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第三話 砕けた剣と厄介事


「はあ、はあ、はあ⋯⋯」

「まだまだ、行くぞ。息を整えろ」

「は、はい⋯!」


 授業が終わり放課後になったので、私はフェランディ先生と学園の森で稽古中だ。


 ⋯⋯正直、今すぐ帰りたい。だってこの先生化け物なんだもん。


 私は魔法付与されているこの学園の制服を着ているから、軽傷の傷で済んでるものの、普通に戦ったら致命傷を負っていてもおかしく無い。それに加えて私は真剣を持っている。


 対してフェランディ先生はと言うと、普通のスーツを着ている上に丸腰だ。なのに私の隙をつくように、的確なタイミングで的確な場所に闇魔法を展開してくる。そのせいで全然間合いに入れない。


「⋯⋯なら!」


 手数で押し切る!!


「凍てつく氷よ、結晶となりて我が敵を凍えさせよ!」


 周囲の気温が一気に下がり、辺り一面に氷魔法が展開された。


「ほう?」


 涼しい顔をしているが、この量さばくのには苦労すると思うよ?


氷晶(スノーフレーク)!!」


 展開されていた無数の氷が一気にフェランディ先生に降り注ぎ、土ぼこりが舞う。


 私は土ぼこりを煙幕替わりにして一気に距離を詰め、フェランディ先生の間合い入った。


「ん?暑い⋯⋯?」


 私の展開した魔法はフェランディ先生の炎の魔法でかき消されていた。


 ⋯⋯無詠唱!?フェランディ先生マジ、やばい。


「闇よ、微風を(まと)いし者となれ」


 闇と風の複合魔法⋯!?


 気づいた時にはもう遅く、私は発動前の闇魔法に包み込まれた。


 ヤバっっ⋯!


暗黒の微風テーネブリス・ゼファー


 間一髪上空に飛んで何とか回避したが、回避した先にも闇魔法が展開され、私は為す術もなく地面に叩きつけられた。


「まだまだ⋯!!」


 つうぅぅ⋯⋯、痛っ!


 立ち上がろうと力を入れた右足は、膝から(くるぶし)までパックリと切れていた。


「大地に癒しを与えし光よ、その力を我が手に!ヒール!!」


 詠唱によって、グロいことになっていた足の血は止まった。


 私は気を取り直し、剣を構えた。


「先程から魔法に振り回されているようだが。その剣は飾りか?」


 ぐんぬぅぅぅぅ!フェランディ先生の魔法が的確すぎて近ずけないんだよ⋯!


 フェランディ先生相手に手数で押し切るなんて、やけクソは通用しない。頭を使わなくては。うーん、風魔法で身体強化をするのが得策かな⋯?いやそれじゃ足りたい⋯⋯もっと何か――


「風よ、我が力となりて進み給え!飛翔(フルーク)!!」


 私は詠唱で透明な翼を作った。闇魔法を素早く交わし、再びフェランディ先生の間合いに入り込む。


 今度こそ⋯⋯!


 私は大きく剣をふったが、その剣は届くことなく砕けた。フェランディ先生が無詠唱で闇魔法の盾を形成したのだ。それから、無数の槍が私に向かってきた。


 ⋯⋯いや、殺す気!?


 もう魔力は残っていない。透明な翼も消えて剣も失った今、この槍どもを回避する手段なんて私にはないぞ。私はギュッと目をつぶった。


「今日はここまでにしよう。もう魔力切れだろう?」


 フェランディ先生はそう言って、槍をすんでのところでピタッと止めた。


「はい、またお願いします」


 私は頭を下げた。


「今回の反省点は何だ?」


 最近はこうして反省会をしてくれるようになった。


「やはり数で押し切ろうと、氷魔法を展開したことでしょうか」

「そうだな。あれは魔力を消費しすぎだ」


 あの魔法は、威力は凄いが中級魔法で魔力の消費も激しい。


「それにあの風魔法」


 ⋯⋯それもですか?


「距離を詰め、間合いに入ってくることがバカでも分かる。頭を使え」


 使いましたが⋯!?


 私はフェランディ先生を睨む。


「あれで頭を使っているつもりなら、それはただの勉強不足だ。もっと魔法戦闘学の理論を勉強しろ」


 くうぅぅぅ、悔しい!!いつかその顔にかすり傷つけてやる。


「先生が『その剣は飾りか?』って言ったんじゃ」


「あんな安い挑発に乗っていたら、足を(すく)われるぞ」


 フェランディ先生は私の声を遮ってそう言った。


「⋯⋯出直してきます」


 この場で叫びたい程悔しいが、フェランディ先生の言っていることは全て事実だ。自分の力不足を痛感して不甲斐(ふがい)なくなる。ここは素直に受け止めて魔法戦闘学の勉強をしようと思う。


「期待して待っている」


 私はしゃがみ込んで地面に散らばった剣の破片を見つめた。


 あぁ、新調したばかりの剣が⋯⋯。


「フェランディ先生!」


 私はムッとした声で帰ろうとしていたフェランディ先生を呼び止める。しかし、フェランディ先生はなぜ呼び止められたのか、理解していないようだ。


「⋯⋯剣」

「は?」


 あなたにはこの無惨に砕け散っている剣が見えないのか⋯!!


「剣が破損しました」


 私は散らばっている破片を指さした。


「ああ」


 再び、フェランディ先生は歩き出した。


 いやいやいやいや⋯⋯。


「あのーフェランディ先生?弁償して下さい」


 あぁぁぁーー、無視ですか?もう!!!


 止まってくれないので私は、早歩きで追いかけてながら話を続ける。


「『ああ』って⋯それだけですか!?弁償して下さいよ。フェランディ先生は、生徒の新調したばかりの大事な剣を粉々にしたんですよ?」


 あの剣には半年分の店番のお小遣いと、近所の薬草店に薬草を買って貰うべく崖まで登った、そんな私の苦労が詰まっているのだぞ。


 事の重大さを分かっているのか、この教師は!


「剣が⋯可哀想だな」


 ⋯⋯は?確かに剣も可哀想だとは思うが、壊したあなたが言いますか?


「使い手に恵まれていたら、あと数年大事に使われていただろうに」


 うわぁ、シンプルにムカつく。


「フェランディ先生、そういう事を言うから生徒に嫌われるんですよ?」

「興味無いな」


 ⋯⋯ええ、知っていますとも。


「あの時の中級魔法ですよね?あんなに強力な魔法、わざわざ発動させる必要ありました!?」


 しかも⋯無詠唱。フェランディ先生マジ、怪物。

 私の剣が受けたのが中級魔法でなければ、破損することも無かっただろう。


 何としても、弁償させる!


「俺がどんな魔法を使おうと俺の勝手だし、剣が折れたのは君の責任だ」


 ふんぬ⋯⋯確かにその通りですよぉ、フェランディ先生。


 そう思いつつ、交渉を続ける。また半年、同じことをするなんてごめんだ。


「確かに私に責任があることは認めます。ですが!フェランディ先生との稽古中フェランディ先生の魔法によって、破損したんです。この学園内で!!」


 私は両手をバッと大きく広げた。


 本当はムカつく発言をしたフェランディ先生に自腹で弁償させたい。しかし、それだと交渉は決裂してしまいそうなので、仕方ない。学園の経費を落として貰えないか交渉をしようと思う。


「つまり君は学園の経費で代わりの剣を買ってくれと、そう言いたいわけか?」


 さすがは、フェランディ先生。察しがいいじゃあないですか!


「その通りです」


 フェランディ先生は、ため息をついた。


 もう一押しだな。ふふふ、私には切り札が残っているんだよぉ〜。残念でしたね、フェランディ先生。


 私は行く手を阻み、フェランディ先生を上目遣いで見る。


「それにぃこのままだとぉ〜、フェランディ先生の授業が受けられないかもしれないなぁ〜。あぁ〜悲しいぃ〜〜」


 どうだ!授業に影響が出ては弁償しないとは言えないだろう。実は家にお古の剣が一本残っているのだが、それは秘密にしようと思う。


 フェランディ先生はすごく複雑な顔をしている。何だか、ゴミを見るようなそれにも見えるが、気にしいない気にしない。


「はぁぁぁー、分かった」


 よっしゃあぁぁぁぁ!勝った!!!


 フェランディ先生は私を避けて、再び歩き出す。私はまた早歩きで後を追う。学園の森を出て、校舎内に入るとまだ残っている生徒が所々にいる。


「何故、着いて来る?」

「話があるんで」

「話なら終わっただろう?」

「いや、別に話があるんで」


 そう、今日新しい担任として現れた、かつてこの学園で『天才』と言われたエマちゃんのことだ。


 ああー、ちゃんと『先生』って呼ばなきゃね。オリビアにも釘を刺されたんだった。


 エマちゃん改め、エマ先生の相談に乗って貰いたい。


「何だ?」


 おぉー、珍しく素直に話を聞く気になってくれている。


「聞く耳を持ってくれて嬉しいですが⋯⋯⋯」


 私は周囲の目を気にするようにキョロキョロした。私一人でも注目を集めるのに、フェランディ先生と一緒だったら目立たないわけがなく、残っていた生徒はこちらを見物している。こんな中でエマ先生の話をしたら私が相談したことが丸分かりで、後々面倒な事になりそうだ。


 すると、フェランディ先生は私の肩に触れた。私の意図を組んで転移魔法を発動させ、部屋に移動したのだ。部屋の大きさは広くも狭くもなく、机に椅子、それから本棚に本がぎっしりと入っていた。


 ⋯⋯教師はこんな自室みたいなものを持っていたんだな。


 フェランディ先生は手で私に座るように指示した。


「こんな部屋あったなんて驚きです。フェランディ先生⋯なんで転移魔法を?」


 転移魔法は中級魔法だから、消費魔力も大きいはず⋯⋯わざわざ使わなくても良かったんじゃない?


「ここは試験の問題を作っている場所でもある」


 つまり、その試験を受ける生徒である私に場所が知られると不味いわけだな。


「そういうことなら、周りの物を見ないよう配慮しますね」


 今はまだ試験前では無いがフェランディ先生のことだ。既に試験問題を作り終わっているだろう。


「それは有難いが理由は他にもある⋯。君に場所が知られれば、定期的に厄介事を持ち込まれそうで敵わん」


 ⋯⋯なるほど。フェランディ先生は私の事をよく分かっているようだ。あまり厄介事を持ち込むなと釘を刺されてしまった。


「それで、話とは何だ?」


 フェランディ先生はなくなく話を切り出した。

 環境は整った。これで心置きなく話せる。


「エマ先生を私のクラスの担任にするなんて、頭おかしいんですか?」


 昔のことを思うと、エマ先生を私たちの学年の担任にするなんて、有り得ない話だ。


「人事に関しては俺の首の挟むところでは無い」


 フェランディ先生の年齢は三十五歳だ。フェランディ先生は新任の頃からこの学園に勤めているので、ベテランともなれば人事にも関わっていると思ったが、そうで無いということは――


「学園の噂話は本当だったんですね」


 この学園の教師は学園長の独断で決まっていると聞いたことがある。今まで真偽がわかないので噂話の域を超えていなかったが、フェランディ先生のこの発言で事実だと分かった。学園中に広まっている『教師になりたかったら学園長に気に入られろ』というのは正しかったと言える。


「では、学園長に直訴した方がいいですね。ここから出して下さい」


 私は椅子から立ち上がった。


「何故そうなる。学園長の会うのは止めておけ」


 ⋯⋯はて?


 フェランディ先生は『俺は知らん。学園長に言え』と言いたいのだと思ったのだが違ったみたいだ。人事に関して決めるのが学園長なら、学園長に物申すのが手っ取り早いと思ったのだが。


「学園長に失礼をした場合、首が飛ぶぞ」


 え、それってどういう?


 これがフェランディ先生流の冗談(ジョーク)だとしたら、全く笑えないことを伝えなくては。


「それは比喩ではなく、物理的に⋯⋯ですか?」

「物理的にだ」


 何それ!?怖っっ!!⋯⋯ん?待てよ、もしかして。


 この国は嫌という程の魔法絶対主義である。魔法が使えない下級貴族よりも、魔法が使える()()()()の方が優遇されるほどに。学園長に失礼をした場合物理的に首が飛ぶ⋯⋯それってつまり。


「学園長は中級貴族だ」


 あぁぁぁー、やっぱり。でもそれっておかしくない?


 この学園は上級平民専用の魔法学校だ。生徒は勿論、教師だって上級平民だ。


「学園長も上級平民だと思っていたので、驚きです。それにしても、学園長は何故ここにいるんでしょうか」


 中級貴族なら、中級貴族専用の魔法学校で学園長を目指せばいい。わざわざ、上級平民の魔法学校で学園長をやる理由などないだろう。


「それは俺にも分からん」


 ⋯⋯でしょうね。そんな簡単にはずなど無い。学園長にはきな臭い何かを感じるよ。


 それにしても噂を信じて学園長に会いに行った生徒を思うと、なんとも言えない気持ちになる。教師になるべく、気に入られようと学園長に会いに行ったら目の前にいたのは中級貴族でした。なんて血の気が引く話だろう。


 ⋯⋯どうしたものか。とりあえずオリビアがやろうとしてたら、全力で止めよう。まぁ、うちの店で実習をやるのにもコネだのと騒いでいたことを考えると、やりそうにもないが。


 とにかく学園長が中級貴族である事は間違いないようなので、出来るだけ接触は方がいいだろう。私も直訴に行くのは止めようと思う。


「学園長に会いに行くのは止めておきます。まだ胴体とは仲良くしていたいので」


 私はそう言って再び椅子に腰をかける。


「ああ、そうしてくれ。話を戻すが、エマ先生が君の学年の担任になるのがどうしていけない?」


 ⋯⋯⋯え、うっそ。


「あー、本気で言ってます?」

「至って真面目に話をしているつもりだが」


 教師なのだから、エマ先生が過去に虐められていたことも当然知っているはずだと思っていた。

 それを前提に話を進めていたのだが⋯⋯まさか知らないのか?


 エマ先生は魔法戦闘学の理論を担当しているので、てっきり学園時代は私と同じく騎士学科を専攻しているものと思ったが、私の勘違いなのだろうか。


「エマ先生ってフェランディ先生の教え子じゃないんですか?」

「その通りだが」


 この調子だと、私が金髪なことで周りからどんな態度を取られているかも知らなそうだ。


「よく、分かりました」


 ⋯⋯うーん、何から話そう。


 とはいえ私が直接エマ先生と関わりがあったのは小学部三年だけだ。それ以降はただの噂話で、当時この学園にいた生徒なら誰でも知っていると思う。情報の出処が分からない話をするのは良くないので、とりあえず小学部三年の話をするのが良いだろう。


「これは私が小学部三年の時の話なのですが」


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