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第五話 : 決戦の放課後

 

 天気快晴、最高の朝!

 視界良好、わたしの進む道に障害物なんか一切ナシ!

 体調快調、絶好調! そんでもってついでに最高潮!

 なっはっは! 今の私なら自動車だって装甲車だってジェット機だって避けて通る気がする! 隣を歩く親友のミイちゃんの冷めた目なんか気にもなんないくらい、とにかくテンション上がりっぱなし!

 だってそうでしょ? こないだのデートで、ナツ兄ぃと同じロケット型ペンダントを買ってもらったんだから! おそろいだよ、おそろい! ヤバイ、嬉しすぎる! 叫んじゃいたい! 叫んでいい? ダメ? ダメなの? ――でもやっぱ叫んじゃう!


「うわ〜〜〜ッ! ミイちゃん! わたし、ヤバくない!? こんなに幸せでヤバくない!?」

「うん。ヤバイよね、そのテンションの高さは」

「そうだよね、そうだよね〜! うわ〜ッ、幸せ! 幸せすぎる! 死ぬかも! 幸せすぎて死ぬかも! でも死んじゃったらもったいないから、やっぱり死なない!」

「はいはい。で、結局のところ、えっと、ナツさんだっけ? その人との進展は?」

「う。……絶好調!」

「ウソつけ。全然相手にされてないくせに」

「げ。……わかる?」

「わかるって言うか、わかりやすい? サンってもろに顔に出るよね。詐欺師とかには絶対向かないタイプ? 頭はいいのにね」

「うわ。今の言葉、ママに聞かれたら説教ものだよ。『女は本心と素顔を上手く隠すもの』とかよく言ってるし」

「……『素顔』って? 表情ってこと?」

「さあ?」


 ママの言うことはたまにワケがわからない。もう少し大人になればわかるのかな?

 ま、それは置いといて。

 ナツ兄ぃを元気付けようと無理やりデートに誘ったのはいいけど、結局はナツ兄ぃにとっては兄妹でお出かけみたいなノリ。終始和やかムード。ドキドキの一方通行。ってことでもちろん――、


「進展は一切なし、と?」

「……うぅ、はい」


 ミイちゃんもわたしに負けじ劣らずズバズバとストレートな物言いをする娘だ。だからこそここまでノリが合うんだけど。ミイちゃんとは普段も一緒によく遊ぶけど、一週間分のナツ兄ぃとの進展を報告するのが登校中でのいつもの決まりだ。

 普段は家に居たまま授業を受けられるネットクラスだけど、週一で実際に学校へ通っての授業を受けに登校する制度になっている。その理由が「勉強の知識だけなら一人でもできるけど、集団社会の知識は実際に集団の中にいないと身につかないから」だとか。それなら毎日登校させればいいと思うんだけど、かなり昔にとんでもない事件が頻繁に起きて一時期は登校制度すら無くなったらしいし。週に一度こうして集まれるだけでもまだ恵まれてる方なんだろうなぁ。


「で、サンのことはわかったけど、恋敵の方の動向は?」

「サヤ姉ぇは最近勉強ばっかしてるらしいよ。そのせいでいつも以上にイライラしてるみたいだから、ナツ兄ぃもあまり近寄らないようにしてるんだって。怒らせたら怖いし」

「……前から思ってたんだけどさ、その妹さんって本当に恋敵なの?」

「うん、それは間違いないね」

「根拠は?」

「……女のカン?」

「あ〜、そりゃ信頼性あるね〜」


 一言で理解してくれる辺り、さすがはミイちゃん。我が親友。

 まだまだ学校に着くまで時間はある。今日はノンちゃんに相談しておかないといけないことが山ほどあるんだ。正直、学校の授業範囲はとっくに理解してるんだからどうでもいいし。

 重要なのは放課後。授業が終わったその後に、とっておきのイベントが待っているんだから。

 決戦は放課後。それまでにものっそい武器を装備しておかなきゃね!


「よっしゃミイちゃん! いい武器(アドバイス)を期待してるよ!」

「任せといてよ。ダテに恋愛マンガ読みまくってないんだから」


 わたしの恋愛指南役ミイちゃん。

 愛読書は少女コミック『月刊・DANJOモンダイ!』だ。




  ◇ ◇ ◇




「やっほ〜、サヤ姉ぇ〜!」


 放課後、夕日が差し込む校門前。

 腰まで伸びた長い髪を背中で一つにまとめ、キレ長の細い瞳が印象的な、キレイな顔立ちのよ〜く知っている女性が校門にもたれて立っていた。

 同じ時間に帰宅していた同級生の男子がその人を見つめたままポ〜ッとしている。ありゃ、見とれてるのかな?

 でも、そろそろヤバイってそこの男子。その人をそんなに長く見つめてると――、


「邪魔。視界を遮らないで。人に迷惑かけるために生まれてきたの? 最悪ね」


 うわ。出たよ、氷の宣告(わたしが命名)。

 つららのような冷徹な言葉が突き刺さった男子はそのままヨタヨタとどっかに行っちゃった。ただちょっと見とれてただけなのにそんな鋭いもの突き刺されるとは思いもしなかっただろうなぁ。ちょっと同情。

 一人の小学生の心をズタズタにして、その人はやってくる。

 わたしの目下のライバル、最強の恋敵、――サヤ姉ぇだ。


「や。久しぶりだね、サン。元気だった?」


 さっきの男子への冷たい視線から一転、優しい微笑みを浮かべるサヤ姉ぇ。とても数秒前に凄まじい暴言を吐いたとは思えない優しい笑顔だ。

 ……う〜む、これがツンデレってやつなのかな? 今度ナツ兄ぃにやってみよう。


「じゃあ行こっか。最近いいトコ見つけたから、連れてってあげる」


 笑顔を浮かべながら手を差し出してくるサヤ姉ぇ。

 こうして、決戦の放課後は幕を開けた。


 

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