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悪の組織に、正確な報連相が必要な件

翌日の昼過ぎ、マリーダが館を訪ねてきた。


「ユーリ様、報告に参りました」


「おっ、マリーダ!早いね!」


僕は安楽椅子から飛び上がった。


まさか一晩で「作戦」を実行してくれたなんて、すごいな。


マリーダは相変わらず跪いている。


昨日と同じ、清潔な騎士服姿。髪も綺麗に整えられている。


「作戦を実行いたしました」


「マジで!?どんな感じだったの?」


僕は興奮して身を乗り出した。


「悪徳領主の屋敷に潜入し、領主を拘束。証拠を押収し、憲兵隊に引き渡しました」


「えっ」


僕は思わず固まった。


「それと、不正に得た資金を回収しました。組織の軍資金として、こちらに」


マリーダが差し出した革袋。


中には、金貨がぎっしり詰まっていた。


「ま、待って待って!これ本物?」


「はい」


「本物の金貨!?」


僕は慌てて袋を受け取った。ずっしりと重い。


これ、どう見ても本物だ。


「え、ちょっと、これどうやって用意したの?」


「悪徳領主から押収しました」


「え?」


「昨夜、屋敷に潜入して――」


マリーダが淡々と説明し始める。


壁を飛び越えた。


警備兵を倒した。


領主を捕まえた。


証拠を押収した。


金庫を開けた。


「ちょ、ちょっと待って!」


僕は手を上げて、マリーダの言葉を止めた。


「それって、演技じゃなくて?」


「……演技?」


マリーダが、不思議そうに首を傾げた。


「ほら、悪の組織ごっこって言ったじゃん。ごっこ遊びだよ?」


「……はい、ごっこ遊びです」


「ユーリ様は悪の組織の首領になりたいですか?」


「まあそりゃあ幽閉されてる男なんかより、よっぽど悪のボスになりたいけどさ」


「それでは問題ありません。」


マリーダが、穏やかに微笑んだ。


「でも、この金貨は?」


「小道具です」


「小道具にしてはリアルすぎない?」


「リアル志向で参りました」


マリーダは、涼しい顔で答えた。


僕は混乱していた。


いや、確かにごっこ遊びだって言ったし、マリーダもそのつもりで動いてくれてるんだよね?


でも、この金貨の重さ、本物っぽいんだけど……


「ねえ、マリーダ」


「はい」


「もしかして、本当に悪徳領主の屋敷に行った?」


「……」


マリーダが一瞬、言葉に詰まった。


「いえ、それは……」


「ま、まあいいや!」


僕は慌てて話題を変えた。


深く考えるのはやめよう。マリーダが楽しそうにしてくれてるなら、それでいい。


「それで、次の作戦は」


マリーダの目が、ぱっと輝いた。


「次の作戦ですか!」


「うん。えっと、次は……」


僕は机の上に広げた地図を指さした。


「この辺りに、違法な人身売買組織があるらしいんだ。新聞に載ってた情報を整理してアジトの場所を推理してみた」


「人身売買組織……」


マリーダの表情が、一瞬だけ険しくなった。


「それを、壊滅させるってのはどう?」


「……はい。喜んで」


マリーダの声が、少しだけ震えていた。


「大丈夫?無理しなくていいんだよ?」


「いいえ。これは、私がやるべきことです」


マリーダは、強い眼差しで僕を見た。


「あなたの望みを、必ず叶えます」


その言葉に、僕は少しだけドキッとした。


なんだろう、マリーダってこんなに真剣な子だったっけ?


まあ、十年ぶりだし、成長したんだろうな。


「じゃあ、作戦会議しよう!」


僕は本を広げて、作戦を語り始めた。


マリーダは、一言一句聞き逃さないように、真剣にメモを取っている。


――僕はまだ知らない。


マリーダが、僕の言葉を「遊び」ではなく「神託」として受け取っていることを。


---


作戦会議が終わり、マリーダが館を去った後。


僕は窓際の椅子に座り、外を眺めていた。


久しぶりに、楽しかった。


誰かと話す。誰かと遊ぶ。


十年ぶりの感覚だ。


「マリーダ、また来てくれるかな」


僕は、誰にともなく呟いた。


あの金貨は、たぶん本物だ。


でも、マリーダがどうやって用意したのかは分からない。


まあ、いいか。


深く考えるのはやめよう。


大切なのは、マリーダが楽しそうにしてくれていること。


それだけで、僕は嬉しい。


――――


その夜。


王都の北外れで、違法な人身売買組織の拠点が壊滅した。


銀髪の女剣士が、たった一人で組織を壊滅させたという。


捕らえられていた子供たちは全員救出され、首謀者は憲兵隊に引き渡された。


街の人々は、その女剣士を「銀の剣士」と呼んだ。


正体不明の義賊として、噂が広がり始める。


――――


**彼はまだ知らない。**


**自分の「遊び」が、世界を変え始めていることを。**


**彼女が、その言葉のすべてを――本気で実現しようとしていることを。**


**そして、彼の「悪の組織」が、やがて王国を揺るがす存在になることを。**


**――これは、勘違いから始まる、壮大な革命の物語。**

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