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第二話 : 教室にて

「おはよ〜! 今日もいい感じでだらけてんなぁ、スケ!」

「おっす、ナツ。こんなクソ熱いのに相変わらず元気だよな。それと、俺の名前は健介な。下の方で呼ぶなっていつも言ってんだろ」


 教室に入って早々にあいさつを交わしたのはナツの一番の親友、健介くん。

 なぜ彼は「スケ」と呼ばれているのでしょう? それは、ナツのいる未来ではサヤやミオさんのように二文字の名前が多いから――という理由もあるのですが、もっと単純に健介くんの顔がなぜだか妙にエロいからなのです。


「だってスケベ顔じゃんお前。だからスケ。いいじゃん、ブランドイメージってやつで。――ブランドイメージ! おお、なんかかっけぇ!」

「……ナツ。ありがた迷惑って言葉、知ってるか?」

「おはよう、ナツくん」

「よう、ナツ!」

「お〜、みんなおっはよ〜!」


 ナツがやってきたのに気付いた周りの生徒が口々にあいさつを交わします。健介くんもいきなりイジられながらも「しょうがねぇなぁこいつぅ」と言いたげなニコリ顔です。でも周りの皆にはやっぱり少しエロめなニタリ顔に見えるのでした。

 中等部二年生の教室。ここがナツのクラス。そしてミオさんが担任を務めるクラスでもあります。

 実際にナツがこの学校に通い始めてまだ半月ほどしか経っていません。いくら過去へ旅立つ際にクラスメイトの記憶や情報の操作を多少しているとは言え、ナツのクラスへの溶け込み具合は異常です。普通の人なら少しは萎縮するものですよね。

 しかし、そこは我らが天然おバカさんのナツ。

 萎縮するどころか伸び伸びしてます。なんでここまで彼は知らない時代の見知らぬ土地でこんなにも堂々と振舞えるのでしょう。答えは簡単、ナツだから。


「……フカちゃん。全部聞こえてんだけど。後で殴る」


 失礼しました。

 とにかく、こんなナツだからクラスの人気者にもあっさりとなってしまうのでした。

 ちなみにわたくし、『俯瞰の目』のフカちゃんは周りのみんなには声も姿も一切認識されません。本来なら『俯瞰の目』は監視対象者にも認識されてはいけないのですが、まぁ、そこはほら、何と言うか。やっぱり目立ちたいじゃない? 物語に参加したいじゃない? そんなのっぴきならない事情により、日高家一行には見えてもいんじゃね的な設定を勝手に施した次第なのです。のっぴきならないですね。


「はーい、みんな席につきなさーい!」


 担任のミオさんがやってきました。

 さっきまではだけていた衣服はきちんと整えられ、靴もスニーカーからパンプスに変わっていて、顔がゆがむほどの猛スピードで走っていたことなど微塵も感じさせないくらいに髪形も見事にセットされています。見た感じはもうすっかり見事な教師の出で立ちです。いやぁ、公私を見事に使い分ける『大人』って感じですね。


「みんな席に着いた? じゃあ聞いて。さっきね、先生、教頭先生にしこたま怒られました。『教師が遅刻スレスレで登校とは何事ですか』ですって。『アンタの頭こそ何事よ? 火事で焼け残ったの?』って死ぬほど言いたかったけど先生我慢しました。先生偉いでしょ? はい、せーの」

『…………』

「言えよ。黒板消しでパンパンされたい? それとも黒板消しクリーナーでウィンウィンされたい? はい、せーの」

『……え、偉い、です』

「そーよね、偉いよね。なのにあのハゲったら調子乗っちゃってさぁ。頭が固いってゆーの? 戦時中かってーの。頭だけは戦後の跡みたいなクセしてねー」


 いきなり生徒にグチリ始めるミオさん。公私なんて使い分けちゃいねーですね。まんま、いつも通りでした。どんな大人だ。




  ◇




 さて、そんないつも通りのミオさんとナツのいる教室の窓から見える、学園の中央広場を挟んだ向かい側の校舎。そこがナツの妹のサヤの通う小等部校舎です。その中の一教室の窓際から外を眺めているサヤはため息をつくのでした。


「はぁ」

「どうしたのサヤちゃん? 朝からそんな憂鬱な顔して」


 メランコリーなサヤに声を掛けてきたのは、この半月の間で唯一仲良くなれたクラスメイトの女の子、紀子ちゃんでした。

 いつも元気全開のナツとは対照的におとなしめのサヤはなかなかクラスメイトに話しかけることはできませんでした。その上、さすがに未来人だけあって他の皆とは少し顔の造りが違うサヤ。ハーフとまではいかなくてもクォーターくらいの異国情緒をほのかにかもし出してしまう顔の造りなのです。男子はモジモジ。女子にはちょこっと嫉妬の対象にされてしまうのでした。

 そんなところに紀子ちゃんの登場です。

 少しクラスから浮いているサヤに唯一積極的に話しかけてくれたのがこの紀子ちゃんなのでした。ええ子や。めっちゃええ子や。


「どうもこうもないよ。またうちのバカ兄貴とバカ従姉がバカ騒ぎ。しかも朝から。たまには普通に過ごせないのかな、あの二人」

「あはは、楽しくていいじゃない。私はあんなお兄ちゃん憧れるけどな〜」

「……紀ちゃん。それ、絶対お兄ちゃんの前で言わないでね。調子のるから。調子のったら絶対またバカやるから」


 そう、サヤは何度もナツのバカを経験済みなのです。前もお菓子を五十ケースドカ買いしたばかりです。そんなのは序の口で、とても口に出しては言えない(恥ずかしい意味で)ほどの行動をサヤは何度も何度も目の当たりにしてきたのでした。


「ふ〜ん。でもちょっとバカでもいいじゃん。ナツ先輩、カッコいいし♪」

「カッコいい? アレが?」

「サヤちゃんもそうだけど、ちょっと外人さん入ってる感じだもんね〜」

「そうかな?」

「そうだよ〜! あ、外人さんと言えばさ、今日ちょっと外国人モデルのナターシャっぽい髪形にしてみたんだけど、どうっすか?」


 ヘアピンでまとめた左右非対称のおだんごをサヤに見せる紀子ちゃん。あえてアシンメトリ−にすることでキュートさをうんたらかんたらのご自慢のヘアスタイルを披露。それを見て、サヤは口の端をほんの少しだけ引きつらせるのでした。『俯瞰の目』であるわたくしだけしか気付いてはいないでしょうが。


「……い、いいと思うよ」

「やっぱり〜? いいよね、コレ! しばらくマイブームになりそう!」

「…………」


 ――ださ。ださすぎる。なんなの、その丸いやつ。引きちぎってやろうかしら。


 現代のファッション感覚についていけないサヤはきっとそんなことを思っていたのですが、親友の紀子ちゃんの手前、間違っても口には出さないのでした。



後付けですが、『俯瞰の眼』のフカちゃんの詳細を。

過去旅行の際の監視者。歴史改変や再構築を防ぐべくして旅に同行する。見た目は黒くて丸い目玉。人工知能搭載のロボット。この物語中の俯瞰の眼のフカちゃんはやや人間風味が強すぎて監視対象者に姿を現すという暴挙に出るが、『俯瞰の眼』製作者や管理者は大した問題はないものとしてあえて黙認している。その眼で見たことは全て記録されていて、元の時代に帰った時に採集され、その時代のデータとして様々な研究に役立たれている。


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