チキンと、ハゲと、いぶし銀
「我を使え。そしてアレを撃て」
ん?
路地裏に銃が落ちてる。
うっわ、こわ。
やべーのに絡まれたら面倒だよ。
見なかったって事で。
って、通り過ぎたんだわ。
「おい! 聞いておるのか! 我を使え!」
なんかね、変な声聞こえんのよ。
ストレス溜まってんのかな。
や、ちげーし。
俺、いたって健康。な、はず。
「アレは撃たなければいけないんだぞ!」
アレってなんだよ?
いやいや、反応すんな。俺。
「そこのお前だ! ボケがあ!」
「うざっ!」
あー、反応しちゃったよ。
って、誰だよ。
誰もいねえよ。
「ここだ。ここ。我の美しい姿を見よ」
ここって。美しいって。
ナニソレ。
「我の銀に光る、このボディ。グリップのウォールナット、しっくり馴染むぞ」
えー?
言ってる事が、落ちてるきったねえ銃っぽいんだが?
光ってねえし。
汚れてて触るの嫌。
ドロ付くじゃん。
「自己評価高くね?」
「なんだと! 触れもせんで何を言う!」
「やだよ。俺は善良な一般市民なんだよ。やべー奴に目ぇつけられたくねえもん」
「安心しろ。標的はそういう連中ではない」
「いやいや。ここ治安は良くないけどね、俺、小心者で無関係なんだよ」
そこを何とか。
だのなんだの言いあって小一時間。
俺は銃を手に入れた。
やだなあ。
テーブルの上に乗せ⋯⋯る訳ねえだろ。
こんなきったないの。
えー、銃ってどうやってメンテすんの?
水ぶっかけるのはまずいよな?
しかたねえな。
床に直接置くのもやだし、通販の箱の中にでも入れとくか。
「おい。何故我を床に置く?」
「ああ? 箱ん中入れたろうがよ。床が汚れんの嫌なんだよ」
「なんだと、貴様。家の中で靴を履いたままでいるくせに、我を置くと汚れるだと!?」
あー、めんどくせえなあ。
「それはそれ。だって、あんた、どこでどうやって汚れてきたのか、わかんないんだよ? 直接置くとか嫌すぎる」
「⋯⋯」
あ、黙った。
怒った? まあいいや。
とにかくメンテしないとなあ。スマホで検索。
『銃 修理』
まあ、ここはね、銃の所持が認められてる国なんでね。
楽勝よ。
動画やらショップやら何やらバカスカ出てくるのよ。
動画観ても自分でできる気がしねえ。
悪いけど俺、細かくて繊細な作業嫌いなんだよ。
スクロール。
沢山出てきてうんざりしてきたな。
「あれ? なんだこれ」
『シルバーガン修理受け付けます。うるさい声にお困りの方へ』
えー? んー?
気になる。なり過ぎてたまらん。
住所は、近いなー。
⋯⋯。
行ってみるか。
普通のガンショップ。
普通すぎるのが余計に怪しい。
通販の箱を手に、店の奥へ。
カウンターにごっついおっさん。
ハゲ。
エプロン。
え、なに? ビデオゲームの武器屋?
「修理⋯⋯、頼めますか?」
ハゲ、怖ええ。こっち睨んでる。
「どれだ? 見せてみろ。ふむ。任せろ。じゃ、ここに名前と住所な」
ぴらん、とメモ帳。
雑すぎね?
乗りかかった船ってやつ?
しゃーない。
「よし。OK」
「はっはっは! 我ぞ! 磨かせてやろう!」
あー、書き込んだ途端にしゃべりやがった。こいつ。
あれ? ハゲ、驚いてないんだが?
むしろ口の端がにやついてる。
ええー?
「やっと来たか。で、どうしてこうなった?」
グリップを掴んでもう片方の手のひらに銃身を乗せた。
「あの男はな、やられてしもうたよ。アレと相打ちでな」
「ああ、勿体ないな。いい腕だったのに」
なんか知らんが妙に親し気?
訳知り顔ってやつ?
いや、顔見知り?
片方銃だけど。
「あのー。こいつなんなんすか?」
「あんた、教えてないの?」
手に持ったそれを睨みつけるハゲ。
「説明しようにも聞かんのだ。こやつ」
「銃が喋ると思わんよな。普通。しょうがないな」
その通りだよ。
しかも高飛車でムカつくし。
「まずは、俺。この店の店主。スミス。よろしく」
「あ、ああ。ジャスティンっす。よろしく」
スミス。スミスて。
ガンスミスな、スミスなわけ?
いやいや、まんまじゃん。
「で、こいつはシルバー。いわく付きの銃だ」
待て。シルバーて。
ベタじゃん。
あんたたち、もう少し捻ろうよ。
「装填する弾は銀。吸血鬼退治専用の銃だ」
は?
オカルト?
あー、喋るだけで充分オカルトか。
⋯⋯⋯⋯。
思ったんだけどさ。
知り合いなら、落とし物って事でスミスに渡しちゃえばよくない?
こいつずっと言ってたよな?
『我を使って、アレを撃て』
アレって吸血鬼の事っしょ?
多分さ?
嫌だよ!
しかも前の持ち主、死んでんじゃん!
「あのー。これ、落ちてました。お返しします。って事で、じゃっ」
逃げるぞ、俺は!
⋯⋯逃げられなかった。
カウンターを飛び越えてスミスが降ってきた。
でっかい、ごっつい、ハゲのおっさんが!
ぴらり、と人相書きが俺の目の前に。
⋯⋯!
ううっ。
すんげー、女!
美人すぎる。
胸でけえ。
「会ってみたくないか?」
「やだ」
この流れで出てくるのなんて、面倒な女に決まってんじゃん。
アレでしょ? 吸血鬼。
写真に写んないから、絵なんでしょ?
「チッ」
「舌打ちて」
「騙されなかったか。まあ、相打ちだったなら、もう灰になってるわな」
「そうとも。それで我はあの場におったのだ。女を撃つ前に、あやつ咬まれおってな。下僕に成り果てる前に女に撃ち込んだのよ」
うっは。すげえ精神力。
俺にはできねえー。
「じゃ、俺はこれで!」
「待て待て待て。女が嫌なら、男の方でもいいぞ。そいつら、美女狙いだからな。この世から人間の女が居なくならないように退治してくれないか?」
何言ってんの。スミスさんよぅ。
人間の美女がどんだけいたって、俺には関係ないよ。
ふふふ、自慢じゃないが無縁の存在だからな!
「嫌っす」
そこを何とか。
だのなんだの言いあって小一時間。
⋯⋯またかよ。
だがな、今度は逃げたぜ!
わざと追跡をかわすように、あっちこっち回って。
無駄に地下鉄とか乗ってな!
はー、疲れた。
真夜中だよ。アパートメントに帰ってきたのは。
何時間うろついてたのかわからんくらいだ。
途中で買ったドーナツの箱をテーブルに⋯⋯。
おい。
待て。
待て待て。
「何でいる?」
「ハッハッハ! お前名前と住所書いておったろう!」
すっかり綺麗になってるじゃねえか。
銀の弾のストックも⋯⋯。
請求書と一緒に。
ハゲ!
ふざけんな!
そうだよ、忘れてたよ!
だからって、勝手に入って置いていくかよ!
「前の男も最初は嫌がってたが、途中から頼まんでも自分から撃ちに行ってたわ」
「えー。俺には無理じゃねえ?」
「まあ、我を拾って綺麗にしてくれただけでも有り難いわ。その気になったらやればよいし、誰かに譲るでもよいぞ」
──そうだなあ。
護身用にとって置いてもいっか。
ただ撃ち方知らんから教えてもらおう。
スミスにでも。
とんだ事に巻き込まれた感があるなあ。
運命を呪っちゃおうかなあ。
はぁー。




