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第四話 籠の鳥


「⋯⋯という感じです」


 私は過去にエマ先生と過ごした時のことをフェランディ先生に話した。その過程で私が暴走したことも包み隠さずに話した。そう、エレノアを魔法で傷つけて癒してを繰り返した事件のことを。フェランディ先生は頭を抱えている。


「そんな事があったのか」


 フェランディ先生のこの発言はきっと、エマちゃんがいじめられていたことと、私の暴走のことを指していると思う。


「それにしても君は一体何を考えている」


 はいはい⋯言われると思っていましたよ。逆に、素直に全部話した私を褒めて欲しいですね。


「あの時はエマ先生を助けようと必死だったんです」


 今となっては反省していますよ。凄く。あの時はどうかしていた⋯⋯。


 エレノアがエマ先生の解答用紙を破ったことにキレて、冷静さを失っていたんだと思う。


 それにしても⋯⋯エレノアはこれから何かとエマ先生に突っかかりそうだ。


「これからどうしたらいいでしょうか⋯?私は小学部時代のように過ごすのはごめんです」


 お昼を分けたり、床の掃除をしたり、鞄についた画鋲を頑張って剥がしたり、授業を抜け出したり、虫を森に返したり⋯⋯他にも色々。もうやらないぞ。それに小学部の時とは違い勉強も鍛錬も忙しい。そんなことをしている時間的余裕は私には無い。


「⋯⋯君に暴走されても困るし、それはしなくていい」


 だからもう、子供じゃないんだからあんな事しないって。


「当時のようにはなりませんよ。私はもう子供じゃないんです。それにあの時の事は本当に反省してますし⋯⋯」

「その言葉信じるぞ」

「はい」


 本当に考えただけでギョッとすることをしたと思う。当時の私は考え無しで傷つけたらヒールをかければいい、などと思っていた。その考えは非常に危険だったと思う。特に最後に展開した氷魔法は本当に危なかった。下手したら、即死だって有り得ただろう。魔力の流れすら感じることが出来ない相手に魔法で攻撃するというのはそれ程危険な事なのだ。それに命が無いものを癒す事は出来ない。取り返しはつかないんだ。


「話を戻しますよ?」


 エマ『先生』になった今、本人も生徒である私とオリビアに助けられていては、プライドが傷つくだろう。だから、生徒の私たちは出しゃばるべきじゃない。となると⋯⋯。


「フェランディ先生、エマ先生を気にかけて貰えませんか?元教え子なんですよね??」

「了解した」


 まさか、二つ返事で引き受けてくれるとは思っていなかった。やはり『元教え子』というワードが効いたのだろうか。


 正直、周りに興味のないこの教師がどれだけ助け船を出せるかは分からないが、何も無いよりマシなはずだ。


 はぁ、まったく⋯周りが見えていないことを分かってるのだろうか。


「自覚⋯していますか?」


 私の言葉に意味が分からんという顔をしている。

 このことに関してはストレートに言った方がいいかも知れない。


「フェランディ先生は、周りが見えていないです」


 ⋯⋯顔、怖いって。


 フェランディ先生の眉間にシワがよっている。これはフェランディ先生自身の問題で、私が悪いわけじゃないんだからそんなに睨まれても困る。


「そんなことは無い」

「いいえ!事実です」


 私は人差し指をピーンと立てて、そう言い切った。


「現に私が受けている扱いにも気づいていないのでしょう?」


 これはフェランディ先生が私の金髪を気にせずに接してくれている証拠でもあるので、そういう意味では嬉しい。


 まぁ、フェランディ先生は黒髪だからな。


 自分も珍しい属性の髪色で生まれたんだから、近くに私がいてもなんとも思わないだろう。


「君もなにかされているのか?」


 はい、そうですけど。


「私のはエマ先生とは種類が違います。人が鳥籠の鳥を見るのと同じようなものですよ。誰も鳥をいじめているとは思っていないし、鳥もそんなことを気にしてはいません」


 ⋯⋯本当は鳥を閉じ込めているというのに。


「どういう意味だ?」


 転移魔法でここに来るまでも見られていたのに⋯この教師、周囲の視線に鈍感過なのか。


 はたまた、それを気にしていたら生きていけない環境に長く居続けた副作用なのか⋯⋯。


「そのままの意味ですよ。この金髪は光属性魔法を上級まで習得できる証拠です。それだけで十分説明になっていますよね」


 私は自分の髪を摘んで見つめる。


「そういうことか」


 フェランディ先生が自分の黒髪を見つめた表情はとても複雑だった。その表情は彼自身の髪の色よりも深い何かを感じさせた。フェランディ先生のこんな顔は初めて見た。闇属性もまた光属性と同じぐらい珍しい。私もフェランディ先生ほどの黒髪は見たことがない。


 ⋯⋯きっと、この教師も私の知らないところで色々あったんだろうな。


「お互い苦労しますね」


 私はにっこりと笑ってそう言った。


「ああ」


 この時私の知る中で一番、フェランディ先生は優しい顔をしていたと思う。


「ごほん。とりあえず、エマ先生の初授業は来週からです」


 私は咳払いをして話を戻すと、フェランディ先生の表情もいつも通りに戻っていた。


「来て頂くことは出来ますか?」


 この学園では自由に他の先生の授業を見学しても良いようで、私のクラスにもよく見学の先生が来たりする。フェランディ先生がいたらエレノアもさすがに何もしないだろう。


「来週のいつで、何コマ目だ?」


 フェランディ先生は黒のカバーがかかっている手帳を出した。


「あー、ちっと待って下さい」


 私は机の上に授業の一覧表を出す。


 オリビアと確認したが治癒魔法学の授業中だったので、サッと見ただけで細かくは覚えていない。


「えーと⋯来週の初めで、四コマ目ですね」

「その時間は高等部一年の授業が入っている」


 あー、運が無かったな。どうしたものか⋯⋯。とはいえ来れないことに文句を言っても仕方がない。


「分かりました。その日の放課後会えますか?初回授業の様子も伝えたいですし」


 エマちゃんの初回授業の報告をして、今後の対策を考えた方がいいだろう。


「放課後は寮の門限ギリギリまで高等部二年の補習をする予定だ」


 えぇぇぇぇぇー。流石に予定合わなさ過ぎでは?


「どうするんですかぁーー」


 私は授業の一覧表をしまいつつ、つい文句を言ってしまった。


 まぁ、言いたくもなるよね。


「そんなことを言われても困る」


 でしょうね。


 何処のどいつだか知らないが、私は悪い成績を取った二年生を恨む。


 こうなったら⋯!


「補習はいつからですか?」


 私はフェランディ先生に詰め寄る。


「明日からだ」


 明日の放課後は特に予定はない。というか、休日は店番を頼まれているので別だが、放課後予定がある日なんてない!勉強という予定があることは一旦忘れよう。


「その二年生の補習、私も行っていいですか?」

「何故そうなる」


 フェランディ先生の頭の上に『何を考えているんだ。こいつは』というふきだしが見えそうだ。


「補習が早く終われば、その日話せますよね?私が全員明日中に合格させてみせます!」


 高等部二年生のこの時期の魔法戦闘学ということは、剣に魔力を込めた状態で戦う訓練のはずだ。私の得意分野だね。


「明日中に全員合格は厳しいと思うぞ。なんせ今年の二年生は問題児揃いだからな」


 ⋯⋯なにそれ、最悪すぎる。でも諦める訳にはいかないのだ。オリビアと私の平和な学園生活のためには!


「私を誰だと思っているのですか?」


 そう私は魔法戦闘学の授業で高等部に入ってから一番を取り続けた女!!


 私ならできる!頑張れ私!!


「それに先輩である私と剣を交えることは、後輩ちゃんのためにもなりますよね?」


「はぁぁぁーー、分かった。好きにしろ。どうなっても知らんからな」


 おっしゃあぁぁぁー!待っててね、私の可愛い後輩ちゃんたち!!


 あ、そういえば⋯⋯。


「フェランディ先生?明日のHRは勿論来てくれますよね??」


 フェランディ先生は担当のクラスを持っていないので、HRの時間は暇なはずだ。私がそういうと、また長いため息をついて了承してくれた。


 話が終わって、転移魔法で元いた位置に戻ろうとフェランディ先生が私の肩を触った時だった。


 ジリジリジリジリィィィィと魔導具は教師の退勤時間を告げた。


「フェランディ先生⋯今の幻聴ですよね?」


 私は現実逃避をする。


「いや、違うな」


 あー、ヤバい。時間を全く気にしていなかった!

 寮の門限の時間は余裕ですぎていた。


「やってしまった⋯⋯」


 かくなる上は⋯!!


「フェランディ先生!転移する場所は私の部屋でお願いします!!」

「同室の者にあらぬ誤解が生まれるのだが?それに俺は君の部屋を知らない」


 門限がとっくに過ぎた夜遅くに転移魔法で部屋に届ける男性。つまり桃色の⋯⋯そういうことだ。


 あうわぁぁぁぁ!それは困る、非常に困る!!だが、寮母さんに怒られるのはもっとごめんだ。


「だ、大丈夫ですよ。同室はエマ先生の過去を話した時に言った、昔から仲のいいオリビアです!!誤解は私がときますのでご安心を」


 私は早口でフェランディ先生にそう言った。


「その言葉信じていいのか?」


 私はこくりと頷き、部屋番号を教えた。


「うわぁぁぁぁ!?」


 転移魔法で突然現れた私とフェランディ先生を見てオリビアが叫んだ。


 ⋯⋯そりゃあ驚くよね。ごめん、オリビア。


「フェリシア!?全然帰ってこないから心配してたんだよ。て、てゆうか、フェランディ先生⋯⋯!?こんな遅くまでフェリシアと何をしてたんですか?」


 あぁぁぁぁぁーー!違う、違うんだオリビア!!


「⋯⋯フェランディ先生、帰って大丈夫ですよ。オリビア以外の人に見られたらもっと面倒なことになるんで」

「了解した」


 フェランディ先生はさすがに転移魔法を連続無詠唱は魔力を消費するのか、今度は詠唱をして帰った。


「よし!!オリビア、夕飯食べに行こうか!」


 この学園には二箇所食堂がある。昼間だけ営業している本校舎の食堂と、朝昼と営業している寮内の食堂だ。どちらも学生価格で安いが、寮内の食堂の方がメニューが沢山あって人気が高い。私が寮生活にした理由にも入っているぐらいだ。まぁ、一番の理由はオリビアと一緒にいたいからなんだけど。


 中学部に入る前、母さんを二人で説得したなぁ。懐かしい。


「フェリシアちゃ〜ん?」


 オリビアがドアノブに手をかけた私を止める。


「あー、オリビア?なんで、昔の呼び方??」

「説明しないと、ずっとこう呼ぶから!そこ座って?」


 オリビアは二つある椅子のうちの一つを指さす。


「はい」


 ⋯⋯誤魔化せなかったかぁ。


 私はオリビアにフェランディ先生との会話を共有した。


「なるほどね。事情はわかった」


 そう言うと息を吐き、ポニーテールを解いた。オリビアがポニーテールをすると肩に着くかつかないかぐらいの長さなので、真っ正面から見たときにゆらゆらと揺れる感じが分かって可愛い。なんて言ってる場合では無く、オリビアが意味もなく髪を解くのは、実はお説教が始まる合図だったりする。


「まず、時間を忘れるほどエマ先生のことを考えてくれたのは嬉しいです。ありがとうございます。でも、私が帰って来なくて心配するのは分かりますか?」


 ああー、これ大分キレてるよ。


 オリビアはキレると敬語になるのだ。前に気になって理由を聞いたら『家族とは敬語で話すから感情が高ぶるとついね』と言っていた。実際にエレノアの教室事件があった時は敬語になっていた。


「はい、分かります。これからは気をつけます」


 ⋯⋯だから許してください。


 オリビアにつられて私も敬語になる。


「そうしてください。それから」


 ⋯⋯まだ、あるの?


 私はさらにオリビアの怒りをかわないように、空腹でなりそうなお腹に力を入れた。


「フェランディ先生は教師ですが、男性ですよ?外聞を気にしてください」

「はい気をつけます」


 私とフェランディ先生がどうにかなる事は一生ないが、確かにこの学園が『女』学園な事も考慮すると気をつけたほうが良いだろう。これは自論だが、女子という生き物は基本頭の中お花畑で、恋バナというのが大好物だ。出会いが少ないこの学園では、男性教師のことが好きな生徒は実際いると思う。あとは後期から来る教育実習生とかね。あれは毎年トラブルの原因となる。


 まぁ、フェランディ先生のことが好きな生徒はいないと思うが。


 この後もしばらくお説教は続いた。


 一、遅くならない

 二、外聞を気にする

 三、何かあったら隠さずに話すこと

 四、これからはエマ先生の話し合いにオリビアも参加すること

 五、あの時みたく暴走しないこと


 この五つをオリビアに約束した。


「分かってくれて嬉しいです。ではフェリシア、夜ご飯を食べに行きましょうか」


 待ってましたーー!!敬語はそのままだけど、とりあえず呼び方は戻って良かった。敬語も明日には戻っているだろう。


 私は稽古、相談からのお説教でお腹はもうペコペコだ。


 あー、ポーションは⋯⋯。あったあった。


 私は部屋の棚からポーションをとって飲んだ。これで魔力はだいぶ回復した。普通に寝れば自然回復するのだが、こういう時はポーションを使用する。


「光よ、雫となりて我が道を照らせ!蛍光(ルクス)


 私は夜の真っ暗な廊下を光魔法で照らす。


 この学園のライトは寮の門限の時間まで、全て学園長による遠隔の炎魔法で作動している。時間外はこうして、生徒が光か炎属性魔法を使って移動するのだ。魔力を回復させたのはこのためである。オリビアに炎魔法を使って貰っても良かったが、怒らせた後なので、なんだか申し訳なかったので私がやる事にした。


「今日の日替わりディナー美味しかったね〜」


 すれ違った女子生徒がそう話しているのが聞こえた。


 今日のメニューは何かなぁ〜。


 食堂には日替わりメニューがあって、私はそれを結構楽しみにしているのだ。昨日はさっぱりとした味付けのスープと、食用魔物のお肉にサクッと美味しいパンだった。


「そういえばここ最近、魚料理がよく売り切れますよね。今日もなかったら四日連続ですよぉ⋯悲しいです。」


 ⋯⋯言われてみれば、そんな気がする。オリビアに言われなければ気が付かなかった。


「仕入れが上手くいってないのかな?」

「そうかもしれませんね」


 今の時期は特に魚が取れやすいと思うのだが⋯⋯。おかしいなぁ。


 二人で首を傾げながら、食堂へ続く階段を降りた。

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