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The Picture 第9話

ぼおっとしながら、頭の片隅でぼんやり考えてた。

いくら“鈍い”って言われてるあたしだって流石に気が付いていた。

自分では余り認めたくないことだけど、あたしは相当鈍いらしい。それって小説家を目指している者としては、かなり問題有りなんじゃないだろうか?だって、複雑な人間模様を描写するには優れた人間観察が不可欠だって思うし。

それはともかく、あたしは周囲の誰が誰を好きで誰と誰が密かに付き合ってるとか、そういう類のことに全く勘が働かない人間だった。

それ程に天然記念物級とも評される鈍さのあたしでも、今の自分の気持ちには気が付いていた。

あたしは確信していた。これは、

「恋」

一瞬、自分の心の呟きが無意識に口をついて出たのかと思った。でもそうじゃなかった。

まさに心臓が口から飛び出しそうなくらいびっくりした。

怯えた視線で背後を振り返った。

そこに悪魔がいた。頭から伸びる二本の先端が矢のようにとがった触覚と、お尻のあたりからうねうねと伸びる尻尾が垣間見えたように思ったのは果たして気のせいだろうか?

口元を優雅に湾曲させ冷笑を湛えてあたしの部屋の入り口に立っていたのは、他ならぬ妹の聖玲奈せれなだった。


「見て・・・」震える声で問うあたしに、聖玲奈はさも当たり前のように答えた。

「見てたよ。ばっちり」

いくら姉妹だからって他人の部屋に無断で立ち入っていながら全然悪びれた様子のない聖玲奈を見て、ひょっとしたらそんな風に思うあたしの方が非常識なのかって考えてしまいそうだった。

言葉もなくわなわなと震えるあたしの姿も全く意に介さず、聖玲奈は自分の興味を素直に口にした。

「さっき家の前で停まってた車の人がお姉ちゃんの彼氏?いつから付き合ってんの?」

「・・・!」

聖玲奈は何の躊躇いもなくあたしの気持ちを鷲掴みにした。そんな聖玲奈の性格はとっくに分かってるつもりだったけど、それでもショックを受けずにはいられなかった。

「・・・どうして」

気付いたんだろう、っていうあたしの疑問に、聖玲奈は肩を竦めた。

「家の前で車の停まる音がしたんで覗いたら二人がいたから。大体、お姉ちゃん、家の前であんな大声出してたら当然聞こえるし」

あたしは自分の無用心さを呪った。

「残念ながらキスシーンは見損なっちゃったけど」

ニタリ、って音が聞こえるような笑顔だった。

そんなことしてない!って言いたかったけど、言葉にならなかった。興奮も度を超すと声も出なくなるらしい。真っ赤な顔をして、ただパクパクと口を動かすばかりだった。あたかも水面で餌を欲しがるお腹を空かせた鯉のような滑稽さだった。

それまであたしをからかうことに専念していた聖玲奈が、あたしの前に置かれた絵の存在に気付いた。そして目を丸くした。

「何それ?お姉ちゃん描いてもらったの?」

言外に「うわー、恥ずかしいー」とでも言いたげな口調だった。

あたしは顔を赤くして抗議した。

「違うわよっ。あたしじゃないのっ。佳原さんが昔、市高生だった時に描いた絵なのっ」

「えーっ、お姉ちゃんじゃないの?でも、そっくりじゃん」

言い返すと聖玲奈は信じられないって顔をした。それはそうだと思う。みんな最初そうとは信じられなかったんだから。

「あたしだって、初めて見た時はそう思ったわよっ。・・・信じられないような話かも知れないけど、でもほんとの話なのっ」

「へーっ」

聖玲奈は俄かには信じられないみたいだった。


それからあたしは聖玲奈の執拗な追求に遭い、この絵を見つけた経緯に始まり佳原さんとの出会いからさっき家へ送ってもらうまでを滔々と告白させられることになった。

余りの恥ずかしさに挫けそうになったけど、それを許すような聖玲奈じゃなかった。

恥ずかしさは臨界点を超え、あたしは頭がぼおっとして来た。きっと明日は熱でうなされ学校を休むことになるに違いないって思った。

あたしから一部始終を聞き出した聖玲奈は満足したように部屋を後にした。

ドアを閉める際、振り返って捨て台詞のように言い残していった。

「でもよかった。お姉ちゃんにも恋が訪れて。頑張ってね。あたし、温かく見守ってるからね」

一瞬、姉思いの妹の発言かと思ったけど、そんな筈がある訳ないって思い直した。単に自分の興味と好奇心からのみ面白がっているだけなのだ。

あたしは、少なくとも聖玲奈にだけは忍ぶ恋を貫こうって固く決意した。


◆◆◆


携帯の通話ボタンを押そうとしてその寸前で躊躇った。こんなことをさっきからもう10分以上繰り返している。かけようとしてかけられない番号はもちろん佳原さんの携帯だった。午後10時過ぎ、すごく佳原さんの声が聞きたくなって、改めて今日のお礼を言おうって考えて、でもしつこ過ぎるかも、と思っては電話をかけるふんぎりがつかないまま、ただいたずらに時間ばかりが過ぎていった。

それでも、あたしの中で佳原さんの声を聞きたいって気持ちの方が躊躇ためらう気持ちを押しのけ、ついにあたしは携帯の通話ボタンを押した。息を潜めて呼び出し音に耳を澄ませる。静まり返った夜更けの室内に、自分の高鳴る鼓動だけがびっくりする位に大きく響いている。

耳元で呼び出し音が繰り返される。1回・・・2回・・・3回・・・。

「もしもし?」

4回目の呼び出しの途中で突然声が聞こえた。耳に飛び込んできた待ち焦がれていた声に、あたしの心臓は止まっちゃうかもって思うくらい、一際大きく、どきん!って高鳴った。

うわずりそうになる声を懸命に堪えて喋る。

「あ、あの、阿佐宮です」

「あ、こんばんは」

佳原さんの声は少し驚いたような感じだった。その事にうろたえ、途端にかーっと顔が赤くなる。真っ赤な顔が佳原さんに見えるはずもないのに、そのせいで余計気持ちが焦った。

佳原さんが驚くのはそれはそうかも知れない。だって、今日初めて知り合ったばかりの、しかも友達でもない相手から夜の遅い時間に電話がかかってくるなんて、普通あり得ないって思うもん。あたしが逆の立場だったら、やっぱり驚くと思う。それなのに少し驚いただけで「一体、何なのか?」「どうしたのか?」とも聞かないで、挨拶を返してくれる佳原さんはやっぱり優しい人なんだって思った。

そう思ったら、ひるんでなんかいられなかった。

自分の気持ちに気付いている以上、自分から頑張らなくちゃこの想いが成就することはないって思った。

奇跡的に出逢えたんだとしても、あたしと佳原さんの接点はとても少ない。同じ学校の生徒同士だったら校内でばったり顔を会わせることもあるだろうし、苦労しなくても何かと機会を得られるかも知れないけど、あたしと佳原さんとでは、何処かで偶然ばったりなんてことも期待できないし、年齢差はなんと9歳、放っておいたら運命の出逢いっていう第一幕を終えて、そのまま今後二度と会うことなんてないかも知れない。運命なら何がどうあったって再会する事に決まってるのかも知れないけれど、だからって悠長に運を天に任せておくつもりなんてなかった。蜘蛛の糸のような一縷の望みがあるんだとしたら、あたしはそれを自分の力でもって、ナイロンザイル並の頑丈な絆に育てたかった。

胸の内ではそんな果敢とも健気ともいえる想いでいたけれど、実際の行動となるとぐずぐずだった。声は裏返って、焦りまくり、どもりまくりだった。

「あ、あ、あの、突然お電話してすみません。あの、お、お礼、今日のお礼を言いたくて・・・」

「もう聞いたけど」

すかさず佳原さんから素っ気無い答えが返って来た。・・・はい、その通りです。って違う!頑張れ、あたし!

「い、いえ、あの、改めてお礼が言いたくて。だって、本当に今日は、絵を頂いた上に、送っていただいて、それからご飯もごちそうしていただいて、おまけに本だってお借りして。・・・初対面だっていうのに」

・・・なんか、最後の一言は余計だったかも。

「・・・まあ、確かに初対面で、そこまでないかな、普通?・・・」

佳原さんもあたしの言葉を聞いて、改めてあり得ないことだって思ったらしい。あ、違う、そういう方向に話を進めたい訳じゃなくて・・・

慌てて軌道修正を図る。

「だ、だから、あの、改めてお礼を言いたくて」

「なるほど。分かりました」

ちょっと他人行儀な言葉。どうしたらもっと距離を縮められるんだろう。そんなことを心の片隅で思いながら、改めて気持ちを込めてお礼を告げる。

「本当に今日はありがとうございました」

そう言いながらぺこりとお辞儀をする。どうして、電話でお礼を言うと決まってお辞儀までしちゃうんだろう。不思議だ。

「いいえ、どういたしまして」

お定まりの返事をする佳原さんだった。

これで電話を終えてしまうのは少し物足りなかった。急いで話題を探す。

「え・・・と、あのお借りした本、早速読んでます」

「そう?何、読んでるの?『1Q84』?」

よかった、佳原さんが応えてくれた。

「いえ、どれにしようか迷ったんですけど・・・どの本も面白そうだったから。それで『1Q84』は絶対面白いって分かってるから、ひとまず後で読もうと思って・・・」

そこまで言って、佳原さんもまだ読んでいなかったことを思い出した。

「・・・あ!すみません!佳原さんもまだ読んでないんでしたよね!」

たった今思い出した。まだ本人が読んでない本を借りといて、それを読むのを後回しにするなんて非常識じゃないだろうか?赤かった顔が今度は瞬時に蒼くなる。

「いや、いいよ。僕は当分読めそうもないからゆっくり読んで構わないって言ったよね」

あたしがうろたえているのが分かったのか、佳原さんの声は少し笑っているみたいで優し気だった。

「あの、本当にすみません・・・」声が沈んでしまう。

「本当にいいから。・・・それで何を読んでるの?」

佳原さんはさり気なく話の方向を変えてくれた。

「あ、はい・・・えっと・・・」

借りた本のどれから読もうか、並べた本を前にして腕組みをして思い悩んだ。たっぷり10分は迷い続けていたに違いない。

あたしは図書館で借りる本を選ぶ時も迷うし、殊に本屋さんで本を買う時はそうだった。限られたお小遣いでどれを買おうか、下手をすると30分、いや1時間近く迷っていたりする。しかもまず文庫のコーナーでどんな本があるか、どんな新刊が出ているか、一通り見て回ってから、さあどれを買おうかって迷うことになり、本屋さんに行くとまず1時間や2時間は当たり前に過ぎてしまう。そんな訳で友達はあたしと本屋さんに行くのをひどく警戒する。

そして、どれから読もうかって考えて、早々と『1Q84』は佳原さんもまだ読んでいないこともすっかり忘れて後に取っておくことに決めた。引き続きあたしは最初に読む本を決めるトーナメント戦を頭の中で展開していった。借りて来た本の表紙を睨みつつ、最終的に『赤頭巾ちゃん気をつけて』と『夜は短し歩けよ乙女』の二冊で決勝戦をすることになった。決勝戦に相応しく、いずれも魅力あふれる題名だ。『夜は短し歩けよ乙女』の表紙イラストが素敵で、題名も優雅さに優っていて有利かと思われたけど、何か閃くものがあって『赤頭巾ちゃん気をつけて』が土壇場で逆転優勝を果たした。かくしてあたしは『赤頭巾ちゃん気をつけて』を最初に読むことにした。

あたしの頭の中で繰り広げられた熱い戦いを佳原さんに話したら、佳原さんは笑いながら聞いていた。

「でも、いいチョイスだと思うよ」

佳原さんはまだ笑っている。それほど面白かったのなら話した甲斐があるけど。でもひょっとしたら変なコだって思われてるのかも。どうか思われていませんように!あたしは祈った。

「僕もいずれも甲乙付け難いかな」

そう佳原さんが言ってくれてほっとした。

「ホントですか?」

「うん、『夜は短し歩けよ乙女』は読んだとき、すっごく面白くて、しかも裏表紙に「本屋大賞2位」って書いてあって、こんな面白い本いままで知らなかったとは迂闊だった!って思ったよ。あ、特に第二章、第三章は爆笑モンでね。電車の中とかで読まない方がいいよ。思わず人前で噴出ふきだして周りの人に引かれちゃうから」

・・・そーなんだ。気をつけよう。

「それと、ヒロインがとってもキュートでね」

そう佳原さんは付け足した。

チクリ。本の中の架空の人物のことだ。なのに、佳原さんの口から女の子を褒める言葉を聞いて、胸が痛んだ。

あたしって一体・・・自分でも呆れるくらい重症だった。佳原さんがキュートだっていうヒロインを真似してみようかな。そんな風に思った。

・・・後で読んでみて分かったことだけど、彼女は確かにキュートだった。お話の中で先輩が一目惚れし、幾多の困難を前にしても挫けず、彼の前に立ちはだかる奇人変人をものともせず、行く手に降りかかる奇妙奇天烈な事件に敢然と立ち向かい、彼女を追いかけ続けるだけの魅力を備えた、とってもキュートで素敵な女のコだった。ではあったけど、彼女の真似を現実にしようと思ったら、かなりイタイ感じになってしまう恐れが十分にあるのもまた事実だった。後に、とても真似はできないってあたしは諦めることになった。


「『赤頭巾ちゃん気をつけて』は、本当偶然の出会いって感じだったな」

佳原さんの声は何処か感慨深げだった。それを感じて、はっとした。

「図書館で偶然手に取ったんだよね。タイトルに惹かれて。で、借りて読んでみたらすごく面白かった」

佳原さんがこの本との出会いを大切に慈しんでいるのが分かった。

「1969年に書かれた話なんだけど、ちっとも古臭くなくて。すごい好きなんだ」

どきっとした。佳原さんの口から「好き」だなんて言葉を聞くと。本のことなのに。

「阿佐宮さん、さっき“閃くものがあって”それを選んだって言ったよね。それに倣って言えば、僕も図書館で『赤頭巾ちゃん気をつけて』の題名を目にした時、閃くものがあったんだと思う」

佳原さんの言葉は、あたしの気持ちの中にすうっと滑り込んできた。じんわり気持ちが温かくなった。ああ、同じだった。

あたしも、図書館で、本屋さんで、並べられている或いは書架に収められている本を見ながら、閃く瞬間があった。その微かな閃きを信じて、出会った本を抱いて家に帰り、頁をめくる内に、その時感じた閃きが気のせいなんかじゃなかったって分かって、たまらなく嬉しくなった。ああ、この本はあたしを待っていてくれたんだ。この本と出会えて本当に良かった。そう感じてとても幸福な気持ちになれた。閃きを感じて出会った本はあたしにとって、とても大切な掛け替えのない一冊になった。

佳原さんも、同じように本との出会いを感じてるんだ。そのことにとても温かい気持ちで胸が満たされた。

そして、本との閃くような出会いと同じように、佳原さんとも閃くような何かをあたしは感じていた。あたしと同じように、佳原さんは何かを感じているんだろうか?そう思って、少し収まりかけていた胸の鼓動がまた大きく打ち鳴らされる。ドキン、って。

「なんか、その感じって似てるかもね、阿佐宮さんと」

また、心臓の鼓動が大きくなる。ドキン。

深夜という時間は、空気が濃密さを増すような気がする。密やかな夜の気配に包まれて、あたしと佳原さんは携帯電話の電波っていう見えない糸で繋がっている。会っている時よりも近くで聞こえる佳原さんの声や息遣いは何だかとても親密に感じられて、今この世界であたし達二人だけが存在している、そんな特別な気持ちにさせた。


あたしは佳原さんが好きだった。とても恋しかった。人が聞いたら変に思うかも知れない。今日知り合ったばかりで、そんなに大して話した訳でもなくて、年の差だってあって。それなのに恋しいだなんて、思い違いだって言う人もいると思う。或いは若いからそんな気がするんだよ、とも。恋に恋する年頃だからね。女の子ってかわいいよね、些細なことに運命感じちゃうんだから、とか。・・・十中八九、大抵の人は訳知り顔でそう言うに違いないって思う。

だけど、そんなの関係ない。あたしは、あたしが感じている閃きが本当だって知ってる。この出会いが本物だって知ってる。誰よりも正確に、あたしの佳原さんへの想いが、佳原さんへの恋が、本当だって知ってる。

何故それが本当だってことを知ってるのかは知らない。でも、それでも、それが本当だってことだけは間違いなく知ってる。

そして、自分の気持ちほどには確かではなかったけれど、佳原さんがあたしとの何かを感じてくれていることも、心の何処かで分かっていた。

「・・・あ、あたしも」声が震えた。

「嬉しい、です」

こら、鎮まれ心臓。声よ、ひっくり返らないで。あたしはあたしの各器官を叱咤激励した。

「あたしと、佳原さんと、・・・同じ、気持ち・・・」声が消え入りそうだった。

「・・・同じように、感じてることがわかって、・・・嬉しい、です」

何とか言い終える。

「そうだね」

短い沈黙を挟んで佳原さんが言った。

・・・言ってしまおうか?「好き」って。

あたしの中で激しい葛藤が交錯した。言っちゃえ、今を逃して、今後いつチャンスが巡って来るかも分からないんだから。もしかしたら、チャンスなんて巡って来ないかも知れないんだから。かたや。言っちゃだめ、そんなこと言うだけの時間をまだ二人で過ごしてないじゃない、今言ったって、面食らって、引かれるのがオチよ。一瞬の間に激しい応酬が心の中で繰り広げられた。

「よかったら、また、違う本も貸すよ」

あたしの中でめまぐるしい攻防戦が展開されている最中、佳原さんが言った。あたしの中でおこなわれている攻防にあたしは停戦の受諾を勧告した。

「また」って佳原さんは言った。次回があるんだって言ってくれた。それだけであたしの中に安堵が広がった。勝機が少ない今、告白っていうチャレンジに賭ける必要はなくなった。だって二回戦目があるんだから。もっと作戦を練って、自分に有利な状況にして、確率を高めてから告白すればいいんだ。

気持ちが軽くなったら口の動きまで軽やかになった。

あたしは佳原さんに尾崎翠について聞いたり、村上春樹さんの作品でどれが好きかをお互い教え合ったりした。(因みに佳原さんは『ねじまき鳥クロニクル』と『ノルウェイの森』が好きだって教えてくれた。あたしも『ノルウェイの森』は大好きな作品なので、同じ作品がお気に入りだっていう事実に、一人で密かに舞い上がってしまった。あと、あたしは『スプートニクの恋人』のすみれさんがカッコよくて好きだって話した。あのお話のラストも大好きだった。それを聞いて佳原さんは「うん、分かる」って言ってくれて、その言葉にあたしはまた感激してしまった。それと佳原さんは、そのふたつの作品がどちらもラストシーンが電話ボックスの場面で終わっていることを指摘した。確かにそうだった。でも『ノルウェイの森』と『スプートニクの恋人』では、そのラストの方向は逆のベクトルを向いていることが象徴的だって佳原さんは話した。あたしは佳原さんの話しを聞いて、小さな感動と新鮮な驚きを感じた。)

それからあたしと佳原さんはとりとめもない話を交わして、「おやすみ」を告げて電話を切った。

電話を終えてからもあたしの気持ちは盛り上がりまくっていて、幸せで、温かさに満ちていて、とても眠れそうになかった。時計はもう既に夜の11時半を回っていた。

高揚した気持ちのまま、読み始めの頁にしおりが挟んである『赤頭巾ちゃん気をつけて』を開いて、続きを読み始めた。

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