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上弦の月

チキンと、ハゲと、いぶし銀

作者: 麻生あきら
掲載日:2026/09/06

「我を使え。そしてアレを撃て」


 ん?

 路地裏に銃が落ちてる。

 うっわ、こわ。

 やべーのに絡まれたら面倒だよ。


 見なかったって事で。

 って、通り過ぎたんだわ。




「おい! 聞いておるのか! 我を使え!」


 なんかね、変な声聞こえんのよ。

 ストレス溜まってんのかな。

 や、ちげーし。

 俺、いたって健康。な、はず。


「アレは撃たなければいけないんだぞ!」


 アレってなんだよ?

 いやいや、反応すんな。俺。




「そこのお前だ! ボケがあ!」

「うざっ!」


 あー、反応しちゃったよ。

 って、誰だよ。

 誰もいねえよ。


「ここだ。ここ。我の美しい姿を見よ」


 ここって。美しいって。

 ナニソレ。


「我の銀に光る、このボディ。グリップのウォールナット、しっくり馴染むぞ」


 えー?

 言ってる事が、落ちてるきったねえ銃っぽいんだが?

 光ってねえし。

 汚れてて触るの嫌。

 ドロ付くじゃん。


「自己評価高くね?」

「なんだと! 触れもせんで何を言う!」

「やだよ。俺は善良な一般市民なんだよ。やべー奴に目ぇつけられたくねえもん」


「安心しろ。標的はそういう連中ではない」

「いやいや。ここ治安は良くないけどね、俺、小心者で無関係なんだよ」


 そこを何とか。

 だのなんだの言いあって小一時間。


 俺は銃を手に入れた。

 やだなあ。




 テーブルの上に乗せ⋯⋯る訳ねえだろ。

 こんなきったないの。


 えー、銃ってどうやってメンテすんの?

 水ぶっかけるのはまずいよな?


 しかたねえな。

 床に直接置くのもやだし、通販の箱の中にでも入れとくか。


「おい。何故我を床に置く?」

「ああ? 箱ん中入れたろうがよ。床が汚れんの嫌なんだよ」

「なんだと、貴様。家の中で靴を履いたままでいるくせに、我を置くと汚れるだと!?」


 あー、めんどくせえなあ。

「それはそれ。だって、あんた、どこでどうやって汚れてきたのか、わかんないんだよ? 直接置くとか嫌すぎる」


「⋯⋯」

 あ、黙った。

 怒った? まあいいや。




 とにかくメンテしないとなあ。スマホで検索。

『銃 修理』

 まあ、ここはね、銃の所持が認められてる国なんでね。

 楽勝よ。


 動画やらショップやら何やらバカスカ出てくるのよ。

 動画観ても自分でできる気がしねえ。

 悪いけど俺、細かくて繊細な作業嫌いなんだよ。


 スクロール。

 沢山出てきてうんざりしてきたな。


「あれ? なんだこれ」


『シルバーガン修理受け付けます。うるさい声にお困りの方へ』


 えー? んー?

 気になる。なり過ぎてたまらん。

 住所は、近いなー。


 ⋯⋯。

 行ってみるか。




 普通のガンショップ。

 普通すぎるのが余計に怪しい。


 通販の箱を手に、店の奥へ。

 カウンターにごっついおっさん。

 ハゲ。

 エプロン。

 え、なに? ビデオゲームの武器屋?


「修理⋯⋯、頼めますか?」


 ハゲ、怖ええ。こっち睨んでる。


「どれだ? 見せてみろ。ふむ。任せろ。じゃ、ここに名前と住所な」


 ぴらん、とメモ帳。

 雑すぎね?

 乗りかかった船ってやつ?

 しゃーない。


「よし。OK」




「はっはっは! 我ぞ! 磨かせてやろう!」


 あー、書き込んだ途端にしゃべりやがった。こいつ。

 あれ? ハゲ、驚いてないんだが?

 むしろ口の端がにやついてる。

 ええー?


「やっと来たか。で、どうしてこうなった?」

 グリップを掴んでもう片方の手のひらに銃身を乗せた。


「あの男はな、やられてしもうたよ。アレと相打ちでな」

「ああ、勿体ないな。いい腕だったのに」


 なんか知らんが妙に親し気?

 訳知り顔ってやつ?

 いや、顔見知り?

 片方銃だけど。


「あのー。こいつなんなんすか?」

「あんた、教えてないの?」


 手に持ったそれを睨みつけるハゲ。


「説明しようにも聞かんのだ。こやつ」

「銃が喋ると思わんよな。普通。しょうがないな」


 その通りだよ。

 しかも高飛車でムカつくし。




「まずは、俺。この店の店主。スミス。よろしく」

「あ、ああ。ジャスティンっす。よろしく」


 スミス。スミスて。

 ガンスミスな、スミスなわけ?

 いやいや、まんまじゃん。


「で、こいつはシルバー。いわく付きの銃だ」


 待て。シルバーて。

 ベタじゃん。

 あんたたち、もう少し捻ろうよ。


「装填する弾は銀。吸血鬼退治専用の銃だ」


 は?

 オカルト?

 あー、喋るだけで充分オカルトか。

 ⋯⋯⋯⋯。


 思ったんだけどさ。

 知り合いなら、落とし物って事でスミスに渡しちゃえばよくない?

 こいつずっと言ってたよな?


『我を使って、アレを撃て』


 アレって吸血鬼の事っしょ?

 多分さ?


 嫌だよ!

 しかも前の持ち主、死んでんじゃん!


「あのー。これ、落ちてました。お返しします。って事で、じゃっ」

 逃げるぞ、俺は!




 ⋯⋯逃げられなかった。

 カウンターを飛び越えてスミスが降ってきた。

 でっかい、ごっつい、ハゲのおっさんが!


 ぴらり、と人相書きが俺の目の前に。

 ⋯⋯!

 ううっ。

 すんげー、女!

 美人すぎる。

 胸でけえ。


「会ってみたくないか?」

「やだ」


 この流れで出てくるのなんて、面倒な女に決まってんじゃん。

 アレでしょ? 吸血鬼。

 写真に写んないから、絵なんでしょ?


「チッ」

「舌打ちて」


「騙されなかったか。まあ、相打ちだったなら、もう灰になってるわな」

「そうとも。それで我はあの場におったのだ。女を撃つ前に、あやつ咬まれおってな。下僕に成り果てる前に女に撃ち込んだのよ」


 うっは。すげえ精神力。

 俺にはできねえー。




「じゃ、俺はこれで!」

「待て待て待て。女が嫌なら、男の方でもいいぞ。そいつら、美女狙いだからな。この世から人間の女が居なくならないように退治してくれないか?」


 何言ってんの。スミスさんよぅ。

 人間の美女がどんだけいたって、俺には関係ないよ。

 ふふふ、自慢じゃないが無縁の存在だからな!


「嫌っす」


 そこを何とか。

 だのなんだの言いあって小一時間。

 ⋯⋯またかよ。




 だがな、今度は逃げたぜ!

 わざと追跡をかわすように、あっちこっち回って。

 無駄に地下鉄とか乗ってな!


 はー、疲れた。

 真夜中だよ。アパートメントに帰ってきたのは。

 何時間うろついてたのかわからんくらいだ。


 途中で買ったドーナツの箱をテーブルに⋯⋯。

 おい。

 待て。

 待て待て。


「何でいる?」

「ハッハッハ! お前名前と住所書いておったろう!」


 すっかり綺麗になってるじゃねえか。


 銀の弾のストックも⋯⋯。

 請求書と一緒に。


 ハゲ!

 ふざけんな!

 そうだよ、忘れてたよ!

 だからって、勝手に入って置いていくかよ!




「前の男も最初は嫌がってたが、途中から頼まんでも自分から撃ちに行ってたわ」

「えー。俺には無理じゃねえ?」

「まあ、我を拾って綺麗にしてくれただけでも有り難いわ。その気になったらやればよいし、誰かに譲るでもよいぞ」


 ──そうだなあ。

 護身用にとって置いてもいっか。

 ただ撃ち方知らんから教えてもらおう。

 スミスにでも。


 とんだ事に巻き込まれた感があるなあ。

 運命を呪っちゃおうかなあ。

 はぁー。

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