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3話



 どこを見ても娯楽施設と言われるに相応しいものばかり。娯楽と言われるものはもちろん、多数のあらゆる娯楽品があった。

 ショッピング、食事、素材、食材、生き物、娯楽。


 娯楽施設は区域ごとに分かれており、区域ごとに設置されているテーマが違う。

 入り口辺りは主にゲーム関連がテーマなのか、あらゆる所にゲームに関するものが空の下に設置されている。

 主に入り口付近は体を動かすゲームが設置されているようだ。外だから、体を動かしても熱くはなりすぎないだろう。


 このプレスタイルのすごい所は、入り口付近は外でも、冬や寒くなったりして一定の温度を下回ると天井部分が出来て室内になることだ。逆に夏や熱くなったりして一定の温度を上回ると天井部分が開いて野外になる。

 そのため人々は寒さや熱さに気にすることなく楽しんでいた。


 的当てゲーム、輪投げ。エアホッケー、ボール入れ。反射神経ゲーム。音楽ゲーム。その他諸々。

 ゲーム区域だけでもかなり広く、見渡す限り沢山の人で溢れている。なのに狭く感じないのはやはりプレスタイルが広いからだろう。


 あまりの広さに紬希は声も出せず、口を開けて惚けていた。紬希が想像していたよりも娯楽施設が大きすぎて、頭の処理が追いつかない。

 驚いているのは紬希だけではないようで、ミュスカーレットやリュピーチも中の凄さに目を見開き驚愕していた。


 ラブラやスティーはほんのりと驚くだけで紬希達ほど驚いてはいない。やはりラブラとスティーは数多の経験をしているからかこれぐらいでは驚かない。経験の差というものなのだろう。


 いつまでも驚愕から戻ってこない紬希達をラブラ達は現実に引き戻すように肩を揺さぶった。それに紬希はハッと我に返り、自分の肩を揺らしたラブラを見て恥ずかしそうに笑う。


「ご、ごめんねっ」

「いいのよ〜」


 紬希の隣ではスティーが笑いながら、ミュスカーレットとリュピーチの肩を正気戻すために激しく揺さぶっていた。

 その顔が楽しそうに輝いているのを見るに、激しく揺らしているのはわざとなのだろう。


 あまりの激しさにリュピーチはスティーにキレ散らかして二回目のコングが鳴り、ミュスカーレットはあまりの激しさに酔ったのか顔面蒼白で口を押さえている。

 相変わらずリードレスト家は騒がしい。

 毎回スティーがその騒動の始まりであり原因なのだ。


 紬希は酔って口を抑えるミュスカーレットの背中を撫でながら、キレるリュピーチを必死に宥める。

 本来ならスティーを止めるべきなのだが、紬希にはスティーを確実に止められる方法なんて知らない。もし知っていたとしても、紬希でも実力不足で止められないだろう。


 その光景をラブラは困ったように見ていた。

 だがすぐにリュピーチとスティーによる喧嘩が起こり中々前に進まないため、ラブラは笑顔でスティーの両頬を限界まで引っ張った。


「ら、らふら? ろうひは?」

「スーちゃん。貴方はいい加減、礼儀よりも先に手加減と気遣いを覚えなさい。可愛くて意地悪したいのは分かるけれども。」


 恐らくスティーは「ラブラ?どうした?」と言いたいのだろう。だがラブラに両頬を引っ張られているせいでまともに喋れていない。

 ラブラはそれを見て限界まで引っ張っていた両頬から手を離した。


 珍しく語尾が伸びていないラブラにスティーはキョトンと目を瞬かせて、不思議そうな顔でラブラに限界まで引っ張られて赤くなった頬に触れる。

 痛くないのかなと紬希が心配するが、スティーは今の所痛そうな顔はしていない。


 だが次の瞬間にはスティーはラブラに両頬を限界まで引っ張られた時の痛みなんて感じていないと言うように「そうだな!」と太陽のように明るい満面な笑みを浮かべた。

 痛みを感じさせない笑みと両頬を限界まで引っ張られた事を気にしないスティーの性格に、紬希ですら苦笑を浮かべてしまう。


 戦闘に特化している魔道士だからと言えども、スティー程痛みを気にしない人は滅多にいない。


 ミュスカーレットもそう思っているのか、全身から関わりたくないと言わんばかりのオーラを発して全力で気配を消していた。

 リュピーチはもはや嫌悪感を隠すことすらせず、顔を引き攣らせてドン引きしている。


 普通の価値観を持っている人から見ればスティーは間違いなく変わっている。変人と言われてもおかしくないだろう。

 だがスティーが一概に変人で括られないのは、戦闘でのスティーはとてもかっこよくて強いからだ。

 一度スティーに助けられて戦闘している姿を見た紬希はスティーのかっこよさを知っている。


 力強く緻密(ちみつ)な魔力操作。あらゆるものを灰と化してしまいそうなぐらい轟轟と燃え盛る炎が、スティーの手の中では従順になり素直に姿を変える光景。

 その壮観さは言葉で言い表せないほどに美しく壮観なのだ。あの光景を一度見てしまえば、虜になってしまうほどに。


 確かにスティーは世間一般では変わっている方だろう。だがスティーのかっこよさを見て憧れた立場としては、紬希はスティーを一概に変人だと括りたくない。

 それぐらいスティーのかっこよかったのだ。見惚れ、紬希はスティーのかっこよさに憧れた。


 スティーが変人だと言われないのは、紬希と同じくスティーのかっこよさに惹かれた憧れた者たちが多いからだろう。その者たちのおかげでスティーは変人のレッテルを貼られずに済んでいるのだ。

 もっともスティーが変人のレッテルを気にするかと問われれば、答えは間違いなく否だが。


 スティーのかっこよさに憧れている紬希は、何も言えずただ苦笑したまま見ていた。


「こ〜ら。じゃれつくのは終わりよ〜。じゃれついていたらいつまで経っても遊べないでしょう〜。」


 わちゃわちゃとじゃれつくスティーとリュピーチをラブラは引き離す。リュピーチはじゃれついているように見えたという事が不満なのか、顔はあからさまに不貞腐れていた。


 だが何も言わないのは、スティーにとってリュピーチの行動はじゃれついているだけにしか感じないという事をリュピーチも分かっているからだろう。

 ラブラは不貞腐れるリュピーチの頭を撫でてから、その背中に手を添えてゆっくりと背中を押して前へと進むように促す。


 それにリュピーチは大人しく従って歩き、紬希も迷子にならないようにミュスカーレットの手をしっかりと繋いだ。

 そして紬希はミュスカーレットの手を引いてゲーム区域にある大きな白いドーム型の建物歩いていく。

 スティーは最後尾で優雅に歩いて着いて来ていた。


 ドーム型の建物に近付いて行けば行くほど屋台や出店などが減って行き、逆に立派な建物が増えていく。

 建物はそれぞれゲームに関連するゲーム店や、ゲームに関連する食事が食べられる食事の店だ。

 やたらと大きいドーム型の建物の中に入った紬希達は中の広さに驚く。


 二千は余裕で超えるであろう人の多さと、見渡す限りのゲーム関連のものばかりのもの。

 その圧巻な光景に紬希は驚きで目を限界まで見開いた。


 目を瞬かせてから暫くしてから紬希はその凄さを実感出来たのか、頬を赤くして満面な笑みを浮かべる。

 どうやらドーム型の大きな建物の中は、野外には置かないような本格的な機械のゲーム関連のものしか無いようだった。


 ドーム型建物の外にあった沢山の建物がそれぞれゲームや食べ物を売っていたのは、ドーム型建物には遊ぶだけの買えないようなゲーム関連のものしかないからだろう。

 この凄い場所が世界でもっとも人気と言われる所以はここなのだと、紬希は実感させられた。



♢♢♢♢♢



「わぁ〜〜!!」


 リュピーチの楽しそうな声に、紬希はくすくすと微笑ましそうに笑う。


 建物の中に入って暫くしてからもリュピーチは楽しそうな声を上げて広い建物の中を探索するように様々な場所を巡るだけで、ゲームを始める様子は見せない。

 それ程にこの壮大な施設に興奮しているのだろう。その気持ちが分かるからか、紬希の隣でミュスカーレットは苦笑していた。


 紬希の後ろにいるラブラはニコニコと楽しそうに微笑みながら周りを眺め、スティーは今にもはしゃぎ始めそうなぐらい猛々しく笑って指を鳴らす。

 そのあまりにも真逆な反応の違いに、紬希とミュスカーレットはお互いに顔を見合わせて笑い合う。

 リュピーチは冷めた目のまま「子供みたい⋯」と小さな声で囁き、頬を膨らませながらスティーから顔を背けた。


 そんなリュピーチの頭を、紬希とミュスカーレットは宥めるように優しく撫でる。そして待ちきれなくなったスティーが走っていく。

 スティーはUFOキャッチャー区画に着いた瞬間、真っ先にとあるUFOキャッチャーの機械に引き寄せられて消えていった。


 子供よりも子供っぽい人、それがスティーなのだ。勿論戦いになれば、誰よりも頼りになる人。

 そのギャップが尚更スティーの人気に火をつけているのだ。紬希もそのギャップにやられた一人だからよく分かる。


 消えていったスティーは早々に紬希達から忘れ去られた。各々好きなUFOキャッチャーを探しては、景品を取ろうと頑張っていく。


 リュピーチは可愛いアクセサリーやチャームなどの小物系。ミュスカーレットはお菓子や食べ物系のUFOキャッチャー。ラブラは毛布やら何に使うか分からない少し変わったもの。紬希はもふもふした可愛い人形や、今日来ていないヒュブルーが好きなゲームの景品のUFOキャッチャー。


 綺麗に分かれた好みに紬希は何となく微笑ましい気持ちになりながらも、無表情のまま無言で次々と食べ物系を景品を取っていくミュスカーレットに苦笑する。

 ミュスカーレットは食べ物系を取っているのは、リュピーチとヒュブルーのためだ。

 リュピーチは燃費が悪いため、すぐにお腹を減らす。


 夕飯まで我慢出来るようにとお腹を減らすリュピーチに毎回お菓子を渡しているが、その度に買っていては出費が痛い。

 逆にヒュブルーは面倒くさがりな性格なため、面倒くさいという理由だけで餓死寸前まで何も食べない事がよくある。


 食べるのは簡単に食べられるもの限定。口に食べものを運べば食べるが、途中で噛むのが面倒くさい、疲れたと言って食べなくなる。

 それでもヒュブルーの口に入れると噛まずに飲み込むので、よく喉を詰まらして死にかけるのだ。

 そんなヒュブルーはお菓子系を好む。何でも少し噛めばすぐに飲み込めて、高カロリーだかららしい。

 そのためミュスカーレットは食べもの系の景品を優先的に取る。その姿を見た紬希は、少しばかり自分を優先してもいいのにと思う。

 だがあれはミュスカーレットなりの愛情表現だと紬希は知っているため、何も言わず通り過ぎた。

 紬希は自分の中で取りたい景品を増やし、両替機で細かいお金に変えてから食べ物系の景品のUFOキャッチャーに向かった。



♢♢♢♢♢



 空気が変わる時、人はどんな風に感じるのだろう。

 空間が切り替わったように感じるのだろうか。もしくは歪んでいく感じかもしれない。

 それとも、風が濁って煙たい空気に変わるように感じる人がいるのだろうか。


「⋯っ」


 ドロドロとした空気に変わった。そんな風に感じた紬希は、キョロキョロと違和感を覚えながら周りを見渡した。

 一見して見た感じだと何も変わらない。だけど紬希の何かがずっと何かに違和感を感じている。


 どこが可笑しいのかすら分からないのに、紬希の本能が違和感を感じ続けている。その静かな恐怖が足元から這い上がってきて、紬希の心臓がドクドクと恐怖で早鐘を打つ。


 動画配信者らしきカメラを持つ鉢巻を巻いた人達。ベビーカーを押す男性。大笑いしながら広がる団体。景品を入れた大きな袋を持つ家族。景品を次々と取っていく楽しげな黒い服の二人。


 何も可笑しい所は無い。無いはずなのに違和感が拭えない。

 紬希は、UFOキャッチャーに入れようとしたお金を持つ手を止める。

 違う。何かが違うのだ。先程とは決定的に何かが違う。

 そう感じる自分が怖くて、紬希は駆け足気味で知り合いを探す。


 比較的近くにいたミュスカーレットを見つけ、紬希は安堵した気持ちでミュスカーレットに近寄る。その瞬間紬希はある事に気付いた。


 ⋯な、何で⋯あの人、刃物待ってるの⋯?


 ベビーカーを押していた男性が、ベビーカーを押す手とは反対の手で包丁を持っていた。その目は酷く穏やかなのに包丁を片手に握り、身体中からは凄い殺意に溢れているのが見て分かる。

 見ているとゾワゾワして落ち着かない。片手に包丁を握って殺意に溢れているのに、あんなにも異常な人を誰も気にしていない。


 それに紬希はゾッとした。全身の鳥肌が立ち、足元から冷えていく。誰も気付いていない。あんなにも異常な人を。

 紬希は動けないままその男性を見つめる。目を逸らしたくても、逃げたくても、少しも動けない。

 男性がゆっくりと包丁を、刃物を上げていく。それに紬希の喉がひゅ、と鳴った。




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