悪の組織に、幹部会議はつきものな件
その日の夕方。
僕の部屋に、三人の女性が集まっていた。
マリーダ、レイナ、ルナ。
「それでは、第一回幹部会議を始めます」
僕は厨二病全開で宣言した。
「我が組織の、記念すべき初会議だ!」
マリーダが跪き、レイナが頭を下げ、ルナが拍手をしている。
「まず、組織の名前を決めよう」
僕は少し考えてから、窓の外を見た。
「僕たちの組織の名前は……『窓辺の闇』だ!」
僕は胸を張って宣言した。
「……窓辺の、闇」
マリーダが、その言葉を反芻した。
「うん。僕、この窓辺からしか世界を見られないから」
僕は窓を指さした。
「でも、闇の中から世界を変えるんだ!かっこいいでしょ?」
「……素晴らしい」
マリーダが、感動した表情で頷いた。
「光ではなく、闇から世界を照らす。完璧な名前です」
「え、そう?ちょっと暗すぎたかなって思ったんだけど」
「いいえ」
レイナが、真剣な目で言った。
「闇こそが、真の光を生む。ユーリ様の本質を完璧に表しています」
「……かっこいい」
ルナが、小さく頷いた。
僕は少し照れくさくなった。
みんなが、本気で褒めてくれている。
「じゃあ、次は役職を決めよう」
僕は紙に書いた役職名を読み上げた。
「マリーダは『闇の剣』。戦闘と作戦実行を担当」
「御意」
「レイナは『闇の目』。情報収集と隠密作戦を担当」
「承知しました」
「ルナは『闇の翼』。魔法でみんなの支援を頑張ってくれ」
「……うん」
三人が、真剣な目で僕を見つめている。
「これから、僕たちは悪と戦う」
僕は立ち上がった。
「正義で裁けない真の悪を、僕たちが裁く」
「この世界を、少しでも良くするために」
三人が、深々と頭を下げた。
「「御意」」「ぎょい!」
その声が、重なった。
---
――それから、三ヶ月が経った。
僕の「組織ごっこ」は、思いがけず盛り上がっていた。
マリーダが連れてきた仲間は、今では十人近くに増えている。
元傭兵、盗賊、商人――様々な経歴を持つ者たちが、『窓辺の闇』に集まった。
レイナの情報網は、王都全域に広がった。
貴族の秘密、裏社会の動き、全てが僕の手元に集まる。
ルナの魔法は、作戦を完璧にした。
隠密、結界、転移――彼女の才能は、想像以上だった。
そして、僕は相変わらず、安楽椅子に座って「作戦」を考えている。
「次の標的は、西区の悪徳商人だね」
僕が地図を指さすと、マリーダが頷いた。
「承知しました」
「レイナ、商人の弱みは?」
「違法な奴隷取引の証拠があります」
「よし。それを押さえよう」
「ルナ、隠密魔法で侵入できる?」
「……うん」
三人が、真剣な目で僕を見つめている。
僕は、幸せだった。
久しぶりに、誰かと話す。誰かと遊ぶ。
みんなが、僕の作戦を真剣に聞いてくれる。
「よし、作戦開始!」
僕は興奮して拳を握った。
でも、その瞬間、大きなあくびが出た。
「ふぁ……あれ、なんか眠くなってきたかも」
僕は時計を見た。もう夜遅い。
「今日は久しぶりに楽しかったから、疲れちゃったみたい」
僕は笑いながら立ち上がった。
「ごめん、みんな。僕、もう寝るね」
「詳しい作戦は、また明日考えよう」
「はい、ごゆっくりお休みください」
マリーダが、優しく微笑んだ。
「……おやすみ」
ルナも、小さく手を振った。
「では、失礼いたします」
レイナが頭を下げた。
僕は奥のベッドルームに向かって歩き出した。
「じゃあね、みんな。また明日!」
扉を閉める前に、もう一度振り返る。
三人が、真剣な顔で僕を見つめていた。
「……?どうしたの?」
「いえ、何でもございません」
マリーダが、すぐに笑顔を作った。
「おやすみなさいませ、ユーリ様」
「うん、おやすみ」
僕は扉を閉めて、ベッドに入った。
久しぶりに、こんなに楽しい時間を過ごした。
みんなと話して、作戦を考えて。
それだけで、幸せだった。
僕は、すぐに眠りについた。
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ユーリがベッドルームに入った後。
三人の女性が、静かに顔を見合わせた。
マリーダ、レイナ、ルナ。
しばらくの沈黙の後、マリーダが口を開いた。
「……ユーリ様は、本当に気づいておられないのですね」
「ええ」
レイナが、書類を整理しながら答えた。
「あの方は、本当に『ごっこ遊び』だと思っておられる」
「だからこそ、あれほど純粋に、人を救おうとされるのでしょう」
ルナが、小さく頷いた。
「……優しい」
「ああ」
マリーダが、窓の外を見つめた。
「あの方は、この世界で最も優しい方だ」
「だからこそ、我々が守らねばならない」
レイナが、鋭い目でマリーダを見た。
「あなたは、ユーリ様のために命を捨てる覚悟がある?」
「当然だ」
マリーダが、即座に答えた。
「私の命は、あの方のもの。十年前からそう決めていた」
「……私も」
ルナが、小さく呟いた。
「ユーリ、助けてくれた。だから、守る」
レイナが、微笑んだ。
「同じね」
「私も、あの方に一生ついていくと決めた」
「あの方の知略、あの方の優しさ――全てが、本物だから」
マリーダが、二人を見つめた。
「では、我々は同じ目的を持っている」
「ユーリ様を守り、ユーリ様の願いを叶える」
「ええ」
レイナが頷いた。
「……うん」
ルナも頷いた。
マリーダが、剣を握った。
「ユーリ様は、まだご自身の力に気づいておられない」
「あの方の言葉は、人を動かす」
「あの方の知略は、世界を変える」
レイナが、地図を見つめた。
「この三ヶ月で、我々は三つの悪を倒した」
「街の人々は、『銀の剣士』を英雄と呼んでいる」
「でも、真の英雄は――」
三人が、同時に呟いた。
「「「ユーリ様だ」」」
しばらくの沈黙。
そして、マリーダが静かに言った。
「いずれ、ユーリ様は真実に気づかれるだろう」
「その時、我々はどうする?」
レイナが、考え込んだ。
「……分からない」
「でも、あの方が望む道を、私は支える」
「……同じ」
ルナが、小さく頷いた。
マリーダが、立ち上がった。
「では、今は我々の役目を果たそう」
「ユーリ様の願いを、現実にするために」
三人が、深々と頭を下げた。
そこには、主への絶対的な忠誠があった。
――そして、少しだけ、危うい狂信の影が。
三人は、静かに部屋を後にした。
ベッドルームでは、ユーリが何も知らずに眠り続けている。
穏やかな寝顔で、幸せそうに。
---
その夜、王都の西区で、悪徳商人の屋敷が襲撃された。
「銀の剣士」と呼ばれる女剣士が、たった一人で警備を制圧。
証拠を押収し、憲兵隊に引き渡した。
街の人々は、その女剣士を英雄と呼んだ。
でも、誰も知らない。
その背後に、幽閉された貴族の少年がいることを。
その少年が、「遊び」のつもりで世界を変えていることを。
――――
**彼はまだ知らない。**
**自分の「組織ごっこ」が、本物の組織になっていることを。**
**仲間たちが、命をかけて彼の言葉を実現していることを。**
**そして、彼の『窓辺の闇』が、やがて王国を揺るがす存在になることを。**
**――これは、勘違いから始まる、壮大な革命の物語。**




