悪の組織に、諜報部員がやってきた件
あの日から、一週間が経った。
マリーダは毎日のように館を訪ねてくれる。
報告のため、と言っていたが、僕としては久しぶりの友達との時間が楽しくて仕方なかった。
「ユーリ様、本日の報告です」
今日もマリーダは跪いている。
相変わらず清潔な騎士服姿。髪も綺麗に整えられている。
「人身売買組織の壊滅後、街では『銀の剣士』の噂が広がっています」
「銀の剣士!カッコいい!」
僕は興奮して身を乗り出した。
「みんな、本当に本気で遊んでくれてるんだね」
「……はい」
マリーダが、穏やかに微笑んだ。
「それで、ユーリ様。本日は、新しい仲間をご紹介したく」
「え、仲間!?」
僕の心臓が跳ねた。
仲間が増える。組織が大きくなる。
これ、本物の悪の組織みたいじゃないか!
「ぜひ!会いたい!」
「お呼びします」
マリーダが手を叩くと、扉が開いた。
そこに立っていたのは、フードを被った女性だった。
フードを取ると、赤茶色の短髪と、鋭い目が現れた。
「お初にお目にかかります。噂の指導者様」
指導者。
またカッコいい呼び方だ。
「え、えっと、よろしく!僕はユーリだよ」
「……」
女性が、じっと僕を見つめている。
なんだろう、すごく真剣な目だ。
「私はレイナと申します。裏社会で情報を集めることを生業としております」
「情報屋さん!すごい!」
僕は思わず拍手した。
悪の組織には、情報屋は必須だ。本で読んだ。
「マリーダから聞きました。あなた様が、『銀の剣士』を指揮しておられると」
「あ、うん。まあ、作戦を考えたり…」
「恐れ入ります」
レイナが深々と頭を下げた。
「実は、私もあの一連の事件を追っておりました」
「え、そうなの?」
「はい。悪徳領主の壊滅、人身売買組織の壊滅――どちらも完璧な作戦でした」
レイナの目が、輝いた。
「特に、人身売買組織の拠点特定。あれは見事でした」
「あ、ありがとう」
僕は照れて頭を掻いた。
「あれは新聞の情報を整理しただけで…」
「ただの情報整理で、あそこまで正確に拠点を特定できるとは」
レイナが、一歩近づいてくる。
「あなた様は、本物の天才だ」
「て、天才!?(嬉しい!)」
僕は顔が熱くなるのを感じた。
みんな、本当に本気で遊んでくれている。
「ところで、レイナさん」
「はい」
「実は、次の作戦を考えてたんだ」
僕は机の上に地図を広げた。
「この辺りで、最近子供が行方不明になる事件が増えてるよね?」
「……はい」
レイナの目が鋭くなった。
「新聞に載ってた情報を整理すると、犯行は夜間、被害者は貧民街の子供ばかり」
「犯人は馬車を使ってる。目撃証言が3件。でも、貧民街で馬車は目立つ」
僕はペンで地図に印をつけていく。
「ってことは、犯人は貴族か、貴族の息がかかった組織」
「馬車のルートを地図に落とすと――」
サラサラと線を引く。
「この3点が交差する場所。ここに拠点があるはずだ」
「たぶん、廃工場か倉庫。人目につかない場所」
僕は地図を指さした。
「ここを調べてみてほしいんだけど、どうかな?」
「……」
レイナが、じっと地図を見つめている。
「完璧です」
レイナの声が、震えていた。
「私が三日かけて調べた結論を、あなた様は新聞だけで導き出された」
「え、本当に!?(すごい!)」
僕は嬉しくなった。
本で読んだ推理方法が、ちゃんと役に立ってる。
「あなた様は…本物だ」
レイナが、深々と頭を下げた。
「私、この方に一生ついていきます」
「え、そんな大げさな!」
僕は慌てて手を振った。
「友達として、一緒に遊ぼうよ!」
「……友達」
レイナが、不思議そうに呟いた。
「そう、友達。だからさ、敬語じゃなくてもいいよ」
「で、では……ユーリ」
「うん!」
「ユーリは――」
「レイナ」
マリーダの冷たい声が響いた。
レイナが、ビクッと肩を震わせた。
マリーダが、じっとレイナを見つめている。
「……ユーリ様、です」
「あ、はい!ユーリ様、です!」
レイナが慌てて言い直した。
僕は二人のやり取りを見て、クスッと笑った。
なんだか、本物の組織みたいだ。
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「それで、マリーダ」
「はい」
「この拠点、調べてもらえるかな?」
「承知しました」
マリーダが立ち上がった。
「レイナ、詳細な情報を」
「はい。こちらに」
レイナが書類を広げる。
「拠点は、王都北部の廃工場。警備兵が常時5名」
「子供たちは地下に監禁されていると思われます」
「地下か…」
僕は考え込んだ。
「警備兵5名なら、マリーダ一人で大丈夫?」
「問題ありません」
「でも、子供たちを逃がすのに時間がかかるよね」
僕は地図を見つめた。
「増援が来る前に、全員を救出しないと」
「……ユーリ様」
レイナが、何かを言いかけて、口を閉じた。
「どうしたの?」
「いえ…実は、もう一つ情報が」
レイナが、別の書類を取り出した。
「この拠点には、もう一人、特別な『商品』が囚われています」
「商品?」
「はい。古代種――エルフの少女です」
「エルフ!?」
僕は驚いて声を上げた。
エルフは、この国では絶滅したと言われている種族だ。
魔法の才能に優れ、長命で、美しい。
「研究施設に売られる予定だそうです」
「研究施設…」
僕は眉をひそめた。
「それって、人体実験ってこと?」
「……おそらく」
胸が、ギュッと締め付けられた。
人体実験なんて、許せない。
子供を誘拐するのも、エルフを売るのも、全部許せない。
やっぱり遊びといえども本気になってやらなくちゃ。
みんながこんな素晴らしい設定を考えてきてくれるんだから、僕も頑張らないと!
「マリーダ」
「はい」
「この作戦、最優先で」
僕は真剣な目でマリーダを見た。
「全員、必ず救出して」
「御意」
マリーダが、深々と頭を下げた。




