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2話


 〈魔術を操る者(マニピュレイト)〉。

 それは世界と契約をして魔力を授かり、その魔力を用いて様々な事象を起こす全ての者の事を言う。

 世界から授かる魔力量は個々で違い、その魂に合う魔力量を授かる。

 総魔力量は魂の容量で、一度に使える魔力量は体の許容量で変わる。どれ程総魔力量が多くても体の魔力の許容量が少なければ、魔力量が少ない為小さな事象しか操れない。

 その二つの容量と許容量はどちらも自力で増やす事は出来るが、個々で容量と許容量は限界がある。

 限界を越えると命の危険がある為、限界以上に容量や許容量を増やしたりする者はあまり多くない。通称魔道士と呼ばれる。

 分かりやすく言うなら〈魔術を操る者(マニピュレイト)〉は魔術を操る者全般に対して、魔道士は個人に対して、と言う感じだ。〈魔法を使う者(エンプロイヤー)〉も魔法を使う者全般に対してだ。

 ラブラも魔道士で、紬希もラブラが魔術を使っている姿をよく見る。





 ピンポーン、と鈴のように高い音がリビングに響く。

「へぁっ」

「あら〜」

 パチパチと爆ぜた音をさせながらタルトを焼いている炎に見惚れて熱中して見ていた紬希は、突如鳴った呼び鈴に驚いてびくっと肩を跳ねさせて我に返った。

 そんな紬希をラブラはおっとりと見ていたが、タルトを焼く炎は乱れていない。

 驚きでドクドクと驚きで早鐘を打つ心臓を落ち着かせるように、紬希は胸に両手を当てて何度か深呼吸をする。

 何度か深呼吸して心臓が落ち着きを取り戻してから、紬希は慌てて駆け足で玄関へと向かう。

 玄関の肌色の扉を開けると、扉を開けた先にいたのは灰色の髪に赤い瞳の少女〝ミュスカーレット・リードレスト〟だった。

 白のノースリーブタートルネックに黒のスキニーパンツ。胸まである長さの灰色の髪を結い上げて、垂れ目の赤い瞳。

 垂れた目に嵌まるルビーのような赤い瞳がとても美しい。

「ミューちゃん!」

「おはよう、紬希。迎えに来たよ。」

 迎えに来てくれた幼馴染のミュスカーレットに紬希が嬉しそうに顔を綻ばせれば、ミュスカーレットも嬉しそうに笑う。

 ミュスカーレットは真面目で礼儀正しい。和極家とリードレスト家は家族と言っても過言じゃない付き合いをしているのにも関わらず、毎回手土産を持ってくるのだ。

 遊びに来るどころか訪ねてくる度に手土産も持ってくるのだから、ミュスカーレットの真面目さがよく分かる事だろう。今回は二人を迎えにきただけなので、お土産は持っていない。

 それにホッとしながらもミュスカーレットが来た事に紬希が慌てて時計を見れば、ミュスカーレットとの待ち合わせ時間まであと十分程しか無かった。

 ミュスカーレットが迎えにきてくれた事で待ち合わせ時間に遅れるという事はなかったが、それでもギリギリだった。

 思ったよりも時間が経っていた事に気付き、紬希は慌ててラブラを見る。

「おかっ、お母さんっ! じ、時間っ」

 慌ててラブラの元に駆け寄り、炎を操る手とは反対の手を掴んだ。

 冷や汗を流して時間がない事に動揺する紬希にラブラはにっこりと微笑む。

 そして先程まで炎で焼かれていた生チョコが注がれたタルト生地を見せつけるように、紬希の目の前に浮かせてパチンと指を鳴らす。

 瞬間、紬希の前に浮かんでいた生チョコタルトが綺麗な模様の紙やリボンに包まれた。

「はい、終わったわ〜。むぎちゃんの13歳のお誕生日のプレゼントなんだから、遅刻なんてしないわよ〜。準備出来ているかしら〜?」

 一瞬でラブラによって売り物のように包まれた生チョコタルトを、紬希は驚いたように目を見開く。

 今日のお出かけ先はとある人気の娯楽施設。その娯楽施設はとても人気で、チケットは一瞬で売り切れるらしい。

 どうやってチケットを取ったのか分からないが、ミュスカーレットの母親であるスティーが驚いていたのを見ればどれだけチケットが取りづらいのかが分かる。

 しかも一枚でも取りづらいと聞いていたチケットが六枚もあったのだ。紬希が最初、夢かなと思ってしまったのも仕方ないだろう。

 どんな手を使ったんだろう、と最初紬希はなんとも言えない顔をしていたし、スティーはラブラの凄さに「はっはっはっ!」と豪快に笑っていた。

 一瞬で生チョコタルトの姿を変えた魔術に、紬希は目をキラキラさせながら見つめる。だがすぐにラブラの質問に笑ってこくんと頷いた。

「うんっ、出来てる!」

 肩に斜めにかけていた肩掛け鞄の肩紐を両手で握り、紬希は玄関へと向かう。

 玄関でつま先がオープンになっているオレンジ色の和柄の赤いブーサンを履いて、玄関で待っていたミュスカーレットの隣に立つ。

 ミュスカーレットの隣でラブラを待っていると、ラブラはすぐに綺麗に包まれた生チョコタルトを片手に持ちながら、玄関の方へと歩いて来る。それに合わせて紬希とミュスカーレットは家を出る。

 ラブラが靴を履いて家を出て来るのを先に出ていた紬希とミュスカーレットが待っていれば、出てきたラブラが魔術で家の鍵を浮かせて鍵を閉める。

 その姿を紬希はミュスカーレットと共に後方で見ていれば、紬希の顔を突然ミュスカーレットが覗き込んできた。

 突然目の前に現れたミュスカーレットの顔に紬希はびくっと肩を跳ねさせるが、ミュスカーレットが突然顔を覗き込んでくるのはいつもの事だ。

 紬希は驚いたがすぐに不思議そうな表情を浮かべて首を傾げ、ミュスカーレットを見つめ返した。ミュスカーレットはそんな紬希を見て、口元を緩めてふにゃりと笑う。

「紬希、楽しみだね。」

「うんっ」

 そんな紬希にミュスカーレットは興奮が隠しきれていない声でそう問いかけてきて、その問いに紬希は頬を赤く染めて嬉しそうに微笑んで頷いた。

 紬希は元より、遊びに行く時も自分から遠くに行く事は無い。何故か遠くに行こうとすると、大事なものが無くなってしまう気がするからだ。

 それを知っているミュスカーレットも紬希を遊びに誘う時も遠くに行くことはなく、毎回近場で遊ぶのだ。

 そのためミュスカーレットは遠くの、それも人気の娯楽施設に行けるのが楽しみらしい。どことなく浮き足立っている。

 そうしている間にもラブラは最後の確認が出来たのか、二人の元に歩いてきた。

 ラブラが二人の元に来てから三人で家の敷地内を出ると、途端に別の世界のように視界が黄金色に染められた。

 紬希家が建てられている場所は麦畑の中にある、山となり盛り上がって高い場所にある。

 そのため高台にある家から麦畑が見下ろせる。家の周りは麦畑に囲まれているため、家の敷地内に麦や虫達が侵入しないようにとラブラの魔術で結界を張られているため麦や虫の心配も無い。

 しかも麦畑はラブラによって手入れされており、道も綺麗に舗装されているために麦畑は観光スポットになっている。

 麦畑の小麦は常に黄金色で色を変わる事なく生えているが、時間帯と季節によって麦畑はとても美しい光景を見せるのだ。

 今だって朝日を浴びて麦畑がその身を黄金に染めて揺れている。その美しさは、まるで天国にある黄金の絨毯のように感じる。

 相変わらずに美しさにミュスカーレットが感嘆の溜め息を吐いた。その瞬間、紬希とラブラは慣れたようにミュスカーレットの両隣に立って両腕を掴む。

 紬希は右腕の手を掴み、ラブラは左腕を腕を巻きつける。そうして二人は麦畑から出るまでミュスカーレットを引っ張る事になるのだ。

 その美しさを見慣れている紬希とラブラは、黄金色の麦畑に見惚れているミュスカーレットを微笑ましげに見ながら両側から引っ張って行く。

 見慣れている二人は何ともないが、やはりラブラの手入れする麦畑は美しいらしい。ミュスカーレットは毎回、麦畑に見惚れてその場で動きを止めてしまう。

 紬希は右腕。ラブラは左腕。紬希とラブラはミュスカーレットの両腕を掴んで、リードレスト家との待ち合わせの場所へと歩いて行く。





 駅が混みすぎて紬希が迷子になりかけるという予期せぬ出来事がありながらも、三人は無事に娯楽施設〈プレスタイル〉に着いた。

 娯楽施設と呼ばれてはいるが、実は一つの街なのだ。

 娯楽施設があるこの街全てが娯楽施設の一部。というよりも、この街全てが娯楽施設〈プレスタイル〉と言った方が正しい。

 そのため娯楽施設〈プレスタイル〉は娯楽の街と言われている。

「わぁ⋯!」

 あまりにも大きい娯楽施設の建物に紬希が驚いたような声を出す。

 家からあまり遠くには出掛けたことのない紬希は、これほどまでに大きい建物を初めてだった。

 驚きの声をあげる紬希とは違い、ミュスカーレットとラブラは目を少しだけ見開くだけ。

 ミュスカーレットとラブラも大きさに驚いてはいるが、紬希ほど感動している訳ではないのだろう。

 ミュスカーレットは家に迎えにきた時はあんなにも興奮して浮き足立っていたのに、今はラブラ同様落ち着いている。

 あまりの落ち着きように紬希は不思議に思いながらも、冷静な二人を見て紬希は我に返った。現地集合としていた人達を探しながら周りを見渡す。

 ミュスカーレット以外のリードレスト家とは現地集合のためこの人混みのどこかにいるはずだ。

 だがあまりにも多すぎる人に見つけられるのかな、と紬希は少し不安になりながら探していた時、遠くから誰かが三人を呼んだ。

 その声に三人が声の方向に振り向く。振り向いた先にいた女性と少女は、現地集合にしていたリードレスト家の母親と次女、紬希が探していた人達だった。

 腰まである真紅の髪に赤い瞳。そしてワイシャツにジーパンという楽そうな格好をしている人は〝スティー・リードレスト〟。

 リードレスト家の母親で、炎に特化した炎の魔道士。雄々しく豪胆な性格をしていて、戦場でも高笑いするかっこいい女傑だ。だが礼儀には厳しい。

 もう一人は胸まである灰色の髪をツインテールに結び、元気そうな桃色の瞳。〝リュピーチ・リードレスト〟。

 リュピーチはフリルが沢山付いているピンクの可愛いワンピースを着ていて、楽しそうにジャンプしていた。

 リュピーチは甘え上手で、かと思えば人を翻弄する小悪魔な性格をしている。

 ちなみにリードレスト家にはリュピーチの双子の〝ヒュブルー・リードレスト〟という男の子がいる。

 ヒューブルーは生粋のインドア派で、滅多に外に出ない。そのためリードレスト家と出かける時は基本三人だけだ。

 スティーもその辺は本人が嫌なら仕方ない、と自由にさせていた。だがその分礼儀がなってない場合は、罰として外に無理やり出す。そのためリードレスト家ではスティーを除き、一番礼儀正しい。

「紬希お姉ちゃん〜!」

 手をぶんぶんと振ってリュピーチは笑顔で紬希の元に走ってくる。

 全力で走って来るリュピーチを見た紬希は、リュピーチが紬希に全力で飛び込んでくることを察した。

 このままでは無防備なまま飛び込んで来られる。その場合紬希は間違いなく転んでしまうだろう。

 紬希は慌てて腰を落として両手を広げてリュピーチを受け止められる体勢を取った瞬間、目を輝かせながら速度を上げたリュピーチは、笑顔のまま全力で紬希の腕の中に飛び込んできた。

「⋯っ」

 あまりの衝撃に紬希はよろけたが、後ろにいたミュスカーレットがよろけた紬希の肩を支えてくれたため転ばずに済んだ。

 紬希はミュスカーレットにお礼を言って、リュピーチを優しく抱き締めて向き合う。

「リュ、リューちゃん⋯? 全力で飛び込んで来るのは危ないから、しちゃ駄目だよ⋯?」

「はぁーい!」

 腕の中のリュピーチの頭を撫でながら困ったようにそう言えば、リュピーチはニコニコと笑って機嫌良さそうに返事をする。

 紬希を全力で抱き締め返して来るリュピーチは、紬希が言ったことを真剣に受け取った様子は無い。

(もう少し真剣に言った方がいいかな⋯?)

 紬希がもう一度言おうと口を開きかけたところで、優雅に歩いていたスティーがリュピーチに追いついて来る。

 そしてそのままスティーはリュピーチの方に向かって来て、ガシ!と紬希に抱き締められているリュピーチの頭を片手で鷲掴んだ。

「人に全力で飛びつくな馬鹿者。危ないだろう。」

「いッ! たたたたたっ!! 痛いっ!! っ分かった!! 分かったから離してよ!!」

 笑顔でリュピーチの頭を鷲掴みにするスティーと、頭を鷲掴みにされて痛みで絶叫して鷲掴む手を叩くリュピーチ。

 ぎゃーぎゃーと騒ぐリュピーチを気にせず、スティーはその頭を鷲掴み続ける。しかも徐々にリュピーチの頭を鷲掴んでいる手を上げていくスティーが怖い。

 相変わらず怖い怒り方のスティーに紬希は固まり、リュピーチの痛みを紬希も味わっているかのように眉が下がって紬希の顔が痛そうに歪む。

「あら〜」

「あわ⋯」

 ラブラはにこやかに笑い、紬希は目の前で痛みで絶叫するリュピーチに心配の目を向ける。スティーの言っていることが正しいため紬希は止めることも出来ず、ただ黙って見ていることしか出来ない。

(リューちゃん⋯役に立たない姉でごめんなさい⋯)

 リュピーチの姉的存在であるのにも関わらず何の役にも立たない自分に、紬希は無力感を味わう。

 だがそれでも紬希は涙目で心配そうにしながらも、本格的な喧嘩に発展した時は止められるようにと紬希はしっかりスティーとリュピーチを見ていた。

「⋯⋯⋯」

 そんな紬希とは対照的に、ミュスカーレットは無言で顔を背けて目の前の光景を見ないようにしていた。

 余程スティーの怒りが怖いのだろう。心なしかミュスカーレットの気配が薄くなっている気がする。

(ミューちゃん、一体何したんだろう⋯?)

 ミュスカーレットも同じような叱り方をされたのだろう。紬希は全力で気配を消すミュスカーレットのことを心配しながらも、スティーに頭を鷲掴みにされるリュピーチを見ていた。

 頭を鷲掴みにするスティーの手を外そうとするリュピーチと、笑顔のスティー。リュピーチは必死だがスティーはまだまだ余裕がありそうだ。

 まだまだ時間かかりそうだなと思い、紬希は取り敢えずいざという時のために気合を入れた。

「ふんッ!!」

 だが気合いの入った声と共にリュピーチが自分の頭を鷲掴みにするスティーの手をバチっ!と音を立てて払ったのを見て、紬希は驚いたように目をぱちくりとさせる。

 今までは力の差がありすぎてスティーの手を払うことなんてリュピーチには出来なかったのに、リュピーチはスティーの手を払った。

 スティーは払われた手を見て楽しそうに豪快に笑い、そんなスティーを見てリュピーチは紬希に抱き着いたまま威嚇する。

 紬希はリュピーチは大きくなっているんだなと親のような気持ちになりながら、スティーに威嚇するリュピーチを宥めるようにその頭を撫でた。

 リュピーチはハッと何かを思い出したのか、紬希を見て笑う。

「紬希お姉ちゃん、こんにちは。」

「ふふ、うん。こんにちは。リューちゃん、挨拶出来て偉いね。」

 改めて挨拶をするリュピーチに紬希も微笑んで挨拶を返す。挨拶を返してその頭を撫でた紬希にリュピーチは嬉しそうに笑い、またスティーに顔だけ振り向いてスティーを威嚇した。

 もはや見慣れた光景だからか、ラブラと紬希は心配はしても慌てない。むしろミュスカーレットの方が動揺しているぐらいだ。

 未だに威嚇するリュピーチと全力で気配を消すミュスカーレット。豪快に笑うスティー。リュピーチを親のような眼差しで見ながら、リュピーチの頭を撫でて甘やかす紬希。

 カオス過ぎるその場の空気を変えるようにラブラが両手を叩いた。

「そこまでよ〜、今日は紬希とミューちゃんのお誕生日プレゼントのお出かけなんだから、仲良くしましょう。あと時間が勿体ないわ〜」

「うん」

 ほのぼのとした雰囲気でそう言うラブラに、紬希も微笑んで頷く。

 紬希とラブラがそう言ったことでようやく平常に戻った三人を連れて、紬希とラブラは受付へと進んでいく。

 紬希の左手にリュピーチが腕を絡ませてくっついてくるが、紬希はそれに気にせず進む。むしろリュピーチの歩きやすいように、リュピーチと歩幅を合わせながら紬希は歩く。

 受付の人に人数分のチケットを渡してチケットと交換のように受付の人にブレスレットのようなものを人数分渡されたラブラは、一人ずつそのブレスレットを渡していった。

 ブレスレットを渡された人から身につけていき、全員がつけたのを確認してから受付の人がゲートを開ける。受付の人に見送られるように、五人は娯楽施設〈プレスタイル〉へと入って行った。





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