第4話
「今日も雨ですね〜」
職員室から雨が降っている窓を眺めていた。
ジメジメしていて、洗濯物も乾きにくくて、いいことは何一つない。
「アレ?あの人…さっきからここにいない?」
沢時先生が窓の外を指差した。
もしかして…。
僕は勝手に外に出た。
いたんだ。
あの人が…。
「ここに来ると思ったら…また会えると思って」
優しく笑う彼女に、僕は少し下を向いてしまった。
「…俺に、会いに来てくれたんですか?」
「当たり前です」
何言ってんだよ自分。
焦ってるのか?緊張しているのか?
彼女は少し嘲る。
「この間のお礼がしたくて。雨が降ってる時の方があたしのこと思い出してくれるかなって」
「お礼なんて…」
ますます焦る。
どうしていいのか分からず、あたふたしてしまう。
「浅宮莉恵子と言います。はい」
そう言って名刺を出した。奇遇なことに、僕と名字が同じだった。
「教師、やってるんです。高校の」
名刺の裏にはアドレスが書いてあった。目を見開いてしまった。慌てて自分の名刺を取り出す。
「浅宮…直紀です」
「名字一緒ですね!驚いたー」
浅宮さんはなんか嬉しそうだった。僕と名字が同じだから?
「あのっ、アドレス…」
急いで彼女に渡した名刺の裏に自分のアドレスを書いた。
「他人にアドレス教えちゃうなんて、あたしそんなことしないんですけど…あの日、あなたの姿見てから不思議と他人に思えなくて。なーんて、普通じゃありえないんですけど」
「いやっ、そんなことないですよ…」
「どうしてですか?」
それでも彼女は笑っていた。いや、にこにこしているって言ったらいいのかな。
「なんでかな…」
手を頭にやる。髪を触ったりして何かごまかすフリをする。
「お礼なんですけど」
「お礼なんてとんでもない…」
少し躊躇した後、彼女は切り出した。
「じゃあ、今度食事でも」
にこにこしていた顔がさらに増した。
僕は彼女の誘いに乗った。
浅宮莉恵子──。
僕も不思議と彼女を他人と思えなかった。