」


「……そのようなもの、です」


 クロイムツェルトは、単なる概念の伝達に加えて、敬語を付け加える必要があるのに気付いて語調を変更する。クロイムツェルトは、元来、社会的立場は極めて高かった上に、そのそも思考による意思の伝達は、大まかな概念のやり取りに終始することが多いので、そのやり方に慣れていたクロイムツェルトは、今の今まで気が付かなかったのだ。




「うーん、親御さんも心配しとるじゃろ」


「……家族は全員死んだので」


「ああー、そりゃあすまんこと聞いたのう」


「構わない、です。それでこのあたりに滞在できるようなところはないでしょうか?」


「うん? そりゃあ、町のほうにいきゃ宿はあるが、お嬢ちゃんひとりかね?」


「はい」


 降下兵と歩兵機はいっしょにいるが。


「まあまあ、ええとこのお嬢ちゃんが供も付けんと、今までよう無事だったな……うーん、お嬢ちゃんひとりで泊まるには宿はちょっと危ないでよ。領主様のお屋敷に泊めてもらうんがええで、ついでだしよ、連れてっちゃる。ほれ、乗りい」



 断る理由もなく、護衛はたくさんいるから危ないこともないだろうと思われたので、クロイムツェルトは、荷車の端っこに乗せてもらって、領主さまとやらのお屋敷に連れていってもらったのだった。



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