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第三・五話 小学部時代の苦労


 これはエマちゃんがエマ先生になる前の話だ。

 

「オリビアちゃん!おはよう!!」


 小学部の教室に入り、私はオリビアに話しかけた。


「おはよう!フェリシアちゃん!!」


 エマ先生が虐められ始めたのは、オリビアと普通に会話をしていた、いつもとあまり変わらない日だったと思う。


 いや⋯⋯違うな。確かあの日は、難しかった基礎古代魔法文字のテストがHRで返されたんだ。


「それでは、テストを返却します」


 担任の先生の声を聞いて、教室のみんなは机の上を綺麗にした。名前を呼ばれたので、私も答案を取りに行った。


「フェリシアちゃん、テストどう?」

「うぅぅぅ、あんまり出来なかった」


 私は目の前の答案用紙を伏せてそう言った。


「今回のテスト難しかったもんね」


 オリビアはそう言っていたが、しっかりと八割は取っていたと思う。私はというと六割程度だった気がする。居残り授業を受けるのは四割からなんで、それは余裕で突破したが⋯⋯六割、なんて微妙な点数だ。


 ⋯⋯うぅぅぅ。余計なことまで思い出してしまった。


 放課後になって、オリビアと帰り支度をしていると後ろから、ドンッという音が聞こえた。私もオリビアもびっくりして、音のした方を見た。すると、エマちゃんが倒れ込んでいたのだ。突き飛ばした犯人の手には、先程返されたテストがあった。原因はこれだ。名前の欄にエマと書かれた解答用紙は満点だった。


「⋯⋯や、止めてよぉ」


 頑張って出したであろうエマちゃんの声は驚くほど小さかった。


「聞こえないんですけど!?」


 そう言ったのは、エレノアだ。エレノアの周りには取り巻きが数人いて、彼女たちはクスクスと笑っていた。クラスに嫌な空気が流れる。だが、誰もエレノアを注意しようとしない。そんな空気を変えたのはオリビアだった。


「何しているのですか!?」


 オリビアはガタンと椅子から立ち上がりエレノアとエマちゃんの間に入った。私もクラスの一人に先生を呼ぶようにお願いして、オリビアの隣に立つ。


「邪魔なんだけど」


 エレノアは強気の私とオリビアを鬱陶(うっとう)しそうに言った。


「エマちゃん、大丈夫?」


 私はエマちゃんに手を差し伸べた。


 ⋯⋯私にもこんな純粋な正義感を持っていた時があったなぁ。


 エマちゃんは私の手を掴んで、立ち上がった。


「あ、ありがとう⋯フェリシアちゃん。それにオリビアちゃんも」


 私とオリビアはエマちゃんににっこり微笑んだ。しかし、エマちゃんのテストはエレノアに取られたままだ。


「こんなもの⋯!」


 ビリビリと紙が破れる嫌な音が教室に響いた。


「っ!あなたね!!」


 オリビアがエレノアに詰め寄った。


「エマちゃんにいじわるする理由はこれでしょ?」


 私はオリビアがエレノアに詰め寄ってる隙に、エレノアの机の中にあったそれをみんなが見えるように、高い位置に持った。


「なっ!」


 エレノアはこちらに気付き顔が真っ赤になった。当然だ。エレノアのテストの点数は三割だったのだから。


 ⋯⋯はぁ、実にくだらないと今では思うよ。ただ、当時の私はクラスメイトのエマちゃんを助けるべく必死だった。


「自分の点数が悪いからってエマちゃんにいじわるするなんて、恥ずかしくないの!?」


 エレノアは私の発言を聞いて頭に血が上ったのだろう。私のところに走ってきて思いっきりビンタした。


「フェリシアちゃん!」


 床に膝をついた私を見て、オリビアは顔を真っ青にした。


「大地に癒しを与えし光よ、その力を我が手に。ヒール」


 私は、詠唱によってエレノアにぶたれて真っ赤になっていた頬を癒した。そして立ち上がって、オリビアに変わり今度は私がエレノアに詰め寄った。


「先に手を出したのはそっちだから」


 そう言って、私はエレノアを睨んだ。


「吹き荒れる風よ、鎌となりて進め。風の斬撃(ウィンドカッター)


 エレノアは、私の風魔法によって足や手に切り傷を負った。


 ⋯⋯これじゃあ、どっちがいじめっ子か分かりゃあしないよ。私は当時の行動を思い出して居た堪れなくなる。


「安心して?ちゃんと治してあげるから。大地に癒しを与えし光よ、その力を我が手に。ヒール」


 私は自分の魔法で負った傷を跡も残さずに綺麗に癒した。そのまま、私は数回傷をつけて癒してを繰り返した。


「氷よ、我が敵を凍らせよ」


 私がそう唱えると、教室内の温度は一気に下がった。エレノアの足元には発動前の氷魔法が広がっている。


「お願いします!フェリシアちゃん落ち着いて下さい!!」


 オリビアはそう泣き叫んだが、私の耳には届かなかった。


「どうする?エレノアちゃん、エマちゃんに謝る??」


 ⋯⋯今思えば怖っ!当時の私マジ、化け物。


 普通は小学部から詠唱魔法を使える者などいない。その年齢なら魔力の流れを感じるだけでも凄いと言われているのだ。


「⋯⋯」


 エレノアは恐怖で震えている。


凍結(カルト)


 私はそんなエレノアに容赦なく、魔法を発動させた。しかしそれは、エレノアに届くことはなかった。駆けつけた先生によって遮られたのだ。


「フェリシアさん!魔法を使えない相手を一方的に攻撃してはいけません!!」


 先生の言葉に私は正気に戻った。それから私は先生に何があったのか聞かれエマちゃんのことを話した。きっとその事でエレノアは先生から指導を受けたはずだ。


 ⋯⋯私もこっぴどく怒られた。あの時の先生怖かったなぁ。


 その日をきったかけに、エレノアは私とオリビアがいない隙をついてエマちゃんに嫌がらせをするようになった。


「あれ?無いな⋯⋯」


 私はオリビアとエマちゃんと一緒に森の切り株で昼食を食べようとしていた。こんな所で昼食を摂ろうとしているのはエレノアを避けてのことだ。


「どうしたの?」

「鞄に入れて置いたはずのお弁当がないの」


 オリビアの質問にエマちゃんは悲しそうに答えた。そう、エレノアの仕業だ。


「私、ちょっとエレノアちゃんと話してくる!」

 私は勢いよく立ち上がった。

「フェリシアちゃんは行っちゃっダメ」


 オリビアが私の服の裾を掴んで、全力で止めた。


「どうして?」

「この間みたいになるから⋯」


 ああー、オリビアちゃんは私の事よく分かってる。当時そう思った記憶がある。それで仕方なく、オリビアと私の昼食を分けたんだよねぇ。


 次の日。


「エマちゃん!?」


 目の前にいるエマちゃんは泥だらけになっていた。


「どうしたのそれ!?」

「普通に歩いてたら、滑って転んで⋯⋯何故かそこだけ泥だらけだった」


 エマちゃんが転んだ現場に行ってみると、床には石鹸で擦られた跡があって、その近くには泥が撒かれていた。


「エレノアちゃんだよね?もう許せない!」

「フェリシアちゃん?」


 またもやオリビアに止められて、今度は床の掃除をした。ちなみにエマちゃんの制服は母さんに綺麗にしてもらった。


 次の日。


「つわ⋯⋯痛っ!」


 帰り支度をしようとしたら、エマちゃんの声が聞こえた。


「どうしたの?」


 私がエマちゃんの鞄を見ると取っ手の部分に画鋲が付いていた。


「大地に癒しを与えし光よ、その力を我が手に!ヒール!!」


 私は血が出ているエマちゃんの傷を癒した。


 それからいつもの如く、オリビアにエレノアを懲らしめるのを止められた。今度は接着剤で貼り付けられた画鋲を頑張って取る羽目になった。


 次の日。


「あれ?エマちゃんは??」


 私とオリビアは移動教室の準備を済ませて教室を出ようとしていたが、エマちゃんの姿が見当たらない。


「⋯⋯もしかして、また?」

「そうかも」


 それから授業開始の魔導具がなってもエマちゃんが見つからなかったので、授業を剥け出して二人で探し回った。


「誰かー!誰か助けて下さい!!」


 エマちゃんは旧校舎のロッカーに閉じ込められていた。中に押し込まれて、扉の前には机が置かれていたのだ。ちなみに、埃まみれになったエマちゃんの制服はまた母さんに綺麗にしてもらった。


 次の日。


「うわっ!」


 休み時間の教室にエマちゃんの声が響いた。


「今度はどうしたの?」

「む、虫が!!」


 エマちゃんの鞄の中には大きい虫が一匹いた。


 ⋯⋯うわぁ、気持ち悪っ!よく捕まえたな。と当時思った記憶がある。今度は、森に虫を返してあげた。氷魔法で凍らせてしまおうと思ったが、オリビアに止められた。


 こんな調子で一年間弱、嫌がらせに三人で耐えた。エマちゃんが飛び級して、私とオリビアには平和な日常が戻ったが、エマちゃんはその後、上級生にいじめられていると噂で聞いた。しかし当時の私とオリビアは上級生相手にどうすることも出来なった。エマちゃんが卒業すると聞いた時は心からほっとした。めでたしめでたし。


 

 ⋯⋯のはずだった。当時私とオリビアは、数年後にあんなことが起こるなんて、夢にも思わなかったのだ。

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