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悪の組織に、救えぬ命はない件

その夜。


マリーダは、一人で廃工場に向かった。


月明かりの下、銀髪が揺れる。


剣を抜き、静かに侵入する。


警備兵が気づく前に、一瞬で制圧。


地下への階段を降りる。


そこには、鉄格子に囲まれた部屋があった。


子供たちが、震えながら抱き合っている。


そして、その奥に――


金色の髪。


長い耳。


青い瞳。


エルフの少女が、じっとこちらを見ていた。


「大丈夫。助けに来た」


マリーダが鉄格子を切断する。


子供たちが、泣きながら飛び出してくる。


「外に馬車を用意してある。急いで」


子供たちを逃がし、マリーダはエルフの少女に近づいた。


「あなたも、来て」


「……」


少女は、何も言わず、ただマリーダを見つめていた。


「あなたを、安全な場所に連れて行く」


「……どこに?」


小さな声だった。


「私の主のもとに」


マリーダが、手を差し伸べた。


「あの方は、あなたを助けろと命じた」


「……なぜ?」


「理由なんてないよ。困ってる人を見たら、助けたくなるだけ」


マリーダが、優しく微笑んだ。


「あの方の言葉だ」


少女が、ゆっくりと手を伸ばした。


---


翌日。


僕の部屋に、小さな影があった。


「え、えっと…」


金色の髪。


長い耳。


青い瞳。


エルフの少女が、僕の前に立っていた。


「あ、あの、こんにちは」


僕は慌てて椅子から立ち上がった。


「僕はユーリだよ。君は?」


「……ルナ」


小さな声だった。


「ルナちゃんか。よろしくね」


僕は笑顔を作った。


「怖かったよね。でも、もう大丈夫だから」


「……」


ルナが、じっと僕を見つめている。


「あの、お腹空いてない?何か食べる?」


「……」


ルナが、小さく頷いた。


僕はばあやに頼んで、温かいスープとパンを持ってきてもらった。


「はい、どうぞ」


「……」


ルナが、ゆっくりとスープを飲み始めた。


「美味しい?」


「……うん」


小さく頷く。


「良かった」


僕は安心して微笑んだ。


「ルナちゃん、これからどうする?帰れる場所、ある?」


「……ない」


「そっか」


僕は少し考えた。


「じゃあ、ここにいる?」


「……いい、の?」


「もちろん!」


僕は笑顔で答えた。


「僕、一人で寂しかったから。一緒にいてくれると嬉しいな」


「……」


ルナの目が、少しだけ潤んだ。


「ルナちゃん、ここ初めて?」


「……うん」


「そっか。僕もね、この部屋から出たことないんだ」


僕は窓の外を指さした。


「あの窓から外を見るだけ。でも、空は綺麗だよ」


「……」


ルナが、窓の外を見つめた。


青い空に、白い雲が流れている。


「ルナちゃんは、どこから来たの?」


「……遠く」


「遠く、か」


僕は少し考えた。


「ルナちゃん、本は好き?」


「……?」


「ほら、これ」


僕は本棚から、絵本を取り出した。


子供向けの、挿絵がたくさん入った物語だ。


「これ、面白いんだよ。読んであげようか?」


「……うん」


ルナが、小さく頷いた。


僕は椅子に座り、ルナを隣に座らせた。


絵本を開いて、ゆっくりと読み始める。


ルナは、じっと絵を見つめていた。


時々、小さく頷いたり、目を輝かせたりする。


「面白い?」


「……うん」


僕は嬉しくなった。


久しぶりに、誰かと一緒に本を読んでいる。


「ルナちゃん、ここにいてくれてありがとう」


「……?」


「僕、ずっと一人だったから。話す相手がいるって、嬉しいんだ」


「……」


ルナが、僕の手を握った。


小さくて、温かい手だった。


「ユーリ、優しい」


「え?」


「……ありがとう」


小さな声だった。


でも、その声には、確かに感謝が込められていた。


僕は、胸が熱くなるのを感じた。


---


その時、扉がノックされた。


「ユーリ様、よろしいでしょうか」


「あ、マリーダ!入って!」


マリーダが扉を開けて入ってきた。


ルナを見て、優しく微笑む。


「ルナは、大丈夫そうですね」


「うん!すごく良い子だよ」


僕は笑顔で答えた。


「それで、マリーダ。ルナちゃんのこと、もうちょっと詳しく聞いてもいい?」


「はい」


マリーダが、真剣な顔になった。


「実は……ルナは、私の遠い親戚の子なんです」


「え、親戚?」


「はい。事情があって、しばらく預かることになりまして」


マリーダが、少し申し訳なさそうに言った。


「ユーリ様にご迷惑をおかけして申し訳ありません。でも、他に頼れる人が……」


「ううん、全然迷惑じゃないよ!」


僕は慌てて手を振った。


「むしろ、嬉しいくらいだよ。ルナちゃん、可愛いし」


「……」


ルナが、僕の服の裾を握った。


「ありがとうございます、ユーリ様」


マリーダが、深々と頭を下げた。


「それで、ルナちゃんはどのくらいここにいるの?」


「……しばらく、かと」


「そっか。じゃあ、一緒に遊ぼうね、ルナちゃん」


「……うん」


ルナが、小さく微笑んだ。


「あ、そうだ!」


僕は思いついた。


「ルナちゃんも、悪の組織ごっこに参加する?」


「……ごっこ?」


「うん。マリーダと僕で、悪の組織ごっこをしてるんだ」


僕は厨二病全開で説明した。


「悪の組織の首領と、その部下の物語。正義で裁けない悪を倒すっていう設定で――」


「……」


ルナが、じっと僕を見つめている。


「ルナちゃんは、何の役がいいかな?組織の新メンバー?それとも――」


「……やる」


「本当!?」


「……うん」


小さな声だった。


でも、その目には、確かな決意が宿っていた。


「やった!じゃあ、これから三人で遊ぼう!」


僕は嬉しくなった。


マリーダとレイナ、ルナ。三人の仲間ができた。


久しぶりに、誰かと遊べる。


それだけで、僕は幸せだった。


――僕はまだ知らない。


ルナが「ごっこ遊び」ではなく、本気で「組織」に参加しようとしていることを。


マリーダの「親戚の子」という説明が、咄嗟の嘘だったことを。


---

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