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月霞市国の物語 ──この出会いも、感情も、最初から仕組まれていたのだとしたら──  作者: 神崎妃光子


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10話 彼のまなざし2

―3月 木曜日―


木曜日は、できるだけ仕事を避けるようにしている。

週に一度、空白をつくる。

それだけで、ずいぶん持ちが違う。


だが、今日は例外だった。


昨夜、美月から「午前中に修正お願い」と連絡が来た。

いつも通りの唐突さだが、彼女なりにギリギリまで悩んだ跡があった。

断る理由もない。仕事自体は嫌いじゃない。


ノートPCを閉じ、カップを手に立ち上がる。

カウンターで2杯目を頼もうとしたとき――

背後から歩いてきた誰かと、軽くぶつかった。


指先が、ふれた。

ほんの一瞬だったが、皮膚の温度と感触ははっきりと残った。


「……すみません」


声がした。少し震えていた。

女性の声。聞き覚えがあった。


「あ、いや。大丈夫です」


反射的に返す。

相手の顔を見た瞬間、どこかでファイルが開いたような感覚があった。


彼女だった。

何度も視界に入っていた女の子。

本を読む姿しか知らなかったが、近くで見ると印象が少し違う。


黒目がちで、光を含んだ目。

眠たそうに見えるが、曖昧さはない。まっすぐで、静かな視線だった。


「……どうぞ、お先に」


少し身を引いた彼女に、自然と目を細める。

敵意のない動きは、人を安心させる。

無意識に呼吸が一度深くなる。


「ありがとう」


自分でも、少し柔らかい声が出た気がした。


そのまま背を向け、カウンターに向かう。

何も起きなかった。けれど、何もなかったとも言えない。


物理的な接触と、目線の交差。

それだけなのに、なぜか頭の片隅に残る。


意味はまだわからない。

でも、記憶に留めておこうと思った。

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